いちご選果機は、みかんやトマト向けの選果ラインをそのまま当てはめにくい品目です。本記事では、いちごの等級判定(傷・熟度・形・大きさ)を機械化する4つの選択肢を「何を自動化できるか」で比較し、小規模な産地・農家でも始めやすい順序と費用感、使える補助金までを整理します。
結論から書きます。いちごの選果で最初に機械化しやすいのは重さ・大きさの階級分けで、難しいのは傷み・打痕と熟度の判定です。いちごは果実に触れるだけで傷むため、計測方式より先に「どう運ぶか」が装置選びを決めます。判定したい不良が色に出ないものなら、装置を買う前に分光カメラで差が見えるかを小さく確かめるのが、費用を抑える近道です。
いちごの選果が他の青果と同じにならない3つの事情
いちごは、選果の機械化がもっとも遅れてきた品目のひとつです。農研機構の資料でも、イチゴは非常に傷つきやすく、選別・パック詰め作業の自動化が長年の課題だったと整理されています。機種の比較に入る前に、いちご特有の制約を押さえておくと判断がぶれません。
果実に触れること自体が傷の原因になる
いちごは果実の表面が柔らかく傷つきやすいため、指で押した跡や搬送中の擦れがそのまま打痕になります。そのため、ベルトに転がして全周を撮る、といった他品目の常套手段がそのまま使えません。開発されてきた装置も、果実を直接つかまず、果梗(つる)を挟んで運ぶ方式や、ヘタ側を吸着して扱う方式など、触れ方そのものを工夫してきた経緯があります。
等級は「形・傷・熟度の揃い」で決まり、人の目の判断が大きい
多くの産地の出荷規格では、重さで階級(L・M・S など)を分け、形の崩れ・傷の有無・熟度の揃い具合で等級を分けます。重さは秤で測れますが、形の良し悪しや熟度の揃いは、これまで熟練者の目に頼ってきた部分です。担当者や時間帯で判断が揺れやすく、繁忙期ほど基準がずれるという悩みはここから生まれます。
調製・パック詰めに労働時間が集中する
いちごは収穫後の選別・パック詰め(調製)に多くの手間がかかり、繁忙期の人手確保が経営の制約になりがちです。つまり、いちごの選果機に求められるのは「精度の高い1個の判定」だけでなく、「パック詰めまで含めた作業時間の削減」です。どの工程の時間を減らしたいのかを先に決めると、検討すべき装置の範囲が大きく絞れます。
いちごの等級判定を機械化する4つの選択肢
いちごの選果を機械化する方法を、手作業の補助から分光による品質評価まで4つに整理します。金額は構成と規模で大きく変わり、公開価格がほとんど無いため、ここでは相対的な規模感で示します。
選択肢 | 自動化できること | 苦手なこと | 費用感 | 向いている規模 |
|---|---|---|---|---|
重量選別機(秤式) | 重さによる階級(L・M・Sなど)の仕分け | 形・傷・熟度の判定。等級分けは人が行う | 小 | 個人農家〜小規模出荷 |
パック詰めロボット・自動パック詰め装置 | 果実の取り扱いとパックへの配置。重さに応じた詰め分け | 傷み・熟度の細かな判定。設置スペースと立上げの手間 | 中〜大 | 大規模経営・共同選果場 |
カラーカメラ(RGB)による画像判定 | 着色の度合い・形・大きさ・目に見える傷 | 色に出る前の傷み、内部の状態、糖度 | 小〜中 | 等級のばらつきを減らしたい産地 |
近赤外・ハイパースペクトルによる品質評価 | 糖度の推定や、色に出にくい差(初期の傷み等)の探索 | そのままの構成で高速ラインに載せること。品種ごとの再学習 | 中〜大(検証段階は貸出・受託で抑えられる) | 品質で差別化したい産地・研究機関 |
用語を補足します。近赤外(NIR)は人の目に見えない約700nmより長い波長の光で、果実内部の水分や糖に吸収されるため、内部の情報を得る手がかりになります。ハイパースペクトルカメラの仕組みは、この光を数十〜数百の波長に細かく分けて撮影することで、「どの波長に差が出るか」を探せる点にあります。青果全般の選果方式の位置づけは、選果機の自動化5方式の比較で外部品質・内部品質の軸から整理しています。
研究・実用化の流れ:「触れ方」の工夫から始まった
いちごの選果・パック詰めの自動化は、まず果実を傷めずに扱う方法の開発から進んできました。農研機構生研センターが開発した「イチゴパック詰めロボット」は、最大6個の果実を同時に扱えることで、慣行の手作業より40%程度省力的にパック詰めできるとされています(農研機構の資料)。2015年には実用化促進事業の参画企業が決まり(農研機構のプレスリリース)、農林水産技術会議の資料では2015年4月から市販化されたとされています(農林水産技術会議の資料)。
この流れから分かるのは、いちごの選果では「何を測るか」と同じくらい「どう扱うか」が装置の性格を決めるということです。判定の精度だけを比べて選ぶと、導入後に搬送で傷みが増える、という本末転倒が起きかねません。
小規模でも始めやすい判定の順序(判定チャート)
いちご選果機の検討は、次の4つの問いに順番に答えると、比較すべき選択肢が自然に絞れます。
問い | 「はい」の場合 | 「いいえ」の場合 |
|---|---|---|
1. 減らしたいのは「重さの仕分け」の時間か | 重量選別機から始める。もっとも費用が小さい | 問い2へ |
2. パック詰めまで含めて人手が足りないか | パック詰めロボット・自動パック詰め装置を検討。処理量と設置場所を先に確認 | 問い3へ |
3. 等級を分けたい不良は「目に見える色・形」に出ているか | カラーカメラによる画像判定で足りる可能性が高い | 問い4へ |
4. 色に出る前の傷みや、糖度で差をつけたいか | 分光(近赤外・ハイパースペクトル)で、差が見えるかを現物サンプルで確かめる | 無理に機械化せず、作業手順と基準の見直しを優先する |
実務で多いのは、問い3と問い4の境目で迷うケースです。収穫直後は目立たない打痕が、出荷先に届く頃に変色として現れる、という悩みは目視でもカラーカメラでも捉えにくい領域です。ここは装置を買う前に、正常果と傷んだ果実を並べて撮影し、波長ごとに差が出るかを見るのがもっとも確実です。
導入費用の考え方と見積の取り方
いちご選果機は、品目専用の公開価格がほとんど無く、構成ごとの個別見積になるのが通常です。見積を比べるときは金額そのものより、次の項目がどこまで含まれているかを揃えると判断しやすくなります。
- 本体:秤・カメラ・搬送部・パック詰め部のどこまでが範囲か
- 設置・電源工事:作業場の改修や電源の増設が別途か
- 判定の作り込み:品種・規格に合わせた判定基準の設定費用を誰が負担するか
- 立上げ・教育:繁忙期前の試運転にどれだけ立ち会ってもらえるか
- 保守:年間保守に部品交換・判定基準の更新が含まれるか
選果機全般の価格が何で決まるかは光センサー選果機の価格を決める7要因、見積の分解の仕方は選果機の価格を6要素に分解した記事で詳しく扱っています。いちごの場合はこれに「傷めない搬送」の費用が上乗せされると考えておくと、見積の差の理由が読みやすくなります。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、いちごの傷みや熟度の判定を機械で揃えられないかお悩みでしたら、製品の考え方だけでもご覧いただけたら嬉しいです。
いちご選果機の導入に使える補助金・税制
選果・調製の機械化には、国の補助制度が使える場合があります。制度は年度ごとに要件と公募時期が変わるため、必ず公式サイトで最新の状況を確認してください。
制度 | いちご選果機との関係 | 公式情報 |
|---|---|---|
産地生産基盤パワーアップ事業(農林水産省) | 収益力強化に取り組む産地の、高性能な機械・施設の導入を支援。都道府県を通じた要望調査で受け付ける | |
スマート農業技術活用促進法に基づく計画認定 | 補助金ではなく、認定を受けた計画に対する金融・税制の支援措置 | |
中小企業省力化投資補助金 | 選果・出荷を事業として行う法人の、人手不足解消のための省力化設備 | |
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 新たな事業・付加価値づくりのための設備投資(2026年度に旧ものづくり補助金と新事業進出補助金が統合) |
農業者向けの制度と中小企業向けの制度では、申請の窓口も対象者も異なります。農業向けの補助制度の全体像はスマート農業の補助金2026の記事でまとめています。公募時期・要件は必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
irodori の導入が補助金の対象になり得るか、どの制度から当たるのがよいか判断がつかない場合は、まずはお気軽にご相談ください。
導入前に確かめること、そして向かないケース
ステップ1:正常果と不良果を同じ条件で撮る
カタログの対応品目ではなく、ご自身の品種・時期・不良で確かめてください。落としたい不良(打痕、軟化、着色不良など)の果実と正常果を同じ条件で撮影し、差が出るかを見ます。ここで差が出ないなら、どの装置を入れても機械での選別はできません。分光での確認はハイパースペクトルカメラのデモ・試験撮影の形で小さく始められます。
ステップ2:品種と時期をまたいで再現性を見る
いちごは品種や作型、収穫時期で果実の硬さや色の出方が変わります。1回の撮影で差が出ても、別の品種・別の時期で同じ判定が通るとは限りません。少なくとも厳寒期と春先など、条件の違う2時期で確認すると、判定基準の再現性が読めます。糖度を扱う場合は、果物の糖度を非破壊で測る手法の記事にあるとおり、品種ごとの検量線の作り直しも見込んでおく必要があります。
ハイパースペクトルカメラが向かないケース
正直に書きます。ハイパースペクトルは万能ではありません。第一に、重さや大きさ、はっきりした着色差だけで等級を分けているなら、秤やカラーカメラの方が速く安く確実です。第二に、香りや食感のように光の吸収と結びつかない項目は測れません。第三に、データ量が大きいため、検証用の構成をそのまま選果ラインに載せることはできず、有効な波長を絞った構成への移行が前提になります。これらに当てはまるなら、別の方式を選ぶほうが合理的です。
まとめ:運び方と、落としたい不良を先に決める
- いちご選果機は「何を測るか」と同じくらい「傷めずにどう運ぶか」で選ぶ
- 重さの階級分けは機械化しやすく、傷み・熟度の判定は難しい
- 減らしたい作業時間(仕分け・パック詰め)と、落としたい不良を先に言語化する
- 色に出ない傷みを扱いたいときは、装置を買う前に分光で差が見えるかを小さく確かめる
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(取り組みは実績一覧でご覧いただけます)。いちごの傷みや熟度の差が光で見えるのか、現物での試験撮影からご一緒できます。まずは検証の進め方をまとめた資料をご覧いただけたら嬉しいです。




