土壌診断の費用は、化学性の基本セットなら1検体2,200〜7,700円(JAの組合員価格から民間のセット料金まで)、微量要素まで含む全項目分析なら1万円台が公開価格の目安です。この記事では分析項目別の費用レンジと、外注と自前測定の損益分岐を出典つきで整理します。
結論を先に書きます。年に数検体しか出さないなら、ほぼ確実に外注のほうが安いです。pHメーターやECメーターをそろえると初期費用で5万円前後かかるため(堀場製作所 LAQUAtwin pH-11B 希望販売価格22,000円・税抜、EC-33B 29,000円・税抜)、1検体5,500円の外注なら年10検体あたりでようやく並びます。ただし自前測定で代替できるのはpH・ECなど一部の項目だけで、CECや腐植、可給態リン酸の定量は外注に残ります。つまり損益分岐は「外注をやめる線」ではなく「外注を減らして併用に切り替える線」です。
土壌診断の費用は1検体いくらか:分析項目別の相場
まず前提として、土壌診断の料金は機関ごとに大きく違い、年度ごとに改定されます。公設の試験場は手数料条例にもとづく単価、JAは組合員向けの助成価格、民間分析機関はセット料金という具合に、値段の作り方そのものが違います。以下は2026年10月時点で各機関が公開している料金表から拾った「幅」です。料金表の改定時点は機関ごとに違い(たとえば千葉県は令和7年度、日本土壌協会は2025年7月現在、JA宮崎経済連は令和3年4月改定)、税込・税別の表記も揃っていません。実際の発注前には、必ず依頼先の最新の公表資料で確認してください。
分析項目 | 外注の費用レンジ(1検体) | 分かること | 自前測定で代替できるか |
|---|---|---|---|
化学性の基本セット(pH・EC・リン酸・交換性石灰/苦土/加里・CEC・腐植など10項目前後) | JAの組合員向けで2,200〜3,300円、民間の標準セットで5,500〜7,700円(JAふくしま未来は基本分析2,200円・微量要素込3,300円、みらい蔵は化学性5,500円・化学性+物理性7,700円、土壌研究所は基本セット10項目6,600円。いずれも税込) | 施肥設計の土台になる養分の過不足と酸度・塩類の状態 | 不可(セットの一部のみ代替可) |
全項目分析(微量要素・リン酸吸収係数まで含む) | おおむね13,000〜17,400円(日本土壌協会のセットメニュー単価表(2025年7月現在・税込)では全項目分析が畑土壌16,610円・水田土壌17,380円、一部の微量要素を除いたメニューが13,090〜14,080円) | 微量要素欠乏や特異な土壌の原因探索 | 不可 |
pH 単体 | おおむね500〜960円(千葉県農林総合研究センターの分析手数料は960円、JA宮崎経済連 農産物総合検査センターの料金表では500円・税別) | 石灰施用の必要性、酸性障害のリスク | 可(メーター・試験紙) |
EC 単体 | おおむね500〜960円(出典は上記と同じ) | 残存する塩類の量、肥料の効き残り | 可(メーター) |
硝酸態窒素 | おおむね1,100円前後(JA宮崎経済連の料金表は畑作のみ1,100円・税別) | 基肥の減肥判断、追肥のタイミング | 一部可(簡易キットで段階判定) |
CEC(陽イオン交換容量) | おおむね1,600〜4,140円(JA宮崎経済連は塩基交換容量1,600円・税別、みらい蔵は3,300円、千葉県の手数料は4,140円) | 土の保肥力、塩基飽和度の分母 | 不可 |
可給態リン酸・交換性塩基(各項目) | おおむね1,100〜3,300円(土壌研究所は交換性石灰・苦土・加里が各1,100円、みらい蔵は可給態リン酸・交換性塩基が各3,300円) | リン酸の蓄積、石灰・苦土・加里のバランス | 不可(簡易キットは水溶性成分の目安まで) |
全炭素・全窒素(T-C/T-N) | おおむね2,520〜5,500円(千葉県は窒素全量2,520円・炭素5,380円、土壌研究所のT-C・T-Nセットは5,500円) | 有機物の蓄積量、炭素貯留や土づくりの経過 | 不可 |
物理性(三相分布・硬度など) | おおむね2,200円〜(みらい蔵) | 排水性・透水性、根が伸びられる深さ | 一部可(土壌硬度計) |
前処理(風乾・ふるい調整) | 1,100〜2,200円(日本土壌協会の土壌診断業務:畑土壌1,100円、水田土壌2,200円) | —(分析の前工程) | 可(自分で風乾・ふるいがけ) |
注目したいのはJAの組合員価格です。たとえばJA山武郡市の土壌診断は、組合員コードを持つ方が1点660円(税込)、組合員外が1点3,300円(税込)と公表されています。同じ分析でも5倍の差が付くわけで、費用を下げる最初の一手は「自分が使える窓口を洗い直すこと」です。なお同JAは2024年4月から、CEC・腐植・アンモニア態窒素を基本セットから外して希望者のみの追加(1項目220〜1,100円)に変更しています。セットの中身は改定されるため、金額だけでなく項目の増減も確認してください。
各項目が何を意味するのか、どう読むのかは費用の話とは別軸になります。土壌の肥沃度を測る4つの手法とCEC・塩基バランスの見方で解説していますので、数値の解釈はそちらをご覧ください。
見積を動かす7つの要因
同じ「土壌分析 費用」でも、見積が倍近く変わることがあります。動かしている要因はおおむね次の7つです。
- 検体数:ほ場ごとに1検体が原則です。複数ほ場の土を混ぜると平均値しか出ず、改善の打ち手が決まりません。費用は検体数に比例します。
- 項目数:基本セットに微量要素やリン酸吸収係数を足すと、全項目分析の1万円台まで上がります。
- 前処理:風乾・ふるい調整を依頼すると1,100〜2,200円の加算になります(日本土壌協会)。自分で乾かして2mmふるいを通せば、その分は下がります。
- 採土の代行:分析機関や指導員に採土から頼むと人件費と旅費が乗ります。採土の仕方は結果の精度を左右するので、愛知県が公開している採土方法の資料のような公的な手順書に沿って自分で採るのが、費用対精度では有利です。
- 納期:通常納期は10〜14営業日程度(みらい蔵)、JA経由では提出から報告まで3〜4週間という例もあります(JA山武郡市)。至急対応は別途費用が発生します。作期から逆算した余裕が、そのまま値段です。
- 報告書・施肥設計の有無:分析値だけの成績書か、施肥設計まで付くかで価格帯が変わります。施肥設計システムとの同時申込で割引になる例もあります(みらい蔵の会員価格)。
- 送料:サンプルの送料は依頼者負担が一般的です(日本土壌協会)。遠隔地から少量を何度も送ると、分析費以上に積み上がることがあります。まとめて送るほうが安く済みます。
外注と自前測定の損益分岐
「外注を年に何回出すなら自前測定のほうが得か」を、公開価格だけで組んでみます。外注は化学性セット1検体5,500円(税込、みらい蔵の公開価格)、自前はpHメーター22,000円+ECメーター29,000円+簡易土壌検査キット9,800円(いずれも税抜)という最小構成で、初年度の初期投資をおよそ6.7万円(税込換算)としました。
年間の診断回数 | 全部外注(5,500円×回数) | 自前測定(初年度) | 自前測定(2年目以降) | 判断 |
|---|---|---|---|---|
年2検体 | 11,000円 | 約67,000円 | 消耗品のみ | 外注が明確に有利 |
年5検体 | 27,500円 | 約67,000円 | 消耗品のみ | 外注が有利 |
年10検体 | 55,000円 | 約67,000円 | 消耗品のみ | ほぼ互角。2年目以降は自前が有利 |
年20検体 | 110,000円 | 約67,000円 | 消耗品のみ | 自前が有利だが測れる項目は限定的 |
年50検体 | 275,000円 | 約67,000円 | 消耗品のみ | 自前でスクリーニング+要所だけ外注の併用 |
金額だけ見れば年10検体前後が分岐点です。ただしこの表は同じものを比べていません。自前測定で押さえられるのはpH・EC・水溶性の硝酸態窒素やリン酸・カリの段階判定までで、簡易キットは「4項目を各10回分」といった消耗品ベースの作りです(HANNA HI 3895N)。試験紙式のキットも1万円前後から手に入りますが(簡易土壌診断キット みどりくん スターター 定価8,530円)、CEC・腐植・可給態リン酸の定量値は出ません。土壌診断キットで分かること・分からないことを先に押さえてから、どこまで自前に寄せるかを決めるのが安全です。
判定チャート:あなたはどちらに寄せるべきか
- Q1. 分析値の提出が補助金・認証・取引先の要件になっている? → はいなら、成績書が出る公設機関か分析機関への外注で確定。自前測定は要件を満たしません。
- Q2. 施肥改善の初年度で、基準になる数値を持っていない? → はいなら、まずCEC・腐植まで入った基本セットを外注。ここを省くと、以後のpH・ECの数字が何を意味するか読めません。
- Q3. ほ場数が3つ以下で、診断は年2回以下? → はいなら、全部外注のままでよい。機器を買うと確実に損です。
- Q4. 作期中にpHやECの動きを何度も追いたい? → はいなら、メーターを導入して併用。ただし年1回は同じ土を外注に出し、自前の値がずれていないか確かめます。
- Q5. ほ場数が10以上、または年10検体を超える? → はいなら、自前で一次スクリーニングし、異常が出たほ場だけ全項目分析に回す。これが総額を最も抑えられる形です。
- いずれも当てはまらない → 外注を基本にしつつ、pHメーターだけ先に入れる。費用対効果が最も読みやすい一歩です。
土壌診断はどこで依頼できるか:窓口別の費用感
「土壌診断 どこで」という問いへの答えは、大きく3つです。
- 都道府県の公設機関(農業試験場・農業技術センター):手数料が条例で決まっているため単価が明快です。千葉県の依頼分析ではオンラインでの依頼と手数料の支払いに対応し、手数料は申込時の前払いです。埼玉県の依頼分析も県内の農畜産家や公共団体を対象に受け付け、キャッシュレス決済に移行しています。対象者や受付品目が県内に限られることが多いので、まず自分の県の窓口を確認してください。
- JA:組合員価格があり、最安の選択肢になりやすい窓口です。一方で基本セットの項目が絞られていたり、繁忙期の納期が長めだったりします。
- 民間分析機関:セット料金が分かりやすく、施肥設計やクラウド連携まで含むメニューもあります。項目を自由に組めるのが利点です。
どの窓口でも、土壌分析の依頼の流れは「申込 → 採土 → 風乾・ふるい調整 → 発送 → 分析 → 成績書」とほぼ共通です。費用を比べるときは分析費だけでなく、前処理・送料・報告書を含めた「ほ場1枚あたりの総額」で並べてください。
土壌診断・土づくりに使える補助金
土壌診断そのものを単独で補助する制度は多くありませんが、土づくりの取組の要件として土壌診断が組み込まれている制度があります。代表的なのが環境保全型農業直接支払交付金です。実施要領(最終改正 令和8年4月7日)では、全国共通取組の「堆肥の施用」の要件として「土壌診断を実施した上で、堆肥施用量が肥効率を考慮した堆肥由来の窒素成分量が原則として都道府県の施肥基準等を上回らないよう、適切な堆肥の施用を行うこと」と書かれています。つまり堆肥の施用で交付を受けるには、土壌診断の実施が前提という組み立てです。
もう一つ、同じ要領には「炭素貯留効果の高い有機農業」という取組があり、こちらも「土壌診断を実施した上で、炭素貯留効果の高い堆肥の水質保全に資する施用、緑肥の施用又は炭の投入のいずれか1つ以上を行うこと」が要件です。ただしこれは有機農業の取組に対する加算で、慣行栽培のほ場が土壌診断をしただけで受け取れるものではありません。加算額は年度ごとの交付単価によるため、ここでは金額を示しません。
このほか、令和8年度みどりの食料システム戦略推進総合対策(当初予算)のように、都道府県を通じて実施される事業もあります。こちらは農林水産省のページに実施要領や様式が掲載されているだけで、この記事の執筆時点(2026年10月)で全国一律の公募が開いているわけではありません。公募の有無・期間・要件は年度と都道府県ごとに変わり、単価も改定されます。環境保全型農業直接支払交付金の申請窓口は農地が所在する市町村なので、まずは市町村とJAに確認するのが確実です。採択されるかどうか、いくら受け取れるかは、ここでは断定できません。スマート農業寄りの制度を含めた整理は2026年のスマート農業補助金の使い方にまとめています。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、計測への投資が補助金の対象になり得るかを調べる段階でしたら、制度の当たりを付けるところからご一緒できます。対象になり得るか、まずはお気軽にご相談ください。
費用をかけても、分析値だけでは処方になりません
最後に正直に書いておきたいことがあります。
土壌診断の費用を払って得られるのは数値と成績書までで、「この畑に何をどれだけ入れるか」という処方そのものではありません。施肥量は作物・目標収量・前作の残肥・堆肥の肥効率・その県の施肥基準を突き合わせて決まります。農林水産省が都道府県ごとにまとめている施肥基準・土壌診断基準値・減肥基準と並べて読む作業が、分析費のあとに必ず残ります。分析値の読み方そのものは、たとえば土壌の化学性の測定法をまとめた資料のような公的な手引きで、どの分析法による値なのかまで確かめられます。
自前測定の限界もはっきりしています。pHメーターやキットは傾向をつかむには十分ですが、校正を怠れば値はずれ、採土がぶれれば桁も変わります。そして土壌の化学性は、面でなく点の情報です。ほ場の中のどこがどう悪いのかは、1点の分析値からは見えてきません。
ここは私たちの領域に近い話ですが、誤解のないように書きます。分光計測やハイパースペクトルカメラが、土壌の化学分析を置き換えることはありません。CECや可給態リン酸は、湿式の化学分析でしか定量できません。分光が寄与し得るのは作物側で、生育のむらや水ストレスといった状態を面的に捉え、「どのほ場のどこを掘って分析に出すか」を絞る使い方です。面で見る手法の限界についてはNDVIで見える範囲と限界や作物の水ストレス診断でも触れています。計測手法そのものの全体像はハイパースペクトルカメラの基礎と選び方から辿れます。
私たちは宇宙・医療・食品と農業・インフラという領域でハイパースペクトル計測に取り組んでいます。取引実績や特許は会社実績のページに出していますが、個別の案件名や数値はお見せできないものが多く、具体的な話は個別にうかがってからになります。農業向けの機体や仕様はirodori の製品ページにまとめました。土壌の分析は専門機関に、作物の状態は面で、という役割分担を前提に、どこまで計測に投資するかを一緒に考えられたら嬉しいです。資料だけでもご覧いただけたら幸いです。




