近赤外カメラは、目に見えない近赤外光で撮影し、水分・傷み・素材の違いなど可視カメラでは写らないものを捉えるカメラです。本記事では、近赤外カメラで見えるもの・見えないもの、シリコン型とInGaAs型の違い、サーモカメラやハイパースペクトルカメラとの使い分けを比較表で整理します。読み終えるころには、自社の用途にどの種類を選ぶべきかが判断できます。
先に要点をまとめます。近赤外カメラは「どの波長まで感度があるか」で見えるものが変わります。一般的なシリコンセンサーは約1100 nmより長い波長に感度が無く、それより先の領域を撮るにはInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)センサーのカメラが使われます(浜松ホトニクス「近赤外検出器」)。温度を測りたいならサーモカメラ、成分の違いを細かく見分けたいならハイパースペクトルカメラ、と目的で選び分けます。
近赤外カメラとは|可視光の外側を撮るカメラ
近赤外光は、人の目に見える光(可視光)より少し波長が長い光です。物質によって近赤外光の吸収のしかたや透け方が違うため、近赤外で撮ると、可視光では同じ色に見えるものの違いが濃淡として現れます。
近赤外カメラは、対象に当たって反射・透過した近赤外光を撮る点で、物体が出す熱を撮るサーモカメラ(赤外線サーモグラフィ)とは原理が違います。名前が似ていて混同されやすいので、選定の最初に切り分けておくことが大切です。分光の原理そのものは近赤外分光法とは|原理と非破壊測定の限界で詳しく解説しています。
近赤外カメラで見えるもの・見えないもの
見えるもの
- 水分の多い・少ない:水は近赤外域に吸収帯があるため、水分の多い部分が暗く写ります。InGaAsカメラの用途として、水分検出や液漏れ検出がメーカーの資料に挙げられています。
- 青果の傷み:りんごの傷み検査で、撮像波長1450 nmの反射照明で撮影する例が紹介されています(浜松ホトニクス)。表面からは分かりにくい傷みが、周囲と違う明るさで写ります。
- 素材の違い:樹脂の種類のように、近赤外での吸収の違いを使って見分ける用途があります。リサイクル現場の選別はその代表例です(プラスチック選別の近赤外方式とは)。
- 透けて見える対象:シリコンウエハーのように、近赤外光を透過する材料の内部を観察する用途もあります。
見えない・苦手なもの
- 温度:近赤外カメラは反射光を撮るので、温度分布の測定はサーモカメラの役割です。
- 成分の量の数値:1〜数枚の波長で撮る近赤外カメラでは「多い・少ない」の濃淡は分かっても、成分量を数値で出すには波長の選定と校正が必要です。
- 黒い対象:カーボンブラックを含む黒色の樹脂などは近赤外光をほとんど吸収してしまい、違いが出にくいことが知られています。
- 厚い対象の内部:透過できる深さは材料しだいで、食品の中心部のように厚く水分の多いものの内部までは見通せないことが多いです。
シリコン型とInGaAs型の違い
近赤外カメラは、センサーの材料で大きく2種類に分かれます。どちらを選ぶかで、撮れる波長域と価格帯が大きく変わります。
シリコン型(〜約1000 nm)
一般的なCCD・CMOSイメージセンサーと同じシリコン製のセンサーで、可視光に加えて1000 nm前後までの近赤外を撮れます。防犯カメラの夜間撮影(近赤外照明を当てて撮る方式)もこのタイプです。安価で画素数も多い一方、シリコンは約1100 nmより長い波長に感度を持ちません。
InGaAs型(約950〜1700 nm、拡張型はさらに長波長)
InGaAsセンサーを使い、シリコンでは撮れない領域を撮るカメラです。標準的な製品は950〜1700 nm付近に感度を持ちます(浜松ホトニクス)。この領域は短波長赤外(SWIR)とも呼ばれ、水分などの吸収がはっきり出るため、検査用途で選ばれます。センサーが高価なため、シリコン型より価格帯は一段上がります。
波長域の呼び分けや、ハイパースペクトルカメラでの選び方はSWIRとNIR・VNIRの違い|1000 nmが境目の選び方で整理しています。
比較表|近赤外カメラ・サーモ・ハイパースペクトルの使い分け
種類 | 撮っているもの | 波長の数 | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|---|---|
近赤外カメラ(シリコン型) | 〜約1000 nmの反射・透過光 | 1(フィルタで選ぶ) | 夜間監視、薄い対象の透過観察、低コストでの検査 | 1100 nm以降の吸収(水分など)を使う検査 |
近赤外カメラ(InGaAs型) | 約950〜1700 nmの反射・透過光 | 1(フィルタで選ぶ) | 水分・傷み・液漏れの検出、樹脂の見分け | 似た成分の細かな識別、温度測定 |
サーモカメラ | 物体が出す熱放射 | — | 温度分布、発熱・断熱不良の発見 | 成分・素材の見分け |
ハイパースペクトルカメラ | 画素ごとのスペクトル | 数十〜数百 | 成分・素材の違いを面で見分ける、最適な波長を探す | 高速・低コストなライン全数検査(波長を絞れば可能な場合あり) |
実務でよくあるのは、最初にハイパースペクトルカメラで「差が出る波長」を探し、量産のラインでは見つけた波長だけを近赤外カメラ+フィルタで撮るという組み合わせです。最初から近赤外カメラを買うと、選んだ波長で差が出ないと分かったときにやり直しになります。ハイパースペクトルカメラの仕組みはハイパースペクトルカメラとは?原理とRGBとの違い・できないことで解説しています。
私たちは、宇宙技術から生まれた国産ハイパースペクトルカメラ irodori を自社で開発しています。記事の途中で恐縮ですが、近赤外でどの波長を見れば差が出るかを探す段階でしたら、irodori のことも少しだけ知っていただけたら嬉しいです。
どれを選ぶか|目的別の判定チャート
- 知りたいのは温度か? → はい:サーモカメラ。いいえ:2へ
- 見たい違いが出る波長は分かっているか? → 分かっている:3へ。分からない:ハイパースペクトルカメラで波長を探すところから
- その波長は約1000 nmより短いか? → はい:シリコン型の近赤外カメラ。いいえ(水分の吸収など):InGaAs型
- 似た成分を何種類も見分ける必要があるか? → はい:1波長では足りないことが多いため、複数波長の撮影かハイパースペクトルカメラを検討
選定でつまずきやすい点
- 照明を忘れる:近赤外カメラは反射光を撮るため、その波長を含む照明が必要です。LED照明は特定の波長しか出さないものが多く、カメラだけ替えても写らないことがあります。
- レンズの対応波長:可視光用のレンズは近赤外でピントがずれたり透過率が落ちたりします。カメラと合わせてレンズの対応波長を確認します。
- サンプル評価をしない:同じ「水分」でも対象や包装で写り方が変わります。購入前に自社の実物で撮影テストをするのが確実です。
まとめ|近赤外カメラは波長と目的で選ぶ
- 近赤外カメラは反射・透過した近赤外光を撮る。温度を撮るサーモカメラとは別物
- シリコン型は約1000 nmまで、InGaAs型は約950〜1700 nm。水分の検出などはInGaAs型が主役
- 差が出る波長が分からないうちは、ハイパースペクトルカメラで探してから絞るのが手戻りの少ない順序
- 照明・レンズの対応波長と、実物での撮影テストを忘れない
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。どの波長で何が見えるかを整理した資料もご用意しています。




