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土壌診断キットで分かること・分からないこと|4手法比較【2026】

土壌診断キットはpH・EC・硝酸態窒素を圃場で素早く測れますが、可給態リン酸やCEC、圃場内のばらつきは分かりません。簡易キットで分かること・分からないことを整理し、公的機関の分析・近赤外分光・分光リモートセンシングを含む4手法を比較します。

結論から言えば、土壌診断キットは「いま、この地点が、おおよそどうなっているか」を素早く掴むための道具です。農林水産省が公開する都道府県の土壌診断マニュアルでは、土壌分析センターが通常おこなう項目としてpH、EC、可給態リン酸、硝酸態窒素、石灰、苦土、カリの7項目が挙げられていますが(神奈川県「土壌診断基準」)、市販の簡易キットが単独でカバーするのはこのうち前半の数項目にとどまります。さらに、どの手法にも共通する最大の制約は「点で採った土の代表性」です。圃場内のばらつきが大きい場面では、測定器の精度を上げるより先に、面での把握が必要になります。

土壌診断キットで分かること・分からないこと

ひとことで「土壌診断キット」と呼ばれるものには、比色式の試験紙、発色試薬とカラーチャートを組み合わせるもの、専用の反射式光度計(RQフレックス等)やコンパクトイオンメータを使うもの、ポータブルのpH計・ECメータまで幅があります。測定原理が違えば、分かる項目も精度も変わります。

キットで比較的よく分かる項目

現場で実用になりやすいのは、pH・EC・硝酸態窒素の3つです。pHは土壌の酸性・アルカリ性の指標で、鳥取県「らくらく土壌診断の手引き」では一般的に pH5.5〜6.5 が適正域とされ、pH4.0以下の強酸性ではアルミニウムイオンが活性化して根に障害が出る要因になると説明されています(鳥取県「土壌pH・ECの診断」)。

EC(電気伝導度)は土壌中の水溶性塩類の総量を示す指標で、同手引きは「通常、硝酸態窒素含量との間に正の相関関係がみられるので、土壌中の硝酸態窒素含量の推定にも有効」と記しています。ECメータは安価で扱いやすく、繰り返し測るほど価値が出る項目です。硝酸態窒素そのものも、試験紙やコンパクトイオンメータで概略値を掴めます。

現場での即断を優先するなら、風乾を省く生土容積法という手もあります。250mLのポリ瓶に純水を100mLの線まで入れ、生土を水位が150mLの線まで加えて手振とうし、その懸濁液でpH・EC・硝酸態窒素を測る方法が、同じ手引きの「リアルタイム診断」として紹介されています。

キットでは分からない・苦手な項目

一方で、施肥設計の骨格に関わる項目ほど簡易キットの守備範囲から外れます。可給態リン酸、CEC(陽イオン交換容量)、交換性石灰・苦土・加里とその塩基バランス、可給態窒素(地力窒素)、腐植含量といった項目は、抽出・振とう・吸光度測定などの手順を踏む分析が前提です。たとえば可給態窒素は、通常は土壌を4週間培養して測定するため時間も操作もかかります。農研機構はその簡易・迅速評価法として、土壌に80℃のお湯を注ぎ16時間保温し、抽出された有機物量から推定する方法を公開しています(農研機構「畑土壌可給態窒素の簡易・迅速評価法」)。同資料は畑土壌限定での使用を求めており、「簡易」と名の付く方法であっても、試験紙を浸すだけとは工程の重さも適用範囲も違います。

加えて、土壌診断は化学性だけではありません。農林水産省の資料では、土壌物理性の診断項目として表土の厚さ、有効土層の深さ、表土の礫含量、耕うんの難易などが挙げられています(農林水産省「土壌診断の方法と活用」)。排水不良や硬盤の存在といった物理性の問題、線虫や土壌病害といった生物性の問題は、キットの数値には現れません。

項目

簡易キットでの扱い

補足

pH

◎ 測りやすい

試験紙・ポータブルpH計。乾土1:水2.5の懸濁液で測るのが標準

EC

◎ 測りやすい

一般に乾土1:水5。硝酸態窒素の目安にも使える

硝酸態窒素

○ 概略値は取れる

試験紙・反射式光度計・コンパクトイオンメータ

可給態リン酸

△ 機種・試薬による

発色試薬+吸光度測定が前提。目視比色は誤差が出やすい

交換性石灰・苦土・加里

× 基本的に不可

塩基バランスの判断には外部分析が要る

CEC(陽イオン交換容量)

× 不可

保肥力の基礎指標。外部分析が前提

可給態窒素(地力窒素)

× 不可

温水抽出等の手順が必要

物理性(有効土層・硬盤・排水)

× 不可

掘って見る・貫入計等の別手段

生物性(病害・線虫)

× 不可

専門機関の検定が必要

圃場内のばらつき

× 点の値しか出ない

面で見る手段が必要(後述)

なお、ここで挙げた数値はいずれも一般的な目安であり、作物・土壌タイプ・地域によって適正域は変わります。「この数値だからこう施肥する」という判断は、必ずお住まいの都道府県の施肥基準と営農指導・普及指導の窓口に確認したうえで行ってください。

測定器より先に精度を決めるのは「採土」

実務でいちばん多い落とし穴は、キットの精度を疑う前に採土の手順が崩れているケースです。神奈川県の土壌診断基準は、採土について具体的な手順を示しています。

  • 圃場の土壌はばらつきがあるため、5ヶ所からほぼ等量ずつ採土し、混和して試料とする
  • 表層1〜2cmの土を取り除き、その下から土層の上下で厚さが違わないように採る(施設では塩類集積があるため表層を除かずに採土)
  • 採土の深さは畑・施設・田・果樹園・茶園いずれも15cm
  • 1ヶ所から約500gの生土を採り、同一圃場の他地点と混和する
  • よく攪拌した一部を紙の上に薄く広げ、直射日光を避けて1週間ほど風乾。加熱乾燥は窒素が飛ぶため避ける
  • 乳鉢で軽くすりつぶし、2mmのふるいを2回通して風乾細土とする

この手順は、裏を返せば「1つの数値を出すために圃場全体を5点に圧縮している」ということでもあります。均質な圃場ならそれで十分ですが、旧圃場界をまたいでいる、客土した履歴がある、堆肥の散布ムラがある、排水の良い場所と悪い場所が同居している——といった圃場では、5点の平均値が実態のどこも表していない、という事態が起こります。

土壌を調べる4手法を比較する

簡易キットを「使うか使わないか」で考えるより、他の手段との役割分担で捉えたほうが判断しやすくなります。手法別の性格を整理すると次のとおりです。

簡易土壌診断キット

公的機関・JA等の土壌分析

近赤外分光による土壌分析

分光リモートセンシング(面)

分かる項目

pH・EC・硝酸態窒素が中心

pH・EC・可給態リン酸・硝酸態窒素・石灰・苦土・カリ等

全炭素・全窒素・腐植など有機物系の推定に強い

表層の有機物・含水比・裸地のばらつき分布

出力の形

点(採土地点の代表値)

点(混合試料の代表値)

点または試料単位

面(メッシュ・画素単位の分布)

精度の性格

概略値。目視比色は個人差が出る

公定的な分析法に基づく基準値

検量線(キャリブレーション)の質に依存

推定モデル依存。絶対値より相対差が得意

結果までの時間

数分〜当日

数日〜数週間

検量線があれば短時間

撮影後に解析。面積が広いほど有利

手間

採土+その場で測定

採土・風乾・ふるい・提出

試料調製+測定+モデル運用

撮影計画・地上検証・解析

コストの性格

初期が安く、消耗品が継続

1点あたりの分析費

装置・モデル構築が初期負担

面積あたりで効くため広いほど割安

向く場面

作付け前後の定点確認、追肥判断の当たり付け

施肥設計の根拠づくり、基準値との突合

多点を効率的に評価したい研究・大規模圃場

圃場内・産地全体のばらつき把握、可変施肥の前段

苦手なこと

塩基バランス・CEC・物理性・ばらつき

頻度を上げにくい。結果が出る頃には状況が動く

土壌タイプが変わるとモデルの適用範囲外になりやすい

深さ方向・生物性は見えない。地上実測との併用が前提

手法そのものの分類をもう少し広く押さえたい場合は、土壌診断の手法4分類と肥沃度の見方をまとめた記事も併せてご覧ください。近赤外領域で何が測れて何が測れないのかは、近赤外分光法の原理と非破壊測定の限界で整理しています。

私たちは国産のハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、「キットで測っているが圃場内のばらつきが説明できない」という段階でお困りの方には、面で見る選択肢を知っておくだけでも判断材料が増えるはずです。製品の考え方だけでも覗いていただけたら嬉しいです。

点では取り逃す——面で見る必要が出る5つの場面

簡易キットも外部分析も、出力は「点」です。次の5問のうち2つ以上に当てはまるなら、点の測定を増やすより、面で分布を掴んでから測る場所を決めたほうが、結果的に分析回数も手間も減ります。

  1. 同じ圃場内で生育差が毎年ほぼ同じ場所に出るか。再現する生育ムラは、土壌側に原因が固定されているサインです。
  2. 圃場の成り立ちが均一でないか。合筆・客土・造成・旧水路跡などの履歴があると、5点混合の平均値は実態を表しません。
  3. 堆肥や土壌改良資材の散布ムラが疑われるか。散布幅の重なりや端の抜けは、帯状の分布として現れます。
  4. 管理面積が広く、点を増やすコストが現実的でないか。数十枚規模になると、全枚数の分析は頻度を落とさざるを得ません。
  5. 可変施肥や区分管理を検討しているか。処方を面で変えるなら、根拠も面で持つ必要があります。

当てはまりが0〜1個なら、まずは簡易キットで定点を追い、年1回は外部分析で基準値と突き合わせる運用で足ります。2個以上なら、面での把握を前段に置く価値が出てきます。

「面で見る」土壌センシングは今どこまで来ているか

土壌を面で捉える研究は着実に進んでいます。農研機構は、水田土壌の可給態窒素について、全炭素含量から分光反射率で推定した安定腐植を差し引いて易分解性有機物を間接算出する手法を報告しており、マルチスペクトルカメラで計測したGreen(550±40nm)・Red(660±40nm)・Rededge(735±35nm)・NIR(790±40nm)の4波長を用いています(農研機構「可給態窒素は水田土壌の全炭素含量と分光反射率を用いると簡易に推定できる」)。ただし同成果は沖積土で母材が一定である圃場を対象としており、異なる土壌タイプへの適応は今後の検討課題とされています。

ドローン空撮による土壌表層の炭素量推定も報告されています。小越ら(2023)は可視画像と土壌含水比を説明変数として、5mメッシュで自由度調整済み決定係数0.526の推定式を得ています(農研機構研究報告「ドローンで空撮した可視画像と土壌含水比による土壌表層の炭素量の推定法」)。この数字は、面のセンシングが「絶対値を言い当てる道具」ではなく、「どこが濃くてどこが薄いかを面で示し、測る場所を賢く選ばせる道具」であることを示しています。

ここで、波長の数が効いてきます。上記のマルチスペクトルカメラは4つの波長帯を使いますが、ハイパースペクトルカメラは可視から近赤外にかけて数十〜数百の連続した波長帯を取得します(分光=光を波長ごとに分けて計測すること)。有機物や含水率のように、反射スペクトルの緩やかな形の違いとして現れる情報は、帯の数が増えるほど切り分けやすくなります。ハイパースペクトルカメラの仕組みと4業界36ユースケースはトップページで解説していますので、技術の全体像から確認したい方はそちらもご覧ください。

ただし、面のセンシングにも正直に限界があります。見えるのは基本的に表層であり、作土層の深さ方向の分布は分かりません。作物が繁茂していれば土壌そのものは写らず、裸地のタイミングが必要になります。推定モデルは地上の実測(=キットや外部分析の値)と対にして初めて成立し、土壌タイプが変われば作り直しが要ります。つまり面のセンシングは、点の分析を置き換えるものではなく、点をどこで採るかを決めるための地図として使うのが現実的です。作物側の生育ムラの見方については、NDVIの値の見方と植生指数7種の使い分けで限界も含めて整理しています。

現場での使い分け——4ステップの運用案

  1. 年1回は外部分析で基準を取る。採土手順を守った混合試料で、pH・EC・可給態リン酸・硝酸態窒素・塩基類を押さえ、都道府県の施肥基準と突き合わせます。判断は営農指導・普及指導の窓口と一緒に行うのが前提です。
  2. 作付け前後と追肥判断は簡易キットで追う。同じ地点・同じ手順で繰り返すことが重要で、絶対値より「前回からどう動いたか」に価値があります。
  3. ばらつきが疑われる圃場は面で撮る。裸地のタイミングで撮影し、分布の粗密を可視化します。目的は数値の断定ではなく、次に採土すべき場所の特定です。
  4. 面で見つけた差を点で検算する。分布上の濃い場所・薄い場所からそれぞれ採土して分析し、面の推定と実測を突き合わせます。この往復を1シーズン回すと、翌年以降の採土設計が大きく変わります。

よくある落とし穴

  • 測るタイミングがばらばら。施設土壌では表面の乾湿が養分含量に大きく影響するため、表面の乾燥時や潅水直後の採土は避けるよう資料でも注意されています。比較したいなら条件を揃えることが先です。
  • 目視比色の個人差。担当者が替わると数値が動くことがあります。数値化するなら反射式光度計やメータ類を検討する価値があります。
  • ECから硝酸態窒素を推定する式を万能だと思う。鳥取県の手引きも、ECが高くなっている施設土壌では石灰等が集積してイオン種が変化しているため、硝酸態窒素との関係がみられない場合があると注意しています。
  • 面の画像を見て施肥量を直に決める。分布は「どこが違うか」を示すもので、施肥量そのものの根拠にはなりません。必ず実測と基準値を経由します。
  • センシングを導入すれば分析が不要になると考える。むしろ地上実測とセットでこそ精度が出ます。

ばらつきを面で捉えたい方へ

私たちMilk.株式会社は、これまで食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。受賞歴・メディア報道・学術成果は実績一覧で公開しています。現場ごとに「何が見えて、何は見えないのか」を確かめるところから一緒に進めるirodori共創プランもご用意しています。

土壌診断キットで手応えは掴めているものの、圃場内のばらつきをどう扱うかで止まっている——という段階の方に、面で見るという選択肢が役に立つかもしれません。製品カタログと事業紹介資料を無料でお送りしていますので、比較検討の材料としてご覧いただけたら嬉しいです。

よくある質問

土壌診断キットで何が分かりますか?

pH・EC(電気伝導度)・硝酸態窒素の概略値が中心です。試験紙や簡易メータ、反射式光度計などを使い、圃場で数分から当日中に結果が得られます。一方で可給態リン酸や交換性石灰・苦土・加里、CEC、可給態窒素、土壌の物理性・生物性は簡易キット単独では基本的に分かりません。

簡易キットの結果だけで施肥量を決めてよいですか?

おすすめしません。施肥設計には塩基バランスやCEC、可給態リン酸など簡易キットでは測れない項目が関わります。年1回は公的機関やJA等の土壌分析で基準を取り、都道府県の施肥基準と突き合わせたうえで、営農指導・普及指導の窓口と相談して判断してください。

土壌サンプルはどう採ればよいですか?

農林水産省が公開する神奈川県の土壌診断基準では、圃場内5ヶ所からほぼ等量ずつ採土して混和し、深さは畑・施設・田・果樹園・茶園いずれも15cm、1ヶ所あたり約500gを目安としています。採取後は直射日光を避けて1週間ほど風乾し、2mmのふるいを2回通して風乾細土とします。加熱乾燥は窒素が飛ぶため避けます。

ECから硝酸態窒素は推定できますか?

鳥取県の手引きでは、ECは硝酸態窒素含量との間に正の相関関係がみられるため推定に有効とされています。ただしECが高くなっている施設土壌では石灰等が集積してイオン種が変化しているため、硝酸態窒素との関係がみられない場合があり、推定には注意が必要と同資料も指摘しています。

圃場内のばらつきはどうすれば把握できますか?

点の採土を増やすより、裸地のタイミングで分光による面の撮影を行い、分布の粗密を可視化してから採土地点を決める方法があります。農研機構は分光反射率を用いた可給態窒素の推定やドローン可視画像による土壌表層炭素量の推定を報告していますが、いずれも地上の実測と対にして使うことが前提で、深さ方向や生物性は見えません。

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