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金属検出機の原理を解説|渦電流と製品効果から食品工場の感度設定を見直す

金属検出機の原理を、交流磁界・渦電流・位相検波までさかのぼって整理しました。なぜ製品効果が起きるのか、なぜステンレスは検出しにくいのかが分かると、感度設定とテストピース運用の判断を現場で自分の言葉で説明できるようになります。

金属検出機の原理とは、送信コイルがつくる交流磁界のバランスが金属によって崩れる現象を電気信号として捉える仕組みです。検出部は一般に1つの送信(発信)コイルと2つの受信コイルで構成され、2つの受信コイルが同量の磁束を受けて釣り合っている状態を基準にします。金属が通過するとこの釣り合いが崩れ、その差分が信号として現れます。鉄などの磁性金属と、ステンレスやアルミなどの非磁性金属では、信号の向き(位相)が逆方向に振れるのが特徴です。

金属検出機の原理:交流磁界のバランスが崩れる瞬間を捉える

1つの送信コイルと2つの受信コイルで「ゼロ」をつくる

金属検出機の検出ヘッド(サーチコイル)は、コントロールユニットから供給された高周波電流で磁界を発生させています。ニッカ電測の技術解説によれば、検出部は1つの発信コイルと2つの受信コイルで構成され、発信コイルから出た高周波磁力線を2つの受信コイルが均等に受信することで、安定した磁界=電圧が保たれます。日新電子工業の解説も、2つの受信コイルが同量の磁束を受けて磁束のバランスが保たれる状態を基本としています。つまり金属検出機は「金属を見つける装置」ではなく、「釣り合っているはずの磁界がわずかにずれたことを検知する装置」です。

この設計思想は、感度の議論を根本から規定します。バランスがもともと不安定なら、金属が無くても信号は出ます。逆に言えば、安定した磁界をどれだけ精密に作れるかが、検出できる最小径を決めます。装置選定で「検出ヘッドの安定性」が語られるのは、この一点に理由があります。

磁性体は磁束を集め、非磁性体は渦電流で磁束を削る

金属がバランスを崩す崩し方は、材質によって2通りに分かれます。ニッカ電測の解説では、磁性金属が通過するときは磁力線が金属に引き寄せられて電圧が+側に変化し、アルミやステンレスなどの非磁性金属が通過するときは金属に渦電流(変化する磁界にさらされた導体の内部に渦を巻いて流れる誘導電流)が発生し、磁力線を消費することで電圧が−側に変化します。

渦電流が磁束を「消費」する理由は、電磁気学の基本則にあります。日本非破壊検査協会の解説(渦電流探傷試験法の新しい展開)は、レンツの法則により渦電流が作る磁束は励磁コイルが生成した磁束を打ち消すように作用すると述べています。金属検出機も渦電流探傷試験も、励磁コイルで交流磁束を導体に与えて渦電流を誘起し、その反作用を読むという意味では同じ物理の上に立っています。

結果として、非磁性金属は磁界を乱す量が少なくなります。日新電子工業は、非磁性金属(銅・アルミニウム・SUSなど)は磁界を乱す量が少ないため検出感度が低下すると明記しています。「ステンレスは検出しにくい」という現場の実感は、感度設定の不備ではなく原理そのものに由来する現象です。

周波数によって得意な金属が変わる

もう一つ原理から導かれる性質が、周波数依存性です。ニッカ電測は、一般に鉄は低い周波数で、非鉄は高い周波数でより検出の効果が上がると説明しています。単一周波数の機械では、鉄に合わせれば非鉄が落ち、非鉄に合わせれば鉄が落ちるというトレードオフが生じます。

これを解くために生まれたのが二周波(多周波)検査方式です。同社は、現在主流の二周波検査方式では鉄と非鉄をそれぞれ効率よく検出できるとしています。自社の機械が単周波か二周波かは、検出できる異物の幅を決める設計上の前提なので、感度を疑う前にまず仕様書で確認する価値があります。

製品効果:食品そのものが「金属のように見える」理由

水分・塩分・温度が信号を動かす

製品効果(product effect)とは、検査対象の食品自体が磁界を乱し、金属が入っていないのに信号を出してしまう現象です。日新電子工業は、製品も磁界に影響を与え、その影響度には導電率・大きさ・温度などの要因が関係すると説明しています。食品に含まれる水分や塩分は、まさにこの導電率を押し上げる成分です。

原理に立ち返れば、これは当然の帰結です。渦電流は導体であれば発生します。塩水を多く含んだ練り製品やハム、タレのかかった惣菜は、電気的には「弱い非磁性金属」に近い振る舞いをします。だからこそ、製品効果は故障でも誤動作でもなく、装置が原理どおりに正しく反応している状態だと理解するのが出発点になります。

温度が挙げられている点も実務では見落とされがちです。加熱直後の製品と冷却後の製品では信号が変わるため、ラインのどの位置に検出機を置くかが感度に直結します。金属検出機で検出できない異物を洗い出す前に、まず自社の製品が電気的にどう見えているかを押さえておくと、対策の順番を間違えずに済みます。

位相検波で製品効果をキャンセルする

製品効果を抑える中核技術が位相検波です。ニッカ電測は、金属検出機では位相という製品の持つ電気的な信号に対し、反対の信号をあらかじめ設定することで、この反応を最小限に抑えてより良い検出感度を得られると説明しています。装置の「製品登録」「オート設定」と呼ばれる操作は、この逆位相の打ち消しを決める作業です。

ここに感度設定の本質があります。金属検出機の感度つまみは、単に増幅率を上げ下げしているのではなく、「製品の信号がある方向」を打ち消しつつ「金属の信号がある方向」だけを残すという方向の選別を行っています。だから、製品効果の位相と金属異物の位相が近いとき、感度を上げても異物だけを拾うことはできません。ステンレスの検出が難しい製品で、感度を上げた瞬間に誤検出が急増するのは、この位相の重なりが原因です。

金属検出機で検出できない異物を種類別に整理した記事も併せて読むと、原理と現象が結びつきやすくなります。

原理から逆算する感度設定と日常運用

テストピースは「原理の弱点」を突く順に流す

原理を理解すると、テストピースの流し方も変わります。磁性体(Fe)は磁束を集めるため検出しやすく、非磁性体(SUS)は渦電流の反作用が小さいため検出しにくい。したがってSUSのテストピースこそが、その日の感度状態を最も正直に映します。Feだけが通っているから安心、という運用は原理的に甘い判定です。

通す位置も同じです。磁界の強さは検出ヘッド内で一様ではないため、最も感度が落ちる位置(一般に開口部の中央付近)で確認しなければ、最悪ケースを保証したことになりません。製品と一緒に流すか、単体で流すかでも結果は変わります。製品効果を打ち消した状態での実力を見るなら、実際の製品にテストピースを乗せて流すのが実態に近い検証です。

HACCPが求める作動確認の頻度と記録

金属検出機は、厚生労働省のHACCP(ハサップ)制度において重要管理点として扱われることが多い工程です。2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。

具体的な運用は、厚生労働省が確認した業界団体の手引書に示されています。小規模なカレー粉及びカレールウ製造事業向けの手引書(PDF)では、異物検出機の作動確認について「始業前、製造中、製造終了後に適切な頻度で行います」とされ、記入例では「始業前・製造終了後・2時間毎」が示されています。さらに、製品を通過させる前後でテストピースを通し、異常が見つかった場合は正常に作動するように調整したうえで、正常な作動が確認できている製品まで遡って再度確認するよう定めています。

この「遡り」の要求は重い意味を持ちます。点検間隔が長いほど、異常発覚時に再検査すべきロットが膨らみます。2時間毎という頻度は、遡及リスクを許容できる範囲に抑えるための設計値だと捉えると、頻度を決める議論が具体的になります。

現場で起きやすい設定の落とし穴

  • 製品登録を更新しない:レシピ変更・原料産地変更・季節による水分量の変動で製品効果の位相は動きます。登録が古いまま感度だけ下げる運用は、実質的な検出力を静かに落とします。
  • 誤検出を感度低下で解決する:位相が重なっているのに感度だけ下げると、異物の検出限界も同時に下がります。まず製品登録のやり直し、次に周波数・設置位置の見直しという順序が原理に合っています。
  • 包装後にだけ検査する:アルミ蒸着フィルムや金属トレイは磁界を乱すため、包装後検査の感度は原理的に下がります。包装前の検査点を持てないかを先に検討する価値があります。
  • 周囲環境の変化を見ていない:近接する金属コンベア、振動、他設備からのノイズはバランスを崩します。設置環境が変わったら再設定が要る、と運用手順に書いておくと事故が減ります。

金属検出機・X線検査機・目視・分光の原理比較

方式の優劣ではなく、それぞれが何という物理量を見ているかで並べると、守備範囲の違いが理解できます。見ている物理量が違えば、見落とすものも違います。

比較軸

金属検出機

X線検査機

目視検査

分光(NIR・ハイパースペクトル)

見ている物理量

交流磁界の乱れ(導電率・透磁率)

X線の透過量の差(密度)

可視光の色・形(人の判断)

波長ごとの反射・吸収スペクトル(物質の組成)

主な検出原理

送信コイルと2つの受信コイルの磁束バランスの崩れ。磁性体は磁束を集め、非磁性体は渦電流で磁束を打ち消す

波長の極めて短い電磁波が物質を透過し、密度が高いほど透過しにくい性質を利用

作業者が色・形・質感の違いを認識

物質固有の吸収帯を波長軸で捉え、画素ごとに成分を判別

得意な異物

鉄などの磁性金属。非磁性金属は感度が落ちる

金属に加え、ガラス・石・硬質樹脂など密度の高い非金属

表面に露出した、色や形が明確に異なるもの

色が似ていても組成が異なるもの(研究報告では植物組織の判別例あり)

苦手・検出できないもの

非導電性の異物(樹脂・ガラス・毛髪・骨など)。製品効果と位相が重なる金属

日新電子工業のX線異物検査装置の原理解説では低密度樹脂・虫・毛髪は検出不可、硬骨・高密度樹脂・ゴムは検出困難

内部異物、微小異物。疲労と個人差の影響を受ける

内部(表面下)の異物。光が届かない不透明包装の内側

製品効果(食品自体の信号)の影響

大きい。水分・塩分による導電率、大きさ、温度で変動し、位相検波で打ち消す必要がある

密度差が小さい異物ほど埋もれる。製品の厚み・重なりの影響を受ける

製品の色柄が近いと見落としが増える

背景となる食品のスペクトルとの差が小さいと判別が難しい

包装ごしの検査

可能。ただしアルミ蒸着・金属トレイは磁界を乱す

可能。金属包装でも透過条件によって検査できる

透明包装なら表面のみ可能

原理上、光が透過しない包装の内部は見えない。包装前・開口部の検査が基本

分光の欄で挙げた研究例は、蔦瑞樹ら「近赤外分光イメージング法による食品品質計測法の開発」(日本食品科学工学会誌 58巻3号、2011年)によるものです。400〜1100nmの波長域で画像を取得し、680nm近傍の葉緑素吸収帯の二階微分吸光度画像を用いて、ブルーベリーに混入した植物組織を検出できたことが報告されています。NIRは近赤外(Near Infrared)、ハイパースペクトルは数十〜数百の波長帯を画素ごとに同時取得する撮像方式を指します。X線と金属検出機の使い分けについては、X線検査機で見つからない異物への向き合い方も参考になります。

私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「金属検出機の感度は限界まで詰めたのに、まだ出てくる異物がある」という段階でお困りでしたら、どんな波長で何が見えるのかだけでも知っていただけたら嬉しいです。実機を持ち込んでのデモや、貴社のサンプルを使った検証もお受けしています。

判断フレームワーク:感度設定で解決するか、別方式を足すか

ここまでの原理を、自社の状況に当てはめるためのチェックリストにまとめます。上から順に確認し、Aが多ければ現行機の設定・運用で改善余地があり、Bが多ければ原理の外側なので別方式の追加を検討するという読み方をしてください。

A:金属検出機の設定・運用で解決できる可能性が高い

  • 見つかっている異物が鉄・ステンレス・アルミなど金属である
  • 製品登録(オート設定)を、現在のレシピ・原料・製品温度で取り直していない
  • テストピースをFeしか流していない、または開口部中央で確認していない
  • 単周波の機械で、鉄と非鉄の両方を1つの設定で狙っている
  • 誤検出が増えたとき、製品登録ではなく感度つまみを下げて対処してきた
  • 検出機を包装後にしか置いておらず、包装前に検査点を作る余地がある

B:原理の外側なので、別の検査方式を足す検討に進む

  • 見つかる異物が導電性を持たない(樹脂片、ガラス、ゴム、毛髪、骨、木片、虫など)
  • 金属だが、製品効果の位相と重なっていて感度を上げると誤検出が実用に耐えない
  • X線検査機も導入済みだが、低密度樹脂や毛髪のように密度差が小さい異物が抜けてくる
  • 異物が製品表面に露出しているのに、色や形が製品と似ていて目視でも拾えない
  • クレームの中身が「硬質異物」ではなく「本来入らないはずの別の素材」に寄っている

正直に書いておきたい、分光が向かないケース

ハイパースペクトルカメラは万能ではありません。分光は表面に届いた光の反射や透過を見る技術なので、不透明な包装の内側や、製品の深部に埋まった異物は原理的に見えません。すでに包装されたロットを全数検査したい、金属異物だけを高速ラインで確実に弾きたい、という要件であれば、金属検出機やX線検査機のほうが素直に適しています。金属検出機が最適な工程は、そのまま金属検出機で守るのが正解です。

分光が効くのは、金属検出機とX線が原理的に見落とす領域、つまり密度も導電率も製品と大差ないのに、組成が違う異物が表面に現れる工程です。原料の選別工程、包装前のベルト上、開口した状態での確認といった位置に検査点を置けるかどうかが、導入可否の実質的な分かれ目になります。判断に迷う場合は、ハイパースペクトルカメラの基礎と選び方をまとめた記事で、波長帯の選択や必要な検証項目を確認してみてください。

まとめ:原理が分かると、次に打つ手が決まる

金属検出機の原理は、交流磁界のバランス、渦電流による磁束の打ち消し、位相検波による製品効果のキャンセルという3つの要素に集約されます。この3つを押さえると、「ステンレスが弱いのは原理の話」「誤検出は製品が正しく反応している結果」「感度は増幅ではなく方向の選別」といった判断が自分でできるようになります。

そのうえで、原理の内側にある課題は設定と運用で詰め、原理の外側にある課題は別方式を足す。この線引きができれば、検査機への投資判断は驚くほど整理されます。異物混入対策の全体設計を見直したい場合は、異物混入を防ぐための現場マニュアルの考え方も併せてご覧ください。

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。まだ分からないことも多く、すべての異物に効くとは言えません。だからこそ、実際のサンプルで確かめることを大切にしています。検討の入口として、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。

よくある質問

金属検出機の原理を一言で説明すると何ですか?

送信コイルがつくる交流磁界を2つの受信コイルで均等に受け、その釣り合いが金属によって崩れたことを電気信号として捉える仕組みです。磁性金属は磁力線を引き寄せ、非磁性金属は内部に発生した渦電流が磁力線を打ち消すため、信号が逆方向に振れます。

なぜステンレスやアルミは検出しにくいのですか?

非磁性金属は磁界を乱す量が少ないためです。磁性体のように磁束を集めるのではなく、渦電流の反作用で磁束を打ち消す形でしか信号が出ないため、同じ大きさでも鉄より検出感度が下がります。これは設定の不備ではなく原理に由来する性質です。

製品効果とは何ですか?どうやって抑えるのですか?

食品自体が磁界に影響を与え、金属が入っていないのに反応してしまう現象です。影響度は導電率・大きさ・温度に左右され、水分や塩分の多い製品ほど大きくなります。抑える方法は位相検波で、製品が持つ電気的信号に対して反対の信号をあらかじめ設定し、反応を最小限にします。

テストピースはどのくらいの頻度で流せばよいですか?

厚生労働省が確認した業界団体の手引書では、異物検出機の作動確認を始業前・製造中・製造終了後に適切な頻度で行うとされ、記入例として始業前・製造終了後・2時間毎が示されています。異常が見つかった場合は、正常な作動が確認できている製品まで遡って再検査することが求められます。

金属検出機とハイパースペクトルカメラはどう使い分けますか?

金属検出機は導電性のある金属を、包装後でも高速に検査できます。一方ハイパースペクトルカメラは波長ごとの反射スペクトルから組成の違いを見るため、密度も導電率も製品と近い非金属異物が表面に現れる工程に向きます。ただし不透明な包装の内側や製品深部は原理的に見えないため、包装前や選別工程に検査点を置けるかが判断の分かれ目になります。

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