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ハイパースペクトルカメラの導入事例|食品工場の5用途と限界【2026年】

ハイパースペクトルカメラの導入事例を、食品工場の現場目線で用途タイプ別に整理しました。異物検出・鮮度判定・成分可視化などについて、公的機関や学術論文で確認できる実用化の段階と、ラインに入らない条件までを正直にまとめます。

結論から言うと、食品工場でのハイパースペクトルカメラの使われ方は、大きく「異物検出」「鮮度・熟度判定」「成分・水分の可視化」「異種材料の判別」「原料受入検査」の5タイプに整理できます。このうち学術的に成果が積み上がっているのは成分の可視化と鮮度・熟度の領域で、異物検出は「X線や金属検出機で映らないものを補う」位置づけです。そして、どのタイプでもライン速度・照明条件・対象の含水率という3つの条件次第で成立するかどうかが変わります。「どの工場にもすぐ入る技術」ではありません。

なお、ハイパースペクトルカメラとは、通常のカメラがRGBの3色で捉えている光を、数十〜百数十の波長帯に分けて記録するカメラのことです。仕組みそのものから知りたい方は、ハイパースペクトルカメラの仕組みと業界別の活用事例もあわせてご覧ください。

食品工場の導入事例は「用途タイプ」で読むと社内説明しやすい

稟議のために事例を探すと、個別企業の名前が並んだ記事に行き着きがちです。ただ、他社名を並べても「では自社のラインで成立するのか」という問いには答えられません。実務では、用途タイプ・見ている対象・波長帯・実用化の段階という4点に分解したほうが、上長にも設備部門にも説明が通ります。

以下は、公的機関の発表や査読誌・学会発表で確認できる範囲をもとにした、用途タイプ別の整理です。「実用化の段階」は、装置として市販・稼働している段階(実用)/研究成果は出ているが現場条件に強く依存する段階(実証)/原理は示されているが現場運用は個別検討が必要な段階(研究)の3段階で表記しています。

用途タイプ

見るもの

代表的な波長帯

実用化の段階

向かない条件

異物検出

製品と異物の分光反射率の差(樹脂・紙・毛髪・虫など)

可視〜近赤外(およそ400〜1000nm)/近赤外(1000〜1700nm)

実証

異物が製品の下に埋もれている/製品と異物の成分が近い/異物サイズが画素分解能より小さい

鮮度・熟度の判定

水分・色素・表面組織の変化に伴うスペクトルの推移

可視〜近赤外(400〜1000nm)

実証

包装フィルム越し/個体差が大きく学習データが揃わない/変化が表面に出ない品目

成分・水分の可視化

糖・水・油など特定成分の吸収帯の分布

近赤外(800〜2500nm)

実用〜実証

厚みのある製品の内部深部/表面の凹凸や光沢が強い/温度変動が大きい環境

異種材料の判別

樹脂・紙・金属など材料ごとの吸収スペクトル

近赤外〜中赤外

実用

黒色(カーボンブラック含有)の材料/薄膜すぎて光が透過する/濡れて表面が均一化している

原料受入検査

ロット間の成分・産地・品種のばらつき

可視〜近赤外

研究〜実証

全数検査を求められる/規格値が法令で分析法まで指定されている項目

表の中で「実用」と書けるのは異種材料の判別と、成分の一部です。ここを曖昧にしたまま社内提案すると、PoC後に「話が違う」となりやすいところです。

用途タイプ別に見る、何が見えて・どこまで実用化されているか

1. 異物検出:X線で映らないものを波長差で拾う

金属検出機とX線検査機は密度差のある異物には強い一方、樹脂片・紙片・毛髪・虫のように密度が製品と近い異物は原理的に映りにくい領域です。ここを補う候補として分光イメージングが検討されてきました。ハイパースペクトル技術を異物検出に応用する研究は、可視化情報学会誌でも報告されています(竹内ら「ハイパースペクトル技術による異物検出」可視化情報学会誌 28巻, 2008年)。

実務での勘所は、「異物が表面に露出しているか」です。光は製品の内部深くまでは届かないため、生地に練り込まれた異物や充填後の内部異物は原理的に不利になります。逆に、コンベア上を単層で流れる原料・カット野菜・乾燥品のように、対象が薄く広がる工程は相性が良い条件です。X線との使い分けの全体像は、X線で映らない異物の検出方式の比較で整理しています。

向く現場:単層で流れる原料・粉体・乾燥品、目視検査員が張り付いている選別工程。
向かない現場:包装後の全数検査、厚みのある成形品の内部、異物が製品と同系色かつ同組成のケース。

2. 鮮度・熟度の判定:出荷前に「傷みかけ」を面で見る

鮮度低下は、水分・色素・表面組織の変化としてスペクトルに現れます。農研機構は、近赤外分光(波長700〜2500nm)とAIによる多変量解析を組み合わせ、トマトの甘味・うま味・果汁感といった食味を非破壊で推定する成果を公表しています(農研機構「(研究成果)青果物のおいしさを非破壊的に計測」2021年6月28日)。食味の推定と鮮度判定は別物ですが、「人の感覚に近い評価をスペクトルから数値化する」という筋道は共通しています。

一方で、鮮度判定は品目ごとにモデルを作り直す必要があるのが最大のコストです。同じ「傷み」でも、葉物・果実・加工品では出方が違います。導入時は品目を1つに絞り、季節をまたいでデータを取ることが前提になります。手法全体の比較は食品の腐敗・傷みを非破壊で見抜く手法の比較にまとめています。

向く現場:出荷前選別、返品・クレームの原因が「見た目では判断できない傷み」に集中している工程。
向かない現場:包装フィルム越しの判定(フィルム自体の吸収が邪魔をする)、日ごとに品目が入れ替わる多品種少量ライン。

3. 成分・水分の可視化:糖度や油の分布を「面」で捉える

成分の可視化は、ハイパースペクトルイメージングが最も長く研究されてきた領域です。メロン切断面の糖度分布を可視化した研究では、液晶チューナブルフィルタを冷却CCDカメラに取り付け、800〜1000nmを5nm刻みで撮影し、910nm付近の糖の吸収帯から糖度分布マップを作成したと報告されています(蔦ら「ハイパースペクトルシステムによる近赤外分光イメージング手法」映像情報メディア学会誌 56巻12号, 2002年)。

加工食品では、揚げ物の衣への油の浸透や、煮物への煮汁の浸透をハイパースペクトルイメージングで観察した研究発表もあります(澤足ら「揚げ物における油および煮物における煮汁の浸透の観察」日本調理科学会大会研究発表要旨集, 2017年)。単点の測定器では出せない「分布」が取れることが、この技術の本質的な価値です。

ただし、糖度そのものを測るだけなら近赤外の単点式(いわゆる非破壊糖度計)で足りる場面が多く、コスト面でも有利です。「分布が要るのか、代表値で足りるのか」を先に決めてください。判断材料は果物の糖度を非破壊で測る手法の比較にあります。

4. 異種材料の判別:包装材・樹脂の混入を見分ける

材料判別は、5タイプの中で最も「実用」に近い領域です。近赤外吸収・中赤外吸収・ラマン散乱・X線透過などを用いた光学識別法は、混合廃プラスチックから単一素材を回収する高速ソーティング機器として実装が進んでいます(河済「光学識別法を用いる次世代ソーティング機器の開発動向」廃棄物資源循環学会論文誌 29巻2号, 2018年)。食品工場でも、包装材の取り違え検知や、原料に混入した異種樹脂の判別に同じ原理が使えます。

注意点は黒色材料です。カーボンブラックを含む黒い樹脂は近赤外をほとんど吸収してしまい、通常の近赤外方式では判別が困難になります。黒い樹脂トレーや黒い部品が絡む工程では、事前に必ずサンプルで確認してください。

5. 原料受入検査:ロットのばらつきを記録として残す

受入検査は、検出というより「記録」の用途です。ロットごとにスペクトルを撮っておけば、後で品質トラブルが起きたときに原因のロットを遡れます。産地・品種の違いがスペクトルに現れることは報告されており、この方向の応用は出荷検査・目視検査の自動化手法の比較とあわせて検討すると全体像が見えます。

ただし、法令で分析法まで指定されている検査項目(残留農薬の公定法など)を分光で代替することはできません。あくまで公定法の前段のスクリーニングという位置づけになります。

私たちは国産のハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、上の5タイプのうちどれが自社ラインに当てはまりそうかを整理する段階でしたら、製品の考え方をご覧いただけると判断が早くなるかもしれません。

導入検討の3ステップ

順番を間違えると、装置を買ってから使い道を探すことになります。実務では次の順で進めるのが安全です。

  1. ステップ1:見たい違いを1つに絞る(1〜2週間)
    「異物全般」ではなく「オレンジ色のシリコンパッキン片」のように、対象を1つに絞ります。ここで対象を広げるほど、後の精度検証が破綻します。同時に、現状の検査工数・不良流出率など、比較対象になる数字を控えておきます。
  2. ステップ2:静止サンプルで「そもそも見えるか」を確認する(1〜2か月)
    ラインに載せる前に、実物サンプルを静止状態で撮影し、対象と背景のスペクトルが分離できるかを見ます。ここで分離しないものは、ライン化しても分離しません。逆に言えば、この段階の判定は比較的短期間・低コストで済みます。
  3. ステップ3:ライン条件(速度・照明・振動)で成立するかを検証する(3〜6か月)
    静止で見えても、実ライン速度で露光時間が足りない、外光が入る、コンベアの振動でブレる、といった理由で成立しないことは普通にあります。ここが最大の関門です。照明の追加や遮光カバーなど、カメラ以外の設備投資が必要になるケースも見込んでください。

この3ステップのどこで止めても構わない、という設計にしておくことが重要です。ステップ2で分離しないと分かった時点で撤退できれば、投資の傷は浅く済みます。

実務でつまずく落とし穴

導入検討で実際に問題になりやすいのは、精度そのものより周辺条件です。

  • ライン速度:多くのハイパースペクトルカメラはラインスキャン方式で、対象を少しずつ動かしながら1ラインずつ撮ります。高速ラインでは1ラインあたりの露光時間が足りず、信号が埋もれます。速度を落とせない工程では、そもそも成立しない可能性があります。
  • 照明条件:分光は「当てた光の反射」を見る技術なので、照明が変わると結果が変わります。工場の蛍光灯・LED・外光が混ざる環境では、専用照明と遮光がほぼ必須です。
  • 水分と表面光沢:濡れた表面は正反射で白飛びし、スペクトルが取れません。洗浄直後の工程では、水切り後に撮る設計が要ります。
  • データ量と運用:ハイパースペクトルデータは通常画像の数十倍の容量になります。保存期間・解析担当・モデル更新の担当を決めずに始めると、PoCの後で止まります。
  • そもそも過剰な場合がある:目的が色や大きさの判別だけなら、RGBカメラや汎用の画像検査装置で十分なことが多く、費用も桁が違います。「見えない違いを見る」必要があるかを最初に疑ってください。

正直に言えば、ハイパースペクトルカメラは万能ではありません。5タイプのうち自社に当てはまるものが1つも無い、という結論になる工場もあります。それは失敗ではなく、投資判断として正しい結果です。

自社ラインに当てはめるために

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とご一緒しながら、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。特許の取得状況やメディア掲載、学術成果は実績一覧にまとめています。食品分野では食品ロス削減をテーマにした展示・発表も行っています。

用途タイプの絞り込みや、静止サンプルでの見え方の確認からご相談いただけます。まずは判断材料として、技術の概要と検討の進め方をまとめた資料をご覧いただけたら嬉しいです。

よくある質問

食品工場でハイパースペクトルカメラを使うと、X線検査機は不要になりますか?

いいえ、置き換えではなく補完の関係です。金属や骨など密度差のある異物はX線検査機が得意で、樹脂片・紙片・毛髪のように密度が製品と近く表面に露出している異物を分光で補う、という使い分けになります。

包装したままでも中身の鮮度を判定できますか?

多くの場合は困難です。包装フィルム自体が光を吸収・反射するため、フィルム越しの判定は条件が厳しくなります。記事内でも鮮度・熟度判定の向かない条件として挙げています。

導入検討にはどれくらいの期間がかかりますか?

記事で示した3ステップの目安では、対象の絞り込みに1〜2週間、静止サンプルで見えるかの確認に1〜2か月、ライン条件での検証に3〜6か月です。静止サンプルの段階で見えなければ、そこで判断を止められます。

黒い樹脂トレーや黒い部品の混入も判別できますか?

通常の近赤外方式では困難です。カーボンブラックを含む黒色材料は近赤外をほとんど吸収してしまうため判別が難しく、中赤外やラマン散乱など別の方式の検討が必要になります。事前のサンプル確認を推奨します。

糖度を測るだけならハイパースペクトルカメラが必要ですか?

代表値だけでよければ近赤外の単点式の非破壊糖度計で足りることが多く、コストも有利です。ハイパースペクトルカメラの価値は成分の「分布」を面で捉えられる点にあるため、分布が必要かどうかで判断してください。

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