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作物の水ストレス診断4系統を比較|しおれる前に測る方法【2026】

作物の水ストレス診断は、しおれや葉色の変化を見てから動くと手遅れになります。土壌水分計・葉温・植物体計測・分光指数という4系統を一次情報で比較し、圃場で何をいつ測れば「かん水するかどうか」を判断できるのかを整理しました。

先に結論を書きます。水ストレスは「土壌が乾く → 気孔が閉じて葉温が上がる → 生長が止まる → しおれる → 葉色が変わる」という順に進み、見た目の変化は列の最後尾にあります。圃場全体の傾向を知りたいなら熱赤外(葉温)、個体ごとのかん水判断なら土壌水分計か植物体計測、原因が水かどうかを切り分けたいなら分光が向きます。ただし4系統のどれも単独では完結せず、葉温は気象の補正、分光は参照面、土壌水分計は点計測という制約を抱えています。本記事では、その制約まで含めて選べるように比較しました。

しおれが見えた時点で、生育阻害はとっくに始まっている

農林水産省の技術書・農業用水(畑)「5.土壌水分関係調査」は、畑地かんがい計画で使う水分点を pF 値で定義しています。pF とは、土壌から水を吸い出すのに必要な力を水柱の高さ(cm)で表し、常用対数にしたものです。数値が大きいほど、水が土に強く握られていて作物が吸いにくいことを示します。

同書によれば、生長阻害水分点は pF3.0 前後、初期しおれ点は pF3.8、永久しおれ点は pF4.2 です。つまり、葉がしおれて見えた pF3.8 の時点で、作物はすでに生長阻害水分点をかなり通り過ぎています。しおれは「水ストレスの始まり」ではなく「水ストレスが進んだ結果」です。なお同書は、かんがいの上限となる24時間容水量を pF1.5〜2.0 としており、実務で使える幅(容易有効水分量)はこの間に収まります。

葉色に至ってはさらに遅れます。小野朗子ら「植物の水ストレス症状の早期診断を目的とした基礎研究」(写真測量とリモートセンシング 49巻2号, 2010年, pp.83-92)は、鉢植えのセイヨウガマズミを断水して各指標の経日変化を追いました。その結果、葉の水ポテンシャルは12日目頃から低下し始めたのに対し、デジタルカメラで撮影した葉の色が変わり始めたのは40日以上経過してからで、その時点ではすでに葉が枯れ始めていた、と報告しています。

施設栽培でも事情は同じです。東北大学が2024年6月24日に公表したプレスリリースは「潅水不足では萎れ・枯れに至る前に光合成が低下してしまう」と述べ、葉の脱落や色素量の低下が起こる前に評価する手法の必要性を挙げています。見てから動く運用では、取り返せる段階を過ぎてしまうということです。

水ストレス診断の4系統|何を測り、どこまで速いか

水ストレスの測り方は、測定対象で4系統に分かれます。土壌側を測るか、葉の温度を測るか、植物体の寸法変化を測るか、光の反射を測るか。下の表は、それぞれが実際に何を見ているのかを並べたものです。

系統

何を測っているか

応答の速さ

空間的な広さ

必要な設備・手間

苦手なこと

①土壌水分計
(テンシオメータ・FDR/TDR)

土が水を保持する力(pF)または体積含水率。作物ではなく「供給側」

土壌が乾けば即応。ただし作物が実際にストレスを受けたかは分からない

プローブ周辺の数cm〜十数cmの点計測

センサ1本は安価だが、土層ごとの設置と誘電率式ではキャリブレーションが必須

圃場内のばらつき。礫が多いとプローブを挿せない

②葉温・サーモグラフィ
(CWSI)

気孔が閉じて蒸散が止まった結果としての葉面温度の上昇

最も速い系統のひとつ。時間〜日の単位で動く

手持ち放射温度計なら1枚の葉、ドローン搭載なら数ha〜数十haを面で

熱赤外カメラに加え、気温・湿度(飽差)・参照温度の同時計測

気温・日射・風速の影響をそのまま拾う。絶対温度だけでは判断できない

③植物体計測
(茎径・樹液流・果実径)

細胞の膨圧低下による茎や果梗の収縮、導管を流れる樹液の量

日中の収縮として当日中に出る。連続測定できるのが強み

センサを付けた1個体のみ。圃場代表性は別途の設計が必要

デンドロメータや樹液流センサ、電源、雨よけ。設置部位の選定が難しい

生長による径の増加と個体差。日によって関係が変わる

④分光指数
(水分指数・PRI)

水の吸収帯での反射率低下(含水率)、キサントフィルサイクルに伴う反射率変化(光合成の効率)

指数による。SWIR系の水分指数は遅く、PRIは早い段階で動く

手持ち分光計の1点から、ドローン・衛星の面計測まで連続的

分光放射計またはマルチ/ハイパースペクトルカメラ、反射率校正用の参照板

軽度の水ストレス。圃場での絶対値比較。土壌や葉の重なりが混ざった画素の扱い

①土壌水分計|供給側を見る、最も手に入りやすい指標

テンシオメータは、ポーラスカップを介して土壌中の毛管張力を圧力計に導く方式です。前出の農林水産省技術書は、機構上の測定範囲は最高1気圧(pF3.0)まで、実際上は pF0〜2.7 の比較的湿潤な状態に適するとしています。生長阻害水分点が pF3.0 なので、テンシオメータは「乾き始めを捉える道具」であって「どこまで乾いたか」を測る道具ではありません。また急激な温度変化がチューブの容量変化を招いて誤差になるため、地表部分を発泡スチロール等で覆う配慮が要ります。

FDR・TDR などの誘電率水分計法は、水の比誘電率が80と高い(空気は1、土粒子は3〜5)ことを利用して体積含水率を求めます。同書は、pF3.0 以上の乾燥側でも測定でき、プローブ長全体の平均体積含水率が算定できる一方で、肥料分や塩分による電気伝導度や温度の影響を受ける場合があり、正確な測定にはキャリブレーションが必要だと明記しています。TDR・ADR・キャパシタンス法のうち、キャパシタンス法は地温や電気伝導度の影響を受けやすいとも整理されています。

果樹では、乾かすこと自体を目的にする管理もあります。農研機構は2015年の成果情報「簡易土壌水分計の水位低下量はカンキツが受けている乾燥ストレスの指標となる」で、ポーラスカップと透明塩ビ管だけの簡易測器を使い、土壌が pF2.8 以上に乾燥すると管内の水位が低下し始めること、ウンシュウミカン「石地」で糖度13度以上を狙うには収穫時の積算水位低下量が約310cm以上必要であることを示しました。ただし同成果は、積算水位低下量と糖度の関係は園地や品種によって異なるとも断っています。そのまま他の産地に持ち込める数値ではありません。

②葉温・サーモグラフィ|気孔が閉じた瞬間を拾う

水が足りなくなると、作物は葉を枯らさないために気孔を閉じます。気孔コンダクタンス(気孔を通って水蒸気やCO₂がどれだけ出入りしやすいかを表す量)が下がると蒸散による気化熱が奪われなくなり、葉温が上がります。この温度上昇を指標化したのが CWSI(Crop Water Stress Index/作物水ストレス指数)で、蒸散が最大のときの葉温(下限)と、蒸散がゼロのときの葉温(上限)の間で、実測の葉温がどこにあるかを0〜1で正規化した値です。Jackson らが1981年に提案した指標で、前出の小野らの論文でも原典として引用されています。

前出の小野らの断水実験は、この系統の速さを数字で示しています。葉の放射温度の時間変化量(対照サンプルとの比をとって気象の影響を抑えたもの)は断水10日目頃から急増し、30日目頃に飽和しました。水ポテンシャルが12日目から下がり始めたのとほぼ重なるタイミングです。しかも、葉内含水率が55%以上という「回復・再生が可能な段階」で敏感に反応した、と報告されています。

面で測る場合はドローンに熱赤外センサを載せます。井上吉雄・横山正樹「ドローンリモートセンシングによる作物・農地診断情報計測とそのスマート農業への応用」(日本リモートセンシング学会誌 37巻3号, 2017年, pp.224-233)は、熱赤外画像データは水ストレス評価に特に有用だとしたうえで、群落温度のみを用いる方法、気温や大気飽差とともに用いる方法、熱収支モデルを用いる方法があると整理しています。同論文では群落温度・飽差・気温を使うアルゴリズムで、約8haの小麦圃場を20cm×20cmの解像度で水ストレス指数マップ化した事例が示され、飛行中に任意エリアをリアルタイム演算することも可能だとしています。

③茎径・樹液流・果実径|作物本人に聞く

水が足りないと細胞の膨圧が下がり、茎や果梗がわずかに縮みます。デンドロメータでこの収縮を連続測定すれば、作物自身の水分状態を直接追えます。農研機構は2024年、イチゴの果梗径の相対変化速度がマイナスになる条件を水ストレスの指標と定義し、過剰な加湿を抑える新しい飽差制御技術を発表しました。もとになった論文(Yamanaka ら, The Horticulture Journal 94巻1号, 2025年, pp.73-80, doi:10.2503/hortj.SZD-015)は、飽差(VPD)が8.0hPa以上で、かつ飽差の変化速度が0.069hPa/分を超えると果梗径の変化速度が負になるという閾値を示しています。ただし同論文も、回帰係数と切片は品種により変動する可能性があると明記しています。

樹液流センサは、茎や幹に熱を加え、樹液が運び去る熱量から流速・流量を推定します。西岡一洋「樹液流センサの農業利用に向けた課題と展望について」(計測と制御 52巻8号, 2013年, pp.684-)は、ヒートパルス法・グラニエ法・茎熱収支法・幹熱収支法の4タイプを整理し、非破壊で測れるのは茎熱収支法だけ、グラニエ法は連続発熱のため植物内部に火傷を生じ果樹の長期計測では休測日が要る、と率直に書いています。茎熱収支法も径8mmを下回ると過大推定、20mmを上回ると過少推定や時間遅れが出ます。

果樹での感度は確かめられています。山根崇嘉らの「モモにおける樹液流速の日変化パターンからの水ストレスの検出」(園芸学会雑誌 80巻4号, 2011年, pp.383-389)は、軽度の水ストレスでは午前中の樹液流速は変わらず午後だけが低下すること、光合成有効光量子束密度で補正した午前・午後の低下程度が最良の指標となり、幹周の日最大収縮量と r²=0.77、夜明け前の葉の水ポテンシャルと r²=0.92 の相関を示したと報告しています。

一方で、畑作物への一般化はまだ途上です。高木留緯らは2023年度農業農村工学会大会(講演要旨 S-23, pp.828-829)で、新潟県のエダマメ圃場でデンドロメータを使い、日中の茎径減少と葉の水ポテンシャル低下に類似した動きを確認しました。ただし7月30日と31日では茎径と葉の水ポテンシャルの関係が明らかに異なり、回帰式からの推定はできなかったと結論しています。日ごとの気象条件や生長の影響を切り分ける方法が要る、ということです。

④分光指数|水の吸収帯と、光合成の効率

分光の系統には、性格の違う2種類が混ざっています。ひとつは水そのものを見る水分指数です。液体の水は、OH伸縮振動(3μm付近)の倍音吸収として1300〜1700nm帯に吸収を持ち、最大吸収波長は1450nm近辺にあります(第57回自動制御連合講演会, 2014年, 講演論文集 pp.1822-1823)。葉についても、大政謙次「植物機能リモートセンシング-植物診断、フェノミクス研究への応用-」(Eco-Engineering 26巻2号, 2014年, pp.51-61)が水の吸収帯を1940・1450・1200・960nmと挙げています。短波長赤外(SWIR)帯を使う NDWI などの水分指数は、この吸収を見て組織に含まれる水の量に応答します。

ただし同レビューは、使える条件をかなり限定しています。「葉が枯れるような乾燥状態では、水の吸収帯(1940、1450、1200、960 nm)を利用すれば診断できるが、通常の生育状態の萎れ程度の水ストレス(-1.0MPa以上)では、葉からの反射スペクトルは変化するが、その変化は殆ど一様でバンド比でみると余り差がみられない」という指摘です。そのうえで「水ストレスの診断には、気孔(蒸散)や形状変化の計測の方が有効である」と結論しています。本記事で葉温と植物体計測を前に置いているのは、この判断に沿っています。

もうひとつが PRI(Photochemical Reflectance Index/光化学反射指数)です。PRI =(R531-R570)/(R531+R570)と定義され、531nmと570nmの反射率から求めます(中路達郎ら, 日本林学会大会発表データベース 第114回, 2003年)。日中の強い光を熱として逃がすキサントフィルサイクルに伴う吸光度変化を捉えるため、含水率ではなく光合成の光利用効率側の変化を拾います。前出の東北大学の研究は、画素内のスペクトル分布から土壌などが写り込んだ画素を除くことで、葉が重なる圃場でも PRI を使えるようにした手法です。同大学は、従来の野外での PRI 計測が「植物のストレス状況以外の要因の影響を大きく受けるため、実用化には至っていませんでした」と、課題の所在をはっきり書いています。大政のレビューも2014年時点で「実際の生育条件下の利用ではノイズ成分の方が大きい」と評しており、PRI は画素の選び方と計測条件の統制がそろって初めて成立する指数だと考えたほうが安全です。

分光は万能ではありませんが、「水か、栄養か、病害か」を波長の違いで切り分けられるのは、この系統だけが持つ性質です。私たちは国産・自社開発のハイパースペクトルカメラで何が見えて何が見えないのかを、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました(これまでの実証事例)。圃場の水分を波長から見るとどう写るのか、まずは機器の仕様から確かめたい方は下記をご覧ください。

NDVIで水ストレスが先に出ない理由|反応している波長が違う

「NDVI を撮っているのに水ストレスが分からない」という相談は少なくありません。理由は単純で、NDVI が見ているのは主にクロロフィル量と被覆率であって、水の量ではないからです。水ストレスの初期に起きるのは気孔閉鎖と葉温上昇であり、クロロフィルはまだ減っていません。だから赤と近赤外の差をとる NDVI は動かないのです。

前出の小野らの実験は、この順序を実測で並べています。断水後の変化が現れた順は、葉の水ポテンシャル(12日目)→ 葉の放射温度の変化(10〜18日目)→ SWIR を使う NDWI(30日目)→ 葉色(40日目以降)でした。NDVI と一部の水指数については、60日目まで減少量がわずかだったと報告されています。しかも同論文は、NDWI の値が変化し始めた30日目には葉内含水率がすでに急減しており、葉が回復・再生する見込みはほとんどなくなっていた、とも書いています。

これは分光が役に立たないという話ではなく、役割が違うという話です。小野らは、この性質を逆手にとれば「水ストレスを受けた葉が回復・再生可能かどうかを見極める指標として NDWI が利用できる」と述べています。手遅れかどうかの線引きには使えるわけです。一方 PRI のように光合成の効率側を見る指数であれば、色素量が落ちる前の段階を捉えられます。同じ「分光指数」でも、どの波長で何を見ているかで早さが変わります。植生指数そのものの読み方と限界はNDVIの値の見方と7種の植生指数の使い分けで整理していますので、指数の選定で迷っている場合はそちらを先にご覧ください。

目的別の判定チャート|何を知りたいかで振り分ける

4系統は優劣ではなく、問いの立て方で選ぶものです。現場でよく出てくる3つの問いに対応させると、次のように整理できます。

  • 圃場全体の傾向を知りたい(どのブロックが乾いているか) → 熱赤外を面で。ドローンに熱赤外センサと温湿度センサを載せ、群落温度・気温・飽差から水ストレス指標を出すのが基本形です。井上らの事例では約8haを20cm解像度でマップ化しています。面で見る手法全体の比較は上空から生育を診断する6手法の比較にまとめています。
  • 個体ごとにかん水するかを判断したい → 土壌水分計か植物体計測。乾かす管理(カンキツのマルドリ方式など)なら土壌水分計の積算値、施設栽培で日中の水分欠乏を避けたいならデンドロメータや飽差制御が向きます。果梗径や茎径は、しきい値を自分の品種・施設で取り直すことが前提です。
  • 原因が水か、肥料か、病害かを切り分けたい → 分光。水の吸収帯(1940・1450・1200・960nm)、クロロフィル吸収帯、PRI の531/570nm など、異なる要因が異なる波長に出ます。ただし軽度の水ストレスでは水の吸収帯の差が出にくいため、水か否かの判定を分光だけに頼らず、葉温や土壌水分と組み合わせるのが前提です。養分側の疑いが強いときは土壌診断と突き合わせるのが近道で、肥沃度の測り方はCEC・塩基バランスと4つの測定手法で解説しています。

実務では、1系統に絞るより「面で当たりをつけて、点で確かめる」組み合わせが現実的です。熱赤外で乾いたブロックを見つけ、そこに土壌水分計を挿して pF を確認し、判断に迷う個体だけ植物体計測を足す、という順序であれば、設備投資を段階的にできます。

どの手法にも向かないケースがある

導入前に押さえておきたい限界を、系統ごとに正直に並べます。

  • 葉温は気象に振り回される。小野らは、葉の放射温度は計測時の気温・風速などの影響を受けやすく値がかなり変動すると述べ、対照サンプルとの比をとることで気象条件の影響を抑えています。それでも風が強いと葉が揺れてばらつきが残ります。CWSI を使うにせよ、十分かん水された参照区や濡らした参照葉といった基準面を圃場内に用意しないと、絶対温度は判断材料になりません。
  • 分光は圃場での絶対値比較が難しい。井上らは、小型ドローン搭載機について「現時点では分光的な画像が得られるという段階であり、精確な反射率画像や輝度温度画像の取得については不確実要素が多く残っている」「植生指数(NDVI)などを算出することは容易であるが、その精度や再現性の確保は容易でなく、植物生理生態的・農学的に意味のある情報に結びつけるには至っていない」と書いています。日射条件が違う日のデータを並べるには、参照板による反射率校正と撮影条件の統制が前提です。
  • 土壌水分計は点計測。プローブが見ているのはその一点であり、圃場内の土壌のばらつきや根の分布の偏りは拾えません。礫が多い土壌ではプローブを未攪乱土に密着させること自体が困難です。設置後の埋め戻しも測定値を左右します。
  • 植物体計測は代表性と電源が壁になる。西岡は、樹液流センサは熱をトレーサーとするため電源が必須で、商用電源のない農地では100W程度のソーラー発電か数百Ahのバッテリー交換が要ること、既存システムはすべて定点観測用であることを課題に挙げています。センサ部の実売価格もプローブ型で1万〜5万円、茎熱収支型で5万円〜(2013年時点)と、多点展開には向きません。
  • しきい値は移植できない。カンキツの積算水位低下量は園地・品種で異なり、イチゴの果梗径の回帰係数も品種で変動する可能性があると、それぞれの一次情報が断っています。他産地の数値をそのまま運用基準にすると外します。

加えて、分光そのものにも苦手があります。SWIR 帯の水分指数は、本記事で見たとおり水ストレスの初期には動かず、大政のレビューは萎れ程度(-1.0MPa以上)ではバンド比で差がほとんど見られないとまで述べています。水の情報を深く取るほど波長を伸ばす必要があり、センサも高価になります。目的が「かん水のタイミングを決める」だけなら、熱赤外や土壌水分計のほうが安く早いことは珍しくありません。分光が効くのは、原因が特定できないときや、既存の手法で差が出ないものを波長の違いで分けたいときです。

私たちは、分光が向く場面と向かない場面の両方を現場で見てきました。「水か養分か病害か、原因を波長で切り分けたい」「既存の手法で見えなかったものがある」といった課題があれば、ハイパースペクトルの基礎と適用範囲をまとめた資料が検討の材料になるはずです。国産ハイパースペクトルカメラ irodoriの仕様もあわせてご確認ください。

FAQ

作物の水ストレスは、しおれる前に分かりますか?

分かります。農林水産省の技術書では生長阻害水分点がpF3.0前後、初期しおれ点がpF3.8とされており、しおれが見えた時点では生育阻害はすでに始まっています。気孔が閉じて葉温が上がる段階を熱赤外で捉えるか、茎径・果梗径の収縮を連続測定すれば、しおれる前に判断できます。

NDVIで水ストレスは分かりますか?

初期段階では分かりにくいです。NDVIは主にクロロフィル量と被覆率に反応するため、気孔閉鎖と葉温上昇が起きている水ストレス初期には変化が出ません。小野らの断水実験では、葉の放射温度が10〜18日目に動いたのに対し、SWIRを使うNDWIの変化は30日目以降、葉色の変化は40日以降でした。

CWSIとは何ですか?

Crop Water Stress Index(作物水ストレス指数)の略で、Jacksonらが1981年に提案した指標です。蒸散が最大のときの葉温を下限、蒸散がゼロのときの葉温を上限として、実測の葉温がその間のどこにあるかを0〜1で正規化します。葉温の絶対値ではなく、気温や飽差とあわせて使うのが前提です。

葉温での診断は気温や風の影響を受けませんか?

受けます。葉の放射温度は気温・日射・風速の影響で大きく変動するため、十分かん水された参照区との比較や、気温・大気飽差を同時に計測する補正が必要です。小野らは対照サンプルとの比をとることで気象の影響を抑える方法を示しています。

分光(ハイパースペクトル)は水ストレス診断に使えますか?

原因の切り分けには有効ですが、万能ではありません。水の吸収帯(1940・1450・1200・960nm)やPRIの531/570nmなど、要因ごとに異なる波長に変化が出るため、水か養分か病害かの判別に向きます。一方、大政謙次氏のレビューは、萎れ程度の水ストレス(-1.0MPa以上)では反射スペクトルの変化がほぼ一様でバンド比では差が見られないとし、水ストレス診断には気孔や形状変化の計測のほうが有効だと述べています。圃場での絶対値比較にも参照板による反射率校正と撮影条件の統制が必要です。

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