玉ねぎ選果機を検討するとき、最初に決めるべきは「大きさで分けたいのか、腐敗球を出したくないのか」です。本記事では玉ねぎ固有の課題を整理したうえで、非破壊6方式で何が測れて何が測れないのかを、公的研究と査読論文の範囲で正直に比較します。
結論から述べます。玉ねぎの規格選別(大きさ・形状)は、重量・形状選別機とカラー画像で実用水準に達しています。一方、産地の損失の大半を生む内部の腐敗は、外観からは判別が困難です。農研機構は、東北地域の春まきタマネギで収穫後に発生するりん茎腐敗について、主要な病原細菌が Burkholderia cepacia であり、圃場での生育期間中(倒伏期より前)に感染して収穫期から貯蔵中に病徴を現すこと、そして「外見からの判別が困難であるため、市場クレームに直結する恐れがある」ことを報告しています(農研機構 東北農業研究センター 研究成果)。内部品質まで見たい場合は、可視・近赤外の透過分光やハイパースペクトルイメージングといった「光で中を見る」方式が候補になりますが、これらも万能ではなく、腐敗の部位と球の置き方で成績が大きく変わります。
玉ねぎの選果は「貯蔵の前」と「出荷の前」で二度ある
玉ねぎが他の青果と決定的に違うのは、収穫してすぐ出荷するのではなく、乾燥(キュアリング)を経て数か月単位で貯蔵され、需要に合わせて出荷される点です。そのため選果のタイミングも一度ではありません。実務では、貯蔵庫に入れる前に「持たない球」を落とす選別と、出荷直前に規格を揃える選別の二段構えになります。玉ねぎ選果機の要件定義がぶれる原因の多くは、この二つを一つの機械で語ってしまうことにあります。
腐敗球:外から見えないのに、クレームに直結する
りん片腐敗や細菌性の腐敗は、外皮の内側で進行します。外観が健全に見える球でも、切ってみると内側のりん片が水浸状に崩れている、という事態が起こります。1球の腐敗球がパックや段ボールの評価を決めてしまうため、産地にとっては歩留まりの問題であると同時に信用の問題です。
厄介なのは、腐敗が貯蔵中に進行することです。貯蔵前の選別で「まだ症状が出ていない感染球」を落としきれなければ、庫内で数か月かけて症状が顕在化し、出荷段階で初めて損失が確定します。外部品質と内部品質の切り分けについては、選果機の自動化5方式を比較した記事でも整理していますが、玉ねぎはこの「内部品質側」の比重が特に大きい品目です。
首元から進む腐敗は、測る向きで見え方が変わる
玉ねぎの非破壊測定でもっとも重要な、そしてあまり語られない論点がこれです。可視・近赤外(VIS/NIR)透過分光は玉ねぎの内部腐敗の検出に有効である一方、首(ネック)部に局所的に発生した軽度の腐敗については正確な判別に限界があることが報告されています。研究グループは、首を上に向けて置いた球に対し「首方向」と「赤道方向」の2方向から透過スペクトルを測る二光束方式を開発し、両方向のスペクトルを組み合わせたPLS回帰モデルにすることで、健全球と軽度腐敗球の判別精度が改善したとしています(Nishino ら, Postharvest Biology and Technology 156: 110935, 2019, doi:10.1016/j.postharvbio.2019.110935)。
同じグループは、その前段の研究で「センサーに対する球の位置決め(ポジショニング)が、内部腐敗の推定性能を支配する」とまで述べています(Kuroki ら, Postharvest Biology and Technology 128: 18-23, 2017, doi:10.1016/j.postharvbio.2017.02.001)。玉ねぎは底部(根盤)の散乱特性が強く、どの向きで光を通すかによってスペクトルの出方が変わるためです。
これは選果機の仕様検討にそのまま効いてきます。「どのセンサーを載せるか」より先に、「ライン上で球の向きをどこまで揃えられるか」が性能を決めるということです。ランダムな向きで流れてくるラインに高性能なセンサーだけ載せても、期待した判別率は出ません。
乾燥(キュアリング)不足と外皮のばらつき
乾燥が不十分な球は、首が締まらず病原菌の侵入口が残り、貯蔵中の腐敗リスクが上がります。逆に乾燥しすぎれば外皮が剥がれ、見栄えと日持ちの両方を損ないます。外皮の枚数・色・剥離の程度は個体差が大きく、光を使う方式にとってはノイズ源です。反射方式では外皮の状態を見ているのか中身を見ているのかが曖昧になりやすく、透過方式では外皮の厚みが光量のばらつきになります。
規格選別:大きさ・形状だけで足りる産地もある
正直に書きますが、すべての産地に内部品質センサーが要るわけではありません。出荷先が求めるのが2L/L/M/Sのサイズ区分と最低限の外観であり、貯蔵期間が短く腐敗クレームがほとんど出ていないのであれば、重量・形状選別機とカラー画像の組み合わせで十分に成立します。その場合、投資すべきは分光センサーではなく、供給・箱詰め工程の省人化です。
玉ねぎの非破壊測定6方式を比較する
玉ねぎ選果機に載せうる非破壊方式を、「何が測れるか」「玉ねぎで何が苦手か」で整理します。断定できない検出率は書きません。公開された研究で確認できる範囲にとどめています。
方式 | 主に測れるもの | 玉ねぎでの得手 | 苦手・限界 | ラインへの載せやすさ |
|---|---|---|---|---|
重量・形状選別(機械式・ドラム/ローラー) | 重量、外径、概形 | 2L/L/M/S等の階級分け。高速・低コスト | 内部は一切見えない。扁平・双子球の判定は限定的 | 高い(既設ラインの中核) |
カラー画像(RGB) | 表面色、外皮の剥離、傷、汚れ、根・茎残り | 外観等級の自動化。異物・青立ちの検出 | 外皮に隠れた内部異常は原理的に不可 | 高い |
近赤外(NIR)反射 | 表層付近の水分・成分に関する情報 | 表面〜浅い層の状態把握 | 外皮の影響を強く受け、深部の腐敗には届きにくい | 高い |
近赤外(NIR)透過(インタラクタンス含む) | 球を透過した光から推定する内部状態 | 内部腐敗の検出に有効性が報告されている | 首部の軽度腐敗は苦手。球の向き・位置決めで成績が大きく変わる | 中(向き揃え・遮光・光量設計が必要) |
X線 | 密度差(空洞、異物、著しい組織崩壊) | 密度差が大きい欠陥の検出 | 初期〜中程度の腐敗は密度差が小さく検出が難しい。遮蔽・法規対応が必要 | 中〜低(設備要件が重い) |
ハイパースペクトル(可視〜NIR/SWIR) | 数十〜数百バンドの分光スペクトルと、その空間分布 | SWIR帯(950〜1650 nm)で sour skin 感染球の検出が報告されている | データ量・演算負荷が大きい。品種・産地・貯蔵期間ごとにモデル構築が要る | 中(要件次第。まず実証で見極める領域) |
ハイパースペクトルによる sour skin(Burkholderia cepacia 感染)の検出は、Wang らが 950〜1650 nm の短波長赤外ハイパースペクトルイメージングで報告しています(Journal of Food Engineering 109(1): 38-48, 2012, doi:10.1016/j.jfoodeng.2011.10.001)。そもそも分光で何を見ているのかという原理は、ハイパースペクトルカメラが「見えない色」をどう捉えるのかを解説したトップページで図解しています。
表の読み方|守備範囲は重ならない
この表でいちばん伝えたいのは、どの方式も他の方式の代わりにならないということです。重量・形状は内部を見ませんし、X線は密度差が出ない初期腐敗を見ません。透過分光は内部を見ますが、見る向きを間違えると見落とします。「最新の方式に置き換える」のではなく、いま落としきれていない不良の種類を1つ特定して、それに効く方式を足すのが実務的な順序です。
なお、打音・音響による内部評価はスイカ等で用いられますが、玉ねぎは外皮と多層のりん片構造を持つため、選果ラインでの一般的な手法としては定着していません。他品目での内部腐敗の見分け方は果物の内部腐敗を検査する6手法をまとめた記事が参考になります。
ハイパースペクトルでも難しいこと
私たちは国産・自社開発のハイパースペクトルカメラを作っている立場ですが、玉ねぎについて過大な期待を持っていただくのは本意ではありません。現時点で正直にお伝えできる限界は次のとおりです。
- 発症前の潜在感染を確実に見抜けるとは言えません。病徴が組織の光学的性質として現れていなければ、分光でも差は出ません
- 外皮と根盤の影響を受けます。外皮の枚数や剥離の程度、根盤の強い散乱がスペクトルに乗るため、前処理と向き揃えの設計が必須です
- モデルは使い回せません。品種、産地、収穫年、貯蔵経過日数が変われば、判別モデルの作り直しや再学習が必要になります
- 「何%検出できる」は事前には言えません。実際の球で撮影してみるまで、分離できるかどうかは誰にも分かりません
逆に言えば、ここは実際に測ってみれば短期間で白黒がつく領域でもあります。私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発し、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました(受賞歴・学術成果は実績ページにまとめています)。玉ねぎの腐敗球でお困りでしたら、まず現物で試していただくのがいちばん早いと考えています。
判定チャート|規格選別で足りるか、内部品質まで要るか、まず実証か
投資判断を、産地の状況から逆算するための判断フレームワークです。上から順に答えていくと、いま必要なものが決まります。
問い | Yes のとき | No のとき |
|---|---|---|
Q1. 直近シーズンで、腐敗・内部異常に起因する返品やクレームがあったか | Q2 へ | 規格選別で十分。重量・形状+カラー画像と、供給・箱詰めの省人化に投資する |
Q2. その不良は、切らずに外から見て分かるものだったか | カラー画像・外観検査の精度向上とオペレーター教育で改善余地がある | Q3 へ |
Q3. 不良の発生部位は特定できているか(首部か、内側のりん片か、全体か) | Q4 へ | まず不良の実態調査から。抜き取りで切断し、部位・時期・品種別に記録する。ここを飛ばすと機械選定を誤る |
Q4. ライン上で球の向き(首の方向)を揃えられるか、揃える改造が可能か | 透過分光・ハイパースペクトルの導入検討に進める | まず搬送側の設計から。向きが揃わないラインではセンサーの性能が出ない |
Q5. 自産地の球で「分離できる」ことを確認済みか | ライン条件・スループット・価格の比較へ | 実証(サンプル撮影・機材貸出)が先。カタログ値ではなく自分の球で確かめる |
Q3 と Q4 を飛ばして Q5 から入る相談が実務では非常に多いのですが、順序を守ったほうが結果的に早く、安く済みます。
実証で確かめる4ステップ
「自分の産地の玉ねぎで、内部腐敗が光学的に分離できるか」を確かめる手順です。選果機の発注前に、ここまでは必ず終わらせておくことをおすすめします。
- サンプルを設計する:健全球と腐敗球を、腐敗の程度(軽度/中〜重度)と部位(首部/内側りん片)で層別して集めます。軽度の球が少ないサンプルでは、実運用でいちばん困る境界例の判別力が評価できません
- 撮影して分離可能性を見る:複数の向き・照明条件で撮影し、スペクトルに差が出るかを確認します。この段階で差が出なければ、その先の投資は止めるべきです
- 切断して答え合わせをする:撮影後に必ず全球を切断し、実際の腐敗の有無・部位・程度と突き合わせます。この正解ラベルが無いとモデルは作れません
- ライン条件を設計する:搬送速度、球の向き揃え、遮光、光量、処理能力(球/時)、排除機構を詰めます。ここで初めて具体的な見積もりの土俵に乗ります
ステップ1〜3をどう進めるかは、ハイパースペクトルカメラのデモ依頼で決めておくべき6項目にまとめています。費用感の目安は光センサー選果機の価格を左右する7つの要因もあわせてご確認ください。
選果機・選果場の整備に使える補助金・助成金
玉ねぎ選果機は単体でも高額になり、選果場の改修を伴えばさらに規模が大きくなります。国の支援制度が使える可能性がありますが、制度・要件・公募時期は年度ごとに変わります。以下は2026年9月時点で公式サイトに掲載されている情報であり、申請にあたっては必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。
- 産地生産基盤パワーアップ事業(農林水産省):産地の収益力強化に向けた高性能な機械・施設の導入等を支援する事業で、集出荷施設の整備が支援対象に含まれます。産地・JAの選果場整備ではまず確認したい制度です(農林水産省 産地生産基盤パワーアップ事業関係情報)
- 中小企業省力化投資補助金(一般型):人手不足解消に向けた設備導入・システム構築を支援する制度です。公式サイトでは一般型の第8回公募について、公募期間 2026年8月18日〜2026年10月16日、申請ポータルの受付開始 2026年9月18日 10:00 と案内されています(中小企業省力化投資補助金 公式サイト)
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金:革新的な製品・サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資を支援する制度です(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 総合サイト)
制度ごとの考え方は、スマート農業の補助金をセンシング導入の視点でまとめた記事、省力化投資補助金で検査装置が対象になるかの判定手順、検査装置の導入に使える補助金の活用ガイドで詳しく解説しています。なお、採択の可否や補助額をこちらから保証することはできません。irodori の導入が補助金の対象になり得るかどうかの整理はお手伝いできますので、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。玉ねぎの内部腐敗は「測ってみないと分からない」領域で、私たちも毎回、現物を撮るところから始めています。検討の材料として、irodori の仕様と実証の進め方をまとめた資料をご用意していますので、よろしければご覧ください。




