果物の内部腐敗の検査は、外見が正常な果実の中で起きている褐変・芯腐れ・す入りを、切らずに見抜く工程です。この記事では選果場・青果卸・産地JAの品質管理担当者に向けて、症状の分類と非破壊検査6手法の比較、そして「どの症状にどの手法が効くか」の判断基準を整理します。
結論から言うと、青果物の内部品質検査の本質は「光や信号が果実を透過するかどうか」にあります。表面を見る検査では原理的に届かない領域であり、実務で最初に検討すべきは透過型の近赤外(NIR)センサーです。実際、選果機の可視-近赤外スペクトルからリンゴ「ふじ」の内部褐変を1か月先まで予測する研究では、誤判別率19.8%・感度88.6%・特異度78.1%が報告されています(蔦ら, 日本食品工学会誌 20(1), 2019)。つまり「完璧に当てる技術」ではなく、見逃し率と過検出をどこで妥協するかを設計する技術だと理解するのが出発点です。
なお、食品全般の鮮度低下・腐敗の見抜き方は食品の腐敗・傷みを出荷前に見抜く非破壊検査の比較記事で扱っています。本記事は青果物の「外から見えない内部症状」に絞って解説します。
外から見えない内部品質の症状を6つに分類する
「中が傷んでいた」というクレームは、実際には原因も発生タイミングも異なる複数の現象がひとまとめにされています。手法選定の前に、自社ロットで出ている症状がどれなのかを切り分けることが先決です。
1. 内部褐変(りんご・洋なし)
果肉内部が茶色く変色する生理障害で、外皮には症状が出ません。長期貯蔵やCA貯蔵(酸素・二酸化炭素濃度を制御した貯蔵)の後半、あるいは出荷後の流通過程で顕在化するのが厄介な点です。収穫直後は無症状で、選果時点では「これから褐変するかどうか」を予測する問題になります。
2. 芯腐れ(パイナップル・トマト・柑橘)
果心部から腐敗が進行する症状で、多くは糸状菌などの微生物が花落ち部や果梗部から侵入して起こります。果実の中心という最も深い位置で発生するため、表面観察はもちろん、浅い深度しか見えない手法でも捉えられません。
3. 蜜症(りんご)
維管束周辺の細胞間隙が糖を含む液で満たされ、半透明に見える状態です。適度な蜜入りは高付加価値の指標になる一方、過度に進むと貯蔵中に内部褐変へ移行するリスクがあります。「除去したい欠陥」ではなく「等級づけに使う特徴」でもある点が他の症状と異なります。
4. す入り(大根・かぶ・ごぼう)
根内部の細胞が崩壊して空洞やスポンジ状の組織ができる生理障害です。生育後期の急激な肥大や収穫遅れ、抽苔(とう立ち)と関連して発生します。空洞=密度の低下として現れるため、密度差を捉える手法との相性が良い症状です。
5. 内部腐敗(玉ねぎ・柑橘)
玉ねぎの内部の鱗片が軟化・腐敗する、柑橘のじょうのう内部が傷むといった症状です。外皮が乾いていて一見健全なため、コンテナ単位で流通した後にクレーム化しやすい典型例です。密度低下と水分状態の変化を伴うことが多いのが特徴です。
6. 打撲・内部損傷
収穫・運搬時の衝撃で果肉内部が損傷し、時間差で褐変や軟化として現れます。X線CTを用いた研究では、モモ・ナシ・リンゴを対象に、核割れや芯腐れといった構造的変化に加え、打ち傷によって生じた空気層や水浸状部位をCT値の違いで識別できることが報告されています(小川ら, 植物環境工学 17(2), 2005)。
果物の内部腐敗を非破壊で検査する6手法の比較
「中を見る」と一口に言っても、原理によって見える対象・ライン適性・コストがまったく違います。実務で候補になる6手法を整理します。
手法 | 主に見える対象 | ライン適性(全数) | コスト感 | 主な限界 |
|---|---|---|---|---|
近赤外分光(透過型・NIR) | 糖度、酸度、内部褐変、内部の水分・成分変化 | 高い(選果機に組込み実績あり) | 中〜高 | 果実サイズ・果皮の厚さで透過光量が不足する。品種ごとに検量線が必要 |
近赤外分光(反射型) | 表層数mmの成分・水分 | 高い | 低〜中 | 深部の症状は原理的に見えない |
X線・X線CT | 空洞、す入り、密度差、異物、内部構造 | 透過X線は高い/CTは低い(撮像に時間) | 高(CTは特に高額) | 密度差のない変色は苦手。管理区分・遮蔽など運用負荷 |
音響・打音 | 空洞、硬さ・組織の緩み | 中(接触または打撃が必要) | 低 | 変色や成分変化は見えない。個体差・設置環境の影響が大きい |
MRI・NMR | 水分分布、内部組織の状態、成熟度 | 低い(研究・抜取向け) | 高 | 測定に時間がかかり全数検査に不向き |
重量・比重選別 | 空洞・す入り・内部腐敗による密度低下 | 非常に高い | 低 | 症状の種類は特定できない。密度が変わらない症状は素通り |
NMRについては、永久磁石を用いた52 mTの超低磁場NMR装置で、柑橘の緩和時間の変化から糖含量や内部水分の変化を捉え、成熟度診断に利用できる可能性が報告されています(植物環境工学 33(1), 2021)。ただし現状は研究・抜取検査の領域で、選果ラインの全数検査に載せる技術ではありません。
糖度そのものの非破壊測定については、果物の糖度を非破壊で測る手法とNIRの選び方で詳しく比較しています。
正直な話:内部品質検査で分光が万能ではない理由
ここが本記事で最も伝えたい点です。内部品質の非破壊検査は「透過」が本質であり、表面反射を主とするハイパースペクトルイメージングは万能ではありません。
透過型NIRは、すでに実用化されている領域
果実に光を当てて反対側や側面から出てくる透過光を分光する内部品質センサーは、すでに全国の選果施設に導入されています。前掲の内部褐変予測の研究も、研究室の専用装置ではなく実際の選果機に搭載された分光器で取得したスペクトルを用いています(農研機構 2018年研究成果情報)。また、400〜2499 nmの分光データから、トマトの甘味・うま味・果汁感・硬さといった食味・食感の官能評価スコアを推定する研究成果も公表されています(農研機構 2021年研究成果情報)。
つまり、りんごの内部褐変・蜜症、柑橘の糖度・酸度といった「主要品目の定番症状」については、既存の透過型NIRセンサーで対応できる可能性が高い。また、す入りや玉ねぎの内部腐敗のように密度が明確に下がる症状なら、はるかに安価な重量・比重選別で相当部分を弾けます。新しい装置を検討する前に、この2つを潰しておくべきです。
それでも分光イメージングが効く3つの場面
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発していますが、内部品質の領域で分光イメージングが優位に立つのは、次の条件に当てはまるときだと考えています。
- 症状が表面に微弱な兆候として現れ、それを面的に可視化したい場合。点で測る分光センサーは「果実のどこを測ったか」に結果が左右されますが、イメージングなら果実全面のどこに異常があるかを画像として捉えられます
- 複数の項目を同時に判定したい場合。表面の傷・カビ・変色と、内部由来の兆候を1台で扱いたいケースです
- 既存の内部品質センサーで検量線が立たない症状を、研究段階から検討したい場合。どの波長帯に情報があるか未知の段階では、波長を絞った専用センサーより広帯域を一度に取得できるほうが探索に向きます
逆に、果実の深部で完結する芯腐れのように、表面にほとんど情報が出ない症状は分光イメージングの不得手な領域です。この場合はX線や比重といった、原理的に内部を貫通する手法を選ぶべきです。ハイパースペクトルカメラで何が見えて何が見えないのか、4業界36ユースケースの整理もあわせてご確認ください。
手法を選ぶ3ステップの判断フレームワーク
「症状 × 出荷ロット規模 × 許容できる見逃し率」の3軸で絞り込むと、検討が一気に現実的になります。
ステップ1:症状を1つに特定する
クレーム品を最低30個は割って、症状を上記6分類のどれかに割り当てます。ここで「変色系(褐変・蜜症)」なのか「密度系(空洞・す入り・腐敗)」なのかを判定するのが最重要です。変色系なら分光(透過NIR)、密度系ならX線・比重・音響が第一候補になります。複数症状が混在する場合は、金額インパクトが最大の1つに絞ります。
ステップ2:出荷ロット規模から全数か抜取かを決める
ライン速度と処理量が制約になります。全数検査が必要なら、1個あたりの処理時間が数十〜数百ミリ秒で済む透過NIR・透過X線・比重選別に選択肢が限られます。CTやMRIは1個あたり秒〜分単位を要するため、抜取検査やロット判定用と割り切るのが現実的です。
ステップ3:許容できる見逃し率から精度目標を逆算する
ここを曖昧にしたまま導入すると必ず失敗します。前掲の内部褐変予測では感度88.6%・特異度78.1%、すなわち褐変果の約1割は見逃し、健全果の約2割は過検出される水準です。この数字を「使える」と見るか否かは、クレーム1件あたりの損失額と、良品を弾いた場合の廃棄損の比較で決まります。導入判断は精度の絶対値ではなく、この損益比較で行ってください。
実務でつまずく4つの落とし穴
1. 品種・産地・季節でモデルが崩れる
スペクトルは品種、栽培地、収穫年、貯蔵条件で変化します。ある年に作った判別モデルが翌年そのまま通用する保証はなく、毎年の追加データによる再学習を前提に運用体制を組む必要があります。ベンダー任せにせず、自社でデータを蓄積する仕組みを最初に作ってください。
2. 正解データ作りが最大のコスト
非破壊検査の判別モデルは、「非破壊で測ったスペクトル」と「その果実を実際に割って確認した症状」のペアがなければ作れません。前掲研究が576個のリンゴを使い、しかも1か月待ってから切断して判定しているように、正解データの整備には人手と時間がかかります。装置費より、この工数を見積もり漏れするケースが目立ちます。
3. ライン速度の制約を後回しにする
ラボ環境で高精度が出ても、実ラインの搬送速度では露光時間が足りず信号対雑音比が悪化することがあります。とくに透過測定は光量が絶対的に不足しがちで、速度を落とすか光源を強くするかのトレードオフに必ず直面します。PoCの段階から実際の処理量で検証してください。
4. 表面の欠陥と内部の症状を1台で解決しようとする
表面のカビや傷は反射系の手法、内部症状は透過系の手法と、原理が分かれます。無理に統合せず工程を分けたほうが、結果的に安く早く立ち上がることが多いです。表面側の検討は食品表面のカビ検出装置の比較が参考になります。
導入は小さなPoCから始める
選果ラインへの投資は金額が大きく、いきなり本設備を組むのは現実的ではありません。おすすめの進め方は次の3段階です。
- 症状の特定とサンプル収集:クレーム品と健全品を各30〜50個、症状分類と併せて集める(1〜2か月)
- 抜取ベースの原理検証:静止状態で測定し、症状と信号の相関があるかだけを確認する。ここで相関が出なければ手法自体が不適合
- ライン条件での実証:実際の搬送速度・照明環境で再現するか、見逃し率が目標に収まるかを検証してから設備投資を判断する
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。取り組みの一部は受賞歴・メディア報道・学術成果の一覧で公開しています。記事の最後で恐縮ですが、外から見えない内部品質の判定でお悩みでしたら、まずは資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。適用が難しい症状であればその旨も正直にお伝えします。




