鶏肉の骨残り検査を自動化したいが、X線を入れても軟骨や薄い骨が抜けてしまう——そんな食鳥処理・食肉加工ラインの担当者に向けて、骨片検出の5方式を得意・不得意で整理します。読み終えたとき、自社ラインでどの方式から検証すべきかの判断軸が持てる状態を目指します。
結論から言うと、鶏肉の骨残り検査の自動化は「1台で全部」ではなく骨の種類で担当を分けるのが現実的です。密度の高い硬骨や深部の骨はX線透過検査が得意で、逆に密度差の小さい軟骨・薄い骨は分光(光を波長ごとに分けて成分差を見る手法)による検査が向きます。実際、鶏胸肉に埋め込んだ骨片をSWIR(短波長赤外)ハイパースペクトル反射イメージングで検出した研究では、45個中42個(93.3%)の骨片を判別できたと報告されています(Lim et al., Sensors, 2020, DOI: 10.3390/s20144038)。一方で、この手法は肉の深部までは見通せません。両者は置き換え関係ではなく補完関係です。
鶏肉の骨残り検査が自動化しにくい理由
骨残りは、食鳥処理の脱骨(ディボーニング)工程で必ず一定確率で発生します。国内のブロイラー処理羽数は令和6年で7億4,913万羽(農林水産省「令和6年食鳥流通統計調査結果」)という規模で、この量を人の目と指先だけで担保し続けるのは現実的ではありません。だからこそ自動化のニーズが強いのですが、技術的なハードルが3つあります。
1. 骨は「異物」ではなく食品由来である
金属やガラスと違い、骨は鶏肉そのものの一部です。素材として周囲の肉と近い環境にあり、水分を含んだ状態で肉に密着しているため、外来異物のように分かりやすいコントラストが出にくいという性質があります。特に軟骨は主成分がコラーゲンと水分で、赤身や脂肪との差が小さくなります。
2. X線は密度差で見る仕組みである
X線検査は、対象に照射したX線の透過量の差を画像化します。密度が高くX線を通しにくいものほど白く映るため、金属は容易に検出できます。ところがメーカーの技術情報でも「ガラス、石、骨といった密度が低い異物」は検出能力が低下する対象として挙げられています(イシダ「X線検査装置」)。硬骨でも薄く小さいものや、軟骨のように石灰化していないものは、鶏肉との密度差が足りず埋もれてしまいます。この構造は骨に限らず、X線で映らない異物と異物検査4方式の関係を整理した記事で扱った課題と同じです。
3. 法定の食鳥検査は骨残りを対象にしていない
誤解されやすい点ですが、食鳥処理場で行われる公的な食鳥検査は、生体検査・脱羽後検査・内臓摘出後検査の3段階で疾病に罹患した食鳥肉を排除することが目的です。年間30万羽以下の認定小規模食鳥処理業者では公的検査は不要で、管理者による確認結果の報告に代えられます(京都府「食鳥検査」)。つまり骨残りの管理は法定検査ではカバーされず、HACCPに沿った衛生管理の枠組みのなかで事業者が自主的に設計すべき領域です(厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」)。
骨片検出5方式の比較
鶏肉の骨残り検査に使われる方式は、X線・金属検出機・カラー画像検査・近赤外/ハイパースペクトル・目視の5系統に分かれます(X線はさらに単一エネルギーとデュアルエナジーに分かれます)。それぞれ「何が見えて何が見えないか」が原理レベルで決まっているため、まず対象とする骨の種類から逆算するのが選定の出発点です。
方式 | 検出できる対象 | ライン速度 | コスト感 | 向く工程 |
|---|---|---|---|---|
X線検査(単一エネルギー) | 硬骨・金属・ガラス・石。深部も透過して見える。軟骨・薄い骨は苦手 | 高速に対応 | 中〜高 | 包装前・最終ラインの全数検査 |
デュアルエナジーX線 | 2種類のエネルギーの差分で密度差の小さい残骨まで感度を上げる | 高速に対応 | 高 | 脱骨後のむね肉・もも肉の残骨検査 |
金属検出機 | 鉄・ステンレス・アルミなどの金属のみ。骨は原理的に検出不可 | 高速に対応 | 低〜中 | 金属異物対策(骨対策とは別枠) |
カラー画像検査(RGB) | 表面に露出し、色や形が明確に違う骨 | 高速に対応 | 低〜中 | 表面の目視代替、外観選別 |
近赤外/ハイパースペクトル | 表層〜浅い層の硬骨・軟骨を成分差で識別。色が似ていても分離できる | 中〜高速(要検証) | 中〜高 | 脱骨直後の表面検査、ミンチ投入前 |
目視・触診 | 柔軟に対応できるが、薄い骨や硬い軟骨は熟練者でも見落とす | 低速 | 人件費が継続発生 | 少量多品種、最終確認 |
表のとおり、金属検出機は骨対策の選択肢に入りません。磁界の乱れで金属を捉える原理のため、骨・軟骨・樹脂はどれだけ感度を上げても反応しないからです。「異物検査機があるから骨も大丈夫」という前提は、まずここで崩れます。
X線側も進化しています。デュアルエナジーセンサを搭載し、鶏肉に混入した残骨の検出に特化したモデルが実用化されており(イシダ「X線検査装置」)、深部の硬骨を含めた全数検査が必要ならX線が第一候補です。一方、装置メーカーの事例では「検知レベルを上げると誤作動が多発し、再検査に時間がかかっていた」という運用課題も報告されています(システムスクエア「とり肉、残骨検査装置」事例)。感度と誤検出はトレードオフである、というのが現場の実感に近い理解です。
ハイパースペクトルで骨片を見分ける原理と、できないこと
ハイパースペクトルカメラは、数百の波長ごとに反射光の強さを画素単位で測る装置です。RGBカメラが赤・緑・青の3つの情報しか持たないのに対し、はるかに細かい波長分解能(どれだけ細かく波長を分けられるかの精度)で「色」ではなく「素材の成分」を見分けます。マルチスペクトル(数波長〜十数波長)との違いは、この波長の数と連続性にあります。ハイパースペクトルカメラの仕組みと活用事例をまとめたページも参考にしてください。
骨と肉でスペクトルが分かれる理由
骨は無機質(リン酸カルシウム)を多く含み光を反射しやすく、肉は水分と脂肪によって特定の波長の光を吸収します。この差はNIR〜SWIR領域で明確に現れ、ミンチ肉への骨片混入のデモ事例では1000〜1350nmおよび1450〜1700nmの波長域で両者の反射スペクトルに明瞭な差が確認されています(ケイエルブイ「ミンチ肉への骨片の混入」)。前述のSensors誌の研究でも、1153.8nmと1480.2nmの画像差分が判別に有効だったと報告されています(Lim et al., Sensors, 2020)。
可視光では肉に紛れて見えない骨片が、特定の波長では明確なコントラストとして浮かび上がる。これが分光を使う最大の理由です。放射線を使わないため、装置周辺の管理負担が軽い点も現場では利点になります。分光カメラを使った骨検出装置では、撮像領域300mm幅・検査速度20m/分・分解能1mm/画素といった仕様例も公開されています(JFEテクノリサーチ「食肉中の骨検査装置」)。
正直に言って、向かないケース
一方で、ハイパースペクトルには明確な限界があります。過大な期待のまま導入すると失敗するため、先に挙げておきます。
- 深部の骨は見えない:反射方式は主に表層〜浅い層の情報しか取れません。厚いブロック肉の内部に埋没した硬骨は、透過X線のほうが確実です。
- スペクトル差が小さいと検出できない:軟骨のなかでも水分が多く石灰化していないもの、脂肪に覆われた骨などは、肉との差が縮まり分離が難しくなります。事前の実サンプル検証なしに可否は判断できません。
- ライン速度とのバランス:ラインスキャン方式では、速度を上げるほど1ラインあたりの露光時間が短くなり、S/N比が落ちます。照明強度・視野幅・速度はセットで設計する必要があります。
- コスト:一般的なRGBカメラや金属検出機より高価です。実勢の目安はハイパースペクトルカメラの価格と費用相場をまとめた記事で整理しています。
- 表面状態の影響:ドリップや水膜、強い光沢は反射スペクトルを乱します。搬送・照明側の作り込みが精度を左右します。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。取り組みの一部は受賞歴やメディア報道を含む実績一覧で公開しています。骨残りの検証も、まずは実際のサンプルで「分離できるか」を確かめるところからだと考えています。
自社ラインに合う方式の選び方
方式選定は好みではなく、条件から絞り込めます。次の3つの問いに順番に答えると、候補はほぼ2つ以下に収束します。
判断フレームワーク:3つの問い
- 取りこぼしている骨は「硬骨」か「軟骨・薄い骨」か:クレーム品や再検査品を10〜20件集めて分類します。硬骨中心ならX線(できればデュアルエナジー)、軟骨・薄骨中心なら分光系が主候補です。
- 骨は表面に露出しているか、肉の内部に埋没しているか:脱骨直後の表面残りが主因なら分光やカメラ方式が効きます。ブロック内部・成形品の内部なら透過方式しか届きません。
- 全数検査が必要か、抜き取り・工程監視でよいか:全数かつ高速なら既存X線ラインの高感度化が現実的です。工程の当たり所を掴む段階なら、分光で不良発生箇所を可視化するほうが投資対効果が読めます。
導入ステップ
いきなり装置を購入するのではなく、段階を踏むことで失敗コストを抑えられます。
- 不良の実態把握(1〜2週間):どの部位・どの工程・どんな骨が、どの頻度で残るかを記録します。ここが曖昧なまま装置を選ぶと、要件が定まりません。
- 実サンプルでの分離検証:実際の鶏肉と骨片を使い、その方式で信号差が出るかを確認します。カタログ値ではなく自社の製品で確かめることが重要です。
- ライン条件での再現性確認:搬送速度・照明・温度・ドリップなど、実ライン相当の条件で再現するかを見ます。ここで落ちる案件は少なくありません。
- 誤検出率を含めた運用設計:見逃し率だけでなく、過検出による再検査の手間まで含めて損得を評価します。出荷検査の自動化を進める際の考え方と同じく、人の作業をどこに残すかの設計が肝になります。
- 投資計画の検討:検査装置の導入ではものづくり補助金などの活用を検討する企業もあります(検査装置に使える補助金の整理)。ただし公募時期・要件は年度ごとに変わるため、公式サイトで最新情報をご確認ください。
現場でつまずきやすい3つの落とし穴
感度を上げた分だけ再検査が増える
検出感度は高いほど良い、とは限りません。過検出が増えれば再検査の人手が必要になり、自動化したはずのラインに人が戻ってきます。目標は「見逃しゼロ」ではなく、見逃しリスクと再検査工数の合計が最小になる設定点を探すことです。運用開始後の閾値チューニング期間を、あらかじめ計画に織り込んでおくと安全です。
凍結・チルドで見え方が変わる
同じ鶏肉でも、チルドと凍結では水分の状態が変わり、光の吸収も透過も変化します。凍結品を対象にする場合は必ず凍結状態で検証してください。この温度条件による違いは、冷凍食品の異物混入検査装置を検討する際の注意点とも共通します。
装置の導入が工程改善の代わりにはならない
骨残りの多くは、脱骨の刃の摩耗、作業スピード、ロットごとの原料サイズのばらつきといった上流の要因から生まれます。検査装置は結果を捕まえる仕組みであって、発生自体を減らすものではありません。検査データを工程側にフィードバックし、発生率そのものを下げる運用まで設計してはじめて投資が回収されます。
まとめ:分けて考えれば選定は難しくない
鶏肉の骨残り検査の自動化は、「硬骨・深部=X線」「軟骨・薄骨・表層=分光」という役割分担で考えると、選定が一気に整理されます。金属検出機は骨には効かず、目視は量産ラインでは安定しません。そのうえで、自社の不良の実態を分類し、実サンプルで信号差が出るかを確かめる。この順番を守ることが、結果的に一番の近道になります。
どの方式が適するかは、対象部位や骨の種類、ライン条件によって変わります。判断に必要な情報を資料にまとめていますので、検討の材料としてご覧いただければ幸いです。




