同色異物の検出方法を探しているとき、たいてい行き詰まっているのは「色で分ける」という前提そのものです。白いパンに入った白い樹脂片、白身魚に残った白い軟骨、小麦粉に混ざった紙片。製品と同じ色の異物は、色彩選別機でも金属検出機でもX線検査機でも取り残されることがあります。
結論から書きます。同色異物の検出方法は、「色(RGB)」ではなく「波長ごとの反射の違い=分光特性」で分けるか、密度差・元素差という別の物理量に切り替えるかの二択です。見た目が同じでも材質が違えば近赤外域の吸収の出方が変わるため、たとえば鶏胸肉に埋めた骨片は987〜1701nmの反射画像で45片のうち42片(93.3%)が検出できたという査読論文の報告があります(Lim et al., Sensors, 20(14):4038, 2020)。逆に言えば、分光特性まで近い異物は分光でも取れません。この記事は「同じ色」という1点の壁だけを、方式ごとの原理から整理します。
同色異物とは何か|「色が同じ」だけで検査が止まる理由
同色異物(同系色異物)とは、製品と色や明るさがほぼ同じで、人の目やカラーカメラではコントラストが付かない異物のことです。異物そのものが珍しいわけではなく、「よくある異物のうち、たまたま製品と同色だったもの」が残り続けている状態を指します。
現場でよく残る「同色」の組み合わせ
製品 | 同色になりやすい異物 | 色では分けにくい理由 |
|---|---|---|
食パン・小麦粉 | 白い樹脂片、紙片、包材の白いフィルム | どちらも高明度の白。明るさの差が出ない |
白身魚のフィレ | 骨・軟骨、白い脂 | 身も骨も乳白色で、境界の輪郭しか手掛かりがない |
鶏肉 | 残骨、白い脂、軟骨 | 脂と骨が同系色で、脂を落とすと過検出になる |
砂糖・塩 | 透明プラスチック片 | 透明体は背景の色を透かすため、色の差が生まれない |
ホタテ・貝類 | 白い貝殻片 | 由来が同じ生体材料で、色も質感も近い |
乳白色のソース・ドレッシング | 白いシール片、ラベル片 | 白地に白。液の被りでさらに差が縮む |
乾燥ねぎ・海苔などの濃色品 | 黒いゴム片、黒い樹脂片 | 低明度どうしで、暗部のノイズに埋もれる |
共通しているのは、異物側が「危なくない」わけではないのに、検出の手掛かりだけが欠けているという構図です。硬質異物の混入は食品衛生法に基づく自主回収(リコール)の届出対象になり得ます。届出は令和3年6月1日から義務化され、届出された情報は健康被害発生の可能性を考慮してクラス分類されます(厚生労働省「自主回収(リコール)報告制度に関する情報」)。取れていない同色異物は、そのまま回収リスクとして残ります。
HACCPの危害要因分析では「検出手段がない」が露呈する
HACCPに沿った衛生管理は食品衛生法第51条に基づいて制度化され、2021年6月1日に完全施行されました。食品等の取扱いに従事する者が50人未満の事業場などは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象です(厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」)。危害要因分析を丁寧にやるほど「物理的危害要因としては挙がるが、管理手段の欄に書けるものがない」という同色異物が浮かび上がります。この記事はその欄を埋めるための整理です。
方式別の比較表|同色異物が取れる条件・取れない条件
同色異物に対して各方式が無力になるのは、どれも「見ている物理量が1種類しかない」ためです。その物理量に差が無ければ、機械の性能をいくら上げても差は生まれません。方式ごとに「何を見ているか」から整理します。
方式 | 見ている物理量 | 同色異物が取れる条件 | 取れない条件 |
|---|---|---|---|
目視検査 | 可視光の明るさ・色・形 | 形や艶が明らかに違う/サイズが大きい | コントラスト不足。加えて長時間で疲労し見逃しが増える |
カラーカメラ・色彩選別機 | RGB3バンドに積分した可視の色 | 可視域の色差・明度差がある(着色粒、異色片) | 可視域の反射が近いと数値が重なる。白×白・黒×黒・透明体はほぼ差が出ない |
金属検出機 | 金属による電磁場の乱れ | 異物が鉄・非鉄・ステンレスなどの金属である | 樹脂・骨・紙・ガラス・ゴムは原理的に対象外。塩分や水分の多い製品では製品効果も効く |
X線検査機(シングルエナジー) | X線の透過量=密度×厚みの差 | 異物の密度が製品より十分高い(金属、石、ガラス、硬い骨) | 密度が製品に近いと透過量が変わらない。樹脂・毛髪・軟骨・薄い異物は映りにくい |
デュアルエナジーX線 | 2つのエネルギー帯の吸収差=材質の違い | 低密度・薄い異物でも材質が製品と異なる | 製品の厚みむらが大きい、重なりが多い、異物が極小 |
近赤外(NIR)・ハイパースペクトル | 波長ごとの反射率の並び=分光特性 | 可視の色は同じでも、近赤外域の吸収の出方が違う | 分光特性まで似ている(脂と白い樹脂など)/不透明な包装ごし/表面が水膜で覆われている |
色彩選別機とカラーカメラ:3バンドに畳んだ時点で情報が消える
カラーカメラは、可視域の連続したスペクトルを赤・緑・青の3つの帯域に積分して数値化します。つまり「どの波長でどれだけ反射したか」を3つの平均値に畳んでいるため、平均値が一致してしまえば元の違いは復元できません。白い小麦粉と白いPP片は、可視域の反射率がどちらも高くほぼ平坦なので、R・G・Bのどの値も近くなります。AIで学習させても、入力データに差が無いものは分離できません。
金属検出機とX線:物理量が違うので「色」は無関係、ただし条件が付く
金属検出機は色を見ていないので同色は問題になりませんが、代わりに金属以外は原理的に検出できません。取れる範囲と取れない範囲は金属検出機で検出できない異物7分類の整理にまとめています。
X線検査機も色は無関係で、見ているのは透過量です。ここで効くのは密度(正確には密度と厚みの積、および物質の元素構成)の差です。硬い骨や石は映りますが、比重が製品に近い樹脂や軟骨は透過量の差が小さく、ノイズに埋もれます。材質の違いを使いたい場合はデュアルエナジー型が選択肢で、メーカー公式でも「異なる材質の分別を可能にしたX線ラインセンサカメラ」として位置づけられています(浜松ホトニクス「X線ラインセンサカメラ」)。X線の得手不得手はX線に映らないものを方式横断でまとめた記事も併せて確認してください。
同じ色でも分光特性が違えば分けられる|近赤外とハイパースペクトルの役割
ここが同色異物の突破口です。近赤外(おおむね波長800〜2500nmの領域)では、C-H・O-H・N-Hといった結合の吸収が波長ごとに違う形で現れます。近赤外分光法はこれを使って食品素材を非破壊で分析する手法として確立しており、固体・粉体・液体それぞれで応用例が報告されています(陳介余「近赤外分光法による食品素材の理化学特性分析」日本食品工学会誌 8(4) 209-220, 2007)。
ハイパースペクトルカメラは、この分光を画像の1画素ごとに数十〜数百バンドで取得するカメラです。可視域で同じ白に見えていても、近赤外域の反射率の並び(スペクトル形状)が違えば、画素単位で別物として切り分けられます。仕組みそのものはハイパースペクトルカメラの原理と仕組みの解説で詳しく書きました。
査読論文で報告されている検出性能
- 肉に埋まった骨片:987〜1701nm・224バンドの反射画像で、1153.8nmと1480.2nmの差分画像が有効。長さ20〜30mm・幅4〜8mmの骨片を厚さ3・6・9mmの鶏胸肉に埋め、45片のうち42片(93.3%)を検出。ただし肉が厚くなるほどスペクトルの重なりが増え、分離が難しくなったと報告されています(Lim et al., Sensors, 20(14):4038, 2020)。
- 鶏肉表面の異物:NIR 1000〜1700nm・95バンドで、樹脂(ゴム・プラスチック)、金属(アルミ・ステンレス)、木材の計30種類・2×2mmと5×5mmを対象に、画素レベルで適合率100%・再現率93%超、物体レベルの検出精度96.5%。ガラスのような透明素材は検証対象から除外されています(Campos et al., Sensors, 23(16):7014, 2023)。
- 豚バラ肉の異物:900〜1700nmの近赤外ハイパースペクトル画像で、異物を肉・脂・コンベアベルトから切り分ける手法を検証。この研究が正面から課題として挙げているのが「異物と豚バラ肉のスペクトルの類似性」と、ラインの温度変動やノイズです(Ghimpeteanu et al., Sensors, 25(22):7015, 2025)。
ハイパースペクトルでも取れないもの(正直な限界)
万能ではありません。導入前に、次のどれかに当たっていないかを必ず確認してください。
- 分光特性が近い:白い脂と白い樹脂のように、近赤外域の吸収の出方まで似ていると分離余地が小さい。上記の豚バラ肉の研究が扱っているのはまさにこの問題です。
- 不透明な包装ごし:アルミ蒸着や印刷の濃い包材は近赤外を通しません。包装後に検査したい場合は検査機の選定を5ステップで逆算する手順の段階で、検査位置を包装前に動かせるか先に決めるべきです。
- 表面の水膜・霜:水はO-Hの吸収が強く、濡れた表面では異物のスペクトルが水に覆われます。解凍水や洗浄水が乗る工程は不利です。
- 重なり・埋没:反射型では表面付近しか見えません。製品の下に隠れた異物は原理的に対象外です。
- 微小片と画素分解能:異物が1〜2画素しか占めないと、周囲の製品のスペクトルと混ざって(混合画素)特徴が薄まります。必要な異物サイズから、視野幅と画素数を先に逆算する必要があります。
- ライン速度と露光:ラインスキャン方式は1ラインごとに分光するため、速度を上げると露光時間が足りなくなります。照明強度・視野幅・速度はトレードオフです。
私たちは宇宙技術から生まれた光センサーをもとに、国産ハイパースペクトルカメラ irodori を自社開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「同色だから取れない」と結論が出たまま止まっている異物をお持ちでしたら、装置の考え方だけでも見ていただけたら嬉しいです。
判定チャート|自社の同色異物に何が効くかを4問で切り分ける
方式選定は「異物と製品の間に、どの物理量の差が残っているか」で決まります。上から順に見て、差があるところで止まるのが最短です。
- 異物は金属か? Yes → 金属検出機が第一候補。ステンレスや塩分の多い製品では感度が落ちるため、X線との併用を検討する。No → 2へ。
- 製品と異物に密度差があるか? Yes(石・ガラス・硬い骨など)→ X線検査機。包装後の検査もしやすい。No → 3へ。
- 可視光で見て、色または明るさの差があるか? Yes → カラーカメラ・色彩選別機。安価で高速。No → 4へ。
- 材質は製品と違うか?(樹脂・紙・ゴム・骨・貝殻など) Yes → 分光(近赤外・ハイパースペクトル)とデュアルエナジーX線の検証価値が高い。まずサンプルでスペクトル差の有無を測る。No(同一素材の塊など)→ 検査での分離は困難。工程側での発生源対策に振るのが現実的。
4に到達した場合でも、「検証して差が無い」という結果が出ること自体が価値です。検出できない前提で工程を組み替えるのか、装置に投資するのかを、感覚ではなく実測で決められます。鶏肉の残骨のように密度差と分光差の両方が候補になるケースは、残骨検査装置を5方式で比較した記事で方式ごとの向き不向きを整理しています。
検証(PoC)の進め方と、相談前に揃える情報
同色異物の案件は、カタログスペックの比較では前に進みません。自社の実サンプルでスペクトル差が出るかどうかが、そのまま可否の分かれ目だからです。順番を間違えないための5ステップを置きます。
PoCの5ステップ
- サンプルを揃える:良品と、実際に見つかった異物の両方。異物は同じ材質・同じ色のものを複数個。1点だけだと個体差か材質差かが分かりません。
- 静止状態でスペクトルを測る:まずライン速度を考えず、分離できる波長が存在するかだけを確認する。ここで差が出なければ先はありません。
- 有効波長を絞る:数百バンド全部が必要なことは稀で、数バンドの差分で足りる場合があります(前述の骨片検出は2波長の差分画像)。ここで必要なカメラの仕様とコストが決まります。
- 実ライン条件で崩れ方を見る:速度、照明、製品の厚みむら、水分、温度変動。研究報告でも温度変動とノイズが課題として挙がっています。ここで性能は必ず落ちます。
- 閾値と運用を決める:見逃し率と過検出率はトレードオフです。過検出で歩留まりが落ちる損失と、見逃しの損失を数字で比べ、どちらに寄せるかを先に決めておく。
相談前に揃えておく情報チェックリスト
- 製品サンプル:良品。ロットや産地の振れ幅が分かる複数点だと精度が上がります。
- 異物サンプル:実際に混入した物、または同じ材質・色の代替品。材質名が分かれば併記。
- 検出したい最小サイズ:何mm以上を取りたいか。これが視野幅と画素数、つまり価格を決めます。
- 包装の有無と包材:検査位置は包装前か後か。後なら包材の種類(透明フィルム/印刷/アルミ蒸着)。
- ライン速度と製品の流れ方:m/分または個/分。整列しているか、重なるか、バラ積みか。
- 許容できる見逃し率と過検出率:どちらを優先するか。「ゼロ」は現実的な条件になりません。
- 既存設備:金属検出機・X線・目視のどれが入っていて、それでも残っている異物は何か。
- 設置環境:スペース、温度・湿度、洗浄方法(水洗いの有無)、既存の照明条件。
このリストが埋まっていると、初回の相談で「分光で行けそうか/別方式に振るべきか」の見立てまで進められます。逆に埋まらない項目が多いほど、検証のやり直しが増えます。実際の適用範囲や研究成果の公開状況はirodori の製品ページと受賞・学術成果の一覧でご確認いただけます。現場の課題に合わせて解析と実証を一緒に進める形も用意しています(irodori共創プラン)。
同色異物は「装置を買えば解決する」課題ではなく、「差が残っているかを測って確かめる」課題です。もし製品と同じ色の異物が残ったままでお困りでしたら、判断材料として資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。無理な提案はいたしません。




