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ハイパースペクトル画像とは?RGB・マルチとの違いを図解で解説【2026】

ハイパースペクトル画像は、写真のように見えて中身はまったく別物のデータです。1画素ずつに、色ではなく「波長ごとの明るさの並び」がまるごと記録されています。この記事では、RGB画像・マルチスペクトル画像との違いから順に整理します。

ハイパースペクトル画像とは、1画素ごとに、連続した波長の分光スペクトル(光の波長ごとの強さの分布)を持つ三次元データのことです。縦・横の位置情報に加えて「波長」という3本目の軸を持つため、しばしばデータキューブ(立方体状のデータ)と呼ばれます。波長方向の刻みは装置によりますが、たとえば宇宙実証用ハイパースペクトルセンサ「HISUI」は185バンドの波長分解能を持ち、可視から短波長赤外までを10nm前後の間隔で刻んで観測しています(日本写真測量学会誌の解説)。数百バンド規模というのが、ハイパースペクトル画像のひとつの目安です。

ハイパースペクトル画像とは(データキューブという考え方)

ハイパースペクトル画像を理解する近道は、「画像」という言葉をいったん忘れることです。撮っているのは絵ではなく、光を波長ごとに分けた測定値の集まりだからです。その測定を、画面のすべての画素で同時にやっている、と考えると腑に落ちます。

1画素が「1本のスペクトル」を持つということ

ふつうのデジタル写真は、1画素あたり赤・緑・青の3つの数字を持っています。ハイパースペクトル画像では、この3つが数十から数百の数字に置き換わります。横軸を波長、縦軸を反射の強さとして並べれば、1画素ごとに1本のグラフ(スペクトル)が描ける、ということです。

このスペクトルの形は、そこに何があるかによって変わります。物質は自分の分子構造に応じた波長の光を吸収するため、スペクトルには吸収による谷ができるからです。つまり画素ごとのグラフの形は、その一点の材質や成分を映した指紋のようなものになります。近赤外分光法の解説では、この吸収が主にO-H・N-H・C-Hといった水素を含む結合の振動に由来すると説明されています。

縦・横・波長の3軸=データキューブ

ここに空間の情報を足すと、データの姿が立体になります。縦(行)と横(列)の平面が画像としての広がりで、そこから奥行き方向に波長が伸びていく形です。この三次元の塊をデータキューブと呼び、ハイパースペクトル画像の標準的な捉え方になっています。

キューブは2通りの切り方ができます。奥行きに垂直に薄く切れば「ある1つの波長だけで見た白黒画像」が出てきますし、1本の柱として縦に串刺しにすれば「ある1画素のスペクトル」が出てきます。同じデータを、画像としても測定値としても読めるのがデータキューブの利点です。撮影のしくみそのものについてはハイパースペクトルカメラの仕組みを解説した記事で扱っています。

RGB画像・マルチスペクトル画像との違い

3つの違いは「波長をいくつに、どれだけ細かく分けているか」の一点に集約されます。バンドとは、切り出した1つの波長帯のことです。RGB画像は3バンド、マルチスペクトル画像は数バンドから十数バンド、ハイパースペクトル画像は数十から数百バンドが目安になります。

観点

RGB画像

マルチスペクトル画像

ハイパースペクトル画像

バンド数

3(赤・緑・青)

おおむね数〜十数

数十〜数百

波長の連続性

幅の広い3帯を重ねて取得

必要な波長を飛び石で取得

ほぼ連続。スペクトルの形が線としてつながる

データ量

小さい。そのまま閲覧できる

中程度

大きい。1枚が数百MB規模になることもある

得意なこと

人の目に見える色と形の記録

あらかじめ分かっている指標の算出

未知の違いの探索と、成分量の定量的な推定

代表的な用途

外観検査、記録、監視

植生指数による生育把握、簡易な判別

成分分布の可視化、見分けのつかない材質の識別

機材コスト感

もっとも安価

中間

相対的に高価。分光器と精密な校正が要る

表の一行目を見ると、違いは連続的で、境界がきっちり決まっているわけではないことが分かります。実際、何バンドからハイパースペクトルと呼ぶかについて厳密な定義はありません。大切なのは呼び名ではなく、波長がつながっているかどうかです。

飛び石で取ったマルチスペクトル画像は、狙った波長に「効く違い」があると分かっている場合に強く、軽くて速いという実務上の美点があります。一方ハイパースペクトル画像は、どの波長が効くのかをデータのほうから探せます。マルチ側の考え方はマルチスペクトルカメラの解説記事に詳しくまとめています。

波長帯ごとに「何が見えるか」

波長の軸は、そのまま「何を見に行く軸」でもあります。どこを見るかで、写り込む情報の性質が変わるからです。実務でよく使われるのは、可視・近赤外・短波長赤外の3つの領域です。

可視域(およそ400〜700nm)は、人の目が色として感じている範囲です。植物の葉緑素や果実の色素、焦げや変色など、色として現れる違いがここに出ます。人が目視で判定している検査は、まずこの領域の情報を使っていると考えてよいでしょう。

近赤外(NIR、おおむね800〜2500nm)は、目に見えないけれど有機物の情報が濃い領域です。ここでの吸収は分子振動の倍音や結合音によって生じ、水分・タンパク質・脂質・でんぷんといった成分がそれぞれ固有の波長に吸収を示します。前掲の解説では、水はおよそ1935nm、でんぷんは2100nm付近、タンパク質は2180nm付近、脂質は2305nmと2345nm付近に吸収バンドが見られると報告されています(河野「食品の非破壊計測のための近赤外分光法」)。糖については、近赤外スペクトルから統計的な回帰によって推定するのが一般的なやり方です。

短波長赤外(SWIR、およそ1000〜2500nm。近赤外の長波長側と重なる呼び方)は、水分や樹脂・鉱物の識別で力を発揮する領域です。HISUIのような衛星センサが可視から2500nmまでを一気に押さえているのも、地表の物質を細かく仕分けるためです。同じ白色に見えるプラスチックの種類を見分ける、といった話はこの領域が主戦場になります。

どの波長を使うかは、見たいものが何の吸収を持つかで決まります。逆に言えば、見たいものの吸収がどの波長に出るのか分からない段階では、広く連続に取っておく意味が生まれます。

ハイパースペクトル画像で解けること・解けないこと

期待が先に立ちやすい技術なので、限界のほうを先に書いておきます。導入してから気づくと手戻りが大きいのは、たいていこの5点です。

  • 基本的に表面しか見えません。光が届いて返ってくる範囲の情報なので、不透明なものの内部深くは見通せません。中身の空洞や金属異物を確実に見つけたいならX線のほうが適します。
  • 照明条件に弱いです。スペクトルは反射光の測定なので、光源が変われば値も変わります。白色標準板による校正と、照明を安定させる撮影環境がほぼ必須になります。
  • データ量が大きいです。1枚がRGB画像の数十倍から数百倍になり、保存・転送・処理の設計が先に必要になります。ラインの全数検査に載せるなら処理速度の検討は避けて通れません。
  • 学習データが要ります。スペクトルから成分量や良否を出すには、正解のついたサンプルを集めてモデルを作る工程が入ります。サンプルの集めやすさが、そのまま実現可能性を左右します。
  • RGBやX線で十分なケースが少なくありません。色や形で確実に分かるもの、金属探知機で足りるものに、わざわざ高価な機材を持ち込む理由はありません。

逆に言えば、これらの裏返しがハイパースペクトル画像の得意分野です。表面または表層近くにある、目視では見分けがつかない、しかし成分としては確かに違う——そういう対象で本領を発揮します。

自分の課題に必要か判定するチャート

「うちの課題に要るのか」を決めるには、上から順に3つの問いを通すのが早道です。上で止まったらそこが答えで、下まで来たときだけハイパースペクトルの出番になります。

  1. その違いは、人が目で見て(色や形で)見分けられますか。
    • はい → RGBで足ります。まずは通常のカメラと画像処理で試すべきです。安く、速く、扱える人も多い。ここで解けるものを分光に持ち込むのは遠回りです。
    • いいえ、または人によって判定がぶれる → 2へ。
  2. 効く波長が、すでに分かっていますか。特定の数波長で足りますか。
    • はい(論文や先行事例で波長が特定できている、植生指数のように確立した指標がある) → マルチスペクトルが有力です。必要なバンドだけ取れば、軽く速く安く回せます。ただし既存指標にはそれぞれ適用範囲があり、想定外の対象では期待した差が出ないこともあります。
    • いいえ、分からない → 3へ。
  3. どの波長が効くか未知である、または微妙な違いを数値として定量したいですか。
    • はい → ハイパースペクトル画像の領域です。連続スペクトルを全部取っておけば、後から「どこが効いていたか」をデータで探せます。まず全波長で撮ってみて、効く波長が絞れたら安価なマルチ構成へ移す、という進め方も現実的です。

3つ目まで来た場合でも、いきなり装置を買う必要はありません。まずはサンプルを何点か撮ってスペクトルの差が出るかを見る、という小さな確認から始めるのが安全です。判断に迷う段階でしたら、私たちのような開発側に相談していただくのも一つの手だと思います。

実務での使われ方

実際の現場では、「目視でやっているが人によってぶれる」「壊さないと分からない」という課題の置き換えとして入っていくことが多い技術です。業界ごとに見ると、狙っている波長帯の性質がそのまま用途に対応しているのが分かります。

食品分野では、水分や脂質の分布を非破壊で見る、外から分かりにくい傷みや異物を検出する、といった使われ方がされています。近赤外域に水分・脂質・タンパク質の吸収が出るという性質を、画像として面で見ているわけです。農業分野では、生育状態や病害の兆候を葉のスペクトル変化から捉える研究が広く行われています。

インフラ分野では、コンクリートや塗膜の劣化、材質の違いの判別といった、色だけでは判断が難しい対象が候補になります。医療分野への応用は研究段階のものが中心で、組織の違いを識別できる可能性が報告されている、という段階の理解が正確です。効果を断定できる状況ではありません。

業界別のより具体的な用途は、ハイパースペクトルカメラの4業界36ユースケースとしてトップページに整理しています。自分の課題に近いものがあるか、目次代わりに眺めてみてください。

まとめ

ハイパースペクトル画像は、1画素ごとに連続したスペクトルを持つデータキューブです。RGB画像との違いはバンド数、マルチスペクトル画像との違いは波長の連続性にあります。そして万能ではなく、表面しか見えない・照明に弱い・データが重いという制約とセットで考える必要があります。

私たちMilk.株式会社は、Invisible Worldという事業名で国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」を自社開発しています。宇宙技術に由来する光センサーの技術をもとに、これまで食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました。うまくいったことばかりではありませんが、どこまでが現実的でどこからが難しいのかは、その積み重ねから具体的にお話しできます。個別の取り組みは実績一覧にまとめています。

もう少し詳しい仕様や導入の進め方を手元で確認したい方向けに、製品カタログと事業紹介の資料をご用意しています。検討の初期段階でも構いませんので、必要でしたらお気軽にお申し付けください。

よくある質問

ハイパースペクトル画像とマルチスペクトル画像の違いは何ですか。

バンド数と波長の連続性が違います。マルチスペクトル画像は必要な波長を数バンドから十数バンド、飛び石で取得します。ハイパースペクトル画像は数十から数百バンドをほぼ連続で取得するため、1画素ごとにスペクトルの形が線としてつながります。効く波長がすでに分かっているならマルチ、まだ分からないならハイパースペクトルが向きます。

何バンド以上ならハイパースペクトル画像と呼ぶのですか。

厳密な定義はありません。数十から数百バンドが一つの目安で、たとえば宇宙実証用センサのHISUIは185バンドを持ちます。ただし呼び名よりも、波長が連続してつながっているかどうかのほうが実務上は重要です。

データキューブとは何ですか。

縦・横の空間2軸に、波長という3本目の軸を加えた三次元のデータのことです。奥行きに垂直に切れば特定の波長だけで見た画像が得られ、縦に串刺しにすれば1画素分のスペクトルが得られます。同じデータを画像としても測定値としても読める点が利点です。

ハイパースペクトル画像で物の内部は見えますか。

基本的に見えません。光が届いて返ってくる表面や表層近くの情報を捉える技術のため、不透明なものの内部深くは見通せません。内部の空洞や金属異物の検出にはX線などの手法のほうが適しています。

近赤外の波長では何が見えるのですか。

水分・タンパク質・脂質・でんぷんといった有機成分の情報が見えます。これらは分子振動の倍音や結合音により固有の波長に吸収を示し、報告例では水がおよそ1935nm、でんぷんが2100nm付近、タンパク質が2180nm付近、脂質が2305nmと2345nm付近に吸収バンドを持ちます。

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