表面欠陥検査装置は「装置のスペック」ではなく「検出したい欠陥の種類」から選ぶと失敗が減ります。傷・打痕・汚れ・変色・膜厚ムラなど8種類の欠陥と6方式の対応表をもとに、いまのAI外観検査で足りるのか、分光まで必要なのかを切り分けます。
表面欠陥検査装置とは、製品表面の傷・打痕・汚れ・異物付着・変色などを非接触で検出する装置の総称です。検出原理は大きく6方式(目視/RGBカメラ+AI/ライン照明・斜光/レーザー変位/赤外サーモグラフィ/分光・ハイパースペクトル)に分かれ、どれが正解かは装置の値段ではなく欠陥の種類で決まります。とくにRGBカメラは、可視光をR・G・Bというわずか3バンドに圧縮して記録するため、「色も輪郭も変わらない欠陥」は撮影した時点で情報が失われます。分光方式は同じ視野を数十〜数百の波長帯に分けて記録するので、3バンドでは消えてしまう差を残せます。
表面欠陥は8種類に分けると、選ぶべき方式が絞れる
「どの装置が良いか」から入ると比較が終わりません。先に「その欠陥はどの物理量に現れるのか」を決めると、候補は自動的に2〜3方式まで減ります。現場で問題になる表面欠陥は、おおむね次の8種類に整理できます。
- 傷・スクラッチ:引っかき傷。微小な凹凸と、光の反射方向の乱れとして現れる。
- 打痕・凹み:ぶつけ・変形。高さ(形状)の差として現れる。
- 汚れ(母材と同色):油汚れ・粉の付着など。色差がほとんど無く、組成の差としてしか現れない。
- 異物付着:樹脂片・繊維・金属粉など、母材と材質が違うものの付着。
- 変色・酸化・焼け:熱履歴や酸化による表面状態の変化。淡い色差+分光特性の変化として現れる。
- 膜厚ムラ・塗布ムラ:コーティングや接着剤の厚みの不均一。透過・吸収の差として現れる。
- コーティング抜け・塗り残し:透明膜の未塗布。可視光ではほぼ見えない。
- 水分・油分の残留:乾燥不足、離型剤の残り。可視光では無色。
この分類が効くのは、下の4つがまったく違う物理量だからです。すなわち「光の反射方向(傷)」「高さ(打痕)」「熱の伝わり方(内部の浮き)」「波長ごとの反射率=分光特性(汚れ・変色・膜厚)」。装置の比較表を眺める前に、自社の不良がこの4つのどれに乗るかを決めるほうが早く終わります。一般的な装置選定の考え方は外観検査装置の選び方でも整理していますが、本記事はあえて「欠陥の種類から方式を引く」方向で進めます。
【対応表】表面欠陥8種 × 検出方式6つ
各方式の検出原理から、欠陥の種類ごとの得手不得手を整理しました。◎=原理的に得意、○=条件を整えれば可、△=対象次第で不安定、×=原理的に難しい、を意味します。
表面欠陥の種類 | 目視 | RGBカメラ+AI | ライン照明・斜光 | レーザー変位(3D) | 赤外サーモ | 分光・ハイパースペクトル |
|---|---|---|---|---|---|---|
傷・スクラッチ | ○ | ○ | ◎ | ○ | × | △ |
打痕・凹み | △ | △ | ○ | ◎ | × | × |
汚れ(母材と同色) | × | × | △ | × | △ | ◎ |
異物付着(材質が違う) | △ | ○ | ○ | △ | △ | ◎ |
変色・酸化・焼け | ○ | ○ | △ | × | △ | ◎ |
膜厚ムラ・塗布ムラ | × | △ | △ | △ | ○ | ◎ |
コーティング抜け(透明膜) | × | × | △ | × | ○ | ◎ |
水分・油分の残留 | × | × | △ | × | ○ | ◎ |
表の読み方と、3つの前提
この表は各方式の検出原理から整理した目安であり、実際の可否は対象物の材質・表面粗さ・タクト・搬送条件で変わります。使うときは次の3点を前提に読んでください。
- ◎が複数並ぶ行は、安いほうを選ぶ。打痕・凹みのようにレーザー変位で◎が取れる欠陥に、分光を持ち込む必要はありません。
- ×と△しか並ばない行は、方式を足すのではなく撮像条件を疑う。照明を変えるだけで解決する欠陥は少なくありません。
- 1台で全行をカバーしようとしない。現実には「形状は3D、組成は分光」のように、工程を分けたほうが総額は安くなります。
なお膜厚ムラの行については、欠陥の検出ではなく厚みそのものを数値で押さえたいケースもあります。その場合は非接触での膜厚測定の手法から検討したほうが近道です。
RGBカメラ+AIが原理的に取りこぼす欠陥
「AI外観検査を試したが、この欠陥だけどうしても出ない」という相談は、ほとんどがアルゴリズムではなく撮像段階で決着しています。画像に写っていない差は、どんなモデルを積んでも復元できません。表の「汚れ(同色)」「コーティング抜け」「水分・油分」の行がすべて×になっているのは、AIの性能の話ではなく、入力データの話です。
3バンドと数十〜数百バンドの差は、AIの前で決まる
RGBカメラは、人の目の三色覚に合わせて可視光をR・G・Bの3バンドに畳み込みます。畳み込みは不可逆なので、「R・G・Bの積分値はほぼ同じだが、特定波長の反射率だけが違う」対象は、原理的に同じ画素値になります。分光イメージングは各画素が分光反射特性そのものを持つ点が従来画像と異なり、一般物体認識への応用も報告されています(精密工学会誌 84巻12号, 2018)。分光とは、光を波長ごとに分けて強度を測ることです。
可視域の「外側」でしか差が出ない欠陥がある
もう一つの限界は波長範囲です。RGBカメラが扱うのは人が見える可視光の範囲ですが、水分・油分・樹脂・コーティングの多くは、その外側の近赤外域に固有の吸収を持ちます。産業用ラインスキャン型の分光カメラでは、可視〜近赤外をカバーする機種(例:Specim FX10、400〜1000nm)と、さらに長波長側の機種(例:Specim FX17、900〜1700nm・224バンド)が使い分けられています。どの波長帯に欠陥の特徴が出るかで、選ぶカメラが変わります。
ハイパースペクトル技術による異物検出は古くから検討されてきた領域で、可視化情報学会誌でも報告例があります(可視化情報学会誌 28-1巻2号, 2008)。「母材と同色の異物」が難所として繰り返し挙がるのは、それがRGBの原理的な死角だからです。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「AI外観検査を入れたのに、この欠陥だけ出ない」でお悩みでしたら、どういう装置なのかだけでも見ていただけたら嬉しいです。
判断フレームワーク|あなたのケースは分光が要るか
比較表の次に必要なのは、自社の欠陥を当てはめる手順です。上から順に見て、最初にYesになったところが第一候補になります。全部Noなら、装置ではなく不良の定義から見直すサインです。
- 明るい場所で人が見て、色か輪郭の差として見えるか → Yesなら RGBカメラ+AI。まずはここで足りないかを確認する。
- 照明の角度を変える(斜光・ローアングル)と欠陥が浮き上がるか → Yesなら ライン照明・斜光。装置を替える前に照明設計を詰めるほうが安い。
- 正常部との違いは高さ・深さか(数十µm以上の凹凸か) → Yesなら レーザー変位・3D形状測定。
- 表面下の浮き・剥離・乾き残りなど、熱の伝わり方の差か → Yesなら 赤外サーモグラフィ。建築物の外壁調査では、赤外線調査が打診と同等以上の精度で実施され得ることが国のガイドラインでも整理されています(国土交通省・定期報告制度における赤外線調査ガイドライン)。
- 見た目は同じだが、材質・組成・水分が違うか → Yesなら 分光・ハイパースペクトル。
1〜4がすべてNoで5だけYesなら、RGBの改良やAIモデルの作り直しでは届きません。この状態で「学習データを増やす」方向に投資すると、時間と費用の両方を失います。分光の考え方そのものはハイパースペクトルカメラの基礎にまとめています。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。受賞歴・メディア報道・学術成果は実績のページに掲載しています。
正直に書く|分光方式が向かないケース
ハイパースペクトルカメラは万能ではありません。次に当てはまるなら、別の方式のほうが確実です。
- 違いが「形状だけ」の欠陥:打痕・バリ・変形はレーザー変位のほうが速く、装置も安く済みます。
- 鏡面性が非常に高い金属面:正反射が支配的になり、分光情報が飽和して差が取れないことがあります。
- 極端な高速ライン:ラインスキャン型は1ラインごとに分光するため、露光時間と搬送速度の折り合いが必要です。
- 外光や環境光が安定しない設置環境:分光は光源の安定性に強く依存します。遮光できないなら精度は出ません。
- 単価が低く検査コストを吸収できない製品:投資回収が合わないなら、抜取検査+工程改善のほうが合理的です。
導入ステップ|いきなり装置を買わない
表と判定で候補が絞れたら、購入ではなく検証から入ります。失敗する導入の多くは、この順番が逆になっています。
- 実ラインの条件でサンプルを集める:良品・不良品を最低でも各10点。静止した机の上ではなく、実際の搬送・照明条件に近づけます。
- 波長を絞る前に全波長で撮る:先に安価な数バンドのカメラを選ぶと、有効波長を外したときに検証自体がやり直しになります。
- 有効波長を選定し、必要バンド数を確定する:ここで初めて「本番機に何バンド必要か」が決まります。数バンドで足りると分かれば装置は安くなります。
- タクト・外光・品種切替で再現性を確認する:PoCで出た精度が本番で落ちる原因はほぼここです。PoCから本導入までの進め方も参考にしてください。
ここまで読んで、自社の欠陥が対応表の右側(分光が要る列)に当たりそうだと感じた方へ。判断の材料になりそうな資料をまとめています。他方式と比べる材料の一つとして、お手すきのときにご覧いただけたら嬉しいです。




