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りんご選果機の選び方|蜜入り・内部褐変を測る5方式比較【2026】

りんご選果機は、糖度だけを見て選ぶと現場で足りなくなります。産地が本当に悩むのは「蜜入り」と「内部褐変」をどこまで機械に任せられるか。非破壊5方式の測れる範囲を整理し、既存の光センサーで足りるか分光が要るかを判断できる状態を目指します。

結論から言えば、りんご選果機の選定は「蜜入りを格付けに使うか」「貯蔵後の内部褐変を出荷前に弾きたいか」の2問で大きく分岐します。糖度と大きさ・外観だけなら、すでに全国の選果場に入っている近赤外(NIR)透過方式の光センサー選果機で足ります。一方で、蜜入りの等級化や貯蔵中に進む内部障害の予測となると、単波長や数波長の機器では届かない領域が残ります。りんごは令和6年産で収穫量60万9,200t・出荷量55万4,900t、青森県61%・長野県17%・岩手県6%の3県で約8割を占める作目です(農林水産省 令和6年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量)。産地が集中しているぶん、選果場単位の判断がそのまま産地全体の品質評価に効いてきます。

青果全般の自動化の地図を先に押さえたい方は、外部品質と内部品質で選び方が変わる青果の選別方式の整理から読むと、この記事の位置づけがつかみやすくなります。

りんご選果で本当に問われるのは糖度ではなく「蜜入り」と「内部褐変」

りんごの選果は、外観・重量・糖度という基本3層については他品目と同じ考え方で組めます。カラーカメラで着色とサイズと傷を見て、重量選別で階級を切り、NIR透過で糖度を推定する。この構成は成熟した技術で、みかんなど他の果実でもほぼ同じです(参考: みかんで5方式を比較したときの整理)。

りんご固有の難しさは、その先の2つに集中しています。ひとつは「蜜入り」、もうひとつは「内部褐変(蜜褐変・ミツ症の劣化)」です。この2つは物理的には近い現象でありながら、選果場にとっての意味は正反対です。

蜜入りは「加点」――水浸状組織が光の通り方を変える

蜜入りは、果肉の細胞間隙が水溶液で満たされた水浸状組織です。細胞と空気の界面が減るため光の散乱が弱まり、果実を通り抜ける光の量とスペクトルの形が健全果と変わります。この差を可視-近赤外の全透過分光で捉える研究は蓄積があり、2つの特徴波長を使ったLS-SVMモデルで蜜入り果96.87%・健全果100%の判別率が報告された例があります(Foods 10(12), 2983, 2021)。

ただし論文の精度がそのままラインの精度になるわけではありません。実験室は姿勢も温度も制御されていますが、選果ラインでは果実が転がり、果柄の向きも果温もばらつきます。「原理的に測れる」と「毎時数千個の流れの中で安定して測れる」の間には、まだ距離があると考えたほうが安全です。

内部褐変は「減点」――いま無いものを予測する話になる

内部褐変は、蜜入りが過剰に進んだ果実などが貯蔵中に劣化し、果肉が褐色に変わる障害です。厄介なのは、選果の時点ではまだ発生していないことが多い点です。出荷時に健全でも、流通・貯蔵を経て店頭や消費者の手元で発生すれば、産地の評価に直結します。

この「まだ無いもの」を予測する研究として、農研機構はリンゴ「ふじ」576個を対象に、選果機で取得した可視-近赤外分光スペクトルから1か月後の内部褐変発生の有無を判別する手法を検討し、アンサンブル学習がPLS判別分析より感度が高く誤判別率が低いことを示しています(農研機構 非破壊でリンゴの内部褐変発生を予測する技術)。既存の選果機で取れているスペクトルを、解析側で活かす方向の話である点が重要です。

非破壊5方式で、りんごの何が測れて何が測れないか

測定項目ごとに、方式の得手不得手を整理します。◎=実用的に測れる、○=条件付きで測れる、△=研究段階または限定的、×=原理的に不向き、として読んでください。

測定項目

近赤外(NIR)透過分光

X線・CT

可視カメラ+AI

超音波・打音

ハイパースペクトル

糖度

◎ 実用済み・選果機の標準機能

×

× 着色から間接推定は不安定

×

○ 面で測れるが単波長機で足りることが多い

蜜入り(水浸状組織)

○ 有無の判別は実用域、等級化は機器依存

○ 密度差として写るが装置コストが重い

×

△ 硬度・空隙の指標として研究例あり

○ 部位ごとの分布まで見える

内部褐変・蜜褐変

△ 発生後の検出は可、発生予測は解析次第

○ 進行した褐変は写る

×

○ 波長選択の探索に向く

打撲・すり傷

× 点計測では位置を外す

○ 発色後の傷は得意、直後の内出血は苦手

×

◎ 水の吸収帯を使った早期検出の研究が進む

腐敗・カビ

△ 当たった箇所しか見ない

○ 空洞化すれば写る

○ 表面に出ていれば可

×

○ 表面〜近表層の変質に感度

異物(金属・石など)

×

◎ 最も確実

△ 表面のみ

×

△ 材質によっては可

表で「ハイパースペクトルが強い」のは、打撲と、波長がまだ決まっていない項目です。打撲直後の見えない内出血についても、996〜2501nmの273バンドから打撲に感度の高い18波長を選び出し、次元を93.4%削減したうえで判別する手法が報告されています(Foods 15(11), 1884, 2026)。裏を返せば、糖度のように「使う波長がすでに確立している項目」では、ハイパースペクトルはオーバースペックです。

糖度そのものの測り方をもう少し掘りたい方は、果物の糖度を非破壊で測る手法ごとの精度と限界を併せてご覧ください。

判定フレームワーク:既存の光センサー選果機で足りるか、分光が要るか

新しい方式を検討する前に、次の順で確認すると無駄な投資を避けられます。上から順に「はい」で止まったところが、いま必要な構成です。

  1. 格付けに使う項目は、糖度・サイズ・外観の3つで足りるか。足りるなら、既存のNIR透過方式の光センサー選果機で完結します。新方式は不要です。
  2. 蜜入りを等級として明示したいか。したい場合は、まず現有機のメーカーに「蜜入り判定オプションの有無と実測精度」を確認します。既存機の拡張で済むケースが少なくありません。
  3. 貯蔵後の内部褐変を出荷前に落としたいか。この段階では、機器の入れ替えより「既存機が吐いているスペクトル生データを取り出せるか」が先に効きます。解析の余地はデータの粒度で決まります。
  4. 測りたい項目の波長がまだ決まっていないか。傷や褐変の「どこに出るか」を面で押さえたいか。ここまで来て初めて、ハイパースペクトルによる事前検討が選択肢に入ります。

4番目に該当する場合でも、いきなりライン全体を組み替える必要はありません。実務的には「まずオフラインで自産地の果実を撮り、有効な波長が存在するかを確かめる」段階を挟むのが安全です。有効波長が見つかれば、本番のラインは数波長のマルチスペクトル機で安く速く組めることもあります。ハイパースペクトルは本番機ではなく、仕様を決めるための道具として使うほうが費用対効果が合う場面が多いのが実情です。

私たちは国産・自社開発のハイパースペクトルカメラ irodori を提供していますが、上の4段階のうち3番目までで解決する産地も多いと考えています。自産地の果実で有効波長があるかどうかを先に確かめたい場合に、検討材料としてご覧ください。

撮影条件の決め方や、実機を借りて試すときに事前に詰めておく項目は、デモ依頼の前に決めておく6項目にまとめています。技術の全体像から確認したい方は、ハイパースペクトルカメラの仕組みと使いどころを通しで解説した記事が入口になります。

選定前に必ず確認する5項目

方式が決まっても、ここを詰めずに見積を取ると後で条件が変わります。

1. 処理能力(個/時)と、それが本当に必要か

カタログの処理能力はライン全体の設計値です。分光測定は1果あたりの露光時間が必要なため、能力を上げるほど1果に割ける光の量と時間が減り、精度は落ちる方向に働きます。ピーク日の入荷量から必要能力を逆算し、「精度を落としてでも速度が要るライン」と「速度を落としてでも精度が要るライン」を分けて考えるのが現実的です。

2. 既存ライン改修の要否

センサーユニットの追加だけで済むのか、コンベアの搬送ピッチや果実の姿勢制御まで触るのかで、工事規模が一桁変わります。透過測定では果実を保持するカップの遮光性も効きます。既設メーカーと別系統の機器を足す場合は、制御信号の受け渡しと排出機構の割り込みが論点になります。

3. キャリブレーションと品種差・産地差

検量線は品種・産地・作期ごとに作り直しが必要になるのが通常です。「ふじ」で作ったモデルが「王林」や「シナノゴールド」にそのまま乗る保証はありません。導入時に確認すべきは装置の精度ではなく、「自産地・自品種のサンプルで検量線を作り直す手順と、その年次コストを誰が持つか」です。ここが曖昧なまま導入すると、2年目以降に精度が合わなくなります。

4. 年次メンテナンスと光源の劣化

ハロゲン光源は使用時間とともに出力とスペクトルが変わります。基準板による日常補正の運用、光源交換の周期と費用、選果期中に故障した場合の代替手段まで、契約前に文書で確認しておくと安全です。

5. 出力データの扱い

等級判定の結果だけでなく、生のスペクトルを蓄積できるかを確認してください。前述の内部褐変予測のように、後年の解析で価値が出るのは判定結果ではなく生データのほうです。仕様書に「スペクトルデータのエクスポート可否と形式」を明記して依頼することをおすすめします。

使える補助金・助成金(2026年度の公募状況)

選果機は単価が大きいため、補助事業の活用が前提になる産地が多いはずです。2026年(令和8年)度に確認できた主な制度を挙げます。採択の可否や受給額は事業内容と審査によるため、ここでは制度の枠組みと公募実績のみを記します。

  • 強い農業づくり総合支援交付金:令和8年度は食料システム構築支援タイプ(全国の取組)の公募が実施され、2回目は令和8年4月14日〜4月28日午後5時が受付期間でした(農林水産省 公募ページ)。産地基幹施設等支援タイプなど、選果施設に近い区分は都道府県経由の手続になります。
  • 産地生産基盤パワーアップ事業:収益性向上対策・生産基盤強化対策は都道府県の要望調査を通じて動く仕組みです。まず県の担当課に当年度の要望調査の時期を確認するのが早道です(農林水産省 産地生産基盤パワーアップ事業関係情報)。
  • 果樹農業生産力増強総合対策:令和8年度は果樹労働生産性向上等対策事業等の公募が令和8年2月13日〜3月4日午後5時で行われました(農林水産省 公募ページ)。りんごを含む果樹産地向けの制度です。
  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金:従来のものづくり補助金等が再編された制度で、第1回公募は令和8年6月29日に開始し、応募締切は令和8年10月30日(金)18時とされています(中小企業基盤整備機構 公募スケジュール中小企業庁 第1回公募要領の公開)。法人格や事業内容の要件があるため、農協・生産法人のどの主体で申請するかを先に整理してください。

公募時期・要件は年度途中でも変わります。必ず公式サイトで最新情報を確認してください。また、機器単体ではなく「産地としてどの課題をどう解決するか」の計画が審査の中心になるため、機器選定と計画づくりは並行して進めるのが現実的です。

私たちは補助金申請の代行はできませんが、機器の仕様や実証データの面ではお手伝いできることがあります。irodori の導入が補助金の対象になり得るか、まずはお気軽にご相談ください。

私たちの立ち位置

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。そのなかで繰り返し確かめてきたのは、分光が万能ではないということです。糖度のように波長が確立している項目では既存の選果機のほうが速く安く、分光の出番は「まだ何を見ればいいか分かっていない項目」に絞られます。

りんごの選果においても、多くの産地はまず既存機の拡張と運用の見直しで前進できると考えています。そのうえで蜜入りの等級化や内部障害の予測に踏み込むなら、自産地の果実で有効波長を探す工程が要ります。これまでの取り組みは/achievements/にまとめていますので、判断の材料としてお使いください。

よくある質問

りんごの蜜入りは非破壊で本当に判定できますか?

有無の判別は実用域にあります。可視-近赤外の全透過分光で2つの特徴波長を用いたモデルが蜜入り果96.87%・健全果100%の判別率を示した研究例があります。ただし実験室条件での結果であり、選果ラインでは果実の姿勢・果温・搬送速度のばらつきが精度に影響します。等級化まで求める場合は、自産地の果実での実測が必要です。

内部褐変は選果の時点で見つけられますか?

すでに発生している褐変は検出できますが、選果時点ではまだ発生していないことが多いのが実情です。農研機構は選果機で得た可視-近赤外スペクトルから1か月後の内部褐変発生を予測する手法を検討しており、既存機のスペクトルを解析側で活かす方向が現実的です。

既存の光センサー選果機を入れ替える必要がありますか?

多くの場合は不要です。格付けが糖度・サイズ・外観で足りるなら既存機で完結します。まず現有機のオプション対応と、生スペクトルデータを取り出せるかを確認してください。入れ替えの検討は、それでも足りないと分かってからで間に合います。

ハイパースペクトルカメラは選果ラインに載せるものですか?

必ずしもそうではありません。データ量と処理時間の制約があるため、本番ラインには有効波長だけを使う数波長のマルチスペクトル機を載せ、ハイパースペクトルはその波長を見つけるための事前検討に使う、という分担が費用対効果に合う場面が多くあります。

検量線は品種ごとに作り直しが必要ですか?

通常は必要です。品種・産地・作期が変わればスペクトルと品質値の関係も変わります。導入時は装置精度よりも、自産地・自品種で検量線を作り直す手順と年次コストの負担者を契約前に決めておくことが重要です。

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