みかんの選果機は、価格より先に「何をどこまで測れるか」で絞り込むと迷いません。外観・重量・糖度・内部欠陥という4つの層のうち、自分の産地がどこまでを機械に任せるべきか。5方式の比較と判定チャートで見極められる状態を目指します。
結論から言えば、みかんの選果機選びは「非破壊で測りたい項目」を先に確定させる作業です。外観と大きさだけならカラーカメラと重量選別で足り、食味で格付けするなら近赤外(NIR)の透過測定が要ります。糖度については、近赤外透過法でウンシュウミカンの糖度を非破壊測定した研究で、検量線評価時の誤差(SEP)が0.32°Brixと報告されています(園芸学会雑誌 62(2), 1993)。つまり食味の判定は30年以上前から実用域にあり、いま産地が悩んでいるのはその先――浮皮や腐敗果といった「内部と表皮の異常をどこまで自動で弾けるか」のほうです。
なお、本記事は費用の話には踏み込みません。仕様と見積もりの関係を知りたい方はみかん選果機の価格が何で決まるかを整理した記事を先にご覧ください。この記事が扱うのは、その手前にある「そもそも自分の選果場に何が必要か」の選定です。
みかんの選果が他品目と同じにならない4つの事情
選果機の比較記事は数多くありますが、そのまま柑橘に当てはめると外します。みかんには、りんごやトマトの選別では前提にならない固有の事情が4つあるためです。ここを押さえておくと、後の方式比較で「どの列を重く見るか」が決まります。
浮皮:表面からは見えにくく、腐敗と加工仕向けに直結する
浮皮(うきかわ)は果皮と果肉が大きく分離した状態を指します。農研機構は、浮皮が起きると食味の低下や腐敗が増加するだけでなく、著しい場合は加工用仕向けとなり収益性が顕著に低下すると説明しています。温度が高いと発生しやすく、貯蔵中の発生が多いことも指摘されています(農研機構 研究成果情報)。厄介なのは、浮皮が「見た目の傷」ではなく果皮と果肉の間に空隙ができる構造の変化である点です。カラーカメラの外観選別では原理的に捉えにくく、触って初めて分かる――だからこそ人手の検品が残りやすい項目でもあります。
腐敗果・す上がり:ラインを止めずに内部を見る必要がある
腐敗果は1個の混入で箱全体の評価を落とすため、産地が最も神経を使う項目です。柑橘については、果皮に含まれる蛍光物質に着目し、励起光を当てて腐敗果を画像で検出する研究が報告されています(レーザー研究 39(4), 2011)。可視光では見えない情報を、別の波長で見にいくという発想です。す上がり(果肉の水分やじょうのう膜の変化)も同様で、外から見える情報だけでは判断が難しく、内部を透かして見る手段が要ります。
階級と等級という二重の格付け
柑橘の選果は、サイズ(2S〜3Lなどの階級)と品質(秀・優・良などの等級)を掛け合わせて仕分けます。仕向け先も、贈答・量販・加工と分かれます。ここが重要で、選果機に求められる仕分け口の数は「階級数×等級数」で効いてきます。測定できる項目が増えても、それを受け止める搬出口が足りなければ格付けは細かくできません。方式を比較する前に、自産地の規格表で階級と等級の組み合わせが何通りあるかを数えておくと、話が早く進みます。
収穫量が年で大きく振れる
農林水産省の作物統計調査によれば、令和7年産みかんの収穫量は65万6,300トンで、前年産に比べ17%増加しました。秋の降雨により肥大が進み、高温で作柄が悪かった前年産を上回ったためと説明されています(農林水産省「令和7年産みかんの栽培面積、結果樹面積、収穫量及び出荷量」)。また収穫時期別では早生温州が約6割を占めます。つまりピーク時の処理能力は平年ベースで設計すると足りなくなる年があるということです。共同選果場では、この年変動と早生への集中がそのままライン設計の制約になります。
みかんの非破壊測定に使われる5方式を比較する
ここからが本題です。柑橘の選果で実際に使われている、あるいは検討対象になる非破壊測定の方式を、測れる項目/向く対象/向かない条件の3点で並べます。ライン速度については、方式ごとに「1個あたりに必要な露光・演算の時間」が違うという考え方だけを示しました。具体的な処理能力は装置構成と搬送方式で決まるため、数値の断定は避けています。
方式 | 主に測れる項目 | 向く対象 | 向かない条件・限界 | ライン速度の考え方 |
|---|---|---|---|---|
近赤外(NIR)透過 | 糖度、酸度、内部の空隙・異常の一部 | 食味で格付けしたい産地。浮皮・す上がりの手がかりが欲しい場合 | 果実を光が透過する必要があり、大玉や果皮の厚い柑橘では信号が弱くなる。強い光源と遮光が要る | 1個ずつ透過光を積算するため、露光時間の確保がボトルネックになりやすい |
近赤外(NIR)反射 | 表層近くの糖度傾向、水分、表皮の状態 | 果皮に近い情報で足りる用途。透過が取りにくい品目 | 測っているのは主に表層。果肉中心部の状態は代表しにくい | 透過より光量を稼ぎやすく、比較的速度を出しやすい |
カラーカメラによる外観選別 | 着色度、形状、キズ・汚れ、大きさ | 等級の一次選別、規格外の除去 | 色として現れない内部欠陥・浮皮は原理的に判定できない | 撮像が速く、高速ラインに載せやすい |
重量選別 | 重量(階級判定の基準) | 階級選別の基幹。ほぼ全ての選果場で前提となる | 品質情報は得られない。中身が空洞でも重ければ通る | 機械式で高速。他方式のボトルネックにはなりにくい |
X線 | 内部の密度差(空隙、種、異物) | 密度差として現れる内部欠陥や異物の検出 | 糖度など化学成分は測れない。放射線源を扱うため設置・管理の要件が増える | 透過撮像のため搬送を安定させる必要がある |
ハイパースペクトルイメージング | 各画素ごとの分光スペクトル(成分の分布、色に現れない表面異常) | 「どこに」「どんな成分・異常があるか」を面で見たい検討段階。判別条件をこれから作る場合 | データ量が大きく、判別モデルを対象ごとに作り込む必要がある。既存の高速ラインへそのまま載せるのは容易ではない | 波長数と空間分解能を落とすほど速くなる。用途を絞った設計が前提 |
この表で押さえてほしいのは、「高機能な方式ほど良い」という関係にはなっていないことです。重量選別とカラーカメラは今も選果場の基幹であり、NIR透過は食味格付けの実用解として長く使われています。方式ごとに得意な層が違うだけで、実際の選果場はこれらを重ねて使います。青果全般での自動化方式の整理は選果機の自動化5方式を比較した記事に、糖度に絞った手法比較は果物の糖度を非破壊で測る4手法の記事にまとめています。
「色に現れない差」を扱いたいときの考え方
浮皮や腐敗の初期のように、人の目にはまだ色として見えていない差を扱いたい場合、必要なのは「より高精細なカラーカメラ」ではなく「より多くの波長」です。前掲の柑橘の腐敗果検出研究が可視光ではなく蛍光を使ったのも、みかんのβ-クリプトキサンチン含量を可視・近赤外分光で非破壊推定した研究(決定係数R²=0.897、RMSEP 0.169、日本食品科学工学会誌 66(3), 2019)が成立するのも、同じ理由によります。成分や状態の違いは、特定の波長での反射・透過の差として現れるからです。ハイパースペクトルカメラの仕組みを解説した記事でも触れているとおり、この考え方を画素ごと・数十〜数百波長にまで広げたものがハイパースペクトルイメージングです。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「色では判別できない差を選果で拾えないか」とお悩みでしたら、どんな波長でどこまで見えるのかだけでも知っていただけたら嬉しいです。食品・農業・インフラ・医療などの現場の方々とご一緒に実証を重ねてきました(実績一覧)。
判定チャート:自分の選果場に何が必要か
方式が分かっても、必要かどうかは産地ごとに違います。次の順番で自問すると、検討すべき構成が絞れます。上から順に、当てはまったところで止めてください。
- 今の出荷で困っているのは「規格のばらつき」か、それとも「クレーム」か。ばらつきだけなら、階級(重量)と等級(外観)の精度を上げる方向で足ります。新方式ではなく、既存ラインの仕分け口とカメラの見直しが先です。
- クレームの原因は、出荷後に出る腐敗や食味か。そうであれば、外観選別では届きません。内部品質を測る層(NIR透過など)を足す検討に入ります。
- その内部品質は、糖度・酸度という「数値で言い切れる指標」で説明できるか。説明できるなら、NIR透過による食味格付けが第一候補です。ここは実績のある領域なので、まず既存の選果機メーカーに相談するのが近道です。
- 数値で言い切れない――「見れば分かるが、何を測ればいいか分からない」状態か。浮皮の程度、腐敗の初期、す上がりなどがここに入ります。この段階で必要なのは装置の購入ではなく、まず「どの波長に差が出るのか」を現物で調べることです。ハイパースペクトルイメージングが検討対象になるのはこの層です。
- 既存ラインに足すのか、新設か。既存ラインへの追加なら、搬送速度・果実の姿勢・設置スペース・遮光が制約になります。新設なら方式から設計できますが、稼働は数年先になります。判別可否の検証だけは、ラインの計画と切り離して先に進められます。
導入検討の実務ステップ
とくに4番に当てはまった場合、いきなり装置を選ぶと空振りします。次の4段階で進めると、投資判断の前に「できる/できない」が分かります。
ステップ1:現物サンプルで試験撮影する
良品と、判別したい対象(浮皮の強い果実、腐敗が始まった果実、す上がりの果実など)を、できるだけ同じ品種・同じ時期・同じ産地で集めます。ここで良品ばかり集めてしまうと後の検証が成立しません。不良側のサンプルを十分な数そろえることが、この工程で一番大事です。
ステップ2:判別できるかを見極める
撮影したスペクトルに、良品と不良で有意な差が出ているかを確認します。差が出ないという結果も、投資判断としては十分に価値のある結果です。ここで見切れば、装置費用は一円も動いていません。差が出た場合は、どの波長帯が効いているか、照明条件をどこまで単純化できるかを詰めます。
ステップ3:ライン条件を設計する
判別できると分かってから、初めて実装の話に移ります。搬送速度、果実の向き(柑橘はヘタの向きで見え方が変わります)、照明、遮光、判定にかけられる時間。ここで「必要な波長数」を絞り込めると、装置構成もデータ量も現実的な規模に収まります。
ステップ4:試験運用でシーズンをまたいで確かめる
柑橘は年次で作柄が大きく振れます。前掲のとおり収穫量は前年比17%増のような動き方をしますし、高温年には果皮障害の出方も変わります。1シーズンだけの検証で確定させず、条件の違う年のデータを取る前提で計画してください。判別モデルの作り直しが必要になる場面は、必ず来ます。
向かないケースと、はじめの一歩
ハイパースペクトルイメージングは万能ではありません。次の場合は、他の方式を選んだほうが確実です。
- 測りたいものが糖度・酸度だけで、既に指標が確立している場合。NIR透過による食味格付けは長い実績があり、専用に作られた装置のほうが速く安く確実です。
- 既存の高速ラインへ、設計変更なしで追加したい場合。分光データは情報量が多いぶん、露光と演算の時間が要ります。速度優先ならカラーカメラと重量選別の組み合わせに軍配が上がります。
- 判別したい対象のサンプルが集まらない場合。不良品のサンプルが数個しかない状態では、判別条件を作ることも、その妥当性を確かめることもできません。
- 密度差で分かる異物・空洞を探している場合。それはX線の領分です。分光では密度そのものは見ていません。
また、どの方式であっても「人手の検品がゼロになる」とは考えないほうが安全です。機械が担うのは判定の大部分であって、境界事例の最終判断や、想定外の異常の発見は人が担い続けます。導入の目的を「無人化」ではなく「人が見るべきものに集中できる状態」に置くと、仕様の線引きがぶれません。
費用面では、産地の集出荷施設の整備や省力化投資に使える国の支援制度が年度ごとに公募されています。制度は毎年変わるため、スマート農業で使える補助金をまとめた記事で当年度の状況をご確認ください。対象になるかは要件次第ですので、まずはご相談いただければと思います。
まとめ:測りたいものを決めてから、方式を選ぶ
みかんの選果機選びは、外観・重量・糖度・内部欠陥という4つの層のうち、どこまでを機械に任せるかを決める作業です。糖度は既に実用域、外観と重量は基幹技術、そして「色では見えない差」の領域だけが、まだ現物での検証を必要としています。その検証は、装置を買う前に、サンプルを撮るところから始められます。
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