大玉・中玉トマトの選果で悩みやすい着色ムラ・尻腐れ・空洞果・熟度を、どの非破壊測定なら見分けられるのか。トマト選果機の5方式をカラー画像からハイパースペクトルまで比較し、判定チャートで自社のラインに足りない部分を絞り込めるよう整理しました。
結論から言うと、トマトの不良は「色に出るもの」と「出ないもの」で必要な方式が分かれます。着色ムラ(着色不良果)は果実表面の肩の部位に黄色や黄緑が不均一に残る症状で、カラー画像でも捉えられます。一方で尻腐れは果実の向き次第で見えず、空洞果は外観に出ません。近赤外やハイパースペクトルの研究では、480.80〜1002.20 nmの分光画像からトマトの熟度を95.83%の精度で判別できたとの報告があります(Dai ら「Application of Hyperspectral Imaging as a Nondestructive Technology for Identifying Tomato Maturity and Quantitatively Predicting Lycopene Content」Foods 12(15):2957, 2023)。つまり、いま出ているロスがどれなのかを先に決めることが、選果機選びの出発点になります。
トマトの選果で落としたいロスを4つに分ける
選果機の比較を始める前に、自分の産地でいま実際にお金が出ていっているロスを特定します。大玉・中玉トマトの場合、クレームや格落ちの原因はおおむね着色ムラ・尻腐れ・空洞果・熟度のばらつきの4つに整理できます。どれを狙うかで、必要なセンサも投資額もまったく変わります。
着色ムラ(着色不良果)は表面に出るが、色素組成まで変わっている
着色不良果は、果実表面の着色程度が均一に変わるのではなく、果実上部の肩の部位に赤色と黄色・黄緑色が不均一に混ざる形で現れます。農研機構の研究では、着色不良部位は同じ果実の着色良好部位に比べてリコペン含量が低く、逆にβ-カロテンやルテインが多いことが示されています(農研機構「トマト果実着色不良の発生要因と対策方法に関する研究」野菜茶業研究所研究報告 第12号, 2013)。つまり見た目の色の差の裏側で、色素の中身そのものが入れ替わっています。
発生要因も同じ研究で整理されています。リコペンの生合成は12℃以下および32℃以上で抑制され、直射日光が当たった果実部位の表面温度は35℃程度まで上がり、アルミホイルで被覆した部位より約4℃高くなったと報告されています。日射量が多い作では無被覆区の着色不良果率が約8割に達した例もあり、天候次第で発生量が大きく振れる不良だという点が実務上は重要です。年によって流量が変わるロスに、固定的な設備投資をどこまで当てるかという判断になります。
選果の観点では、着色ムラは表面に出る不良なので、まずカラー画像(RGB)方式の守備範囲です。ここで分光を持ち出す前に、既存のカラー選果機のしきい値調整や撮像方向の見直しで拾えないかを確認したほうが費用対効果は高くなります。分光の出番は、色として同じに見えるのに中身が違う個体を分けたい場合です。
尻腐れは果頂部の生理障害で、果実の向きに左右される
尻腐れ果は果実の尻(果頂部)側に発生する生理障害で、栽培条件の影響を強く受けます。農研機構九州沖縄農業研究センターの成果情報では、根域を制限する簡易隔離床栽培は梅雨明け後の高温等で通常の養液土耕栽培よりも尻腐れ果の発生が多い傾向にあり、施肥窒素の形態が発生要因の一つとして挙げられています(農研機構「夏秋トマト簡易隔離床栽培における硝酸態窒素の施用による尻腐れ果発生抑制」)。
選果ラインで厄介なのは、症状が果頂部に限局することです。搬送中に果実がヘタ側を上にして流れていれば、真上からのカメラでは尻腐れ面が写りません。症状そのものは色の変化として現れるためカラー画像で検出可能ですが、全周を撮れているかどうかが実際の見逃し率を決めます。方式の比較より先に、果実を回転させる搬送や多方向撮像になっているかを確認してください。
空洞果は外から見えないため、内部を見る方式が要る
空洞果は果肉部とゼリー部の間に隙間が生じる障害で、外観だけでは判別しにくいのが選果場泣かせです。内部の空隙は周囲の果肉より密度が低いため、原理的には密度差を画像化するX線が捉えやすい対象になります。X線検査は対象物を透過した線量の差をコントラストとして映す仕組みで、異物は密度が大きいほど検出しやすいと説明されています(ミネベアミツミ「X線検査装置とは」)。空洞は逆に密度が小さい側の差になります。
ただし、トマトの空洞果についてラインで実測した検出率の公開データは、私たちが確認した範囲では見当たりませんでした。同じ階級でも比重が下がるはずだという理屈から重量と大きさの組み合わせで当たりを付ける考え方もありますが、これも品種や作型ごとに検証が必要です。空洞果を狙う場合は、カタログ値ではなく自分の果実で分離できるかを確かめる工程を必ず挟んでください。内部障害を非破壊で見る考え方は果物の内部腐敗・内部褐変を非破壊で検査する方法でも整理しています。
熟度は「いま赤いか」ではなく「届いたときどうか」で決まる
熟度のばらつきは、選果時点の色だけを見ていても解けません。トマトは収穫後も着色が進むため、同じ見た目でも輸送日数を経た到着時の状態は個体ごとに変わります。前掲の農研機構の報告でも、着色が始まる前に収穫してリコペン蓄積に適した温度帯で着色させるといった流通過程での対策が紹介されており、選果の判断は出荷先と日数とセットで考える必要があります。
ここが分光の価値が出やすい領域です。可視から近赤外にかけてのスペクトルは、クロロフィルやカロテノイドの吸収を反映するため、目視の色階級より細かい段階で追熟の進み方を推定できる可能性があります。前掲のFoodsの研究では、480.80〜1002.20 nmの分光画像と機械学習の組み合わせで熟度の判別精度95.83%、リコペン含量の予測でR²=0.9652が得られています。ただしこれは実験室条件での報告であり、ライン速度と照明が変われば同じ数字は出ません。
トマトの非破壊測定5方式を比較する
ここまでの4つのロスを軸に、選果で使われる非破壊測定を5方式で並べます。数値で断定できない項目は、正直に「幅がある」「要検証」と書いています。カタログ上の性能ではなく、自分のトマトで何が分かれるかを判断するための地図として使ってください。
方式 | トマトで測れるもの | 測れないもの | ライン速度 | コスト感 | 導入のしやすさ |
|---|---|---|---|---|---|
重量・形状センサ | 階級分け(大きさ・重さ)、形状不良、比重の目安 | 着色ムラ、尻腐れ、熟度、糖度 | 高速。既存ラインの基本構成 | もっとも安価な部類 | 高い。多くの選果場が既設 |
カラー画像(RGB) | 着色ムラ、尻腐れ(写っていれば)、表面傷、色階級 | 空洞果、糖度、色に出ない熟度差 | 高速に対応しやすい | 比較的安価 | 高い。既存機への追加事例が多い |
近赤外(NIR)分光 | 糖度・酸度などの内部成分、熟度の推定(点計測が中心) | 面としての着色ムラ分布、位置情報を伴う欠陥 | 点計測なら高速化しやすい | 中〜高。選果機本体と一体で高額になりやすい | 中。果実サイズ・透過条件の調整が要る |
ハイパースペクトル | 熟度・色素組成の分布、色として同じに見える差、面での不良マップ | スペクトル差が出ない対象、深部の空洞(要検証) | 高速ラインほど処理が課題 | 高い。導入コストは低くない | 低〜中。事前の実証が前提 |
X線 | 内部の空隙・密度差(空洞果は原理的に対象) | 着色ムラ、熟度、糖度 | 中〜高速 | 高い。遮蔽・管理の負担も伴う | 低〜中。設置スペースと運用管理が要る |
表の読み方|守備範囲は重ならない
この表で伝えたいのは優劣ではなく、守備範囲がほとんど重ならないという事実です。重量とカラーで階級と外観を、分光で内部と熟度を、X線で空隙を見るという分担になります。したがって「分光を入れれば既存の選果機を置き換えられる」という発想は現実的ではなく、いま取りこぼしている一点を補う追加工程として考えるほうが失敗しません。
ハイパースペクトルは、対象物を数百の波長帯に分けて撮影し、画素ごとにスペクトル(光の反射の指紋)を得る技術です。SWIR(短波長赤外、おおむね1000〜2500 nm帯)まで広げると水分や成分の違いが出やすくなり、可視〜近赤外(VNIR)帯は色素の違いを捉えるのに向きます。波長帯の選び方はハイパースペクトルの波長帯の選び方で詳しく整理しています。
ハイパースペクトルが向かないケース
正直に書くと、ハイパースペクトルは万能ではありません。前提として、分けたい対象と背景との間に十分なスペクトルの差が必要です。差が小さければ、どれだけ波長を増やしても分離できません。トマトで言えば、着色ムラのように色に出る不良はカラー画像で足りることが多く、わざわざ分光を持ち込む必然性が薄いケースもあります。
加えて、高速ラインほどデータ量と処理が課題になり、導入コストも安くはありません。既存の重量・カラー選果機の置き換えではなく補完である以上、投資判断は「分光でしか拾えないロスがいくらあるか」で決まります。ここが曖昧なまま見積りを集めても、比較の軸が定まりません。価格の内訳から考えたい場合は光センサー選果機の価格と費用を左右する7要因を先に読んでいただくのが早いと思います。
判定チャート|いまの選果機で足りるか、分光まで要るか
実際に出ているロスから逆算して、必要な方式を絞り込むための4つの問いです。上から順に答えてください。該当が複数ある場合は、金額が大きいほうを優先します。
問い | はい | いいえ |
|---|---|---|
Q1 直近のクレーム・返品の主因は、着色ムラや表面の傷など見た目か | まずカラー画像の撮像方向・しきい値を見直す。全周が撮れていないだけの場合が多い | Q2へ |
Q2 尻腐れが下流に流れている。ただし人が手に取れば分かる症状か | 果実を回転させる搬送+多方向カラー撮像が第一候補。分光より先に搬送を直す | Q3へ |
Q3 割ってみないと分からない空洞果の混入が、量として問題になっているか | 内部の密度差を見る方式(X線等)の検討領域。まず自社の果実で分離可否のサンプルテストを行う | Q4へ |
Q4 出荷時は同じに見えるのに、到着時の熟度がばらついて評価が下がるか | 分光(NIR/ハイパースペクトル)の検討領域。出荷先までの日数を条件に入れて実証する | 現時点で追加投資の必要性は低い。まず歩留まりの記録を取り、ロスを金額で把握する |
Q1・Q2で止まった場合、必要なのは新しいセンサではなく搬送と設定の見直しです。ここを飛ばして高機能な選果機を入れても、見逃しの構造は変わりません。自動化の方式全体を俯瞰したい場合は選果機の自動化5方式の整理が参考になります。
導入ステップ|サンプルテストから実証、そしてライン導入へ
分光の導入で失敗が多いのは、カタログの精度を信じて先に機械を決めてしまうケースです。トマトは品種・作型・産地で果皮の厚さも色素組成も変わるため、他産地で出た数字がそのまま自分の果実に適用できるとは限りません。順番を守るだけで、手戻りは大きく減らせます。
ステップ1:サンプルテスト(実サンプルで分離できるか)。実際の不良果と良品を持ち寄り、静止状態で撮影して分離できるかを確認します。ここで分かれないものは、ラインに載せればさらに分かれません。逆に言えば、この段階で見切れば投資を止められます。費用も期間も最小で済む工程です。
ステップ2:実証(PoC・ライン条件で検出率と誤検出を見る)。搬送速度、照明、果実の向き、振動といった実際の条件を入れて、検出率と誤検出率の両方を測ります。誤検出が多いと良品が落ちて歩留まりが下がるため、見逃し率だけを見ても判断できません。季節と品種をまたいで再現するかも、この段階で確認します。
ステップ3:ライン導入(既存選果機との役割分担を決める)。どの工程に挟むか、既存の重量・カラー選果機とどう分担するか、しきい値は誰がどう見直すかを決めます。運用に載る形まで設計しないと、導入直後は動いても半年後に使われなくなります。実証の進め方はPoCから本格導入までのステップにも整理しています。
発注先の選び方は別の論点です。選果機メーカー、システムインテグレーター、センサ・カメラメーカーのどこに最初に相談するかで、提案される構成が変わります。相談先の区分は選果機メーカーの選び方と相談先3区分にまとめました。ミニトマトを併せて扱っている産地であれば、裂果や熟度を軸に整理したミニトマト選果機の選び方と非破壊5方式の比較も併せてご覧ください。大玉・中玉とは処理時間も搬送の前提も変わります。
2026年度に使える補助金・助成金
選果機や検査装置の導入費用には、公的な支援制度を検討できる場合があります。ただし公募回ごとに要件・締切が変わるため、必ず公式サイトで最新の公募状況をご確認ください。ここでは2026年9月時点で確認できた範囲のみを書きます。
ものづくり補助金(設備投資)
選果機本体やカメラ・搬送設備といった設備投資は、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の検討対象になり得ます。直近では第23次公募の公募要領が2026年2月6日に公開され、公募期間は2026年2月6日から5月8日17時までとされていました(中小企業庁「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の第23次公募要領を公開しました」)。次回以降の日程はものづくり補助金総合サイトでご確認ください。
デジタル化・AI導入補助金2026(ソフト・サービス寄り)
判定ソフトやデータ管理などソフトウェア・サービス寄りの導入は、デジタル化・AI導入補助金2026(正式名称:中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金。令和7年度補正予算事業から旧「IT導入補助金」より名称変更)が選択肢になります。通常枠のほか、インボイス枠やセキュリティ対策推進枠など複数の申請枠が設けられています(デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト)。枠ごとに対象経費が異なるため、構成が固まった段階で確認するのが確実です。
農林水産省の産地向け支援
産地単位で選果場の機械・施設を整備する場合は、農林水産省の産地生産基盤パワーアップ事業のような産地向けの支援策も確認対象になります。同事業は、高性能な機械・施設の導入などを通じて産地の収益力強化を支援するものと説明されています(農林水産省「産地生産基盤パワーアップ事業関係情報」)。要件や採択の考え方は年度と地域で異なるため、県やJAの担当窓口と併せて確認してください。
なお、採択率や受給額をこちらから保証することはできません。制度は変わりますし、事業計画との整合が問われます。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、irodori の導入が補助金の対象になり得るか、そもそも御社のトマトで分離できそうかも含めて、まずはお気軽にご相談ください。
最後に、方式選びの順番をもう一度整理します。着色ムラと尻腐れは、まず撮像方向と搬送を疑う。空洞果は内部を見る方式で、必ず自分の果実でサンプルテストをしてから判断する。熟度のばらつきは、出荷先までの日数を条件に入れて分光の実証を行う。この順で進めれば、必要のない投資を避けられます。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。うまくいかなかった対象も含めて分かってきたのは、先に「分離できるか」を確かめる工程を挟むほど導入後の失敗が減るということです。受賞歴やメディア報道、学術成果は実績一覧(受賞歴・メディア報道・学術成果)にまとめています。技術そのものの全体像はハイパースペクトルカメラの仕組みと選び方を通しで解説したガイドを、製品仕様は国産ハイパースペクトルカメラ irodori の製品ページをご覧ください。糖度を非破壊で測りたい場合の方式整理は果物の糖度を非破壊で測る4手法にあります。
トマトの選果課題を整理した資料もご用意しています。社内で検討を進める際の下敷きとして、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。




