プラスチック選別でなぜ近赤外(NIR)が使われるのか、どこまで分けられて何が残るのか。樹脂を光で見分ける仕組みから、選別機の中で起きていること、黒色・濡れ・多層といった限界までを1本で整理し、自社の廃プラに近赤外選別で足りるかを判断できる状態を目指します。
結論です。近赤外選別は、樹脂のC-H結合などが近赤外光を吸収するパターンの違いから、PE・PP・PS・PETなどの樹脂種を判定し、圧縮空気で弾き分ける方式で、リサイクル現場の光学選別の主力です。一方で、カーボンブラックを含む黒色樹脂は光を返さないため判別できず、濡れ・塗装・多層・重なりにも弱いという限界がはっきりしています。導入の成否は「装置の性能」より「投入物にこの4つの弱点がどれだけ含まれるか」で決まります。
近赤外でプラスチックの種類が分かる仕組み
近赤外とは、目に見える光(可視光)より波長の長い、おおむね800〜2,500nmの光です。プラスチックに含まれるC-H結合などの分子振動は、この波長域に倍音・結合音と呼ばれる吸収を作ります。樹脂の種類ごとに分子の構造が違うため、どの波長でどれだけ光を吸収するか(スペクトルの形)が変わり、そのパターンを照合することで樹脂種を判定できます。原理の詳細は近赤外分光法の原理と非破壊測定の限界で解説しています。
使える波長の幅は検出器で決まります。廃棄物資源循環学会誌の解説によれば、以前の検出器は900〜1,700nmにしか感度がなく、1,200nmや1,400nm付近の小さなピークで判定していましたが、InGaAs検出器の進歩で2,500nm付近まで感度をもつものが登場し、1,700nm付近の大きな吸収ピークまで使えるようになりました(河済博文「光学識別法を用いる次世代ソーティング機器の開発動向」廃棄物資源循環学会誌 29巻2号, 2018年)。使える吸収が増えるほど、似た樹脂の見分けは安定します。
ハイパースペクトルカメラのメーカーも、波長域ごとに見分けられる樹脂の範囲が変わることを公開しています。Specimは可視〜近赤外(VNIR)、近赤外(NIR)、短波長赤外(SWIR)、中波長赤外(MWIR)の各カメラで、PE・ABS・PVC・PS・PA・PP・PC・PETの識別性能を比較しています(Specim: Plastics sorting with FX cameras)。どの波長域を選ぶかの考え方はSWIRとNIR・VNIRの違いと選び方にまとめています。
近赤外選別機の中で起きていること:供給・検知・判定・吹き分け
近赤外選別機は、破砕・洗浄後のフレークや回収品をベルトコンベアで流し、①均一に広げて供給する、②近赤外センサーで1個ずつスペクトルを取る、③樹脂種を判定する、④目的物に圧縮空気を吹きつけて弾き分ける、という4工程で動いています。判定はミリ秒オーダーで行われ、高速に開閉する電磁バルブで振り分けます(前掲・河済 2018)。
ここで見落とされやすいのが「分ける側」の制約です。国内で流通する近赤外選別機の代表例では、検知幅1,000〜2,800mm・ベルト速度2〜3m/s・ノズル数80〜224という仕様で、1台のパスで分けられるのは2〜3種とされています(アーステクニカ:高効率プラスチック材質選別機 オートソート)。圧縮空気による吹き分けは基本的に二者択一のため、4種類以上に分けたい場合は、回収した側をもう一度かける「二度掛け」や多段構成が前提になります(前掲・河済 2018)。
つまり近赤外選別では「何種類を判定できるか」と「何種類に分けられるか」は別の数字です。カタログの識別可能樹脂の数ではなく、最終的に何種類・どの純度で回収したいかからライン構成を逆算するのが実務の順番です。設備全体の選び方はプラスチック選別機の選定4軸で詳しく扱っています。
近赤外選別の4つの限界と対策
近赤外選別が向かない条件は、公開情報の範囲でもはっきりしています。自社の投入物にこれらがどれだけ含まれるかを先に把握すると、導入後の「思ったより純度が上がらない」を防げます。
限界 | なぜ起きるか | 主な対策 |
|---|---|---|
①黒色樹脂 | カーボンブラックが近赤外光を吸収し、反射光の波形が得られない。メーカーも黒色樹脂は判別できないと明記している(山本製作所:プラスチック材質判別装置) | 中赤外(MIR)やラマン分光を使う方式、比重・静電などの物理選別との組み合わせ |
②濡れ・汚れ | 1,300nm以上の波長には水の大きな吸収があり、濡れていると識別が難しくなる | 洗浄後の乾燥、付着物を落とす前処理 |
③塗装・被覆・多層 | 近赤外選別が読むのは表面側の反射。塗装や被覆の下の樹脂は判別できない | 破砕で断面を出す、多層品は別ラインで扱う |
④重なり・破砕サイズ | 重なった破片は上面だけで判定され、小さすぎる破片は吹き分けの精度が落ちる | 供給の均一化、粒度をそろえる破砕・ふるい分け |
なかでも黒色樹脂は、家電や自動車部品に多く使われているため影響が大きい論点です。中赤外やラマン分光で黒色樹脂に踏み込む方式は実用化が進みつつありますが、装置構成やコストは一般的な近赤外機と異なります。方式ごとの到達点はプラスチック材質判別装置の5方式比較で、公開データを並べて比較しています。
点で測る近赤外と、面で測るハイパースペクトルの違い
同じ近赤外でも、1点ずつ測る分光器と、画素ごとにスペクトルを持つハイパースペクトルカメラでは、できることが変わります。
比較軸 | 点測定の近赤外(ハンディ判別器など) | 近赤外ハイパースペクトルカメラ |
|---|---|---|
得られる情報 | 当てた1点のスペクトル | 画像の全画素のスペクトル(どこに・どの樹脂が・どれだけあるか) |
向く用途 | ヤードでの破片の材質確認、受入時の抜き取り | ベルト上の連続選別、異材・異物の混入検出 |
黒色樹脂 | 判別できない(近赤外の共通課題) | 近赤外域では判別できない。中赤外域のカメラで検証例がある |
導入の重さ | 軽い。その場で使える | 照明・搬送・解析の設計が必要 |
「分ける前に、まず自社の廃材に何が混ざっているかを測りたい」段階なら点測定、「流れてくるものを全数見て分けたい・混入を見つけたい」なら面で測る構成が合います。ハイパースペクトルカメラの基本はハイパースペクトルカメラとは(原理とRGBとの違い)で解説しています。
判定チャート:自社の廃プラに近赤外選別で足りるか
次の問いに順に答えると、近赤外選別だけで進めてよいか、追加の方式や事前の実証が要るかの見当がつきます。
- 投入物に黒色樹脂が多いか:多い → 近赤外だけでは回収できない。中赤外・ラマン・物理選別の併用を検討する。少ない → 次へ。
- 濡れ・汚れ・塗装品が多いか:多い → 洗浄・乾燥・破砕の前処理を先に設計する。少ない → 次へ。
- 何種類に分けたいか:2〜3種 → 1台で届く可能性がある。4種以上 → 二度掛け・多段構成を前提にする。
- 必要な純度が高いか:再生材を製品原料として使う水準を求めるなら、自社の実物で純度を確かめてから設備を決める。
3と4で迷う場合は、カタログ値ではなく自社の投入物そのものでスペクトルを取り、狙った樹脂が分かれるかを確かめるのが確実です。
目的別に読む:プラスチック選別の関連記事
- 選別設備をどう選ぶか → プラスチック選別機の選定4軸と黒色樹脂の壁
- 破片の材質を確かめたい → プラスチック材質判別装置の5方式比較
- ペットボトルの色付きPET・PVC混入 → ペットボトル選別機の5方式比較
- 金属・紙・木片を含む廃棄物ライン全体 → 混合廃棄物の選別機を工程で選ぶ方法
- 相談先を探したい → リサイクル向け選別機メーカーの選び方
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発し、これまで食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。近赤外で自社の廃プラが分かれるかを確かめたい段階でも、ご相談いただけます。まずは製品と活用例の資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。




