Invisible World Logo
ブログ

常圧加熱乾燥法とは|水分測定の公定法の手順・温度条件と乾燥減量の限界

常圧加熱乾燥法は、試料を大気圧のまま加熱して水分を蒸散させ、乾燥前後の重量差をその食品の水分含量とする方法です。食品表示の栄養成分値から農産物検査まで、国内の水分測定の基準として使われています。装置が簡単で多くの食品に適用できる反面、試料を壊し、恒量が出るまで待たされ、測っているのは水そのものではないという前提がついてまわります。

結論を先に置きます。常圧加熱乾燥法は「乾燥による減量を水分と定義する」定義分析法で、真の水分量を直接測っているわけではありません。食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第九では、炭水化物を差引き法で算出するための水分測定法として、カールフィッシャー法・乾燥助剤法・減圧加熱乾燥法・常圧加熱乾燥法・プラスチックフィルム法の5つが定められています。条件は食品群ごとに違い、穀粒は135℃・3時間、いも類は100℃・5時間です。「食品一般で105℃」と決まっている方法ではありません。

常圧加熱乾燥法とは|乾燥による減量を水分と定義する

定義は農産物検査の標準計測方法(平成13年3月14日農林水産省告示第332号)にはっきり書かれています。「試料を加熱して水分を蒸散させ、乾燥前後の重量差を試料の水分含量とする方法」です。同じ告示は、恒温乾燥器の温度を106.5±1.0℃とした場合を「105℃乾燥法」、135.0±1.0℃とした場合を「135℃乾燥法」と呼び分けています。慣例で「105℃乾燥」と言う条件の実際の設定温度が106.5℃であるのは、この告示に由来します。

算出式は単純です。恒量にした秤量容器の質量を W0、試料を入れた乾燥前の質量を W1、乾燥後を W2 として、水分(g/100 g)=(W1−W2)÷(W1−W0)×100。分子は乾燥で失われた質量です。つまりこの方法が出しているのは乾燥減量で、それを水分と読み替える約束の上に成り立っています。

「公定法」の根拠は用途ごとに別の法令にあります。食品表示の栄養成分値は食品表示基準別表第九、農産物検査は上記の標準計測方法、食品添加物は食品、添加物等の規格基準のB一般試験法です。自社の測定値が何に使われるかで従う条件が変わります。

加熱乾燥法には常圧と減圧(真空)の2系統があり、補完的な方法として乾燥助剤法とプラスチックフィルム法が位置づけられています。消費者庁の別添「栄養成分等の分析方法等」は、減圧加熱乾燥法を「多くの食品に基準的な方法として適用できる」、常圧加熱乾燥法を「操作が容易であるため、多くの食品に適用される」と書き分けています。精度を優先するなら減圧、現場の回しやすさを優先するなら常圧、という温度差がここに表れます。

手順|恒量・秤量・放冷の順番が結果を決める

消費者庁の別添と農林水産省告示を突き合わせると次の流れです。一つずつに理由があります。

  1. 容器の恒量を出す:所定温度の電気定温乾燥器に秤量皿を1〜2時間入れ、デシケーターに移す。室温に達したら直ちに秤量し、加熱・放冷・秤量を繰り返して恒量 W0 を得る。
  2. 試料を採る:通常2〜10 gを素早く精密に量り、平らに広げてふたをして W1 を秤量する。
  3. 乾燥する:ふたをずらして乾燥器に入れ、器内が所定温度に達してから、定められた時間乾燥する。
  4. 放冷する:乾燥器の中で素早くふたをし、デシケーターで放冷。室温に達したら直ちに秤量して W2 を得る。
  5. 恒量まで繰り返す:前後2回の質量差が0.5 mg以下となったら恒量とみなす。

器具は、アルミ製秤量皿(上部直径55 mm、底部直径50 mm、深さ25 mm)、電気定温乾燥器(60〜150℃の範囲で所定の温度の±2℃に調節できるもので、器内の温度分布が均一なものが望ましいとされます)、乾燥剤を入れたデシケーターです。農産物検査の告示ではデシケーターの乾燥剤はシリカゲルと明記されています。乾燥剤が吸湿して寿命を迎えていると、放冷中に試料が水を拾い、乾燥減量が小さく出ます。

「室温に達してから秤量」を飛ばすのも典型的な失敗です。別添の注記は、室温に達しないうちに秤量すると空気の対流のため実際の質量より軽く量られる、と明記しています。待ち時間を削った分がそのまま誤差になります。

恒量の判定には2つの考え方がある

恒量の基準は「前後2回の質量差が0.5 mg以下」が原則ですが、別添はもう一つ認めています。熱分解のため秤量のたびに数mg以上の質量減が続く試料では、水分の定量値の変化が0.1 g/100 g以下となったときを恒量とみなすこともある、という扱いです。糖質の多い試料や油脂を含む試料でいつまでも軽くなり続けるのは、水が抜け切らないからではなく試料そのものが壊れているからという場面があります。

食品ごとの温度・時間条件|105℃一本ではない

消費者庁の別添「表1 加熱乾燥法による水分定量条件の例」から主なものを挙げます(Vは減圧加熱乾燥)。

食品群

乾燥温度(℃)

乾燥時間(時間)

穀粒、乾めん、せんべい類

135

3

穀粉(小麦粉、そば粉等)、でんぷん類

135

1〜2

いも類

100

5

油脂

105

1

魚介類及びその加工品

105

5

獣、鳥、鯨肉及びその加工品

135

2

液状乳、クリーム、アイスクリーム

98〜100

3

野菜、果実及びその加工品

V70(減圧)

5

みそ

V70(減圧)

5

しょうゆ、ソース、乾燥スープ等調味料

V70(減圧)

5

洋菓子

V70(減圧)

5

この表には「全ての食品を本表の食品群に当てはめることはできない。一般的には、原材料等を考慮し最適な条件を設定する必要がある」という注が付いています。似た食品群の条件を流用していいとは書かれていません。野菜・果実や調味料、洋菓子のように減圧側に振られた食品群が多いのも読み取れます。糖や有機酸が多く、常圧の高温では分解しやすい食品です。別添は、加熱乾燥後に試料が変色したり焦げが発生した場合は加熱温度を下げるか減圧加熱乾燥法で再測定するよう指示しており、褐変は条件が合っていないサインとして扱われます。

日本食品標準成分表の分析マニュアルでは、穀類粉類の水分測定は試料量3 g・135℃・1時間の常圧加熱乾燥法とされ、2020年版(八訂)でも変わっていないと報告されています(進藤久美子・安井明美「技能試験から推定される精米粉末の水分測定値がばらつく原因」分析化学 73巻7・8号, 2024)。自社の条件がどの基準に由来するかは、元の文書で確認するのが確実です。

常圧・減圧・カールフィッシャー・近赤外の使い分け

4つは「測っているもの」が違います。置き換えではなく役割の違いとして整理すると判断しやすくなります。

方法

測っているもの

試料の扱い

所要時間の目安

向く場面

常圧加熱乾燥法

所定条件での乾燥減量

破壊(粉砕・加熱)

1〜5時間+恒量までの反復

多くの食品の基準値。操作が容易で装置も簡素

減圧加熱乾燥法

減圧下での乾燥減量

破壊(粉砕・加熱)

約5時間+反復(通常2時間ずつ)

熱に弱い食品。別添では基準的な方法とされる

カールフィッシャー法

水分子そのもの(ヨウ素との定量反応)

破壊(溶解・滴定)

数分〜十数分/点

低水分試料、揮発成分の影響を切り離したいとき

近赤外(分光)

水のO-H吸収に由来する反射・吸収スペクトル

非破壊

秒以下/点

多点・連続のモニタリング。公定法での合わせ込みが前提

カールフィッシャー法は、低級アルコールと有機塩基の存在下で水がヨウ素と二酸化硫黄と定量的に反応することを利用します。乾燥減量ではなく水そのものを測るため、揮発成分の多い試料では加熱乾燥法との差が大きくなります。ただし別添は、アスコルビン酸やアルデヒド等の還元力の強い成分がヨウ素を消費するため、これらが多量に存在する試料には適さないと注意しています。

近赤外などの分光法は、水の分子振動に由来する吸収を光から読む間接法です。測定は非破壊で速い一方、スペクトルを水分値に変換する検量線(計量線)を公定法の実測値で作る必要があります。農産物検査の制度設計もそうなっています。標準計測方法は電気水分計について「各装置ごと品目ごとに水分補正値、規定時間、規定温度等を常圧加熱乾燥法によって測定した試料を用い常圧加熱乾燥法によって得られた水分値と比較しながら決定する」と定め、農林水産省の資料では電気水分計の測定精度を常圧加熱乾燥法測定値との標準誤差±0.5%以内、近赤外分析計(たんぱく質)は窒素定量法との標準誤差±0.30%以内と定めています。近赤外分析計には登録検査機関による年1回の計量線の評価を、電気水分計には機器メーカーの点検基準または年1回以上の精度確認を課しています。間接法は公定法を置き換えるのではなく、公定法に紐付けられてはじめて使える扱いです。原理面は近赤外分光法の原理と非破壊測定の限界をまとめた記事で詳しく扱っています。

わたしたちも食品や農業の現場と一緒に、分光で水分や成分の分布を見る検証を重ねてきました。公定法の値をどう教師データに使うかという段取りから一緒に考えられます。

「乾燥減量」と「水分」が一致しない理由

両者が同じでないことは、法令の側が明言しています。食品添加物の一般試験法にある乾燥減量試験法は「試料を規定された条件で乾燥するとき失われる水分及び揮発性物質の量を測定する方法」と定義されています。水以外に飛ぶものが入る前提の試験法です。

食品でも同じです。消費者庁の別添は、水分以外の揮発成分(アルコール類、酢酸等の揮発酸)が含まれる場合はこれらも水分として測り込まれるため、別途測定して差し引く必要があると注記しています。日本食品標準成分表でも、アルコールまたは酢酸を含む食品は乾燥減量からその質量を差し引いて算出します。酒類、食酢、発酵調味料は素のままの乾燥減量を水分と呼べません。ずれの方向は一つではありません。

  • 揮発成分が飛ぶ:アルコール、酢酸、香気成分が減量に乗り、水分は過大評価になる。
  • 糖質が分解・褐変する:糖の多い試料を135℃で加熱すると分解が進み、秤量のたびに軽くなり続ける。恒量に収束せず、やはり過大評価側に振れる。
  • 油脂が酸化して重くなる:酸素を取り込む分だけ減量が打ち消され、過小評価になりうる。油脂の条件が105℃・1時間と短い背景でもある。
  • 結合水が抜け切らない:たんぱく質や多糖に強く保持された水は所定条件で蒸散しきらず、過小評価になる。

こうした性質から、加熱乾燥法は「定義分析法」と呼ばれます。前出の分析化学誌の報告は、加熱乾燥法が乾燥による減量を水分と定義した方法であるため真度の推定が困難であり、技能試験への参加が自らの分析結果の妥当性を判定する手段のひとつになると述べています。真の値が置けない以上、他の試験室と比べることでしか妥当性を確認できない性格のものです。

手順の小さなズレが数値を動かす

同じ報告は、精米粉末の技能試験(試料1 g・135℃・1時間の常圧加熱乾燥法を指定)の実データを示しています。2009年度は参加76件のうち有効70件で付与値(参考値)が11.7%、最大値と最小値の差は1.9%。手順書どおりに測定できた参加者は76名中2名だけでした。ばらつきの主な原因として挙がったのは、条件表には書かれていない3点です。

  • 手順書とは異なるはかり容器の使用:ふた付きアルミ容器の指定に対し、ガラス製秤量びん12件、磁製るつぼ3件、密閉できるふたのない容器4件などが使われていた。このうちふたのない容器や、ふたを乗せるだけで密閉できない容器を使った群は報告値の中央値が10.9%で、指示どおりの群の11.9%より低く出ていた。放冷中の吸湿が疑われる。
  • 温度計の設置による乾燥温度の確認なし:乾燥器の表示温度と器内の実温度は一致しない。別添が所定の温度の±2℃に調節でき温度分布が均一な機種を望ましいとしているのは、ここが効くから。
  • 試料の開封日とは異なる日の水分測定:粉体の水分は環境湿度で容易に動く。別添が「素早く精密に量り」と書くのと同じ理由。

最小表示1 mgの天びんの使用、容器の恒量 W0 を求めていない、放冷時にデシケーターを使っていないといった事例も挙がっています。公定法は「手順書どおりに動かすこと」までが方法の一部だと考えたほうが実態に合います。

破壊・待ち時間・抜取りという構造的な制約

ここまでの内容は、そのまま常圧加熱乾燥法の限界でもあります。第一に、必ず試料を壊します。粉砕して100〜135℃で加熱した試料は商品に戻りません。第二に、時間がかかります。乾燥時間だけで1〜5時間、そこに容器の恒量出し、放冷、恒量までの反復(減圧法では通常2時間ずつ)が積み上がり、朝に採った試料の値が午後に出るスピードです。工程設定を触った影響を即座に確かめる用途には向きません。第三に、抜取り検査にしかなりません。1回に測れるのは数gの試料が数点で、ロットの代表値としては機能しますが、どのパレットのどの段が乾き切っていないかという分布の問題には答えられません。乾燥ムラや局所的な過乾燥は平均値のまま通過します。

全数・非破壊で見たいときに必要になるもの

ラインを流れるものを全数、壊さずに見ようとすると光で測る方法に移ります。近赤外水分計、分光センサー、波長ごとの画像を一度に取得するハイパースペクトルカメラのような分光イメージングが候補です。非破壊側の違いと向き不向きは食品の水分測定を非破壊で行う方法を比較した記事で横並びにしており、ラインに載せるかの判断軸はインライン導入の判断軸をまとめた記事が参考になります。

ただし分光は公定法の代わりになりません。理由は3つです。1つ目は検量線が必須で、公定法の実測値とペアにした教師データの質がそのまま精度の上限になること。2つ目は多くの場合表層しか見ていないこと。反射光が届く深さの情報しか得られず、中心部の水分が違えば読み違えます。3つ目はモデルが崩れること。品種、産地、表面状態、試料温度、照明が変われば検量線は外れ、作り直しが必要になります。農産物検査で年1回の計量線評価が制度に組み込まれているのは、この崩れを前提にしているからです。

現実的な組み方は、公定法を基準として残したまま、非破壊側で全数の傾向と分布を見る二層構えです。公定法が定期的な実測と検量線の更新を担い、分光が「どこがどれだけずれているか」を毎本・毎枚で拾う。どちらかを捨てる話ではありません。

自社の試料でどの程度の精度が出るかは品目と要求精度で大きく変わります。データを見ないまま断言できることは多くないので、測定対象と判定したい水分差をうかがったうえで検証の進め方からご相談いただくのが早いと思います。

よくある質問

常圧加熱乾燥法の温度は105℃でよいのですか。

食品群ごとに異なります。消費者庁の分析方法通知の条件例では、穀粒・乾めん・せんべい類は135℃で3時間、いも類は100℃で5時間、油脂は105℃で1時間などと定められています。野菜・果実や調味料、洋菓子は減圧加熱乾燥(70℃前後)側に振られています。表に当てはまらない食品は原材料等を考慮して条件を設定する必要があり、一律の温度はありません。

恒量はどう判定しますか。

原則は、加熱・放冷・秤量を繰り返して前後2回の質量差が0.5mg以下になった時点です。熱分解のために秤量のたびに数mg以上の質量減が続く試料では、水分の定量値の変化が0.1g/100g以下となったときを恒量とみなす運用も認められています。

乾燥減量と水分は同じものですか。

同じではありません。食品添加物の一般試験法にある乾燥減量試験法は、規定条件で失われる水分及び揮発性物質の量を測定する方法と定義されています。食品でもアルコールや酢酸などの揮発成分は水分として測り込まれるため、別途測定して差し引く必要があります。糖の分解や油脂の酸化、抜け切らない結合水も、乾燥減量と真の水分をずらす要因です。

常圧加熱乾燥法と減圧加熱乾燥法はどう使い分けますか。

熱で変化しやすい食品は減圧側が向きます。消費者庁の分析方法通知では、減圧加熱乾燥法を多くの食品に基準的な方法として適用できるとし、常圧加熱乾燥法は操作が容易なため多くの食品に適用されるとしています。常圧で加熱して試料が変色したり焦げた場合は、加熱温度を下げるか減圧加熱乾燥法で再測定します。

近赤外やハイパースペクトルで公定法を置き換えられますか。

置き換えにはなりません。分光法はスペクトルを水分値に変換する検量線を公定法の実測値から作る必要があり、表層の情報に偏る、品種や試料温度が変わると検量線が崩れるという制約もあります。農産物検査でも、電気水分計の水分補正値は常圧加熱乾燥法の測定値と比較して決定し、近赤外分析計には登録検査機関による年1回の計量線評価が課されています。公定法は基準として残り、非破壊側は全数の傾向と分布を見る役割を担う組み方が現実的です。

資料請求製品・サービス資料をダウンロードirodori の製品カタログと事業紹介資料を、まとめてお送りします。資料を請求する
ハイパースペクトルカメラとは目に見えない“色”を捉える技術の基礎を解説します。詳しく見る
irodori国産・自社開発のハイパースペクトルカメラの詳細。詳しく見る
お問い合わせ導入のご相談・ご質問はこちらから。詳しく見る