非破壊検査とは、対象物を壊したり傷つけたりせずに、内部のきずや表面のきず、劣化の状況を調べる検査技術の総称です。工業分野では超音波・放射線・磁粉・浸透・渦電流の5手法が主軸で、光学・分光はその外側を補う位置にあります。
一般社団法人日本非破壊検査協会は、非破壊検査を「『物を壊さずに』その内部のきずや表面のきずあるいは劣化の状況を調べ出す検査技術」と定義し、原子力発電所・プラント・鉄道・航空機・橋梁・ビル・地中埋設物などに適用されるとしています(日本非破壊検査協会「非破壊検査について」)。つまり非破壊検査は特定の1つの装置を指す言葉ではなく、「壊さずに調べる」という目的を共有する複数の手法群のことです。
この記事では、工業分野で標準的に使われる5手法(UT・RT・MT・PT・ET)の適用対象・検出できるきず・限界を整理したうえで、「自分の検査対象ならどれを選ぶか」をたどれる判定チャートを用意しました。最後に、光学・分光(ハイパースペクトルイメージング)が5手法のどこに入り、どこには入れないのかを正直に線引きします。
非破壊検査とは何か|破壊検査との違いと2つの大分類
破壊検査との違いは「調べた後も使えるか」
破壊検査は、試験片を引っ張る・切断する・断面を研磨するなどして、対象を犠牲にして性質を確かめる方法です。得られる情報の確度は高い一方で、調べた個体そのものは製品として使えなくなります。そのため、抜き取り検査にはなじみますが、全数検査や供用中の設備の点検には使えません。
非破壊検査は逆で、調べた対象をそのまま使い続けられます。だからこそ「製造時の全数検査」と「供用開始後の保守検査」という2つの場面で使われます。ただし多くの手法は物理量(音波の反射、放射線の透過量、漏洩磁束、渦電流の乱れなど)を間接的に読み取るため、破壊検査に比べて解釈に技能と経験を要する、という代償があります。
表面検査と体積検査という分け方
手法を覚えるうえで最も有効な軸が、「表面(および表面近傍)を見る手法」と「内部の体積を見る手法」の区別です。この2つは代替関係ではなく、見ている場所が違います。表層のきずを探す手法で内部の空洞は見えませんし、内部を透かす手法は微細な表面の割れを取りこぼすことがあります。
- 表面検査:PT(浸透探傷)・MT(磁粉探傷)・ET(渦電流探傷)、および目視検査
- 体積検査:UT(超音波探傷)・RT(放射線透過)
ここで注意したいのは、MTとETは「表面に加えて表面直下の浅い範囲」まで届くのに対し、PTは表面に開口したきずしか検出できない、という差があることです。同じ「表面検査」でも守備範囲は同じではありません。
工業分野の代表5手法|適用対象・検出できるきず・限界
UT(超音波探傷試験)|内部を深さ方向まで追える
探触子から超音波を入射し、内部の不連続部で反射したエコーを受信して、きずの有無と深さ方向の位置を調べる手法です。割れや融合不良のような面状のきずに強く、伝搬時間からきずまでの距離が求まるため、位置と寸法をある程度定量的に扱えます。同じ原理で肉厚を測れば、配管の腐食減肉の進行を追うこともできます。
限界は3つあります。第一に、探触子と対象の間に接触媒質が必要で、原則として対象に触れる必要があること。第二に、超音波ビームに対してきずの面がどう向いているかで検出性が大きく変わり、ビームと平行に寝た割れは反射が返らず見落としやすいこと。第三に、結晶粒が粗大な材料(オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部など)では散乱と減衰が大きく、ノイズに埋もれやすいことです。
RT(放射線透過試験)|記録が残り、体積状のきずに強い
X線やガンマ線を対象に透過させ、透過量の差をフィルムやデジタル検出器に像として記録します。ブローホール(気孔)やスラグ巻込みのような体積を持つきずの検出が得意で、画像そのものが証拠として残るため、第三者が後から見返せるという運用上の利点があります。溶接部の品質確認では長く標準的な位置を占めてきました。
一方で、放射線の進む向きに対して開口がほぼ直交している薄い割れは、透過量の差がほとんど生じないため映りにくくなります。また、線源と検出器を対象の両側に配置する必要があるため、片側からしか近づけない構造には適用しづらいこと、そして照射中の立入制限と線量管理という安全上の制約が常につきまとうことが、現場での適用範囲を狭めます。
MT(磁粉探傷試験)|強磁性体の表面きずを目で見える形にする
対象を磁化すると、表面や表面直下のきずの位置から磁束が漏れます。そこへ磁粉を適用すると、漏洩磁束に引かれた磁粉が集まり、きずが指示模様として肉眼で見える形になります。感度が高く、処理も比較的短時間で済むため、鋼構造物の溶接部検査などで広く使われています。
最大の制約は材質です。JIS Z 2320-1:2017「非破壊試験-磁粉探傷試験-第1部:一般通則」は、その適用範囲を強磁性体の磁粉探傷試験に限定しています(日本規格協会 JIS Z 2320-1:2017)。したがってオーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、銅などの非磁性材料には使えません。加えて、磁束に対して平行に走るきずは漏洩磁束が生じにくいため、磁化の方向を変えて複数回試験する必要があります。
PT(浸透探傷試験)|材質を選ばないが、開口したきずだけ
浸透液を表面に塗布してきずの中に浸み込ませ、表面の余剰分を除去したうえで現像剤を適用すると、きず内部の浸透液が吸い出されて実際の幅より拡大した指示模様になります。JIS Z 2343-1:2017「非破壊試験-浸透探傷試験-第1部:一般通則」は、製造中および供用中の材料・製品の表面に開口したきず(割れ、重なり、しわ、ポロシティ、融合不良など)の検出を対象としています(日本規格協会 JIS Z 2343-1:2017)。
MTと違って材質を問わないため、非磁性のステンレス鋼やアルミ合金、セラミックスにも適用できるのが強みです。ただし「表面に開口している」ことが絶対条件で、表面直下に隠れたきずは原理上まったく検出できません。また、多孔質の材料では現像剤がどこにでも反応してしまい判定できないこと、前処理としての脱脂・清浄が結果を左右すること、工程が多く廃液処理が必要なことが実務上の負担になります。
ET(渦電流探傷試験)|非接触・高速だが、深部は見えない
コイルに交流を流して交番磁界をつくり、導電性の対象に渦電流を誘起します。きずがあると渦電流の流れが乱れ、その変化がコイルのインピーダンス変化として現れます。対象に触れずに検査でき、走査速度を上げられるため、熱交換器の伝熱管や棒鋼・線材のように「同じ形状のものを大量に、連続で」検査する用途に向きます。
制約は明快で、電気を通す材料にしか使えません。さらに渦電流は表皮効果によって表面付近に集中するため、内部の深いきずは見えず、探傷周波数を上げるほど検出できる深さは浅くなります。加えて、対象とコイルの距離(リフトオフ)の変動、形状の変化、材質のばらつきがそのまま信号に乗るため、ノイズときずの信号を切り分ける設定と技能が必要です。
判定チャート|3つの質問で候補を絞る
ここまでの内容を、実際に選ぶ順序に組み替えます。次の3つの質問に、上から順に答えてください(Q2は対象によって分岐します)。
- Q1:見たいのは「内部」か「表層」か。
- 内部(板厚の中の空洞・割れ、配管の減肉)→ Q2-Aへ
- 表層(表面および表面直下のきず、表面の状態変化)→ Q2-Bへ
- まだ分からない → 表層から始めるのが安全です。表面に現れているきずを取りこぼしたまま内部を疑うと、原因の切り分けが遅れます。
- Q2-A:内部を見る場合、対象へのアクセスと安全条件は。
- 片側からしか近づけない/深さ方向の位置と寸法を知りたい/減肉を継続監視したい → UT
- 両側からアクセスでき、放射線管理区域を設定できる/気孔や巻込みを画像記録として残したい → RT
- 両方が可能なら、面状のきずを疑うならUT、体積状のきずを疑うならRTが基本の分担です。
- Q2-B:表層を見る場合、対象は何でできているか。
- 炭素鋼・低合金鋼などの強磁性金属 → MT(表面直下まで届く。磁化方向を変えて複数回)
- ステンレス鋼・アルミ・銅などの非磁性の導体 → ET(非接触・高速)またはPT(開口きずのみ)
- 樹脂・セラミックスなど非導体 → PT(開口きずのみ)
- 表面の「きず」ではなく、汚れ・水分・材質の違い・化成被膜など組成や化学的な状態を面で見たい → 光学・分光(後述)
- Q3:欲しいのは「有無の判定」か「定量」か。
- 有無・合否の判定でよい → PT・MTのように指示模様を目で確認する手法が、簡便でコストも低く済みます。
- 寸法・深さ・残存肉厚を数値で残したい → UT(厚さ・深さ)、RT(画像記録)、ET(信号の定量化)を検討します。
- 面全体の分布を数値で残したい → 分光イメージングやサーモグラフィなど、面で撮る手法が候補に入ります。
手法 | 見ている場所 | 適用できる材質 | 得意なきず | 主な限界 |
|---|---|---|---|---|
UT(超音波探傷) | 内部(体積) | 音の通る材料全般 | 割れ・融合不良などの面状きず、減肉 | 接触が必要。きずの向きに依存。粗大結晶粒材で減衰 |
RT(放射線透過) | 内部(体積) | 材質を問わない | 気孔・巻込みなどの体積状きず | 放射線管理が必須。両側アクセス。薄い割れは映りにくい |
MT(磁粉探傷) | 表面+表面直下 | 強磁性体のみ | 表面および浅い位置の割れ | 非磁性材に不可。磁化方向に平行なきずは検出しにくい |
PT(浸透探傷) | 表面のみ | 材質を問わない(多孔質を除く) | 表面に開口した割れ・ポロシティ | 開口していないきずは原理上不可。前処理と廃液処理 |
ET(渦電流探傷) | 表面+表面近傍 | 導電性材料のみ | 表面付近の割れ・腐食 | 非導体に不可。表皮効果で深部は不可。ノイズの影響 |
光学・分光(参考) | 表面のみ | 不透明・半透明を問わないが表面のみ | 組成・水分・汚れなど化学的な差の面分布 | 内部欠陥は不可。定量には検量モデルの構築が必要 |
実際の現場では、この3問だけで割り切れないことも多くあります。「既存の手法で足りるのか、分光まで必要なのか」の見極めは対象物と目的次第なので、判断に迷う段階でしたら、irodoriの紹介ページをご覧いただくか、お気軽にご相談ください。既存手法で足りる場合は、そのようにお伝えしています。
非破壊検査の資格と規格|JIS Z 2305によるNDT技術者認証
非破壊検査は、同じ装置を使っても実施者の技能によって結果が変わりうる検査です。そのため日本では、非破壊試験技術者の資格と認証を定めたJIS Z 2305が置かれています。最新版はJIS Z 2305:2024で、2001年4月20日に制定され、2024年9月20日に改正されました。国際規格ISO 9712:2021に対応しています(日本規格協会 JIS Z 2305:2024)。
この規格が対象とする非破壊試験方法は、アコースティック・エミッション試験、渦電流探傷試験、漏れ試験、磁気探傷試験、浸透探傷試験、放射線透過試験、ひずみゲージ試験、赤外線サーモグラフィ試験、超音波探傷試験、外観試験の10種類です。本記事で扱う5手法はいずれもこの中に含まれます。
認証を行っているのは日本非破壊検査協会で、資格を取得するには「満足する視力検査」「訓練」「試験の合格」「経験」という4つの条件を満たす必要があります。試験は一次試験と二次試験に分かれ、年2回(春期・秋期)実施されています(日本非破壊検査協会「JIS Z 2305非破壊試験技術者資格試験」)。資格はレベル1からレベル3まであり、上位レベルほど手順書の作成や結果の評価まで担える範囲が広がります。
装置の導入を検討する際は、「その装置を誰が運用し、結果を誰が判定するか」まで含めて設計してください。手法によっては有資格者の関与が実質的な前提になります。
光学・分光(ハイパースペクトル)はどこに位置づくのか
結論:大半の工業用途では、5手法が正解です
先に正直な線引きをします。金属部材の内部欠陥、溶接部の健全性、配管の減肉といった「構造物が壊れるかどうか」を問う検査については、UT・RT・MT・PT・ETという既存の5手法が確立された正解であり、光学・分光がそれを置き換えることはありません。分光は光の反射・吸収を測る技術なので、不透明な材料の内部には原理上まったく届かないからです。この点だけは誤解のないようにしてください。
また、分光には「きずの有無を一発で判定する規格」が5手法のように整備されているわけでもありません。何を良品とし何を不良とするかは、対象ごとにデータを集めて判断基準をつくる必要があります。導入までの手間は、既存手法より確実に大きくなります。
分光が効くのは「表面の化学的・組成的な違いを、面で捉えたい」とき
では分光の出番はどこか。ハイパースペクトルイメージングは、画像の1画素ごとに連続した波長のスペクトルを取得します。通常のカメラが赤・緑・青の3つの値しか持たないのに対し、数十から数百の波長帯の情報を持つため、「見た目の色は同じだが物質としては違う」ものを区別し、その分布を画像として示すことができます。仕組みの詳細はハイパースペクトルカメラとは何かを解説した記事で整理しています。
この特性が意味を持つのは、次のような場面です。
- きずではなく「状態」を見たい:水分、油分、汚れ、酸化の進行度など、形として現れる前の化学的な変化
- 材質を判別したい:混在した材料の種類分け、被膜の有無、異種材の混入
- 点ではなく面の分布が欲しい:従来の分光計は1点の測定になりますが、イメージングなら「どこがどうなっているか」の地図が得られます
- 非接触で、対象に何も塗らずに測りたい:PTのような前処理や薬剤の適用ができない対象
言い換えると、分光は5手法の代わりではなく、5手法がそもそも守備範囲としていない「表面の組成情報」という別の軸を埋める技術です。既存手法と競合しないからこそ、既存手法で足りている領域に持ち込む必要はありません。
私たちの立ち位置
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。その過程で分かったのは、分光が向く対象と、既存の非破壊検査で十分な対象がはっきり分かれるということです。取り組んできた領域は実績一覧にまとめています。
分野別の使い分け|インフラ点検・食品・素材
インフラ点検では、目視が基本で非破壊検査は補助
橋梁などの土木構造物では、工業製品とは前提が変わります。国土交通省の「道路橋定期点検要領」(令和6年3月、道路局)は、点検間隔を5年に1回の頻度を基本としたうえで、状態の把握は「近接目視による外観性状の把握、打音、触診が基本である」としています。そのうえで、点検支援技術や非破壊検査技術等を活用する場合は、後の検証が可能となるよう使用機器等の情報を記録することを求めています(国土交通省 道路橋定期点検要領)。
つまりインフラ分野では、非破壊検査は目視を置き換えるものではなく、目視だけでは情報が不足する箇所を補うものとして位置づけられています。近づけない部位をどう扱うか、その結果をどう記録に残すかが実務の焦点です。個別の対象については、コンクリートのひび割れ検査の手法比較、錆・塗装劣化の定量化、保温材下腐食(CUI)の検査手法、漏水の非破壊調査でそれぞれ整理しています。
食品では、そもそも見たいものが「きず」ではない
食品の検査は、工業分野の5手法とは目的が異なります。探しているのは割れや空洞ではなく、腐敗の進行、鮮度の低下、異物の混入といった対象です。X線検査や金属検出のように工業由来の手法が使われる場面もありますが、化学的な変化を捉える必要がある領域では、分光や近赤外の出番が相対的に大きくなります。食品分野の具体的な手法比較は食品の腐敗・傷みを出荷前に見抜くには?非破壊検査の手法を比較で詳しく扱っています。
素材・部品では、工程のどこに置くかで手法が決まる
同じ部品でも、素材受入・加工中・完成後・供用中のどの段階で検査するかによって適した手法は変わります。加工中であれば全数を高速に流せるETが有利ですし、完成品の溶接部を第三者に証明する必要があるならRTの記録性が効きます。供用中の設備であれば、止めずに測れるUTの厚さ測定が現実解になります。「どのきずを見つけたいか」だけでなく「いつ、どんな制約の中で測るか」を先に決めると、選択肢は大きく絞れます。
まとめ|まず既存の5手法で足りるかを確かめる
非破壊検査の選定は、装置のカタログから入ると迷います。順序を逆にして、「内部か表層か」「材質は何か」「有無の判定か定量か」の3点を先に固めてください。ここまで決まれば、UT・RT・MT・PT・ETのどれが候補になるかはほぼ自動的に決まります。
そのうえで、どの手法にも当てはまらないと感じたときは、探しているものが「きず」ではなく「状態」や「組成」である可能性があります。そこが光学・分光の領域です。逆に言えば、5手法のどれかで解決するなら、そちらを選ぶのが正解です。




