ぶどうの非破壊糖度計は、果粒が小さく果皮に色素が乗るため、りんごや桃と同じようには測れません。粒で測る方式と房ごと測る方式の違い、公的機関やメーカーが公表している精度、自分の産地で確かめるべき分岐点を一次情報から整理します。
結論から書きます。ぶどうは「特殊な形状から近赤外分光分析法による糖度測定の実用化が遅れている」果実として研究上も位置づけられてきました(杉浦俊彦ほか「ブドウ果実における比重と糖度の相関関係」園芸学会雑誌 70(3), 380-384, 2001)。近赤外(可視光より波長の長い、目に見えない光)を使う方式は果粒の小ささと果皮の影響を受けやすく、一方で房まるごとの比重から糖度を推定する方法は巨峰で相関係数0.913・標準誤差0.503 Brixが報告されています。つまりぶどうでは「粒で測るか、房で測るか」を先に決めるほうが、機種選定より先に効きます。
ぶどうの非破壊糖度計が「りんごと同じには測れない」3つの理由
まず用語を1行で。Brix(ブリックス)は果汁に溶けている可溶性固形分の濃度を示す値で、実務では糖度の代わりに使われます。分光は光を波長ごとに分けて、どの波長がどれだけ吸収されたかから中身を推定する考え方です。この前提の上で、ぶどう固有の壁は3つあります。
1. 果粒が小さく、光の通り道(光路長)が足りない
非破壊で内部の糖度を読むには、光が果肉の中をある程度の距離だけ進んで戻ってくる必要があります。携帯型の非破壊糖度計を開発したメーカー技術者の報告では、適用条件の一つとして光路長の確保が挙げられ、装置が測る範囲は測定部を中心に直径11〜13mm程度、そのため果実として直径30mm以上、果肉の厚みは20mm程度が必要だと説明されています。同報告が「現在のところ」適用できるとして挙げる果実はリンゴ、マンゴー、モモ、ナシ、カキ、イチジク、スモモなどで、ブドウ・サクランボ・ブルーベリーは径が足りない側に分類されています(立石賢二「青果物の糖度を非破壊で計測する簡便な糖度計」計測と制御 52(8), 708-713, 2013)。
ただしこれは「ぶどうは永久に測れない」という意味ではなく、光学設計しだいで必要な果粒径は変わるということです。実際、ぶどう専用に設計されたポケット型では測定対象が「ぶどう(直径15mm以上推奨)」とされ、シャインマスカットとその他のぶどうに対応しています(アタゴ「PAL-光センサー2(ぶどう用)」製品ページ)。参考までに、シャインマスカットの果粒は種なしで13g程度、糖度18〜19%と報告されています(農研機構「『シャインマスカット』ってどんなブドウ?」)。粒の大きい品種ほど有利で、小粒品種ほど不利、という順番は変わりません。
2. 果皮の色素と散乱が、内部の信号を薄くする
黒系・赤系のぶどうの果皮にはアントシアニンという色素が蓄積します。農研機構は、アントシアニン含量が遺伝的に多い品種は黒色、少ない品種は赤色になること、そして糖度が高く食味が良好でも着色不良という外観の問題で等級が下がることを明示しています(農研機構「ブドウ収穫後の着色改善方法の標準作業手順書を公開」2022年2月17日)。この色素は可視光の領域で強く光を吸収するため、果皮を通して内部を読む測定にとっては素通りできない層になります。
色だけでなく散乱も効きます。前掲の携帯型糖度計の報告は、適用条件の二つ目に「光の散乱が大きすぎないこと」を挙げ、その例としてブドウ・トマト・スモモ・モモの一部を名指ししています。果皮と果肉の界面で光が拡散してしまうと、センサーに届くまでに信号対雑音比が落ち、糖度の推定精度が悪化するという説明です。ぶどうは「粒が小さい」と「散乱が大きい」が重なる、非破壊測定にとって条件の厳しい果実だと理解しておくのが正確です。
3. 「房の糖度」を1粒では代表できない
ぶどうは房で流通し、房で値段が付きます。ところが非破壊糖度計が測るのは、当てた粒の、当てた面の近くだけです。前掲の報告は、多くの果実で果皮のすぐ下の糖度が最も高く、10mm内側では1 Brix%程度低くなることに触れており、同じ粒の中ですら一様ではないことを示しています。加えて、房の中で粒の着果位置や肥大の程度は揃いません。
したがってぶどうでは、「1粒の実測値」と「房の代表値」をどう橋渡しするかを運用として決める必要があります。肩部の粒を測るのか、先端の粒を測るのか、何粒の平均を取るのか。この測定ルールを先に固定しないと、機器の精度を議論しても意味がありません。品目が変わると難所も変わる点は、メロンの非破壊糖度計で測れる範囲と5手法の限界と読み比べると分かりやすいはずです。メロンは1個の中の分布、ぶどうは房の中のばらつきが主な論点になります。
ぶどうで使える非破壊測定5手法の比較
ぶどうを対象に、測定単位(粒・房・箱)を軸として手法を並べます。精度の数値は、それぞれの出典が示した条件での値であり、自分の品種・作型でそのまま再現される保証はありません。
測定手法 | ぶどうでの可否 | 測定単位 | 精度の考え方 | 現場での使いどころ |
|---|---|---|---|---|
近赤外・反射/相互作用(ポケット型の光センサー) | 可。ぶどう専用モデルがある | 粒(1粒ずつ) | 公称 ±1.5%、測定範囲 Brix 10.0〜25.0、精度保証温度15.0〜30.0℃、直径15mm以上推奨。メーカー自身が品種・測定環境で精度が影響を受けると但し書き | 圃場での収穫適期判断、出荷前の抜き取り確認 |
近赤外・透過(据置型・選果ライン組込) | 条件つき。ぶどうでの実用化は遅れている | 粒(ライン搬送) | 透過は果実内の不均一をある程度平均化できる長所がある一方、ぶどうは光路長と散乱が壁。産地ごとの実証が前提 | 大規模選果場での全数選別を検討する段階 |
比重法(音響式体積計) | 可。房まるごと測れる | 房(穂軸・果梗を含む房全体) | 巨峰 r=0.913・標準誤差0.503 Brix、キャンベルアーリー r=0.899・標準誤差0.431 Brix。回帰式は品種・産地で異なり、20房程度の実測で修正が必要 | 選果場での房単位の等級分け |
ハイパースペクトルイメージング(面で撮る分光) | 研究・実証の段階 | 面(粒ごと・房内の分布) | 色素分布の可視化では、イチゴで重相関係数0.932・標準誤差0.213(450〜600nmを1nm間隔)という報告がある。糖度そのものの実用精度は品目ごとに要検証 | 着色と糖度のばらつきがどこに出るかを先に把握する |
破壊式の屈折計(比較対象) | 可。ただし粒を潰す | 搾汁(抜き取り) | 0.2 Brix%程度の精度が一般的。非破壊値の答え合わせに使う基準 | 検量線づくりの教師データ、最終確認 |
表の中で見落とされがちなのが比重法です。農研機構は、穂軸・果梗を含む房全体について、音響式体積計で求めた比重(体積指示値と重量の比)と全粒を圧搾した果汁のBrixに高い相関があることを示し、一房ごとに計測してブドウ全粒の平均糖度を得る技術として報告しています。同時に「回帰式は品種により異なり、また産地で異なる場合もあるため、20房程度の果実の比重および糖度をこの装置で実測し、回帰式を修正する」必要があるとも明記しています(農研機構「音響式体積計を利用したブドウ果実糖度の非破壊推定技術」)。房で売る品目には、房で測る方法が素直に効くという話です。
近赤外の透過方式が多くの果実で主流になった理由も押さえておくと判断が速くなります。総説では、非破壊測定は当初は果皮の薄いモモ・ナシ・リンゴから研究が進み、果皮の厚いウンシュウミカンには適用できなかったため透過方式が検討されたこと、透過スペクトルなら果実内成分が不均一でもある程度全体を平均化した情報が得られることが整理されています(藤原孝之「近赤外分光法による果実類の糖および酸の測定とその問題点」日本食品工学会誌 5(2), 2004)。ぶどうはこの「果皮の厚い側」とも「果実の小さい側」とも相性が悪く、だからこそ実用化が後回しになってきたわけです。手法そのものの一般的な整理は果物の糖度を非破壊で測る4手法の比較に、機器の費用感は非破壊糖度計の価格をハンディ・据置・ライン組込で比較した記事にまとめてあります。
温度と検量線:カタログ値が現場で再現しない2大要因
検量線とは、測定したスペクトルから糖度を計算するための予測式のことです。非破壊糖度計の実力は装置ではなく、この式が自分の果実に合っているかで決まります。そして式を狂わせる代表格が温度です。
前掲の携帯型糖度計の報告は、近赤外の吸収に温度依存性があり、光路長にもよるもののおよそ0.5 Brix%/℃、つまり果実温度が10℃変われば5 Brix%もの差が出ること、さらに光源に使う発光ダイオードの波長も温度で動くため、1℃の素子温度変化で0.7 Brix%相当のずれが生じうることを具体的に述べています。ぶどう専用のポケット型で「ぶどうは環境温度になじませておく」と案内されているのは、この効き方の裏返しです。ハウス内で40℃近い果実をそのまま測れば、数字は現実から離れます。
もう一つが品種・産地・年次です。総説は、品種・栽培時期・産地・収穫年次が異なると検量線の適合性が劣ることが報告されており、対応策は検量線作成用試料の選択に注意を払うことと定期的な検量線のチェックだとしています。比重法の報告が20房での回帰式修正を求めているのも同じ理屈です。「買ってきて当てれば測れる」という前提を捨てるところから、ぶどうの非破壊測定は始まります。
目的別の選び方:圃場・選果場・出荷先の3分岐
どの手法が合うかは、精度の数字ではなく「誰に対して何を保証したいか」で決まります。次の順で当てはめてください。
- 圃場で収穫適期を判断したい → 粒単位のポケット型から。測る粒の位置(肩部か先端か)と測定本数を先に決め、果実を環境温度になじませてから当てる。数字は絶対値ではなく、同じルールで測った相対比較として使う
- 選果場で房を等級に分けたい → 房単位で測れる比重法を第一候補に。導入前に自分の品種・産地で20房程度を実測して回帰式を作り直す。粒単位の値を房の等級に使うなら、代表粒のルールを文書化してから運用する
- 出荷先に糖度を保証したい(表示・契約) → 非破壊値と破壊式屈折計の値の差を、自分の産地の果実で分布として把握する。全数か抜き取りかは、この差の大きさとクレームの実態から逆算する。全数化の判断軸は糖度センサーを選果ラインへ組み込む際の判断4軸で整理しています
- 着色と糖度の関係そのものを知りたい → 点で測る前に、面で撮って分布を見る。房のどこに着色不良と糖度のばらつきが同時に出るかが見えると、そもそも何を測れば等級に効くのかが決まる
4番目について補足します。可視〜近赤外の波長を面で撮るハイパースペクトルカメラの仕組みと基礎を使うと、色素の分布を画像として捉えられることが報告されています。紫イモやイチゴを対象とした研究では、450〜600nmの可視光領域を1nm間隔で撮影し、二次微分処理と重回帰分析から検量線を作り、画素ごとにアントシアニン色素の分布をカラーマッピングで可視化しています(イチゴで重相関係数0.932・標準誤差0.213)。出典は永田雅輝ほか、植物環境工学 18(1), 42-49, 2006および小林太一ほか、同 18(1), 50-57, 2006です。ぶどうの糖度そのものを面で測る技術が確立しているわけではありませんが、房内のどこに何が出るかを先に掴む用途では、点の測定より情報量があります。
私たちは国産・自社開発のハイパースペクトルカメラ irodori を開発し、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました(実績一覧)。ぶどうのように「点で測ると粒でぶれる」対象では、まず面で撮ってばらつきの出方を見てから測定ルールを決めるほうが、遠回りに見えて確実だと感じています。製品の考え方だけでもご覧いただけたら嬉しいです。
産地で実証する前に決めておく5項目
デモや貸出を依頼する前に、次の5点を数字と言葉で決めておくと、実証の結果がそのまま「使える/使えない」の判断になります。
- 品種と果粒の大きさ:黒系・赤系・黄緑系のどれか、果粒重は何g前後か。色素の量と粒径の両方が測定条件を左右する
- 測定単位:粒で測るのか房で測るのか。房なら代表粒のルール、房全体なら比重法を含めて検討する
- 要求精度:等級の刻み幅から逆算する。刻みが0.5 Brix単位なら、温度管理と検量線の作り直しまで含めた設計が要る
- 果実温度の条件:収穫直後の圃場か、予冷後か、選果場の常温か。実際に測る温度帯で実証する
- 検量線を誰が作り直すか:品種・産地・年次で式がずれる以上、更新の担い手と頻度を決めないと初年度で止まる
なお、選果設備そのものを更新する段階であれば、相談先の区分から整理した選果機メーカーの選び方と非破壊5方式の比較もあわせてご覧ください。設備更新には国の支援策が使える場合がありますが、公募の有無や要件は年度ごとに変わります。制度名を先に決め打ちせず、農林水産省のスマート農業技術カタログ(果樹)などの公式情報で当年度の状況を確認したうえで、対象になり得るかをまずご相談ください。
まとめ:ぶどうは「粒か房か」を決めてから機種を選ぶ
ぶどうの非破壊糖度計は、果粒の小ささ、果皮の色素と散乱、房内のばらつきという3つの理由で、りんごや桃と同じ前提では扱えません。粒単位ならぶどう専用に設計されたポケット型があり、房単位なら比重法という別解があります。どちらを選ぶにせよ、温度をそろえること、自分の品種・産地で検量線や回帰式を作り直すことが精度の大半を決めます。
順序は「機種選定 → 導入」ではなく、「測定単位と要求精度の確定 → 自産地での実証 → 導入判断」です。この記事ではぶどう固有の難しさに絞りました。手法の一般論と費用感は既存の記事に譲っています。
資料には、ハイパースペクトルカメラで何が見えて何が見えないのか、実証の進め方の例をまとめています。ぶどうに限らず「外から見えないものを見たい」段階の方に役立つ内容ですので、検討の材料としてお使いいただければ幸いです。




