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土砂崩れの予兆検知|斜面監視5手法の比較と選び方【2026年版判定チャート付】

土砂崩れの予兆を検知するには、どの斜面監視手法を選べばよいか。目視・伸縮計・InSAR・ドローン・分光カメラの5手法を、取得できる情報と範囲・頻度・費用感で比較し、既存手法で足りるか分光を足すべきかを判定チャートで整理します。

結論から言えば、土砂崩れの予兆検知に万能な単一手法は存在しません。国土交通省の公表では令和6年(2024年)の土砂災害は45都道府県で1,433件令和7年(2025年)は37都道県で578件と、年による振れ幅が大きいのが実情です(令和7年は梅雨期の少雨傾向により、集計開始以降の平均1,116件を下回りました)。件数が少ない年でも火山噴火跡地や林野火災跡地からの土砂流出など多様な現象が起きており、伸縮計などの「点」の計測機器と、InSARや分光カメラなど「面」のリモートセンシングを組み合わせ、前兆となりうる変化を多面的に捉える体制づくりが実務の基本になります。

土砂崩れ・地すべりの予兆とは(前兆現象と、早期把握が難しい理由)

土砂災害は大きく、急な斜面が突然崩れる「がけ崩れ」、緩い斜面で粘土層などが地下水の影響でゆっくり動く「地すべり」、水と土砂が一体となって流れ下る「土石流」に分けられます。なかでもがけ崩れは件数の多くを占めており、住宅地に近い斜面ほど生活への影響が大きくなります。まずは対象斜面がどのタイプの動きをしうるのかを見極めることが出発点です。

国土交通省は、がけ崩れの前兆現象として「斜面にひび割れができる」「小石がパラパラと落ちてくる」「新たに湧き水が生じる、または湧き水が止まる・濁る」「地鳴りがする」などを挙げています(砂防:がけ崩れとその対策)。これらはいずれも、地中の水と土のバランスが崩れつつあるサインです。ただし現れ方は斜面ごとに異なり、必ず前兆が出るとも限りません。

早期把握が難しい最大の理由は、変状の多くが「地中」で進むことにあります。地下水位の上昇やせん断面の形成は地表からは直接見えず、地表に亀裂や湧水として現れた時点ではかなり進行していることも珍しくありません。加えて斜面は広く、植生に覆われ、人が近づきにくい場所も多いため、点検の頻度と範囲がどうしても限られます。だからこそ、地中の計測と地表の観測を役割分担させる発想が欠かせません。

なお本記事は監視技術の整理であり、実際の避難の判断は、気象庁・都道府県が発表する土砂災害警戒情報や、自治体が出す避難情報に従ってください。

斜面変状のモニタリング手法を比較(目視・計測機器・衛星・ドローン・分光)

斜面監視の手法は、大きく5系統に整理できます。それぞれ「何の情報が取れるか」「どの広さを見られるか」「どのくらいの間隔で見られるか」が異なり、単独で万能なものはありません。まずは全体像を比較表で俯瞰します。費用は現場条件・機材構成・発注形態で大きく変わるため、金額ではなく傾向として記載しています。

手法

取得できる情報

空間範囲

時間分解能

費用感の傾向

向く条件

目視・定期点検

亀裂・湧水・変色など、人が見て分かる変化

点〜線(歩ける範囲)

低(数か月〜年)

機材費は小さく、人件費が支配的

対象箇所が限られ、アクセスしやすい斜面

伸縮計・傾斜計などの計測機器

設置点の変位量・傾斜の時間変化

点(設置箇所のみ)

高(連続・常時)

1点あたりは中程度。点数と通信・保守で増える

危険箇所が特定済みで、常時見張りたい斜面

InSAR(衛星SAR)

地表の変位量(視線方向)

面(広域・数十km規模)

中(衛星の回帰周期に依存)

公開データなら低。解析委託で中〜高

広域から動いている場所を絞り込みたい段階

ドローン測量(写真測量・点群)

地形形状・高低差・崩壊跡の形状

面(局所・数ha規模)

中(飛行の都度)

飛行1回あたりの実施費が中心

特定斜面の形状変化を高精細に押さえたい時

光学・分光(ハイパースペクトル)カメラ

表層の分光情報(土壌水分・植生ストレス・鉱物や粘土の変質などの手がかり)

面(局所〜中域・撮影範囲に依存)

中(撮影の都度)

機材費が中心。撮影の繰り返しでは追加費が小さい

変位として出る前の「状態の差」を面で拾いたい時

伸縮計・傾斜計は、斜面に生じた亀裂の開きや地表の傾きを連続的に計測する機器です。農林水産省の地すべり監視の手引きでも、これらを組み合わせて微小な動きを継続監視する重要性が示されています(地すべり監視体制構築の手引き)。強みは連続観測ですが、設置した「その1点」しか見えないため、どこに置くかの見極めが成否を分けます。

InSAR(干渉合成開口レーダー:2時期の衛星レーダー画像の差から地表の変位量を求める技術)は、広い範囲のじわじわした地盤変動を面的に捉えられます。JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号(ALOS-2)」のLバンドSARは昼夜・天候によらず観測でき、地すべりや地盤沈下による変位の測定事例も報告されています(JAXA だいち2号(ALOS-2))。国土地理院はこのデータを用いた全国の変動分布図を公開しており、干渉SARの精度は一般に数cm程度とされます。一方で、周回間隔に頼るため任意タイミングの観測は難しく、密な植生下では精度が落ちるという制約があります。

ドローン測量は、写真測量や点群で地形の微細な変化・崩壊跡を高精細に把握できます。地すべり観測の分野でも、UAV(ドローン)やレーザー計測といった新しい観測手法が導入されつつあることが公的資料で整理されています(地すべり観測における新しい観測手法)。局所を詳しく見るのに向く一方、飛行の都度撮る運用のため、常時監視というよりは定点的な精密チェックに適します。

判定チャート:既存手法で足りるか、分光・光学センシングを足すべきか

ここが本記事でいちばんお伝えしたい部分です。分光カメラは既存手法を置き換えるものではなく、既存手法が苦手な「まだ変位として出ていない表層の状態差」を面で拾うための道具です。以下の分岐を、ご自身の現場に当てはめてみてください。

A. まずは既存手法で足りる可能性が高いケース

  • 危険箇所がすでに1〜数点に特定できている:伸縮計・傾斜計を据えて連続監視するのが素直です。まず点の計測を優先します。
  • 知りたいのが「動いたかどうか(変位)」だけ:伸縮計、または広域ならInSARで足ります。分光は変位そのものを測る技術ではありません。
  • 広域のじわじわした地盤変動を年単位で把握したい:国土地理院の変動分布図など、公開されているInSAR成果から着手できます。
  • 崩壊後の地形を高精細に記録したい:ドローン測量・レーザー計測が適します。
  • 亀裂や湧水など目に見える変化がすでに出ている:まず点検頻度を上げ、必要に応じて計測機器を追加する方が費用対効果が高い場面が多くあります。

B. 分光・光学センシングを足す検討余地が出る条件

次のうち2つ以上に当てはまるなら、分光の追加を検討する価値があります。

  • 監視対象の斜面が多く、どこから詳しく見るか優先順位を付けたい(面でのスクリーニング用途)。
  • まだ変位として出ていない段階の手がかりが欲しい。表層の湿り方の違いや植生の弱りといった「状態の差」を面で見たい。
  • 変位計をどこに設置すべきか、根拠のある候補地が欲しい。点の計測の前段として面の情報を使いたい。
  • 現地に人が入りにくく、非接触で表層の状態を取りたい
  • 盛土・法面など人工斜面で、施工後の含水状態の差を確認したい
  • InSARで「動いている面」は分かったが、その場所で何が起きているかの表層の手がかりが足りない

C. 分光を足しても解決しないこと(先に共有したい限界)

  • 地下水位・せん断面など地中の情報は直接は見えません。孔内傾斜計や地下水位計の代わりにはなりません。
  • 崩壊の発生時刻の予測はできません。前兆となりうる状態変化を捉える手段であり、断定的な予測を行う技術ではありません。
  • 密な樹林に覆われて地表が見えない斜面では、地面そのものの情報が得にくくなります。
  • 降雨中・厚い雲の下でのリアルタイム観測は苦手です。全天候性が要るならSARが向きます。

D. 現場の状況別・組み合わせの目安

現場の状況

まず検討する手法

分光・光学を足す価値

管内に警戒すべき斜面が多数あり、優先順位が付けられていない

InSARなど広域の面的観測で絞り込み

大きい:絞り込んだ斜面の表層状態を面で確認し、次に人を出す場所を決められる

危険箇所が1か所に特定済みで、常時監視したい

伸縮計・傾斜計の設置

小さい:まず点の連続監視を優先

盛土・法面の施工後、含水や植生の状態差を追いたい

定期点検+必要に応じた計測機器

中〜大:非接触で面の状態差を記録でき、点検の入口として使える

崩壊後の状況把握・記録を急ぎたい

ドローン測量・レーザー計測

中:地形に加えて表層の含水状態の手がかりが得られる場合がある

雨天時・夜間にも欠かさず観測したい

SAR(全天候・昼夜観測)や地上設置の計測機器

小さい:光学系は天候の影響を受ける

分光(ハイパースペクトル)で何が見えて、何は見えないか

ハイパースペクトルカメラとは、光を数十〜数百の波長帯(バンド)に細かく分けて捉えるカメラで、人の目やふつうのカメラでは区別できない「分光情報」を画素ごとに取得できます。数バンドのマルチスペクトルより波長分解能が高く、NIR(近赤外:可視光より波長の長い、水分や植生の状態を反映しやすい光)まで含めて対象の状態を読み解けるのが特徴です。斜面監視では、この表層の状態変化を面で可視化できる点に価値があります。

具体的に期待できるのは、土壌水分・植生ストレス・鉱物や粘土の変質といった、地表面に現れる状態の把握です。UAVに搭載した近赤外マルチスペクトルカメラで斜面崩壊跡地などの土壌水分を計測する有効性は、砂防学会の研究でも検討されています(UAVに搭載した近赤外マルチスペクトルカメラによる土壌水分計測の有効性と課題)。また、ハイパースペクトルイメージングにより火山性土壌の含水状態を非接触で迅速に把握できたとする災害調査への適用事例も報告されています(ハイパースペクトルカメラの災害調査への適用)。地表がどこで湿っているか、植生がどこで弱っているかを面で示せることは、点検箇所の絞り込みに役立ちます。

一方で、限界も正直にお伝えします。分光カメラが捉えるのはあくまで地表面の分光情報が中心で、地中の地下水位やせん断面は直接は見えません。雲・天候・植生の被覆に影響され、密な森林下では地面の情報が得にくくなります。そして最も重要な点として、分光であれ他手法であれ、崩壊の「瞬間」をピンポイントに言い当てることはできません。あくまで前兆となりうる表層状態の変化を捉える手段として研究・実証が進んでいる段階であり、伸縮計やInSARなど他の計測との併用が前提です。「この値なら崩れる」といった断定的な予測はできない、という前提を共有しておくことが安全につながります。

私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、判定チャートのBに当てはまりそうだと感じられた方は、どんな波長帯で何が見えるのか、製品ページで仕様だけでもご確認いただけたら嬉しいです。

導入・運用の進め方(点と面を組み合わせた面的モニタリング)

実務では、単一手法に頼らず役割分担させるのが基本です。おすすめの考え方は、まず広域を面で当たり、次に怪しい箇所を面で詳しく見て、最後に要注意点を点で連続監視するという三段構えです。広域はInSARで変動の兆しを探し、絞り込んだ斜面はドローンや分光カメラで表層の状態を面的に確認し、リスクの高い箇所に伸縮計・傾斜計を据えて常時見張る、という流れです。

手法選定は、対象の規模・アクセス性・予算・求める頻度で決まります。広くて人が入りにくい山地なら衛星やドローンの面的観測が効き、住宅裏の急傾斜地のように局所で連続監視したい場所は計測機器が向きます。分光カメラは、土壌水分や植生ストレスといった「地表の状態」を点検の入口として把握したいときに、他手法を補完します。近年は防災DXの流れでこれらを組み合わせた事例も増えていますが、大切なのは目的に対して過不足のない構成にすることです。この「面で当たって点で詰める」考え方は道路管理でも共通で、路面側の整理は道路舗装の劣化を面的に調べる手法にまとめています。

分光を検討する場合の導入ステップ

  1. 目的と対象斜面を1枚に整理する。何を(変位か、表層の状態か)、どの範囲で、どのくらいの頻度で見たいのかを言葉にします。ここが決まると、そもそも分光が要るかどうかが判断できます。
  2. 既存データを棚卸しする。既設の計測機器、過去の点検記録、公開されているInSAR成果など、すでに持っている情報を先に並べます。足りない情報だけが新しい手法の対象です。
  3. 対象を1〜2斜面に絞って小さく試す。撮影の条件(時間帯・天候・距離・角度)と、得られたデータで狙った差が見えるかを、狭い範囲で確かめます。
  4. 判読の基準を現場と一緒に作る。「どの程度の差を気になる変化として扱うか」を、現地を知る担当者と決めます。ここを飛ばすとデータが増えるだけで運用に載りません。
  5. 既存の点検フローに接続する。撮影頻度、記録の残し方、既存の巡回や計測機器のデータとの突き合わせ方を決めて、通常業務の中で回るようにします。

ステップ3の「小さく試す」段階からご一緒することが多く、まずは対象斜面の条件を伺ったうえで、分光が向くかどうかも含めて率直にお伝えしています。

斜面や構造物のモニタリングは、土砂だけでなくインフラ点検全般と地続きです。関連する点検技術として、コンクリートのひび割れ検査(ドローン点検)錆・塗装劣化の検査橋梁点検の新技術の考え方も、面的に状態を捉える発想として参考になります。分光技術そのものの仕組みはハイパースペクトルカメラとは(仕組み)で、波長帯や重量などの仕様は国産ハイパースペクトルカメラ irodori の製品ページで確認できます。

よくある質問(FAQ)

最後に、土砂崩れの予兆検知に関してよく寄せられる質問をまとめます。分光カメラは万能ではなく、他手法と組み合わせて初めて力を発揮する、という点を前提にお読みください。私たちは食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。実績は/achievements/でご覧いただけます。もし斜面や構造物のモニタリングでお困りでしたら、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。

ご相談前に整理いただけると早いこと

お問い合わせをいただく際、次の5点が分かると、判定チャートのA(既存手法で足りる)とB(分光を足す余地がある)のどちらに近いかを、その場でお答えしやすくなります。埋まらない項目があっても構いません。

  • 対象斜面の数と場所:1か所を詳しく見たいのか、管内に多数あって優先順位を付けたいのか。
  • すでにある情報:設置済みの伸縮計・傾斜計、過去の点検記録、公開InSAR成果の利用有無。
  • 知りたいこと:「動いたかどうか(変位)」なのか、「変位として出る前の表層の状態差」なのか。
  • 現地の条件:人が入れるか、ドローン飛行が可能か、樹林の被覆はどの程度か。
  • 検討の時期感:今年度の調査業務の中で試すのか、次年度予算の検討段階か。

分光が向かないケースだと判断した場合は、その旨を率直にお伝えします。資料には、波長帯・重量などの仕様と、インフラ・農業などの現場での実証事例をまとめています。斜面監視の手法選定を検討中の方は、まず資料でご確認ください。

FAQ

土砂崩れの予兆にはどんな前兆現象がありますか?

国土交通省は、斜面のひび割れ、小石が落ちてくる、新たな湧き水が生じる・湧き水が止まる/濁る、地鳴りがする、などをがけ崩れの前兆現象として挙げています。ただし必ず前兆が現れるとは限らず、地中で進む変状は地表からは見えにくいため、複数手法での監視が推奨されます。なお実際の避難の判断は、気象庁・都道府県の土砂災害警戒情報や自治体の避難情報に従ってください。

ハイパースペクトルカメラで土砂崩れは予測できますか?

予測はできません。分光カメラが捉えるのは主に地表面の状態で、土壌水分や植生ストレスなどを面的に可視化できます。地中の地下水位やせん断面は直接見えず、崩壊の瞬間を断定的に言い当てることもできません。伸縮計やInSARなど他の計測と組み合わせて、前兆となりうる変化の把握を補完する位置づけとして、研究・実証が進んでいる段階です。

既存の傾斜計や目視点検で足りるかどうか、どう判断すればよいですか?

危険箇所がすでに特定できていて、知りたいのが変位だけであれば、伸縮計・傾斜計などの既存手法で足りる場合が多いです。一方で、監視対象の斜面が多く優先順位を付けたい、変位として出る前の表層の状態差を面で拾いたい、変位計の設置場所の根拠が欲しい、といった条件が2つ以上重なる場合は、分光・光学センシングを足す検討余地があります。

InSARと分光カメラの違いは何ですか?

InSARは衛星レーダーの2時期差から地表の変位量を数cm精度で広域に捉える技術で、じわじわした地盤変動の把握に向きます。分光カメラは光を細かい波長帯に分けて土壌水分や植生ストレスなど表層の状態を捉える技術です。変位そのものを見るInSARと、表層の状態を見る分光は、補完関係にあります。

検討を始める場合、まず何からすればよいですか?

まず目的と対象斜面を整理し(何を・どの範囲で・どの頻度で見たいか)、次に既設の計測機器や過去の点検記録、公開されているInSAR成果など既存データを棚卸しします。そのうえで対象を1〜2斜面に絞って小さく試し、判読の基準を現場と決めてから、既存の点検フローに接続する流れが現実的です。

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