きゅうり選果機を選ぶときに迷いやすいのが、「長さ・重さは機械で測れても、曲がりや色・ツヤの等級は人が見ている」という境目です。本記事では、きゅうりの等級判定(曲がり・太さ・長さ・色)を自動化する4つの方式を比較し、既存の選果機の限界と、画像・分光で補える範囲、導入前の確かめ方までを整理します。
結論から書きます。きゅうりの選果で機械化しやすいのは重さと長さによる階級分けで、カメラ(画像処理)を足すと曲がりと太さの判定まで自動化できます。一方、色ムラやツヤ、表面に出にくい傷みは、カラーカメラでも判定が揺れやすい領域です。落としたい不良が「見えている」のか「見えにくい」のかを先に切り分けると、比較すべき装置が半分に絞れます。
きゅうりの等級は何で決まるか:出荷規格の3つの軸
きゅうりの出荷規格は全国一律ではなく、県やJAの出荷規格書ごとに決まっています。ただし、どの規格もおおむね「階級(長さ・重さ)」「等級(曲がり・形・色)」「品質条件(傷・病害・鮮度)」の3軸で組み立てられています。
階級は長さと重さで分ける
たとえば新潟県の出荷規格では、Mは長さ23〜25cm・120〜140g、Sは21〜23cm・100〜120g、2Sは19〜21cm・80〜100gという区分が示されています(新潟県の園芸作物出荷規格)。長さと重さはセンサーと秤で測れるため、選果の中でもっとも機械化が進んでいる部分です。
等級は曲がりの程度で分けることが多い
等級の中心になるのが曲がりです。同じ新潟県の規格では、A品は曲がりの程度が2cm以内、B品は4cm以内とされています。一方、岩手県の規格ではA品が2.0cm以内、B品が2.5cm以内と、B品の許容幅が異なります(岩手県の野菜出荷規格)。つまり選果機の曲がり判定は、産地の規格値に合わせて設定を変えられることが前提になります。
品質条件は「形状・色沢」と傷・病害
規格書には「品種固有の形状を有し、色沢良好なもの」といった品質条件も並びます。ここは数値ではなく見た目の判断で、尻太り・尻細りといった形の崩れ、色の薄さ、ツヤの無さ、擦れ傷などを人が見て分けてきた部分です。選果の人手が減らない理由は、多くの場合この「数値化されていない判断」に残っています。
きゅうりの等級判定を自動化する4つの方式
きゅうりの選果を機械化する方法を、秤だけの構成から分光による品質評価まで4つに整理します。品目専用の公開価格はほとんど無いため、金額は相対的な規模感で示します。
方式 | 自動化できること | 苦手なこと | 費用感 | 向いている規模 |
|---|---|---|---|---|
重量選別機(秤式) | 重さによる階級の仕分け | 曲がり・形・色の等級。等級分けは人が行う | 小 | 個人農家〜小規模出荷 |
長さ・太さを測るセンサー式 | 長さ・太さの計測と、それに基づく階級分け | 曲がりの細かな判定、色・ツヤ | 小〜中 | 家族経営〜中規模 |
カラーカメラ(RGB)による画像判定 | 曲がり・太さ・長さ・尻太りなどの形、目に見える色の差 | 表面に出にくい傷み・低温障害、照明条件による色の揺れ | 中 | 等級のばらつきを減らしたい産地・共同選果場 |
近赤外・ハイパースペクトルによる品質評価 | 色に出にくい傷み・内部の状態の探索、色ムラの定量化 | そのままの構成で高速ラインに載せること。品種・時期ごとの再学習 | 中〜大(検証段階は貸出・受託で抑えられる) | 品質で差別化したい産地・研究機関 |
用語を補足します。近赤外(NIR)は人の目に見えない約700nmより長い波長の光で、果実の水分や組織の状態によって吸収・散乱が変わります。ハイパースペクトルカメラの仕組みは、光を数十〜数百の波長に分けて撮影することで「どの波長に差が出るか」を探せる点にあります。青果全般の選果方式の位置づけは、選果機の自動化5方式の比較で外部品質・内部品質の軸から整理しています。
曲がり判定はカメラで自動化しやすい
曲がりは「果実の両端を結んだ線から、どれだけ離れているか」という幾何の量なので、真上や側面から撮った画像の輪郭から計算しやすい項目です。きゅうりの等級判別を画像と深層学習で行う研究も複数発表されており、農協の等級情報に合わせた学習で判定精度を上げる取り組みが報告されています。現場では、果実の向きと置き方を揃えられるかどうかが、判定の安定性を大きく左右します。
色・ツヤ・傷みは「照明」と「波長」の問題になる
色の薄さやツヤの判定がカラーカメラで揺れやすいのは、きゅうりの表面が光を反射しやすく、照明の当たり方で見え方が変わるためです。さらに、低温障害の初期のように肉眼では目立たない変化は、RGBの3色ではそもそも差が出ないことがあります。海外の研究では、ハイパースペクトル画像を使ってきゅうりの低温障害を検出した報告(Kim ほか, SPIE 2004)や、ピクルス用きゅうりの内部欠陥を透過光の近赤外域で検出した報告(Ariana・Lu, 2008)があります。ただしこれらは研究条件での結果で、生食用きゅうりの選果ラインでそのまま同じ精度が出るとは限りません。
既存の選果機で足りるかを決める判定チャート
きゅうり選果機の検討は、次の4つの問いに順番に答えると、比較すべき方式が自然に絞れます。
問い | 「はい」の場合 | 「いいえ」の場合 |
|---|---|---|
1. 減らしたいのは「重さ・長さの仕分け」の時間か | 重量選別機・センサー式から始める。もっとも費用が小さい | 問い2へ |
2. 人が見ているのは主に「曲がり・太さ・形」か | カラーカメラによる画像判定で自動化できる可能性が高い。規格値の設定変更ができるかを確認 | 問い3へ |
3. 等級を分けたい不良は「目に見える色」に出ているか | 照明を整えたカラーカメラで足りる可能性がある。現物で判定の揺れを確認 | 問い4へ |
4. 色に出る前の傷み・低温障害・鮮度の差で分けたいか | 分光(近赤外・ハイパースペクトル)で差が見えるかを現物サンプルで確かめる | 無理に機械化せず、選別基準と作業手順の見直しを優先する |
実務で多いのは、問い3と問い4の境目で迷うケースです。出荷時は問題なく見えたのに、市場や店頭で色の悪さやしなびが目立つ、という悩みは、選果の時点で何を見ればよいかが分かっていないことが原因になりがちです。ここは装置を買う前に、正常果と問題が出た果実を並べて撮影し、波長ごとに差が出るかを見るのがもっとも確実です。
導入費用の考え方と見積の比べ方
きゅうり選果機は、処理能力・レーン数・判定方式・搬送部の構成で金額が大きく変わり、個別見積になるのが通常です。見積を比べるときは、金額より先に次の範囲を揃えてください。
- 本体の範囲:秤・センサー・カメラ・搬送部・箱詰め部のどこまでが含まれるか
- 規格値の設定:産地の曲がり・階級の規格に合わせた設定を、誰がどこまで行うか。規格改定時に変更できるか
- 判定の作り込み:画像判定の基準づくり(学習用の果実の準備を含む)の費用と期間
- 設置・電源工事:作業場の改修や電源の増設が別途か
- 保守:年間保守に部品交換・判定基準の更新が含まれるか
選果機全般の価格が何で決まるかは光センサー選果機の価格を決める7要因、見積の分解の仕方は選果機の価格を6要素に分解した記事で詳しく扱っています。中古機を検討している場合は選果機を中古で買う前の確認項目も参考になります。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、きゅうりの色や傷みの判定がどうしても人の目に残ってしまうとお悩みでしたら、製品の考え方だけでもご覧いただけたら嬉しいです。
きゅうり選果機の導入に使える補助金
選果・調製の機械化には、国の補助制度が使える場合があります。農業者・産地向けの制度と、選果・出荷を事業として行う法人向けの制度では、窓口も対象者も異なります。
制度 | きゅうり選果機との関係 |
|---|---|
産地生産基盤パワーアップ事業(農林水産省) | 産地として収益力強化に取り組む場合の、共同利用の選果施設・機械の整備 |
中小企業省力化投資補助金(一般型) | 選果・出荷を事業として行う法人の、人手不足解消のための省力化設備。2026年は第8回公募が10月16日に締め切られており、次回以降の日程は公式発表で確認が必要です(中小企業基盤整備機構 J-Net21 の案内) |
農業向けの補助制度の全体像はスマート農業の補助金2026の記事でまとめています。制度は年度ごとに要件と公募時期が変わるため、公募時期・要件は必ず公式サイトで最新情報を確認してください。採択されるかどうかや補助額は、事業計画と審査によって決まります。
irodori を使った検証や導入が補助金の対象になり得るか、どの制度から当たるのがよいか判断がつかない場合は、まずはお気軽にご相談ください。
導入前に確かめること、そして向かないケース
ステップ1:規格書の「人が見ている項目」を書き出す
産地の出荷規格書を開き、階級・等級・品質条件のうち、いま人が目で判断している項目を書き出します。曲がりと太さだけなら画像判定、色・ツヤ・傷みまで含むなら照明や波長の検討が要る、というように、ここで必要な方式の範囲が決まります。
ステップ2:正常果と不良果を同じ条件で撮る
カタログの対応品目ではなく、ご自身の品種・作型・不良で確かめてください。落としたい不良の果実と正常果を同じ条件で撮影し、差が出るかを見ます。分光での確認はハイパースペクトルカメラのデモ・試験撮影の形で小さく始められます。他の品目で同じ検討をした例として、いちご選果機の選び方も参考になります。
ハイパースペクトルカメラが向かないケース
正直に書きます。ハイパースペクトルは万能ではありません。第一に、重さ・長さ・曲がりだけで等級を分けているなら、秤とカラーカメラの方が速く安く確実です。第二に、苦味や食感のように光の吸収と直接結びつかない項目は、測れるとは限りません。第三に、データ量が大きいため、検証用の構成をそのまま選果ラインに載せることはできず、有効な波長を絞った構成への移行が前提になります。これらに当てはまるなら、別の方式を選ぶほうが合理的です。
まとめ:規格の「数値化されていない判断」を先に特定する
- きゅうりの等級は「階級(長さ・重さ)」「等級(曲がり)」「品質条件(形状・色沢・傷)」の3軸で決まる
- 曲がりの許容値は県・JAの規格で異なるため、選果機は規格値を設定変更できることが前提
- 重さ・長さはセンサー、曲がり・太さはカメラで自動化しやすい
- 色・ツヤ・色に出る前の傷みは、装置を買う前に分光で差が見えるかを小さく確かめる
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(取り組みは実績一覧でご覧いただけます)。きゅうりの色や傷みの差が光で見えるのか、現物での試験撮影からご一緒できます。まずは検証の進め方をまとめた資料をご覧いただけたら嬉しいです。




