鋼橋の腐食調査は、「錆があるか」を見る段階から、「どれだけ板厚が減ったか」を測って記録する段階へ進めて初めて、補修の要否と優先順位を決める材料になります。本記事では、点検要領の区分に沿った腐食の見方、超音波厚さ計による板厚計測の手順、次回点検と比べられる記録の型を順に整理します。
結論を先にお伝えします。鋼橋の腐食調査で押さえるべきことは3つです。①「腐食」と「防食機能の劣化」を分ける、②腐食は「深さ(板厚減少の有無)」と「面積(局部か全体か)」の2軸で記録する、③板厚は位置を固定して測り、次回も同じ点を測れるように残す。国土交通省の道路橋定期点検要領(令和6年3月)では、鋼部材の変状として「腐食」と「防食機能の劣化」が別の種類として扱われ、後者は塗装などの防食機能は劣化しているが、板厚減少等を伴う錆が発生している「腐食」には至っていない状態と整理されています(国土交通省「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)令和6年3月」)。
鋼橋の腐食調査は「腐食」と「防食機能の劣化」を分けることから
道路橋の定期点検は、5年に1回の頻度を基本に、近接目視を基本として必要に応じて触診や打音などの非破壊検査を併用する枠組みで行われます(同上)。腐食調査はこの定期点検の中の観察と、点検で「詳しく測る必要がある」と判断された箇所の詳細調査の2段で考えると整理しやすくなります。
最初の仕分けは、見えている変状が「腐食」か「防食機能の劣化」かです。塗膜の変色・白亜化・ふくれ・はがれだけで鋼材の板厚が減っていなければ「防食機能の劣化」で、塗替えの時期と範囲の判断が中心になります。この段階の診断は鋼橋の塗膜劣化診断と塗替え時期の判定チャートで詳しく扱っています。本記事は、その先の板厚減少を伴う「腐食」をどう調べ、どう記録するかに絞ります。
腐食の程度は「深さ×面積」の2軸で見る
腐食の程度の区分は、点検要領を運用する各道路管理者の要領で細部が異なります。たとえば大阪府の橋梁点検要領では、普通鋼材(塗装・めっき等)の腐食を、錆の深さ(著しい板厚減少が視認できるか)と錆の広がり(局部的か、着目部分全体か)の組み合わせで区分しています(大阪府 橋梁点検要領 付録)。同要領の考え方を整理すると次のとおりです。
区分の考え方 | 深さ(板厚減少) | 面積(広がり) | 調査で次にやること |
|---|---|---|---|
表面的な錆・局部 | 著しい板厚減少は視認できない | 小さく局部的 | 位置と範囲を記録し、次回点検で進行を比較 |
表面的な錆・広範囲 | 著しい板厚減少は視認できない | 着目部分全体、または拡がりのある発錆が複数 | 防食の再施工範囲の検討材料として範囲を面で記録 |
板厚減少あり・局部 | 膨張または明らかな板厚減少が視認できる | 小さく局部的 | 板厚計測で残存板厚を確認し、補修要否の判断へ |
板厚減少あり・広範囲 | 膨張または明らかな板厚減少が視認できる | 全体的、または拡がりを持つ | 板厚計測を面的に行い、断面性能への影響を評価 |
区分の文言や判断の目安は管理者ごとに違うため、実務では発注者が指定する要領の版を必ず確認してください。区分の考え方そのものは、錆の評価基準を整理した錆の劣化度の判定基準(ISO 4628とa〜e区分)もあわせて参照すると理解が早まります。
腐食が出やすい場所には傾向があります。桁端部や支承まわり、排水装置の周辺、添接部、下フランジの上面など、水と土砂がたまりやすく乾きにくい部位です。点検の着目箇所はここから先に見ていくと見落としが減ります。
板厚計測の手順|超音波厚さ計で残存板厚を測る
板厚減少が疑われる箇所では、目視の印象ではなく測定値で残存板厚を押さえます。片側から測れる超音波パルス反射法の厚さ計が基本で、国土技術政策総合研究所の資料では、板厚調査の方法を「超音波パルス反射法による厚さ測定方法(JIS Z 2355)」に準拠するものとして、次の流れを示しています(国総研資料 付録「超音波厚さ計による板厚調査の実施手順」)。
- 測定箇所の確認・マーキング:測る位置を決めて印を付ける。次回も同じ点を測れるよう、部材番号と基準点からの距離で位置を記録する。
- 測定面の前処理:塗膜の異常や錆・付着物の状況に応じて前処理を行う。
- 校正:厚さ計を既知の厚さの試験片などで校正する。
- 板厚測定:対象は塗膜を含まない鋼母材の厚さ。塗膜厚を除く機能がない機器では、別途測った塗膜厚を差し引く。
- 測定値の記録:測定点ごとの値と、測定条件(機器・前処理の有無)を残す。
- 復旧措置:前処理で塗膜を除去した箇所は防錆の処置を行う。
現場で詰まりやすいのは、腐食面の凹凸で超音波が安定して返らないことと、塗膜の厚さを差し引き忘れることです。腐食が著しく面全体で減肉している場合は、点ではなく格子状に複数点を測って最小値と分布を残すほうが、補修設計の段階で使える記録になります。なお規格では、測定を行う者に必要な資格またはそれに相当する知識・技能・経験を求めています。
調査手法の比較|何が分かり、何が分からないか
手法 | 分かること | 分からないこと・弱点 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
近接目視・写真 | 錆の位置・範囲・色・膨張 | 残存板厚の数値 | 定期点検での全体把握 |
触診・打音・ハンマー | 錆こぶ・層状剥離の有無 | 減肉量の定量 | 目視で判断がつかない箇所 |
超音波厚さ計 | 測定点の残存板厚 | 点の情報のみ。凹凸面で不安定 | 板厚減少の確認・補修判断 |
膜厚計 | 塗膜の厚さ | 鋼材の減肉 | 板厚値の補正・塗膜の残存確認 |
ドローン・画像による点検支援 | 近づきにくい部位の外観 | 板厚・内部の状態 | 足場・点検車の手配が難しい部位 |
分光(ハイパースペクトル)画像 | 錆・塗膜劣化・滞水の分布を面で可視化する研究が進む | 板厚の数値。現時点で点検要領上の標準手法ではない | 範囲を面で記録したい・経年比較したい場面の補助 |
画像系の点検支援技術がどこまで近接目視を代替できるかは、橋梁点検の新技術6分類と代替できる範囲で、点検要領と新技術カタログの関係から整理しています。
分光・ハイパースペクトルの位置づけを正直に書く
私たちはハイパースペクトルカメラを開発していますが、分光画像で板厚は測れません。板厚の数値は超音波厚さ計の仕事です。分光が役に立つのは、錆や塗膜劣化、水のたまりを「面の分布」として記録し、次回点検で範囲が広がったかを同じ基準で比べる場面です。私たち自身も、近赤外線ハイパースペクトルカメラを使ってケーブル定着部の腐食・滞水を検知する研究を発表しています(近赤外線ハイパースペクトルカメラによるケーブル定着部の腐食・滞水検知)。ただし研究段階の手法であり、点検要領の判定に置き換わるものではありません。
点検の記録を「写真と所見」から「同じ基準で比べられる分布データ」に寄せたいとお考えでしたら、irodori で何が見えるかをまとめた資料をご用意しています。ハイパースペクトルカメラの原理と、できないことも率直に書いていますので、あわせてご覧ください。
次回点検と比べられる記録の型
腐食調査の価値は、1回の結果よりも次回点検との比較で決まります。進行の速さが分かれば、補修の優先順位を予算に落とせるからです。記録には最低限、次の項目を残します。
記録項目 | 書き方の例 | なぜ必要か |
|---|---|---|
部材と位置 | 主桁G2・下フランジ・支点から○m | 次回同じ点を測るため |
変状の種類 | 腐食/防食機能の劣化 | 対策の方向(補修か塗替えか)を分けるため |
深さと面積の区分 | 板厚減少あり・局部 など要領の区分 | 進行を区分の変化で追うため |
残存板厚 | 測定点ごとの値、最小値、設計板厚 | 減肉量と断面への影響を評価するため |
測定条件 | 機器、校正、前処理、塗膜厚の扱い | 測定値の比較可能性を担保するため |
写真 | 全景・近景・スケール入り | 範囲の変化を目で確認するため |
原因の推定 | 漏水・滞水・土砂堆積の有無 | 補修だけでなく原因の除去につなげるため |
原因の記録は軽視されがちですが、腐食の多くは水の供給が止まらない限り再発します。排水装置の詰まりや伸縮装置からの漏水を併記しておくと、補修と同時に原因対策を発注できます。点検全体の費用感は橋梁点検の積算内訳と相場で整理しています。
まとめ|腐食調査で決める4つのこと
- 見えている変状は「腐食」か「防食機能の劣化」か
- 腐食の深さ(板厚減少の有無)と面積(局部か広範囲か)はどの区分か
- 残存板厚はいくつで、どの点を次回も測るか
- 腐食の原因になっている水の供給源は何か
この4つが記録にそろえば、次回点検で進行を比べ、補修の優先順位を根拠をもって説明できます。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。インフラ分野の取り組みは実績一覧でご覧いただけます。製品カタログと事業紹介資料は無料でお送りしています。




