錆の劣化度は、何のために判定するかで使う基準が変わります。この記事では、塗膜のさびの等級(ISO 4628-3)、道路橋の点検で使う腐食の損傷程度a〜e、塗装前の鋼材表面のさび等級(ISO 8501-1)の3つを並べ、どの場面でどれを使うか、目視判定の限界と面で定量化する方法までを整理します。
要点を先に書くと、塗装の寿命を見るならISO 4628-3のRi0〜Ri5、道路橋の定期点検なら国土交通省の要領に沿った腐食のa〜e区分、塗替え前の素地を評価するならISO 8501-1のA〜Dです。いずれも目視と見本写真の比較が基本で、判定者による差や面積の見積り誤差が避けられない点が共通の課題です。
錆の劣化度判定に使われる3つの基準
「錆の劣化度」という言葉はひとつですが、実務では目的の違う複数の基準が使われています。最初に、それぞれが何を評価しているかを表で比べます。
基準 | 評価する対象 | 区分 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
ISO 4628-3(JIS K 5600-8-3) | 塗膜の上に現れたさびの量 | Ri0〜Ri5の6段階 | 塗装仕様の耐久性評価、塗膜の劣化診断、促進試験の評価 |
道路橋の定期点検(国土交通省の要領) | 鋼部材の腐食の深さと広がり | a〜eの5区分 | 橋梁の定期点検、補修の優先度判断 |
ISO 8501-1 | 塗装前の鋼材表面のさびの状態 | A〜Dの4等級 | 塗替え時の素地調整の計画、ブラスト等の仕様決め |
同じ「錆」を見ていても、塗膜の健全性を見るのか、鋼材そのものの減肉を見るのか、塗装前の下地を見るのかで基準が違います。報告書や仕様書でどの基準が指定されているかを、まず確認してください。
ISO 4628-3|塗膜のさびの等級Ri0〜Ri5
ISO 4628-3は、塗料・ワニスで塗装された面(亜鉛めっき+塗装の複合系を含む)のさびの程度を、見本写真との比較で評価する規格です。日本ではJIS K 5600-8-3が対応する規格として使われています。
- Ri0〜Ri5の6段階:Ri0がさびなし、数字が大きいほどさびの面積が大きい
- 評価は面積の見積り:規格自体が「試験片上の影響面積の推定」であると位置づけており、端部は評価に含めない
- 2024年版で改訂:現行はISO 4628-3:2024で、見本写真との比較(Ri)に加え、腐食面積を百分率(R%)で見積もる方法も示されています(ISO 4628-3:2024 プレビュー)
実務での注意点は、仕様書がどの版を引用しているかです。2016年版は2024年に置き換えられているため、旧版の仕様で評価してきた記録と新版の評価を並べる場合は、方法の違いを記録に残しておくと比較の混乱を防げます。
道路橋の点検|腐食の損傷程度a〜eは「深さ×面積」で決まる
道路橋の定期点検では、国土交通省の定期点検要領と付録の評価要領に沿って、損傷の種類ごとに程度をa〜eで記録します(国土交通省 橋梁定期点検要領、基礎データ収集要領(道路橋)令和6年版)。鋼部材の「腐食」は、損傷の深さと損傷の面積の大小の組み合わせで区分します。
区分 | 損傷の深さ | 損傷の面積 | 状態のイメージ |
|---|---|---|---|
a | ― | ― | 損傷なし |
b | 小 | 小 | 表面的な錆が局所的にある |
c | 小 | 大 | 表面的な錆が広範囲にある |
d | 大 | 小 | 板厚減少や膨張を伴う錆が局所的にある |
e | 大 | 大 | 板厚減少や膨張を伴う錆が広範囲にある |
深さの「大」は、鋼材表面に著しい膨張が生じている、または明らかな板厚減少が視認できる状態、「小」は錆が表面的で著しい板厚減少が視認できない状態です。面積の大小は、着目部分の広さに対する割合で判断し、要領では閾値の目安を50%としています。
なお、塗膜の劣化そのもの(変色・ひび割れ・剥離など)は「防食機能の劣化」として腐食とは別の損傷種類で記録します。塗膜は傷んでいるが鋼材はまだ錆びていない段階を分けて捉えるための区分で、塗替えの時期を判断するうえで重要です。塗膜の劣化事象と塗替え判断は鋼橋の塗膜劣化診断と塗替え時期の判定チャートで詳しく解説しています。
損傷程度と対策区分は別もの
a〜eの損傷程度は「いまどういう状態か」の記録で、補修をいつ行うかは別の対策区分(補修不要・状況に応じて補修・速やかに補修・緊急対応・維持工事で対応など)で判断します。eだから即補修、bだから放置、と機械的に決まるわけではなく、部材の重要度や腐食環境を踏まえて判定します。
ISO 8501-1|塗装前の鋼材表面のさび等級A〜D
ISO 8501-1は、塗装前の鋼材表面の状態を見本写真で評価する規格で、さびの状態をA〜Dの4等級で表します。
- A:ミルスケールが全面に密着し、さびがほとんどない
- B:さびが発生し始め、ミルスケールが剥がれ始めている
- C:ミルスケールがさびで剥がれ落ち、わずかに孔食が見られる
- D:ミルスケールがさびで剥がれ落ち、全面に孔食が見られる
この等級は、ブラストなど素地調整の仕上がり(除錆度)を決める出発点として使われます。供用中の構造物の劣化度ではなく、これから塗る面の状態を表す基準である点に注意してください。
目視判定の限界|同じ錆でも人によって等級が変わる
3つの基準はいずれも、見本写真や文章の定義と見比べて判定する方式です。現場では次のような理由で判定がぶれます。
ぶれの要因 | 起きること | 現場での対策 |
|---|---|---|
面積の見積り | 錆の割合を目で推定するため、数%単位の差を見分けにくい | 着目範囲を区切り、写真で記録して後から再評価できるようにする |
照明と天候 | 日陰・逆光・濡れ面で錆の色が違って見える | 撮影条件を記録し、同じ時間帯・同じ向きで撮る |
距離と角度 | 遠望やドローン撮影では点錆が写らないことがある | 近接目視が必要な箇所を事前に決めておく |
判定者の経験 | 境界の事例(cとeの間など)で判断が割れる | 判定根拠を写真付きで残し、複数人で確認する |
塗膜の下の腐食 | 表面に出ていない初期の腐食は目視では見えない | 膨れ・変色など前兆を記録し、必要に応じて詳細調査 |
錆の程度を経年で比べたい場合や、管理する構造物が多い場合は、判定のぶれそのものが補修計画の精度を下げることになります。点検の省力化手法については橋梁点検の新技術6分類と近接目視を代替できる範囲も参考になります。
錆の劣化度を「面」で定量化する方法
目視判定を補う方法として、画像から錆の範囲を数値化する取り組みが進んでいます。一般的なRGBカメラの画像解析は手軽ですが、赤茶色の塗装や汚れ、影と錆の区別が難しい場面があります。
ハイパースペクトルカメラは、可視から近赤外までの多数の波長で反射の違いを捉えるため、色が似ていても材質の異なる面を分けて捉えられる可能性があります。錆の分布を画素ごとに分類できれば、Ri等級やa〜e区分の「面積」の判断を、写真の見た目ではなく数値で補助できます。仕組みの基本はハイパースペクトルカメラの仕組みと活用事例で紹介しています。
私たちも、近赤外のハイパースペクトルカメラを使ってケーブル定着部の腐食や滞水の検知に取り組んだ研究成果を近赤外ハイパースペクトルカメラによるケーブル定着部の腐食・滞水検知として公開しています。錆・塗装劣化をカメラでどこまで定量化できるか、手法ごとの比較は錆・塗装劣化をカメラで定量化する方法と目視点検の限界にまとめました。
分光による判定が向かないケース
- 板厚減少の量:表面の画像からは減肉量(深さ)は測れません。超音波厚さ計など別の計測が必要です
- 塗膜下の腐食:塗膜を透過して内部を見ることは基本的にできません
- 規格どおりの等級付け:規格の判定は見本写真との比較が前提です。分光による数値は判定を補助する記録として位置づけるのが現実的です
「どの基準で、何を、どの精度で残したいか」を先に決めたうえで、目視・写真・分光の役割分担を考えると、無理のない導入になります。
まとめ|錆の劣化度は基準の目的を揃えてから判定する
- 塗膜のさびの量はISO 4628-3(JIS K 5600-8-3)のRi0〜Ri5で評価する
- 道路橋の定期点検では、腐食を深さ×面積のa〜eで記録し、補修時期は対策区分で別に判断する
- 塗装前の下地はISO 8501-1のA〜Dで評価する
- どの基準も目視比較が基本で、面積の見積りと判定者によるぶれが課題になる
- 画像・分光による面の定量化は、判定のぶれを減らし経年比較をしやすくする補助手段になる
私たちはこれまで、インフラ・食品・農業・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。錆や塗装劣化の記録を数値で残したいとお考えでしたら、まずは資料で全体像をご覧いただけたら嬉しいです。




