Invisible World Logo
This article is written in Japanese. Your browser can translate it automatically.
ブログ

マイコトキシン検査の方法5分類|カビ毒の分析法と基準値【2026】

マイコトキシン検査は、ELISAやLC-MS/MSなどの分析法と非破壊スクリーニングの組み合わせで設計します。カビ毒の日本の基準値、検査手法5分類の違い、DON(ボミトキシン)への対応、分光を使う判断基準までを整理します。

結論から述べます。マイコトキシンの確定検査は、ELISA法やLC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析)などの公定法・機器分析が基本であり、精度と法的信頼性の面でこれらを置き換える技術は現時点でありません。一方でハイパースペクトルカメラなどの分光技術は、破壊せず短時間で「怪しいロット・粒」を一次選別するスクリーニング(事前ふるい分け)用途として研究・実用の両面で検討が進んでいます。確定検査と非破壊スクリーニングを役割分担で組み合わせるのが、現実的な検査設計です。

カビ毒(マイコトキシン)とは・なぜ管理が難しいのか

カビ毒(マイコトキシン)とは、穀物やナッツなどに付着したカビ(糸状菌)が産生する天然の有害化学物質の総称です。代表的なものにアフラトキシン、デオキシニバレノール(DON)、ニバレノール、ゼアラレノン、パツリン、オクラトキシンAなどがあり、加熱調理でも分解されにくいものが多く、微量でも健康影響が懸念されます。

管理が難しい理由は主に3点あります。第一に、毒素の種類によって問題になる濃度の桁が違うことです。アフラトキシンはµg/kg(ppb)オーダー、DONはmg/kg(ppm)オーダーで基準が置かれており、いずれも目視や匂いでは判別できません。第二に、汚染がロット内で均一ではなく一部の粒に偏在する(不均一性)ため、サンプリング(抜き取り)の代表性が結果を大きく左右すること。第三に、外観が正常に見える粒にも毒素が含まれる場合があることです。汚染低減には栽培・乾燥・貯蔵の各段階での予防が重要とされます(農林水産省「麦類のかび毒汚染予防・低減指針」)。

日本のカビ毒の基準値(2026年9月時点)

検査を設計する前に、自社の取扱品目にどの基準がかかるのかを確認します。以下は日本国内で設定されている主な基準です。基準は改定されるため、実務では必ず厚生労働省・農林水産省の最新の一次情報を確認してください。

総アフラトキシン

アフラトキシンB1・B2・G1・G2の総和である総アフラトキシンを10 µg/kgを超えて検出する食品は、食品衛生法第6条第2号に違反するものとして取り扱われます。2011年(平成23年)に、それまでのアフラトキシンB1を指標とする規制から総アフラトキシンを指標とする規制へ移行しました(厚生労働省「アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて」(平成23年3月31日 食安発0331第5号))。品目ごとの成分規格ではなく、食品全般に適用される取扱いである点が特徴です。

デオキシニバレノール(DON/ボミトキシン)

DON(デオキシニバレノール)は「ボミトキシン(vomitoxin)」とも呼ばれる同一物質で、麦類の赤かび病菌が産生します。日本では小麦(玄麦)について1.0 mg/kgを超えて含有してはならないという成分規格が設定されています。この規格は令和3年7月30日に告示され、令和4年(2022年)4月1日から適用されました(厚生労働省「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(小麦中のデオキシニバレノールに係る基準値の設定)」)。

注意したいのは、2002年から運用されていた暫定基準値1.1 mg/kgは、この成分規格の設定にともなって役割を終えていることです。社内の検査基準書や取引先向け資料に1.1 mg/kgが残っている場合は、現行の1.0 mg/kgへ更新が必要です。生産段階での予防策は農林水産省が資料を公開しています(農林水産省「小麦のデオキシニバレノール(DON)汚染防止・低減対策」)。

パツリン・アフラトキシンM1・オクラトキシンA

りんごジュース・原料用りんご果汁のパツリンは0.050 ppm(50 µg/kg)が清涼飲料水の成分規格として、乳のアフラトキシンM1は0.5 µg/kgが平成28年1月23日から適用されています。一方、オクラトキシンA、ニバレノール、T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン、フモニシン類などは、日本国内では食品の基準値が設定されていません農林水産省「いろいろなかび毒」)。基準値が無い=管理不要ではなく、輸出先国の規制(EU等)や取引先の自主基準がかかることがあるため、検査項目は「国内基準」と「取引条件」の両面から決める必要があります。

マイコトキシン検査・分析の方法5分類を比較

マイコトキシン検査の手法は、目的(確定定量か一次選別か)とコスト・スピードで使い分けます。代表的な5分類を整理します。

1. イムノクロマト(ラテラルフロー)簡易キット

抗体を使った試験紙で、現場で短時間に陽性・陰性の目安を得る方法です。装置がほとんど要らず、受入時のロット判定などその場で切り分けたい場面に向きます。定量精度は限定的で、閾値付近の判断や公的な証明には使えません。

2. ELISA法(免疫測定)

ELISAは、毒素に特異的に結合する抗体を使って濃度を測る方法です。比較的安価・迅速で、多検体の一次判定に広く使われます。ただし対象毒素ごとにキットが必要で、夾雑成分による偽陽性・偽陰性の可能性があるため、陽性ロットは確定検査で裏付けるのが一般的です。

3. HPLC / LC-MS/MS(機器分析)

LC-MS/MSは液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、複数の毒素を高精度で同時に定量できる手法で、公定法や確定検査の中心です。マイコトキシン分析の結果を規制値に照らして判断する場面ではこれが基準になります。精度と信頼性が高い一方、高価な装置・専門人材・前処理時間を要し、破壊検査(試料を溶解・抽出)である点が特徴です。

4. 目視・色彩選別

カビ被害粒や変色粒を目視や色彩選別機で除く方法は現場で不可欠ですが、外観が正常な汚染粒を見逃すため、毒素そのものの有無を保証するものではありません。外観に現れる被害粒を機械的に除く工程については、斑点米・着色粒の選別装置と色彩選別機の仕組みで詳しく整理しています。食品表面のカビそのものを見る検査全般は食品のカビ検査方法5種の比較にまとめています。

5. 分光・ハイパースペクトルイメージング

分光とは光の波長ごとの反射・吸収を測る技術で、NIR/SWIR(近赤外・短波赤外)帯の情報から成分や状態の違いを捉えます。ハイパースペクトルカメラ(HSC)は各画素で連続した波長スペクトルを取得でき、破壊せずに粒単位のばらつきを面で可視化できます。小麦粒のDON汚染についても、ハイパースペクトル情報と感染・毒素量の関連を調べた査読研究が報告されています(Scientific Reports「Genomic regions influencing the hyperspectral phenome of deoxynivalenol infected wheat」(2024))。ただし後述のとおり、毒素濃度を直接・確定的に測る手法ではなく、スクリーニング用途としての位置づけです。

手法

測れる対象

定量性

結果までの速さ

費用感(相対)

向くフェーズ

イムノクロマト簡易キット

キットが対応する単一毒素

低(陽性/陰性の目安)

その場で判定

低(消耗品費中心)

受入時の粗いふるい分け

ELISA法

キットごとの毒素

中(半定量〜定量)

比較的速い

中(検体数で変動)

多検体の一次判定

HPLC / LC-MS/MS

複数毒素の同時定量

高(確定定量)

前処理を含め時間を要する

高(装置・人材・外部委託費)

公定法・確定検査・出荷判定

目視・色彩選別

外観(被害粒・変色)

なし(毒素は測れない)

ライン速度で連続

設備投資型

被害粒・異物の除去工程

分光・ハイパースペクトル

カビ・変質に伴う状態変化

参考(間接推定・要検証)

ライン速度で連続

設備投資型+モデル開発

非破壊の一次選別・絞り込み

費用と所要日数は検査機関・検体数・毒素項目によって大きく変わり、公開された一律の相場はありません。この表は相対的な位置づけを示すものとして使い、実額は必ず検査機関の見積で確認してください。同じ「費用・日数・公定法」の考え方は残留農薬の検査方法4分類の比較でも整理しています。異物の観点では食品工場の異物検査4方式の比較が方式ごとの向き不向きの参考になります。

判定チャート:既存の分析法で足りるか、面で見る分光が要るか

上から順に当てはまるものを選ぶと、次に検討すべき手法が絞れます。

  1. 目的が「規制値に対する合否の証明」か? → はい:LC-MS/MS等の公定法・確定検査が必須です。分光は代替になりません。ここで終了して構いません。
  2. 確定検査に出す検体数・費用が業務上の負担になっているか? → いいえ:現行のELISA+確定検査の運用で十分です。無理に設備を増やす必要はありません。
  3. 負担がある場合、汚染の疑いが「ロット単位」で絞れているか? → はい:ELISAやイムノクロマトによる一次判定を厚くするのが先で、投資対効果が高い選択です。
  4. ロットの中の「一部の粒」に偏在していて、抜き取り検査では捉えにくいか? → はい:粒単位のばらつきを面で見る分光・ハイパースペクトルの検討価値があります
  5. 対象を搬送ライン上で非破壊・全数に近い形で見たいか? → はい:ハイパースペクトルによる一次選別が候補になります。ただし手順4で「偏在していない」なら、分光を入れても確定検査の負荷はあまり減りません。
  6. 自社サンプルでの判別モデル構築・検証に時間を割けるか? → いいえ:導入は時期尚早です。まずは小規模な実証(PoC)で成立性を確かめてから判断してください。

4と5の両方に「はい」が付いた場合だけ、分光の検討に進む価値があります。それ以外は既存の分析法を厚くするほうが確実です。

ハイパースペクトルによる非破壊スクリーニングの仕組みと限界

ハイパースペクトルによるスクリーニングの基本的な流れは、対象の穀物にラインで光を当て、各画素のスペクトルを取得し、健全粒とカビ・変質の兆候がある粒とでスペクトルの違いを解析する、というものです。カビの繁殖や変質に伴う表面・成分の状態変化がスペクトルに反映されるため、外観だけでは見分けにくい粒を候補として絞り込める可能性があります。搬送ライン上で連続的に、破壊せず面で捉えられる点が最大の利点です。

一方で、正直にお伝えすべき限界があります。ハイパースペクトルは毒素そのものの濃度を直接・確定的に測る技術ではありません。実際に捉えているのはカビや変質に伴う状態変化であり、毒素量との対応関係は対象作物・毒素・撮影条件ごとにモデル構築と検証が必要です。とりわけ粒の表面に現れない内部の汚染や、規制値付近の低濃度域の判別には限界があり、公定法の代替にはなりません。精度は前処理・照明・搬送速度・アルゴリズム・校正に依存します。したがって効能や検出率を断定することはできず、合否の確定判定は公定法に委ねるのが原則です。ELISAやLC-MS/MSは、分光が置き換えるものではなく、分光が前段で支える対象です。

位置づけを一言でまとめると、ハイパースペクトルは「疑わしいロットや粒を非破壊で素早くふるい分け、確定検査に回す量を賢く絞る一次スクリーニング」です。農林水産省もかび毒についてサーベイランス・モニタリングと成分規格による確認を段階的に組み合わせる枠組みを示しており(農林水産省「食品のかび毒に関する情報」)、スクリーニングと確定検査の使い分けは実務に沿った考え方です。カビだけでなく鮮度・傷みの兆候を出荷前に捉える発想は食品の腐敗・傷みを出荷前に見抜く非破壊検査にも通じます。

技術そのものの仕組みから確認したい方はハイパースペクトルカメラとは何か(仕組みとマルチスペクトルとの違い)を、複数業界での活用の全体像はハイパースペクトルカメラの活用事例をまとめたトップページをご覧ください。

自社の穀物・原料で「粒ごとのばらつきを面で見る」という発想が使えるかどうかは、実機で撮ってみるのが一番早い場合があります。国産・自社開発の光センサーの仕様は下記でご確認いただけます。

導入の考え方(スクリーニングと確定検査の設計)

導入を検討する際は、いきなり全数の毒素判定を分光に置き換えようとしないことが重要です。まず「確定検査は公定法、非破壊スクリーニングは分光」という役割分担を設計し、分光を確定検査の前段のふるい分けとして位置づけます。これにより検査の負荷とコストを抑えつつ、リスクの高いロットを見逃さない体制を目指せます。

次に、対象とする作物・毒素・想定汚染レベルを明確にし、小規模な実証(PoC)で自社サンプルを使った判別モデルの構築と検証を行います。撮影条件・照明・搬送速度・校正の作り込みが精度を左右するため、既存の目視・色彩選別・ELISA等とどう組み合わせるかまで含めて評価するのが現実的です。国産・自社開発の国産ハイパースペクトルカメラ irodoriは、こうした現場条件に合わせた検討の相談先の一つになります。産地や品種の違いを分光で数値化する取り組みは産地判別・品種判別の方法5つでも紹介しています。

よくある質問(FAQ)

私たちInvisible World(Milk.株式会社)は、国産・自社開発のハイパースペクトルカメラ irodori を軸に、食品・農業分野での非破壊評価の実証を重ねてきました。マイコトキシン検査を分光で置き換えられるとは考えていませんが、確定検査の前段で「どこを疑うか」を絞る用途であれば、お手伝いできる余地があります。技術の詳細と実証の内容は資料にまとめています(実績一覧もあわせてご覧ください)。

FAQ

ハイパースペクトルカメラでマイコトキシンの濃度を測定できますか?

毒素濃度を直接・確定的に測る技術ではありません。捉えているのはカビや変質に伴う状態変化であり、毒素量との対応は対象ごとに検証が必要です。規制値に対する合否の判定は公定法に委ね、分光は一次スクリーニングとして使い分けるのが適切です。

ボミトキシンとデオキシニバレノール(DON)は別の物質ですか?

同じ物質です。ボミトキシン(vomitoxin)はデオキシニバレノールの別名で、麦類の赤かび病菌が産生します。日本では小麦(玄麦)について1.0 mg/kgを超えて含有してはならない成分規格が令和4年4月1日から適用されています。

マイコトキシン検査は何を測ればよいですか?

国内基準がかかるもの(総アフラトキシン、小麦のDON、りんご果汁のパツリン、乳のアフラトキシンM1)と、取引先や輸出先が求めるもの(オクラトキシンA、ゼアラレノン等、国内基準が無い項目を含む)の両面から決めます。取扱品目と販路によって必要項目は変わります。

ELISAやLC-MS/MSは不要になりますか?

いいえ。ELISAやLC-MS/MSは精度・法的信頼性の面でマイコトキシン分析の基本であり、分光がこれらを置き換えるものではありません。分光は確定検査に回す量を絞る前段として補完的に機能します。

検査の費用と日数はどれくらいですか?

毒素項目・検体数・依頼先によって幅が大きく、一律の公開相場はありません。目安を出す前に、対象品目・毒素項目・想定検体数を整理したうえで検査機関に見積を依頼するのが確実です。

MaterialsDownload our product & service materialsGet the irodori product catalog and company overview in a single request.Request materials
What is a hyperspectral camera?The basics of capturing color beyond the human eye.Learn more
irodoriOur made-in-Japan, in-house hyperspectral camera.Learn more
Contact usFor consultations and questions about adoption.Learn more