選果ラインに糖度センサーを非破壊で組み込むべきか迷ったら、判断軸は「何を落としたいか」です。全数の糖度保証が必要ならインライン化、抜き取り確認で足りるならハンディ機で間に合います。
インライン糖度センサーは、搬送中の果実に近赤外光(おおむね800〜2500nmの、人の目には見えない光)を当て、透過した光から糖度(Brix値)を推定する装置です。果実全体を平均化した情報が得られることから、現在は多くの果実非破壊測定器が透過光方式を採用しています(日本食品工学会誌の総説「近赤外分光法による果実類の糖および酸の測定とその問題点」)。ただし精度には原理的な限界があります。同総説は、非破壊の果実測定で現実的な数値として標準誤差0.5°Brixを挙げており、この場合は20個測れば1個は1.0°Brix以上ずれる計算になると述べています。
この記事は「選果ラインに組み込む設備をどう選ぶか」に絞っています。糖度計そのものの仕組みや、屈折糖度計・ハンディ機を含む測定原理の解説は果物の糖度を非破壊で測る4手法の記事にまとめてあるので、原理から知りたい方はそちらをご覧ください。
結論:ハンディ機で足りるか、ラインに組み込むべきか
インライン化はライン投資です。搬送機構・センサー・制御盤・検量線の維持までを含めた固定費が毎年かかります。先に「抜き取りで足りるか」を潰しておくと、判断が速くなります。
ハンディ機で足りるのはこんな場合
- 出荷ロット単位で平均糖度を示せればよく、1個単位の保証までは求められていない。
- 収穫適期の判断や、圃場ごとの傾向把握が主目的である。
- 年間の取扱量が少なく、抜き取り検査の人手が確保できている。
- 対象が1〜2品目に限られ、品種・産地の振れ幅が小さい。
ラインに組み込むべきなのはこんな場合
- 「糖度◯度以上」を表示したブランド品として売っており、1個の外れが等級全体の信用に響く。
- 全数選別が前提で、抜き取りでは処理量に追いつかない。
- 糖度だけでなく、内部褐変・す上がりなどの内部障害も同じラインで落としたい。
- 階級・等級の組み合わせが多く、人手での仕分けが破綻している。
後者に当てはまるなら、次は方式の選定です。糖度センサーは単体では機能せず、外観選別・階級判定とセットでライン全体を組むことになります。
インライン糖度センサーの方式と、選定の4軸
「糖度センサー」とひとくくりにされがちですが、光の当て方と受け方で方式が分かれ、得意な品目も限界も変わります。裏取りできる範囲で定性的に整理します。
方式 | 主に測れる対象 | 選果ラインへの適合 | 初期費用の傾向 | 限界・注意点 |
|---|---|---|---|---|
近赤外 透過光 | 糖度(Brix)、一部の内部障害 | 高い。インライン機の主流 | 高め | 果実全体を平均化した値になる。大玉・厚い果皮では光が抜けにくい |
近赤外 拡散反射光 | 糖度、硬度・熟度に関わる性状 | 中程度 | 中〜高 | 表層寄りの情報になりやすく、果肉深部の代表性に注意が要る |
インタラクタンス(半透過) | 糖度、貯蔵に伴う変化 | 中程度 | 中〜高 | 果実との距離・接触条件の再現性が精度を左右する |
分光イメージング(ハイパースペクトル) | 内部障害・褐変・熟度ムラなど「面」の分布 | 用途次第。糖度単独なら過剰になりやすい | 高い | 糖度だけが目的なら既存のNIR糖度計で足りる場面が多い |
重量・外観カメラのみ | 階級(サイズ)、色、外観の傷 | 高い | 低〜中 | 内部品質は測れない。糖度保証の代替にはならない |
近赤外分光法では、測定に使う波長域がおおまかに領域I(800〜1100nm)・領域II(1100〜1800nm)・領域III(1800〜2500nm)に分けられます。吸収が弱い領域Iは水分の多い試料の透過スペクトル測定に向き、透過光を使った果実の非破壊測定は主にこの領域が用いられてきました(前掲の総説)。ここは装置仕様を読むときの手がかりになります。
選ぶときに見るべき軸は4つです。(1)測りたいのは糖度だけか、内部障害も含むか。(2)処理能力とレーン数が既存ラインの能力と釣り合うか。(3)搬送方式が対象品目に合うか(バケット搬送・トレイ搬送・ベルト搬送・ピアノ鍵盤方式など、メーカーによって構成が異なります。たとえば三井金属計測機工の小型選果機シリーズは搬送方式別にモデルが分かれています)。(4)検量線を誰がどの頻度で保守するか。4つ目が見落とされがちで、後述する落とし穴の中心でもあります。
ハイパースペクトルを検討すべきなのは「糖度以外も面で見たい」ときだけ
ハイパースペクトルカメラは、1画素ごとに連続した分光データを取得して、対象を「面」で見る装置です。仕組みはハイパースペクトルカメラの原理を解説した記事にまとめています。正直に言えば、糖度を1点測るだけが目的なら、既存の近赤外糖度センサーのほうが安く速く済みます。検討する価値があるのは、内部褐変や熟度ムラのように「どこに、どれくらい広がっているか」が等級判断に効く場合です。
品目別に見る適合と注意点
同じインライン糖度センサーでも、品目によって測れる範囲と気をつける点が変わります。代表的な品目を挙げます。
みかん(ウンシュウミカン)
果汁のBrix値の検量線では1742nm付近が有効で、糖と酸の組成が異なる試料でもBrix値の定量に使えることが示されています(前掲の総説)。また、す上がり果や浮き皮果といったカンキツ類の内部障害も近赤外分光法で検出可能とされています。等級の刻み幅を決めるときは、Brix値に1.4〜1.8、pH値に0.3〜0.4の差があるときに嗜好度の最小有意差が認められたという報告が目安になります。機種選定の観点はみかん選果機の選び方をまとめた記事で扱っています。
りんご
みつ症果は、みつ症の度合いが高いほど近赤外の短波長域で透過率が高くなることが報告されており、褐変果も検出可能とされています(前掲の総説)。注意したいのは貯蔵です。りんご切片の透過スペクトルから作成した検量線が、貯蔵果では測定精度が低下したという報告があり、成分や細胞構造の変化がスペクトルに影響したと推察されています。CA貯蔵後の出荷ラインでは、収穫直後と同じ検量線をそのまま使わない前提で設計してください。詳細はりんご選果機で蜜入り・内部褐変を測る5方式の比較記事にあります。
メロン
メロンは、求める精度の根拠が数値で示されている数少ない品目です。果肉硬度をそろえたメロンで甘味の官能検査を行った結果、甘味に有意差のある試料間には約1.5°Brix以上の差が認められました。つまり甘味評価を目的に非破壊でBrix値を測るなら、1.5°Brixの差を確実に識別できる精度が要ります(前掲の総説)。なお同じ実験で、同じBrix値でも果肉硬度の低いほうが甘味が強いと判断されており、糖度だけでは食味が決まらない点も押さえておきたいところです。ネット果の測定可否はメロンの非破壊糖度計の記事で詳しく扱っています。
もも
ももは、品種・栽培時期・産地・収穫年次が異なると検量線の適合性が劣ることが報告されている品目です(前掲の総説)。産地をまたいで同じラインを使う共同選果場では、検量線を産地別・年次別に持つ運用を初期設計に織り込んでおくのが安全です。試料温度の影響についてもももを用いた検討が行われており、水の吸収バンドでスペクトルが温度変動の影響を受けることが確かめられています。
ぶどう・小果実
ぶどうやさくらんぼ、ブルーベリーのような小さい果実は、そもそも光路長を確保しにくく、糖度センサーの対象外になることがあります。あるハンディ非破壊糖度計の技術解説では、光路長を確保するために直径30mm程度以上、厚み20mm程度が必要で、さくらんぼ・ブルーベリー・ぶどうは対象から外れると説明されています(計測と制御「青果物の糖度を非破壊で計測する簡便な糖度計」)。房単位で扱うぶどうでは、外観・重量選別と抜き取り検査の組み合わせが現実解になりやすい品目です。
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。品目や症状によって「そもそも光で見えるのか」は大きく変わるので、もし選果ラインの内部品質判定でお困りでしたら、実際の果実で確かめるところからご一緒できれば嬉しいです。
選果場で効く4つの落とし穴
カタログ精度は出るのに現場で合わない、という相談が多い領域です。原因はだいたいこの4つに収まります。
1. 果実温度がそろわない
近赤外の吸収には温度依存性があります。前掲の計測と制御の解説では、その影響は光路長に依存するものの、およそ0.5 Brix%/℃程度とされ、温度が10℃変われば5 Brix%の誤差になると述べられています。やっかいなのは表面温度と内部温度のずれです。同解説によれば、10℃の果実を20℃の室内に1時間置くと表面温度は16℃程度まで上がるのに対し、表面から10mm内部はまだ14℃程度で、この2℃の差だけで1.0 Brix%程度の誤差につながります。選果場では果実温度を一定に保つことが通常は困難なため、多くの非破壊測定器で温度の影響を軽減する手立てが取られています(前掲の総説)。それでも、予冷庫から出した果実をどれだけ馴らしてからラインに乗せるかは、処理能力の計算に直接効いてきます。
2. 検量線が経年で合わなくなる
これが運用コストの本体です。品種・栽培時期・産地・収穫年次が異なると検量線の適合性が劣ることが複数の品目で報告されており、現時点の対応策は検量線作成用試料の選択に注意を払うことと、定期的な検量線のチェックであるとされています(前掲の総説)。さらに、検量線を作るには将来測る試料に予想される変動要因をすべて含める必要があり、膨大な数の果実を採取したり適当な成分組成のものを選択したりと、多大な手間がかかると指摘されています。毎年のサンプル採取工数と破壊分析の費用を、導入時の見積もりに必ず入れてください。
3. 障害果を先に落としていない
生理障害果は正常果と光散乱特性が異なり、スペクトルが影響を受ける可能性があります。前掲の総説は、選果場では商品性の劣る障害果の検出が糖や酸の測定以前に重要な課題であるため、まず障害果を検知し、健全果のみについて成分測定を行う必要があると述べています。ライン設計としては、糖度センサーの前段に外観・内部障害の判定を置く順序になります。
4. 糖度以外は同じ精度で測れない
酸味の保証は、いまだに解けていない課題です。前掲の総説は、選果機や可搬機の進歩は進んできたものの、酸の測定精度が低いため果実の酸味の保証が困難であるという大きな問題が残されている、と結んでいます。糖酸比で等級を切る計画は、酸度の実測精度を先に確かめてから固めてください。加えて、非破壊測定では果実のどの部分の糖度を測っているかを特定できません。多くの果物では果皮のすぐ下の糖度が最も高く、10mm下の糖度は1 Brix%程度低くなるという指摘もあります(前掲の計測と制御の解説)。破壊検査の値とそのまま突き合わせると、原因不明の差として現れます。
導入の進め方と、使える補助金・助成金
実測から始める5ステップ
- 落としたい不良を1つに決める。糖度不足なのか、内部褐変なのか、す上がりなのか。複数を同時に狙うと評価軸がぼやけます。
- 自社の果実で実測する。貸出機や受託測定で、自分の産地・品種・時期の果実がどこまで見えるかを確かめます。カタログ精度ではなく実測値で判断します。
- 目標精度を先に決める。メロンの約1.5°Brixのように、等級の刻み幅から逆算して「何度の差を見分けられれば合格か」を数値で置きます。
- 検量線の維持体制を決める。誰が、年何回、何個の破壊分析で更新するか。ここを決めずに機種選定に進むと、翌年に精度が落ちます。
- ライン全体で処理能力を検算する。センサー単体の能力ではなく、予冷・馴致・供給・搬送・仕分けを通した実効能力で見ます。
費用の内訳がどこで決まるかは、光センサー選果機の価格を左右する7要因をまとめた記事が参考になります。
選果ラインの設備投資に使える補助金・助成金【2026年度】
選果施設の整備は、農林水産省の産地向け支援の対象に位置づけられています。2026年度(令和8年度)の関係通知では、強い農業づくりの支援に係る関係通知として、強い農業づくり総合支援交付金の産地基幹施設等支援タイプ、産地生産基盤パワーアップ事業、新基本計画実装・農業構造転換支援事業の共同利用施設の再編集約・合理化などが示されており、集出荷・選果施設が対象に含まれます。産地生産基盤パワーアップ事業は、収益力強化に計画的に取り組む産地に対し、農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や栽培体系の転換等を総合的に支援する事業です。
中小企業向けの枠では、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金があります。公式サイトのスケジュールによれば、第23次締切は2026年5月8日、採択発表は2026年8月7日とされています(第23次公募要領の公開について|中小企業庁)。本記事の公開時点で第23次の受付は終了しているため、次回公募の有無や時期は必ず公式サイトでご確認ください。
補助率や採択の見通しは事業・年度・地域によって異なり、適用の可否は個別の計画内容で判断されます。公募時期・要件は必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。どの枠で申請するかは、地域の農政部局や認定支援機関にご相談いただくのが確実です。装置側の要件整理については、ハイパースペクトルカメラ irodori のページとあわせてご検討ください。
まずは「自社の果実で何が見えるか」から
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。選果ラインの投資判断は戻しにくいので、カタログではなく実物で確かめる順番をおすすめしています。技術の概要と検討の進め方をまとめた資料がありますので、比較検討の材料としてご覧いただけたら嬉しいです。




