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残留農薬の検査方法4分類を比較|費用・日数・法的位置づけ【2026】

残留農薬の検査方法は、公定法に基づく機器分析・個別成分の分析・簡易検査キット・分光や画像によるスクリーニング研究の4つに整理できます。この記事を読むと、自社のロットにどの方法を、いくらで、何日かけて当てるべきかを判断できるようになります。

結論から書きます。食品衛生法の残留基準(ポジティブリスト制度)への適合を判定できるのは、GC-MSやLC-MSなどを用いた公定の試験法に基づく機器分析だけです。簡易検査キットや分光・画像による手法は、公定分析にかける前のふるい分け(スクリーニング)や、産地側の管理改善に使う位置づけになります。外部の検査機関に一斉分析を依頼した場合の費用は1検体あたりおよそ1.5万〜8.5万円、納期は3〜14営業日が目安です。

残留農薬の検査方法は4分類|まず全体像を比較する

残留農薬の検査は「どこまで法的に通用するか」で性格が大きく変わります。同じ「検査」という言葉でも、出荷可否の判定に使えるものと、社内の管理改善にしか使えないものが混在しているのが実務の混乱の原因です。まず4分類で整理します。

検査方法

分かること・精度

費用の目安

所要時間

法的位置づけ

向く用途

公定法に基づく一斉分析(GC-MS/MS・LC-MS/MS)

数百成分を同時に定量。一律基準0.01ppm水準の微量まで対応

1検体 約1.5万〜8.5万円(項目数・機関による)

3〜14営業日

残留基準への適合判定に使える

出荷判定、取引先への提出、輸出、クレーム原因究明

個別試験法(グリホサート等)

特定の1成分を高感度に定量

1検体 約1.8万〜2.6万円

10営業日前後

残留基準への適合判定に使える

一斉分析で拾えない成分の確認

簡易検査キット(イムノアッセイ・酵素法)

特定の農薬に限定した定性〜半定量。交差反応による偽陽性がありうる

キットにより異なる(機器分析より低廉)

前処理が簡素で当日中に結果が出るものが多い

適合判定には使えない(スクリーニング)

多検体の一次ふるい分け、産地の管理確認

分光・画像によるスクリーニング(近赤外・ハイパースペクトル等)

研究段階。対象は主に表面付着、モデルの汎化性能が課題

装置導入とモデル構築が前提

秒〜分(撮像自体は高速)

適合判定には使えない

研究開発、工程管理の探索

この表で最も重要なのは「法的位置づけ」の列です。簡易検査や分光で「陰性だった」ことは、残留基準に適合していることの証明にはなりません。逆に、公定分析は精度が高い代わりに1検体ごとに費用と日数がかかるため、全ロットに当てることは現実的ではありません。この非対称性をどう設計するかが、次章以降のテーマです。

公定法による分析|制度の前提と費用・納期

日本では、農薬などが基準値を超えて残留する食品の販売・輸入は食品衛生法で禁止されています(ポジティブリスト制度)。残留基準は消費者庁「食品中の残留農薬等」のとおり食品ごとに設定され、食品安全委員会が安全と評価した量の範囲内で決められます。なお食品の衛生規格基準を扱う食品衛生基準行政は、2024年度(令和6年度)に厚生労働省から消費者庁へ移管されており、現在の所管は消費者庁です(消費者庁資料)。

残留基準が設定されていない農薬等については、「一律基準」が適用されます。消費者庁のポジティブリスト制度Q&Aでは、薬事・食品衛生審議会での検討を経て一律基準を0.01ppmと設定したと明記されています(いわゆる一律基準についての質問)。同Q&Aは、一律基準を超えたからといってすべてが危険な食品と断言はできないが、本来残留しないはずの農薬等が残っていることを意味するため原因究明と適切な管理が重要だ、とも述べています。

この判定に使われるのが公定の試験法です。試験法は「不検出」基準の農薬等に用いる告示試験法と、それ以外の通知試験法に分かれ、さらに1つの方法で多数の化合物を扱う一斉試験法と、成分ごとの個別試験法に整理されます。日本薬学会の解説(田口貴章, YAKUGAKU ZASSHI 145巻2号, 2025年, doi:10.1248/yakushi.24-00164-2)によれば、2024年3月現在で通知試験法として10の一斉試験法と357の個別試験法が通知されています。

通知試験法は「必ずこれで実施しなければならない」わけではありません。消費者庁Q&Aは、通知の試験法と比較して真度・精度・定量限界が同等以上で、特異性が認められる方法であれば別の方法でもよいとしています(試験法についての質問)。ただしその同等性は、食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインに沿った添加回収試験などで示す必要があり、簡易な手法が自動的に代替になるという話ではありません。

費用と納期は検査機関が料金を公表しています。実勢感をつかむために、各社サイトの公表値をそのまま並べます(税区分は各社の表記どおりで、食環境衛生研究所は税込、日本食品機能分析研究所は税別です)。

検査機関

メニュー

費用

納期

食環境衛生研究所

一斉分析223(GLOBALG.A.P.・JGAP向け)

27,500円

5営業日

同上

一斉分析468(輸出入検査向け)

82,500円

10営業日

同上

グリホサート等の個別分析

18,700〜26,400円

10営業日

日本食品機能分析研究所

残留農薬307項目一斉分析

42,000円

14営業日

同上

残留農薬500項目一斉分析

85,000円

14営業日

農民連食品分析センター

GC/MSによる一斉分析(252成分対応)

会員14,850円〜

各社要確認

料金は改定されるため、依頼前に必ず各機関の最新料金表を確認してください。ここで押さえるべきは絶対額よりも構造です。項目数を増やすほど費用は上がり、納期も延びる。だからこそ「どの成分を、どのロットで測るか」の設計が費用対効果を決めます。

簡易検査キットでできること・できないこと

簡易検査キットの主流はイムノアッセイ(抗体が特定の物質に結合する性質を利用した測定法)で、代表例がELISA(酵素標識免疫測定法)です。抗体と酵素反応による発色を吸光度で読み取り、対象農薬の有無や概略濃度を短時間で判定します。

利点は前処理の軽さです。農研機構の研究成果では、ELISA法を検出に用いるとケイソウ土カラム等による精製が不要なため、簡易・迅速に検出できると報告されています。使用農薬が分かっている場面で、多検体を短時間でふるい分ける用途には合理性があります。

一方で限界も明確です。第一に、キットは対象農薬ごとに用意する必要があり、数百成分を同時に見る一斉分析の代わりにはなりません。第二に、構造の似た物質に抗体が反応する交差反応で偽陽性が出ることがあります。第三に、多くのキットは定性〜半定量にとどまり、基準値との厳密な比較には向きません。したがって簡易検査は「陽性が出たら公定分析に回す」ための一次スクリーニングとして設計するのが実務的です。

出荷前の自主検査を回す5ステップと現場の落とし穴

前提として、ポジティブリスト制度は事業者に検査の実施を義務付けている制度ではありません。消費者庁Q&A(事業者の自主管理等についての質問)は、検査の実施を義務付けるものではないため分析費用の補助制度を導入する予定はない、と明記しています。つまり自主検査の設計は事業者側の裁量であり、だからこそ設計の巧拙が結果を分けます。

  1. 対象成分を絞る:防除記録・使用農薬台帳から、その圃場と作型で実際に使われた成分と、近隣からのドリフト(飛散)リスクを洗い出す。
  2. ロットを定義する:同じ生産者・同じ出荷日など、追跡可能な単位でロットを切る。
  3. 代表サンプルを採る:ロット全体を代表するように複数箇所から採取し、採取者・日時・箇所を記録する。
  4. 検査機関を選ぶ:GAP認証を取得・維持する場合は、日本GAP協会が定める検査機関ガイドラインへの適合を確認する。国際水準GAPの考え方は農林水産省のGAP情報にまとまっています。
  5. 結果を記録し是正につなげる:検出された場合は該当ロットの扱いを決め、原因(誤使用・ドリフト・容器の残留など)まで遡って再発防止に反映する。

落とし穴の筆頭はサンプリングの偏りです。消費者庁Q&Aは、検査は対象食品のロット(同じ生産者や出荷日などのひとかたまり)について代表する試料を採取して実施し、基準値超過が出た場合は試料が採取されたロットが販売禁止等の措置対象になると説明しています(試験法についての質問 Q100・Q101)。ロットの切り方が粗いと、1点の検出が広い範囲を巻き込みます。逆に細かすぎれば検査費用が膨らみます。

もう一つは輸出です。農林水産省は、日本の残留農薬基準を満たしていても輸出先国・地域の基準を満たせず輸出できない場合があると注意喚起しており、諸外国における残留農薬基準値に関する情報を公開しています。輸出を視野に入れるなら、検査項目の設計は「日本の基準」ではなく「相手国の基準」から逆算する必要があります。加工品については、消費者庁Q&Aが原材料の基準適合性により判断するとしており、検査の当て先は原材料側になります。

検査そのものではなく、検査に至る前の外観・異物・品質の判定を自動化したい場合は、出荷検査の自動化で扱っている工程設計の考え方も参考になります。

分光・画像によるスクリーニングは今どこまで来ているか

近年、近赤外分光やハイパースペクトルイメージング(波長ごとの反射光の強さを画像として記録し、素材や成分の違いを見分ける技術)を残留農薬の検出に応用する研究が進んでいます。ただし現状は研究段階であり、基準適合の判定に使えるものではありません。ここは誇張せずに書きます。

査読付きレビュー(Liang et al., Foods, 14(17):2977, 2025年, doi:10.3390/foods14172977)は、穀物における残留農薬検出は果実・野菜に比べて初期段階にあるとしたうえで、複数の制約を挙げています。もみ殻やぬかといった外皮が表面残留の検出を難しくすること、表面の粗さや色ムラがスペクトルデータの品質を左右しモデルの転用を妨げること、農薬ごとのスペクトルが重なり合って多成分の判別が困難なこと、装置コストと前処理・演算の重さが産業導入の障壁になっていることです。

実務者向けに言い換えると、分光・画像手法が向かないケースは次のとおりです。第一に、一律基準0.01ppm水準のごく微量。第二に、浸透移行性農薬のように内部へ入り込んだ残留。第三に、土ぼこり・ワックス・水滴など表面付着物との区別が必要な場面。第四に、品種・産地・熟度が変わるたびにモデルの作り直しが必要な、多品目少量の現場です。これらに該当するなら、素直に公定分析を選ぶのが正解です。

では何に使えるのか。現時点で現実的なのは、農薬そのものではなくカビ毒の検出産地判別・品種判別のように、対象物質や状態の差がスペクトルに比較的大きく現れる課題です。波長ごとの光の情報から「見えない差」を画像化するハイパースペクトルカメラの得意分野を理解したうえで、残留農薬については補完的な位置づけにとどめる、という整理が誠実だと考えています。

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。残留農薬の基準適合判定はお手伝いできませんが、外観では分からない品質差の可視化であれば力になれるかもしれません。

まとめ|目的別の使い分け

出荷可否の判定、取引先への提出、輸出対応、クレームの原因究明――この4つは、いずれも公定法に基づく機器分析を選んでください。費用と納期がかかっても、法的に通用する唯一の手段です。項目数は「日本の基準」ではなく「出荷先の基準」から逆算して決めます。

産地内の管理改善や多検体の一次ふるい分けには、対象成分が絞れている前提で簡易検査キットが有効です。陽性が出たら公定分析に回す二段構えにすれば、費用を抑えつつ見落としを減らせます。分光・画像による手法は、現時点では残留農薬の判定手段ではなく、他の品質課題を非破壊で見るための技術として捉えるのが妥当です。

もし「どの検査をどこまでやるべきか」の設計段階で迷っておられるなら、まずは公定分析の項目設計を検査機関と詰めることをおすすめします。そのうえで、外観や内部品質の非破壊評価に関心が出てきた際に、私たちの資料が判断材料の一つになれば嬉しいです。

よくある質問

残留農薬の検査はハイパースペクトルカメラでできますか

残留基準への適合判定はできません。食品衛生法の残留基準への適合は、GC-MSやLC-MSなど公定の試験法に基づく機器分析で判定します。分光・画像による農薬検出は研究段階で、主に表面付着が対象であり、微量域や内部に浸透した残留、表面付着物との区別に課題があります。

残留農薬の一斉分析はいくらかかりますか

検査機関の公表料金では、項目数によって1検体あたりおよそ2.7万円から8.5万円程度です。たとえば食環境衛生研究所は一斉分析223項目が27,500円で5営業日、一斉分析468項目が82,500円で10営業日と公表しています。料金は改定されるため依頼前に最新料金表をご確認ください。

残留基準が設定されていない農薬はどう判断しますか

一律基準が適用されます。消費者庁のポジティブリスト制度Q&Aでは、一律基準は0.01ppmと設定されたと説明されています。残留基準が定められていない農薬等がこの値を超えて残留する食品等は販売等が禁止されます。

出荷前の自主検査は法律で義務付けられていますか

義務付けられていません。消費者庁のQ&Aは、ポジティブリスト制度は検査の実施を義務付けるものではないと明記しています。そのため検査項目やロットの切り方、頻度は事業者が自ら設計することになります。

輸出する場合も日本の基準で検査すればよいですか

日本の基準だけでは不十分な場合があります。農林水産省は、日本の残留農薬基準を満たしていても輸出先国・地域の基準を満たせず輸出できない場合があるとして、諸外国の残留農薬基準値に関する情報を公開しています。検査項目は相手国の基準から逆算して設計してください。

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