科研費で中古品やデモ機・展示機を買ってよいのか、買うなら費目と見積はどう扱うのか。新品より安く研究機器をそろえたい研究者・URA・事務担当の方へ、判断の順番と、販売元に事前に確認すべき項目を整理しました。
結論です。科研費は、物品の調達・契約のルールを所属する研究機関に委ねており、新品か中古かで一律に線を引く定めを科研費の側では置いていません。中古品・デモ機・展示機を買えるかどうかは、①当該研究課題の遂行に直接必要か、②所属機関の調達規程の手続きに乗せられるか、の2点で決まります。そのうえで、中古ならではの「保証・校正・ライセンス・一点物で相見積が取りにくい」という事情を、発注前に書類で埋めておくことが実務上の要点です。
科研費で中古品・デモ機は買えるのか
根拠は2つあります。日本学術振興会の2026年度(令和8年度)の研究者使用ルール(補助条件)は、補助金の管理と諸手続を所属研究機関を通じて行うよう定めています(1-5)。さらに科研費ハンドブックは「契約や調達等に関するルールは各研究機関において定めるものとしており、科研費制度で一律に定めることは行っていません」と明記しています。
つまり「中古だから科研費では買えない」という一律の禁止は科研費側には無く、判断の場は所属機関です。逆に言えば、機関の規程が業者からの見積・請求・納品という通常の発注手続きを求めている場合、その手続きに乗らない買い方(個人間の売買など)は、中古かどうか以前に処理できない可能性があります。購入ルートの可否は、必ず事前に事務担当へ確認してください。
なお、直接経費で購入した設備等は、中古であっても購入後ただちに研究機関へ寄付する義務があります(補助条件 3-11)。研究者個人の持ち物にはならない、という点は新品と同じです。
新品・中古・デモ機(展示機)の違いを比較する
「中古」と一口に言っても、前の利用者が使っていた個体と、メーカーや販売店がデモ・展示に使っていた個体では、引き受けるリスクが違います。以下は一般的な傾向の整理で、実際の条件は販売元と個体ごとに異なります。
比較軸 | 新品 | デモ機・展示機(メーカー・正規販売店) | 中古品(前利用者あり) |
|---|---|---|---|
価格 | 定価・見積価格 | 新品より抑えられることが多い | 最も下がりやすいが個体差が大きい |
保証・保守 | メーカー保証が付く | 販売元の保証が付く場合がある。期間・範囲を要確認 | 保証なし・現状渡しもある。メーカー保守の対象外になる場合がある |
校正・付属データ | 出荷時の校正が付く | 販売元が再点検・再校正して出すかを要確認 | 校正証明・キャリブレーションデータが欠けることがある |
ソフトウェア | 新規ライセンス | ライセンスの付け替え可否を要確認 | 本体は譲渡できてもソフトは移管不可の場合がある |
相見積 | 同一型番で複数社から取りやすい | 一点物のため取りにくい | 一点物のため取りにくい |
納期 | 受注生産だと長いことがある | 在庫品なら短い | 在庫品なら短い |
年度末が近く、受注生産の新品では3月31日までの納品・検収が間に合わないときに、在庫のあるデモ機・展示機が現実的な選択肢になることがあります。補助金分の年度内検収の考え方は科研費の年度末納品はいつまでかを整理した記事で詳しく扱っています。
費目はどう判定するか:中古でも基準は機関の規程
府省共通経費取扱区分表は、設備備品費を機械装置・工具器具備品等の購入等に要する経費としたうえで、「設備備品の定義・購入手続きは研究機関の規程等によるものとする」としています。中古品でも、設備備品費か消耗品費かは所属機関の基準で判定します。
中古で迷いやすいのは金額の扱いです。機関の基準額が金額で決まっている場合、定価ではなく実際の契約金額で判定するのか、機関に確認しておくと後戻りがありません。定価なら備品でも、中古価格では基準額を下回るケースがあるためです。判定の手順そのものは科研費の設備備品費と消耗品費の違い(費目判定5ステップ)にまとめています。
また、カメラ類やパソコンなどは、金額にかかわらず換金性の高い物品として備品に準じた管理(シール貼付・所在確認など)の対象にしている機関があります。撮像装置を中古で買う場合も、資産登録の要否は事務担当に確認してください。
見積の取り方:一点物は「一者見積の理由」とセットで準備する
相見積の要否や社数も、科研費ではなく所属機関の契約事務取扱で決まります。中古品・デモ機は同じ個体が市場に一つしか無いため、同条件の見積を複数社から取ること自体が難しいのが普通です。この場合は多くの機関で、一者見積(随意契約)の理由を書面で示す運用になります。理由書の型は科研費の相見積は何社必要か・一者見積理由書の書き方を参照してください。
中古・デモ機で理由書を書くときに効くのは、「なぜこの個体でなければならないか」を研究上の必要性で説明することです。たとえば、必要な波長域・仕様を満たす機種のうち年度内に納品できる在庫がこの個体だけである、新品との価格差で研究計画上の他の必要経費を確保できる、といった具体的な事実を、新品の参考見積と並べて示すと説明が通りやすくなります。
販売元に確認しておく7項目(発注前チェックリスト)
確認項目 | なぜ必要か |
|---|---|
見積書の発行者が事業者であるか(請求書・納品書を出せるか) | 機関の発注手続きに乗せるための前提 |
品名・型番・製造年・シリアル・状態の記載 | 検収時の照合と資産登録に使う |
保証の有無と期間、メーカー保守の継続可否 | 故障時に直せる相手がいるかを決める |
校正証明書・キャリブレーションデータの付属 | 測定値を論文・報告で使えるかを左右する |
解析ソフトのライセンス移管可否 | 別途購入になると総額が変わる |
付属品一覧(光源・ケーブル・標準板など) | 欠品があると追加発注が年度をまたぐことがある |
納品日・据付・検収の条件 | 補助金分は3月31日までの納品・検収が前提 |
ハイパースペクトルカメラを中古・デモ機で考える場合
研究機器の中でも、ハイパースペクトルカメラ(光を細かい波長ごとに分けて画素ごとに記録するカメラ)は、中古で買うときの注意点がはっきりしています。生データは白色標準板などでのキャリブレーションを経て初めて反射率として扱えるため、キャリブレーションファイルや校正の担保が欠けた個体では、装置が動いても数値として使えないことがあるからです。個体を見極める7項目はハイパースペクトルカメラの中古は買うべきかを整理した記事で詳しく解説しています。
「買う前に本当に必要な波長域かを確かめたい」段階なら、購入より先に実機で試す方法もあります。デモ(実機検証)の流れはハイパースペクトルカメラのデモ依頼の進め方、科研費でレンタル・リースを使う場合の費目は科研費のレンタル・リースと備品の違いにまとめています。ハイパースペクトルカメラの仕組みと4業界36のユースケースはInvisible World のトップページでも紹介しています。
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。中古・デモ機・新品のどれが研究計画に合うか迷っている段階でも、仕様や導入条件のご相談を承っています。まずは製品の概要だけでも確認しておきたい方は、irodori の製品ページもあわせてご覧ください。
判断の順番:中古・デモ機・新品・レンタルの選び方
迷ったら、次の順番で絞り込むと手戻りが少なくなります。
- 研究上の必要性を確定する:必要な仕様(波長域・解像度など)と、測定値をどこまで外部に説明する必要があるかを決める。
- 所属機関のルールを確認する:中古品・デモ機の購入ルート、費目の判定基準、一者見積の扱い、資産登録の要否。
- 期限から逆算する:補助金分なら3月31日までに納品・検収できるか。間に合わないなら基金分の使い方や、レンタル・共用機器の利用も比較する。
- 総額で比べる:本体価格だけでなく、再校正・ソフト・保守まで含めて、新品・中古・レンタルを並べる。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場や研究機関とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。受賞歴や学術成果は実績一覧にまとめています。導入の可否を検討する段階の資料として、カタログだけでもご活用いただければ幸いです。




