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ドローン生育診断の手法6つを比較|2026年の選び方と実証の進め方

ドローンの生育診断は、NDVIマップを出すのがゴールではありません。目視・RGB・マルチスペクトル・ハイパースペクトル・衛星・土壌センサの6手法を分かること/解像度/コスト感で比べ、自分の産地でどれから試すかが決まる状態まで案内します。

結論から書きます。ドローンによる生育診断は「ほ場間・ほ場内の生育ムラを数値で比べる」ところまでは実用段階にあり、農研機構の広域リモートセンシング技術では高度100〜115mからの撮影で有効撮影能率16.1ha/10分、100ha超のエリアを総作業時間86分で空撮した実績が公表されています(農研機構「圃場単位の生育診断を効率的に行うためのドローンを利用した広域リモートセンシング技術」)。一方で、得られた植生指数がそのまま「良い/悪い」の判定になるわけではありません。作物・栽培方法・生育ステージの情報と突き合わせて初めて診断になる、というのが現場での実感に近い前提です。

ドローン生育診断を含む6手法を比較する

産地やJAで「生育診断を何かやりたい」となったとき、いきなりドローンを買う前に、手法ごとの守備範囲を並べておくと判断がぶれません。下の表は、分かること・スケール・コスト感・向き不向きで整理したものです。コスト感は機材購入から解析までを含めた相対的な重さで、金額は構成(機体・カメラ・ソフト・人手)で大きく変わるため幅として書いていません。

手法

主に分かること

解像度・スケール

コスト感(相対)

向くケース/向かないケース

目視・見回り

葉色の濃淡、欠株、異常株の有無

人が立てる範囲。1筆全体を隈なく見るのは困難

低(ただし人手と時間は重い)

向く=ほ場数が少なく毎日通える規模/向かない=ほ場が分散し枚数が多い産地

RGBドローン(可視光)

色ムラ、欠株、生育の俯瞰、個体サイズ

低高度なら数cm級。数ha〜十数ha

低〜中

向く=欠株・ムラの場所を特定したい/向かない=「どの程度」良いかの数値比較。晴天か曇天かで色の濃淡が変わり判断が難しい

マルチスペクトルドローン(NDVI等)

NDVI・NDRE・GNDVIなどの植生指数、ほ場間の相対比較

高度100mでGSD約9.5cm、高度140mでGSD約7.4cm

中

向く=広域のほ場を順位づけして追肥の優先度を決める/向かない=繁茂後の微差の判別、成分レベルの原因特定

ハイパースペクトルカメラ搭載ドローン

数nm刻みの反射スペクトル全体。成分固有の吸収の違い

高度90mでGSD約3.9cm(観測波長域400〜1000nmの機種例)

高(機材・解析・校正とも重い)

向く=有効な波長そのものを探す研究・実証/向かない=いきなり全ほ場を毎週回す運用

衛星リモートセンシング

広域の作況把握、経年の傾向

広範囲。日本の水田のような狭いほ場単位は不利

中(広域では割安、狭小ほ場では割高)

向く=県域・地域単位の俯瞰/向かない=雲の影響を受けやすく、生育適期ちょうどの画像が取れない場合がある

土壌センサ・土壌分析

肥沃度、可給態窒素など土側の要因

採土点・設置点のピンポイント

低〜中

向く=ムラの原因を土側から説明したい/向かない=面としての生育ムラの把握

衛星とドローンの使い分けは、撮りたいタイミングで撮れるかに尽きます。衛星画像は広範囲の状況把握に適する一方、狭いほ場一つ一つではコストが割高になりがちで、適期の画像が雲で取れないこともあります。ドローンは撮りたいときに飛ばせて雲の影響を受けにくい、という整理が学術誌の解説でも示されています(日本画像学会誌「農業生産におけるドローンリモートセンシング」2023年)。同じ解説では、高度100mでのGSDは約9.5cm、高度140mでは約7.4cmと報告されています。

どの手法を選ぶべきか:3つの分かれ道

迷ったら、次の順に自分の状況を当てはめてみてください。

  1. 対象面積が数十ha以上か、数haか。 数十ha以上で「ほ場をランクづけしたい」なら、高度100m級のマルチスペクトル撮影が効率の面で有利です。数haで「1筆の中のムラを細かく見たい」なら、低高度のRGB撮影でも十分に判断材料になります。
  2. 欲しいのは「順位」か「原因」か。 どのほ場から追肥するかという順位づけならNDVI系で足ります。なぜそのほ場だけ悪いのか(窒素か、水か、病害か)という原因の切り分けに踏み込むなら、波長数の多い計測が必要になります。NDVIが差を出しにくくなる理屈はNDVIの限界と飽和の仕組みを整理した記事にまとめています。
  3. 面で見たいのか、土から説明したいのか。 生育ムラの原因が土側にあることは珍しくありません。空からの計測と並行して、土壌肥沃度をセンサーで測る方法を組み合わせたほうが、翌年の改善策まで話がつながります。

品目別に見るドローン生育診断の使いどころ

水稲:追肥量の算出まで踏み込めるか

水稲は、ドローン生育診断がもっとも実用に近い品目です。農研機構は2023年、ドローンで得た広域データを地上3か所程度の測定値で補正し、追肥量を算出するシステムを公表しました。2021年の実証では、地上データで補正した場合の必要追肥量が3.4〜3.5kg N/10aだったのに対し、補正しない場合は6.9〜16.7kg N/10aとばらつき、補正後の処方で実収量は592±13kg/10aに収まっています(農研機構プレスリリース 2023年4月27日)。空から撮るだけでは足りず、地上の実測で校正して初めて処方箋になる、という構図がよく分かる数字です。

露地野菜:個体サイズと収穫日の見極め

キャベツ・ブロッコリー・ハクサイのような結球・花蕾作物では、生育ムラよりも「いつ穫るか」が収益を左右します。東京大学の研究グループは、ドローン空撮と深層学習でブロッコリー個体の花蕾サイズを誤差おおよそ2〜3cm以内で推定し、収穫日が1日ずれると規格外が最大約5%増え、収入が最大約20%減りうることを示しています(東京大学大学院農学生命科学研究科 2023年9月8日/Plant Phenomics, DOI:10.34133/plantphenomics.0086)。選果場の稼働計画と直結するテーマなので、産地単位で取り組む価値が出やすい領域です。

果樹:樹体ごとの差を経年で追う

果樹園では、植被が樹冠として分かれているため、ほ場平均よりも「どの樹が落ちてきているか」を追うほうが実務に合います。ただし樹冠は日向と日陰の差が大きく、同じ樹でも撮影時刻で値が変わります。単発の撮影で優劣を決めず、同条件・同時刻で季節をまたいで撮り、推移として見る設計が要ります。

施設園芸:ドローンが飛ばせない場所の選び方

ハウス内はドローンを飛ばせないか、飛ばせても高度が取れません。この場合は、レール走行や台車に分光カメラを載せる、あるいは手持ち計測で代表点を押さえるほうが現実的です。「ドローンありき」で考えず、撮像の手段と波長の選択を切り離して考えると、選択肢が広がります。カメラ側の相場観はマルチスペクトルカメラの価格帯をまとめた記事が参考になります。

正直に書いておきたい、限界とコスト

撮影条件:天候と時刻に縛られる

雨天はもちろん、強風時も飛ばせません。真夏の高温時や真冬の厳寒時はバッテリーの不具合も起きやすく、撮影日は思ったほど自由に選べません。さらに可視光画像は晴天か曇天かで色の濃淡が変わるため、日をまたいだ比較には注意が要ります(日本画像学会誌 2023年)。

解析とデータ量:撮ったあとのほうが長い

100ha規模を撮影すると、画像は約1万枚・容量は約40GBに達します(同上)。撮影→転送→植生指数マップの作成→ほ場ごとの計測→処方の算出という流れのうち、現場が詰まりやすいのは後半です。追肥のタイミングを逃さないためには、誰が撮り、誰が解析するかを最初に決めておく必要があります。

ハイパースペクトルは万能ではありません

波長を細かく刻めば情報は増えますが、その分だけ校正の手間とデータ量が増えます。農研機構らのドローン搭載ハイパースペクトルカメラの圃場観測では、地上に反射率既知の標準白板と4段階のグレースケールを設置して写し込み、波長ごとに放射輝度を反射率へ変換したうえで、施肥管理の異なる区画の差を解析しています。この校正を経た指数NDSI(R421,R721)は生育量と良い相関を示しました(計測と制御 第55巻第9号「ドローン搭載マルチバンド・ハイパースペクトルカメラの反射率特性の解析と圃場観測」)。裏を返せば、白板を置かずに撮った1回のデータだけで結論を出すのは難しい、ということでもあります。

そのうえで、有効な波長が分かっていない段階では、まずスペクトル全体を取得して「どの波長が効くか」を探す工程が近道になることがあります。仕組みの前提はハイパースペクトル画像の基礎で解説しています。私たちが開発している国産のハイパースペクトルカメラも、まずは波長探索の道具として使っていただくことが多く、irodori の仕様と測定範囲を見たうえで、現場に合うかどうかを一緒に確かめるところから始めています。

費用と補助金の考え方

機体・カメラ・解析ソフト・人件費のどこに重みを置くかで総額は大きく変わるため、一律の相場を示すことはできません。公的な支援については、農林水産省がスマート農業関連の補助事業の公募を年度ごとに掲載しています(農林水産省 補助事業参加者の公募)。要件・対象経費・締切は年度と事業で異なり、生育診断の実証が対象になるかはケースごとの判断になります。該当しそうかどうかは、公募要領の原文と併せてご相談ください。

現場実証から始める進め方

比較表で当たりをつけたあとは、小さく実測してみるのが結局いちばん早い、というのがこれまでの経験です。おすすめの順序は、(1) 代表ほ場を2〜3枚選ぶ、(2) 同日に地上の実測(葉色・草丈・茎数など)を取る、(3) 空撮データと突き合わせて、自分の産地で差が出る指標を絞り込む、の3ステップです。ここまでやると、全ほ場に広げる価値があるかどうかを数字で議論できるようになります。

私たちは、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました。まだ分かっていないことも多く、どの品目でも必ず結果が出ると申し上げるつもりはありません。取り組み方の実例は実績一覧にまとめていますので、近い事例があるかどうかを先に確かめていただければと思います。機材の貸出や共同での実証についても、まずは資料をご覧いただいたうえでご判断ください。

よくある質問

ドローンの生育診断は、どのくらいの面積から効率が出ますか?

農研機構の広域リモートセンシング技術では、高度100〜115mからの撮影で有効撮影能率16.1ha/10分、100ha超のエリアを総作業時間86分で空撮した実績が公表されています。数十ha以上のまとまった面積でほ場をランクづけしたい場合に効率が出やすく、数ha規模であれば低高度のRGB撮影でも判断材料になります。

NDVIだけで追肥量まで決められますか?

NDVIの値そのものだけでは良し悪しの判断はできず、作物・栽培方法・生育ステージの情報と統合して初めて診断になります。農研機構が2023年に公表したシステムでは、地上3か所程度の実測でドローンデータを補正しており、2021年の実証では補正後の必要追肥量が3.4〜3.5kg N/10a、補正しない場合は6.9〜16.7kg N/10aとばらつきました。

衛星とドローンはどう使い分けますか?

衛星は広範囲の状況把握に適しますが、日本の水田のような狭いほ場単位ではコストが割高になりがちで、雲の影響で生育適期の画像が取れない場合があります。ドローンは撮りたいタイミングで飛ばせて雲の影響を受けにくいため、ほ場単位の診断にはドローン、地域単位の俯瞰には衛星、という使い分けが現実的です。

ハイパースペクトルカメラを使えば何でも分かりますか?

万能ではありません。波長を細かく刻むほど校正の手間とデータ量が増えます。農研機構らの圃場観測では、地上に標準白板と4段階のグレースケールを設置して写し込み、波長ごとに放射輝度を反射率へ変換する校正を行ったうえで解析しています。有効な波長を探す研究・実証の段階に向く手法とお考えください。

撮影したあとの解析はどのくらい負担になりますか?

100ha規模を撮影すると画像は約1万枚・容量は約40GBになります。撮影よりも、転送から植生指数マップの作成、ほ場ごとの計測、処方の算出までの後工程が詰まりやすく、追肥の適期を逃さないためには誰が撮り誰が解析するかを事前に決めておく必要があります。

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