金属検出機を導入したのに異物クレームが止まらない——その原因は、運用の甘さではなく装置の原理にあるかもしれません。金属検出機で検出できない異物を7分類で整理したうえで、「金属なのに検出できない」製品効果(product effect)の壁と、次に検討すべき検査方式の選び分けまでを実務目線でまとめます。
結論から言うと、金属検出機は電磁誘導で金属の電気的・磁気的な性質だけを捉える装置のため、樹脂・ゴム・毛髪・木片・骨・ガラス・虫といった非金属異物は原理上まったく検出できません。しかも金属であっても、含水・高塩分の製品やアルミ蒸着包装では感度を落とさざるを得ず、拾える範囲はさらに狭まります。東京都保健医療局の集計では、令和6年度の食品衛生関係苦情4,597件のうち異物混入は505件(11.0%)で、その中身も虫や樹脂が上位を占めます(東京都保健医療局「食品の苦情統計」)。つまり金属検出機だけで異物クレームをゼロにするのは、構造的に無理があります。
金属検出機が「原理上」検出できない異物とは
まず押さえたいのは、金属検出機が何を見ているかです。装置内部では発振コイルが磁束をつくり、その中を金属が通過すると電磁誘導によって磁束が乱れます。この乱れを受信コイルの電圧差として拾うのが検出の仕組みです(ミネベアミツミ「金属検出機とは?」)。
言い換えると、金属検出機は「磁界を乱す性質」を持つ物質しか見ていないということです。形も色も密度も見ていません。したがって、磁性も導電性も持たない物質は、どれだけ大きくても、どれだけ危険でも、装置の前を素通りします。これは設定や感度調整で解決できる話ではなく、方式そのものの守備範囲の問題です。
検出できない異物の7分類
現場で実際に問題になる非金属異物を、性質ごとに整理すると次の7つに集約できます。
- 硬質樹脂・軟質樹脂(プラスチック片・ビニール片):器具の破損片、包材の切れ端、コンテナの欠け。絶縁体なので渦電流が発生せず、まったく反応しません。
- ゴム(Oリング、パッキン、輪ゴム):設備の消耗部品由来が多く、劣化に伴って混入します。樹脂と同じく非導電性です。
- 毛髪・体毛:質量が極小で、そもそも金属ではありません。苦情としては件数が多い一方、装置での検出は最も難しい部類です。
- 虫・寄生虫:有機物であり磁界に影響しません。苦情件数では最上位に来る異物です。
- 木片・紙・繊維:パレット、段ボール、清掃用具由来。金属検出機とは無関係の存在です。
- 骨・貝殻:畜産・水産原料由来の残骨。硬く危害度が高いにもかかわらず、金属検出機では拾えません。
- ガラス・石・砂:鉱物性異物。「硬質だから何かに引っかかるはず」と思われがちですが、導電性がないため金属検出機は無反応です。
この7分類は、そのまま「金属検出機を通した後に残っているリスク」のリストになります。自社のクレーム記録をこの7分類に当てはめてみると、装置の増設が必要なのか、それとも別方式が必要なのかが一気に見えやすくなります。
苦情データが示す「金属以外」の比率
感覚論ではなく数字で確認しておきます。東京都保健医療局の食品衛生実務講習会資料によれば、令和3年度の都内の食品衛生関係苦情3,620件のうち異物混入は561件(15.5%)で、その内訳は虫(ゴキブリ・ハエなど)31%=173件、合成樹脂類(ビニール・ゴムなど)17%=95件、動物性異物(毛・歯など)14%=80件、鉱物性異物(ガラス・石・金属など)12%=69件でした(東京都保健医療局「異物混入について」)。
注目すべきは、金属が単独の分類ではなく「鉱物性異物」12%の一部に過ぎない点です。ガラス・石と合算して12%ですから、純粋な金属異物の苦情はさらに少ないことになります。一方で虫と合成樹脂類だけで約半数を占めます。金属検出機は最終包装後の安全網として重要ですが、クレームの発生源という観点では、守備範囲の外側のほうが圧倒的に大きいのが実態です。
「金属検出機を入れたのにクレームが減らない」という感覚は、この統計と完全に整合します。装置が壊れているわけでも、担当者の運用が悪いわけでもなく、そもそも狙っている的が違うのです。
金属なのに検出できない——製品効果という第二の壁
非金属が検出できないのは想像がつきやすい話です。より厄介なのは、金属異物であっても検出感度を上げられないケースが現場に数多くあることです。これを製品効果(product effect)と呼びます。
金属検出機は「磁界の乱れ」を見ますが、乱れをつくるのは異物だけではありません。被検査品そのものが電気を通しやすい場合、製品が通過するだけで信号が出てしまいます。この製品由来の信号を誤検出しないよう打ち消す設定をすると、その分だけ異物への感度も犠牲になります。
水分・塩分・温度が感度を下げる
日新電子工業の技術解説では、被検査品が磁界に与える影響の大きさは水分・塩分(電気の流しやすさ)、温度、製品サイズによって変わり、高水分・高塩分ほど、また温度が高いほど影響が大きくなると説明されています(日新電子工業「金属検出機の原理」)。ミネベアミツミも、検出感度に影響する要因として「金属の種類」「被検査品の性質(水分量、塩分量など)」「周囲のノイズ環境」の3点を挙げています(ミネベアミツミ「金属検出機とは?」)。
実務で問題になりやすいのは、たれ・味噌・漬物・ハム・ソーセージ・惣菜・スープ類といった、含水率も塩分も高い製品です。さらに加熱直後の高温品をそのまま通すと影響が増すため、冷却工程の後にラインを組み替えるだけで感度が改善する場合もあります。「製品効果は製品仕様の問題であって、装置の性能不足ではない」という切り分けができると、無駄な買い替え検討を避けられます。
非磁性金属(ステンレス・アルミ)は感度が落ちる
同じ金属でも検出しやすさは同じではありません。磁性金属(鉄・ニッケル・コバルト)は直接磁界を乱すため感度が高く、非磁性金属(銀・銅・アルミニウム・SUS)は内部に発生した渦電流が二次的に磁界を乱すだけなので、磁界を乱す量が少なく検出感度が低下します(日新電子工業「金属検出機の原理」)。
食品工場で使われる器具や配管の多くはステンレス製です。つまり最も混入しやすい金属が、最も検出しにくい金属でもあるという逆転が起きています。テストピースをφ1.2mmの鉄で通して合格していても、同径のSUSでは反応しないことは珍しくありません。定期点検で鉄・SUS・非鉄の3種を必ず通し、それぞれの実力値を記録しておくのが実務の基本です。
アルミ蒸着包装・金属トレイという構造的制約
包装材そのものが金属を含むケースも避けて通れません。アルミ箔包材、アルミ蒸着フィルム、アルミトレイに入った製品は、包装材自体が大きな信号源になります。この場合、通常の金属検出機では実質的に運用できず、アルミ包装に対応した専用機や、そもそも別方式(X線検査)への切り替えが必要になります。
ここでの落とし穴は、包材の変更が品質保証部門に共有されないまま進むことです。コストダウンや賞味期限延長のために包材をアルミ蒸着へ変えた結果、金属検出機の感度設定を大幅に落とさざるを得なくなり、事実上の検査能力が下がっていた——という事態は起こり得ます。包材変更時は必ず検査工程への影響を確認する運用ルールにしておきたいところです。
現場で起こりやすい3つの運用上の落とし穴
- テストピースを製品の中央だけで通している:検出感度はトンネル内の位置によって変わります。中央・上下・左右端の複数点で確認しないと、実際の弱点が把握できません。
- 感度を下げた事実が記録に残っていない:製品効果で感度を落とした際、「なぜ落としたか」「どこまで落としたか」が残っていないと、次のロットで妥当性を検証できません。
- 金属検出機の合格=異物なしと解釈している:合格が保証するのは「一定サイズ以上の金属が検出されなかった」ことだけです。この前提をHACCPの危害要因分析の記述と揃えておく必要があります(厚生労働省「HACCP(ハサップ)」)。
私たちInvisible World(Milk.株式会社の事業)は、国産・自社開発のハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、そもそも「光で素材を見分ける」とはどういうことなのか、技術の全体像だけでも先に知っておいていただけると、この先の選択肢の話が読みやすくなるはずです。
異物の種類別・検査方式の検出可否マトリクス
金属検出機の限界がわかったところで、では何なら拾えるのかを一覧にします。◎=得意、○=条件次第で可能、△=難しいが不可能ではない、×=原理上ほぼ不可、という区分です。
異物の種類 | 金属検出機 | X線検査 | カラー画像(RGB) | 近赤外・ハイパースペクトル | 目視 |
|---|---|---|---|---|---|
鉄・磁性金属 | ◎ | ◎ | △ | △ | △ |
ステンレス・アルミ等の非磁性金属 | ○ | ◎ | △ | △ | △ |
ガラス片 | × | ○(種類による) | △ | △ | △ |
石・砂 | × | ◎ | ○ | ○ | △ |
骨・貝殻 | × | ○ | △ | ○ | △ |
硬質樹脂(プラスチック片) | × | △ | ○(色が違えば) | ◎ | △ |
軟質樹脂・ビニール片 | × | × | △ | ○ | △ |
ゴム(黒色パッキン等) | × | △ | △(黒物は困難) | ○ | △ |
毛髪・体毛 | × | × | △(同系色は困難) | △ | ○ |
虫 | × | × | ○(色が違えば) | ○ | ○ |
木片・紙・繊維 | × | △ | ○ | ○ | ○ |
この表から読み取ってほしいのは、「×」の並び方が方式ごとにまったく違うということです。金属検出機とX線はどちらも密度・電磁的性質という物理量を見ているため、毛髪や軟質樹脂という同じ場所で揃って×になります。だから金属検出機の次にX線を足しても、低密度・同系色の異物は救えません。ここが多くの工場でつまずく分岐点です。
なお、X線側の詳しい得意・不得意と、X線を補完する4方式の比較はX線で映らない異物の検出方法を4方式で比較した記事にまとめてあります。本記事では重複を避け、金属検出機を起点とした整理に絞ります。個別の異物については、毛髪の異物検出がなぜ難しいのかを解説した記事と透明なプラスチック片の検出手法を比較した記事も参考になるはずです。
金属検出機の次の一手を決める4ステップ
装置カタログを比べる前にやるべきことがあります。順番を守るだけで、投資判断の精度は大きく変わります。
ステップ1:実際に出た異物を10件、現物ベースで記録する
最初にやるのは統計の確認ではなく、自社の現物確認です。直近1年のクレーム・自主回収・工程内発見のうち、異物が特定できたものを10件でよいので、素材・サイズ・色・混入推定工程まで記録します。ここで「金属が何件だったか」を数えると、追加投資すべき方向がほぼ決まります。金属が1〜2件しかないのに金属検出機を増設しても、クレームは減りません。
ステップ2:残った異物を「密度差・色差・スペクトル差」のどれで拾えるか分類する
非金属異物が残ったら、次はどの物理量なら見分けられるかを考えます。食品と密度が大きく違うならX線、色が明確に違うならカラー画像検査、どちらも似ているが素材が違うなら分光(近赤外・ハイパースペクトル)が候補になります。白い麺に白い樹脂片、黒い海藻に黒いゴム片のように密度も色も近い組み合わせが、最後に残る難所です。
ステップ3:工程のどこに置くかを先に決める
方式が決まっても、設置場所を後回しにすると失敗します。包装後なのか、包装前のバラの状態なのかで、使える方式は変わります。分光や画像は基本的に表面しか見えないため、包装後の袋越し・箱越しでは使えません。逆にX線・金属検出機は包装後に置けるのが強みです。原料受入・仕込み・充填前・包装後のどこにリスクが集中しているかを先に決めてください。
ステップ4:自社の現物サンプルで撮って確かめる
最後は必ず現物での検証です。カタログの検出事例は自社の製品ではありません。実際の食品と、実際に混入した異物(または同素材の代替品)を用意して撮影・測定し、分離できるかを確認します。ライン速度・製品の並び方・照明条件まで含めて再現できると、導入後のギャップが小さくなります。導入時に起こりがちな見落としはハイパースペクトルカメラ導入の落とし穴をまとめた記事にも整理しています。
選択肢の1つとしての分光——できることと、できないこと
密度でも色でも見分けられない異物に対して、近年検討されることが増えているのが分光(スペクトル)を使う方式です。物質は波長ごとに光の吸収・反射のしかたが異なるため、その差を利用して素材を見分けます。近赤外領域は水・油脂・糖・タンパク質などの分子振動に由来する吸収を捉えられるため、非破壊での成分評価や識別に用いられています(浜松ホトニクス「近赤外線を用いた非破壊検査」)。
ハイパースペクトルカメラ(HSI)は、RGBの3チャンネルではなく、1画素ごとに数十〜数百の波長の情報を取得する装置です。カメラの1ピクセルごとに分光データを測定でき、食品と混入物では成分が異なることが多いため異物検出にも使えると説明されています(ケイエルブイ「ハイパースペクトルカメラの食品分析」)。分光分析による食品の非破壊評価は学術分野でも継続的に研究されている領域です(日本食品工学会誌「分光分析による食品の非破壊評価に関する研究」)。仕組みそのものについては、ハイパースペクトルカメラとは何か・マルチスペクトルとの違いを先に読んでいただくのが早いと思います。
正直に書いておきたい3つの限界
分光も万能ではありません。導入検討の前提として、次の3点は必ず押さえてください。
- 食品と異物のスペクトル差が前提:素材が違えば必ず見分けられる、というものではありません。同系統の高分子どうしなど、スペクトルが近い組み合わせでは分離が難しくなります。事前の撮影検証が必須なのはこのためです。
- ライン速度に制約がある:画素ごとに多波長のデータを取るため情報量が大きく、高速ラインでは処理能力とデータ転送がボトルネックになり得ます。全数検査に載せるのか、抜き取りや特定工程に絞るのかを設計段階で決める必要があります。
- 表面しか見えない/コストがかかる:包装後の内部や食品の深部は見えません。またX線や金属検出機ほど普及していないぶん、初期費用と立ち上げ工数は相応にかかります。
だからこそ分光はX線や金属検出機を置き換えるものではなく、補完する位置づけだと考えています。金属は金属検出機、高密度の硬質異物はX線、密度も色も近い非金属は分光——という役割分担が、現実的な組み立て方です。装置の仕様は国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」の製品ページにまとめています。
まとめ:まず「何が出ているか」から逆算する
金属検出機で検出できない異物は、樹脂・ゴム・毛髪・虫・木片・骨・ガラスの7分類。加えて、金属であっても含水・高塩分・高温の製品やアルミ蒸着包装では感度を落とさざるを得ない——これが装置の実力の全体像です。苦情統計を見ても、金属を含む鉱物性異物は異物混入苦情の12%にとどまります(東京都保健医療局「異物混入について」)。
次の一手は、カタログではなく自社の異物記録から決めてください。10件の現物を並べ、密度差・色差・スペクトル差のどれで拾えるかを分類し、設置工程を決め、最後に現物で撮って確かめる。この順番を守るだけで、投資の無駄はかなり減らせます。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。もし「金属検出機もX線も通しているのに、この異物だけが残る」という状態でお困りでしたら、まずは資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。自社の異物が分光で見分けられそうかどうかの相談も歓迎です。




