HACCPで異物混入はどこまで求められるのか。結論から言うと、HACCPは異物の大きさや個数を数値で定める制度ではありません。本記事では食品衛生法の条文と厚生労働省の公表資料をたどり、異物をCCPで管理するか一般衛生管理に置くかを自社で判断し、手順書と設備投資の根拠にできる順番で整理します。読み終えたとき、監査や保健所への説明に使える「自社の言い分」の骨格ができている状態を目指します。
結論を先に3点。(1) HACCPは「異物を何ミリまで許容するか」を国が定める制度ではなく、自社の工程を分析して危害要因を洗い出し、管理方法を自分で決めて記録する枠組みです。(2) 異物のうち硬質異物(金属片・硬質プラスチック・ガラスなど)は物理的な危害要因として危害要因分析の対象になり、毛髪や虫は物理的危害要因としては扱わず一般衛生管理で抑えるのが厚生労働省の手引書の一般的な整理です。(3) ただし異物混入食品そのものは食品衛生法第6条で販売等が禁止されており、HACCPで数値基準がないことと「放置してよい」ことはまったく別です。
HACCPは「異物は何ミリまで」を決める制度ではない
まず用語を1行で。HACCPとは、厚生労働省の説明によれば「食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理する」衛生管理の手法です(厚生労働省「HACCP(ハサップ)」)。危害要因分析(HA)は工程ごとに危険の芽を洗い出す作業、CCP(重要管理点)はそのうち「ここで外したら製品を止められない」という決め所を指します。
ここで多くの品質保証担当者がつまずきます。HACCPの基準を読んでも「異物は◯mm以下」「金属検出機はFeφ◯mm」という数字が出てこないからです。それは制度の欠落ではなく設計思想です。扱う食品も工程も設備も事業者ごとに違う以上、国が一律の数値を置くのではなく、各事業者が自社の工程を分析して管理方法と管理基準を決め、その根拠と実施記録を残すことを求める構造になっています。
この構造を理解すると、社内稟議の書き方が変わります。「HACCPで義務なので買います」は制度上の説明として成り立ちません。成り立つのは「自社の危害要因分析の結果、この工程に硬質異物のリスクが残るため、この管理手段を選んだ」という筋道です。設備投資の根拠は制度の外から借りてくるものではなく、危害要因分析の中で作るものだと考えてください。
制度の骨格:食品衛生法のどこに書かれているか
施行は2021年6月1日、根拠は食品衛生法第51条
HACCPに沿った衛生管理は、2018年(平成30年)6月13日公布の食品衛生法等の一部を改正する法律で導入され、経過措置を経て2021年(令和3年)6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が取り組むこととなりました(厚生労働省「HACCP(ハサップ)」)。条文上の根拠は食品衛生法第51条で、施設内外の清潔保持やねずみ・昆虫の駆除に関する基準と、「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」に関する基準を厚生労働大臣が定め、営業者はこれに従って公衆衛生上必要な措置を定め遵守する、という組み立てです。
この2つの基準は、食品衛生法施行規則の別表第17(一般衛生管理に関すること)と別表第18(HACCPに沿った衛生管理に関すること)に置かれています。異物対策の議論が噛み合わないときは、たいてい「どちらの別表の話をしているのか」が揃っていません。防虫防鼠・服装・清掃は別表第17の世界、危害要因分析とCCPは別表第18の世界です。
異物混入そのものは第6条で禁止されている
HACCPに数値基準がないからといって、異物混入が法的に自由なわけではありません。食品衛生法第6条は、不潔・異物の混入その他の事由により人の健康を損なうおそれがある食品等の販売・製造・輸入・陳列等を禁じています。つまり「出してはいけない」は第6条が、「どう防ぐかを自分で決めて記録せよ」は第51条と別表第18が担当している、という二階建てです。
さらに2021年6月1日からは、食品衛生法違反またはそのおそれがある食品を自主回収する際、都道府県知事等への届出が必要になりました(厚生労働省「食品等の自主回収報告制度の創設」)。届出情報は健康被害の可能性に応じてクラス分類され公表されます。異物混入が回収に発展したときの外部影響が制度として可視化された点は、投資判断の材料として押さえておく価値があります。
「HACCPに基づく」と「考え方を取り入れた」の違い
制度は2本立てです。小規模な営業者等は、業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書に則って衛生管理を行うことで、基準に適合しているものとして扱われます(厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」)。自社がどちらに当たるかで、異物に対して求められる書類の重さが変わります。
観点 | HACCPに基づく衛生管理(別表第18) | HACCPの考え方を取り入れた衛生管理 |
|---|---|---|
主な対象 | 左記以外の食品等事業者(一定規模以上の製造・加工業など) | 小規模な営業者等。食品等の取扱いに従事する者が50人未満の事業場、製造施設に併設・隣接した店舗でその大部分を小売販売する営業、飲食店営業などが例示されている |
異物の扱い | 自社の工程で危害要因分析を行い、異物を含む危害要因を洗い出して管理方法を決める | 手引書に示された危害要因と管理方法を自社の実態に当てはめる |
求められる文書 | 危害要因分析表、CCPの管理基準、モニタリング方法、改善措置、検証、記録 | 衛生管理計画と手順書、実施記録。手引書の様式を使える場合が多い |
つまずきやすい点 | CCPを増やしすぎて現場が回らなくなる | 手引書を読んだだけで記録が残っていない |
なお、農業・水産業における食品の採取業、食品・添加物の輸入業、貯蔵・運搬のみを行う営業(冷凍・冷蔵倉庫業を除く)、常温で長期保存できる包装食品の販売業、器具容器包装の輸入・販売業、1回の提供食数が20食程度未満の集団給食施設は、制度の対象外として整理されています。自社が対象かどうかの最終判断は、所轄の保健所にご確認ください。
異物を危害要因分析でどう扱うか
硬質異物は物理的危害要因、毛髪・虫は一般衛生管理へ
危害要因は生物的・化学的・物理的の3つに分けられます。異物のうち物理的危害要因として扱われるのは、消費者を負傷させ得る硬質異物です。厚生労働省の「食品製造におけるHACCP入門のための手引書(焼菓子編)」では、刃こぼれや照明器具の破損などによる硬質異物は健康被害を及ぼし得る一方、毛髪などその他の異物は物理的危害要因とはならないがクレームの原因になる、という整理が示されています。
この線引きは冷たく感じるかもしれませんが、実務上はむしろ助けになります。毛髪や虫を無理にCCPに持ち上げると、管理基準もモニタリングも設計できず、書類だけが増えて形骸化するからです。健康被害の観点=危害要因分析、品質・クレームの観点=一般衛生管理と品質管理、と置き場所を分けたうえで、どちらも手を抜かないのが現実的な形です。毛髪が検出しづらい理由と物理的な背景は毛髪の異物検出はなぜ難しいのかを解説した記事で詳しく扱っています。
異物の種類別・置き場所の整理表
異物の種類 | 一次的な位置づけ | 主な管理の置き場所 | 補足 |
|---|---|---|---|
金属片(刃こぼれ、機械部品) | 物理的危害要因 | 危害要因分析。工程によりCCP候補 | 発生源の特定と器具点検が前提 |
硬質プラスチック、ガラス | 物理的危害要因 | 危害要因分析。破損管理と併用 | 破損時の回収手順を手順書に |
軟質樹脂フィルム、包材片 | 状況により判断が分かれる | 一般衛生管理+工程管理 | 形状・硬さ次第で危害要因になり得る |
毛髪 | 物理的危害要因とはしないのが一般的 | 一般衛生管理(入室手順、服装、粘着ローラー) | クレーム影響は大きい |
虫、小動物 | 同上 | 一般衛生管理(防虫防鼠、別表第17) | モニタリングは捕獲数の推移で行う |
原材料由来(石、骨、殻) | 物理的危害要因 | 受入基準と選別工程 | 仕入先との取り決めが効く |
この表はあくまで出発点です。同じ「軟質樹脂」でも、扱う製品や喫食者(高齢者施設向けか、乳幼児向けか)によって判断は変わります。自社の分類を決めたら、その理由を1行でよいので危害要因分析表に書き残してください。監査で問われるのは分類そのものより、分類の理由が説明できるかです。
CCPにするか一般衛生管理で管理するかの判定チャート
ここからは制度の条文そのものではなく、実務で判断を揃えるための整理です。以下の5問を上から順に当て、最初に「該当なし」で止まったところが答えになります。社内で分類の議論が割れたとき、このチャートを共通の土俵として使ってください。
問 | 判定する内容 | Yesの場合 | Noの場合 |
|---|---|---|---|
Q1 | その異物は、喫食した人に健康被害(裂傷、窒息、歯牙破損など)を与え得るか | Q2へ | 一般衛生管理・品質管理で対応。危害要因分析表には「該当なし」と理由を記載 |
Q2 | 自社の工程内に、その異物が混入する具体的な発生源があるか(設備・器具・原材料・人) | Q3へ | 発生源がないと判断した根拠を記録。定期的に再評価 |
Q3 | 一般衛生管理(設備点検、破損管理、入室手順、防虫防鼠)だけで発生頻度を十分に抑えられるか | 一般衛生管理(PRP)で管理。手順書とその実施記録で担保 | Q4へ |
Q4 | 後工程に、その異物を除去または検出できる工程があるか | 後工程側をCCP候補として評価 | 当該工程をCCP候補として評価 |
Q5 | その工程に、測定・観察できる管理基準(数値または明確な判定条件)を設定できるか | CCPとして設定。モニタリング・改善措置・検証・記録をセットで設計 | CCPにはせず、一般衛生管理を強化。管理基準が置けない工程を無理にCCPにしない |
Q5がこのチャートの要です。CCPは「重要そうな工程」ではなく「管理基準を測って外れを検知し、その場で手を打てる工程」です。測れないものをCCPにすると、モニタリング記録が「目視・異常なし」だけで埋まり、検証のしようがない書類になります。PRP(前提条件プログラム)とは、HACCPが機能する土台となる一般衛生管理のことで、清掃・防虫防鼠・従業員衛生・設備保守などが含まれます。CCPに持ち上げられない異物は、PRPを厚くするほうが実効性が上がります。
限界も正直に書きます。このチャートは判断の順番を揃えるための道具であり、これに従えば法令に適合すると保証するものではありません。業種別手引書がある場合はそちらの分類が優先されますし、最終的な適否は所轄の保健所や監査機関の判断によります。
検証とモニタリングで求められる記録
異物の管理をCCPに置いた場合、設定して終わりにはできません。別表第18の枠組みでは、管理基準の設定、モニタリング方法の設定、逸脱時の改善措置、検証(verification)、そして記録の作成と保存がひと続きで求められます。検証とは「決めたとおりに運用できているか」「その方法が今も有効か」を定期的に確かめる作業で、モニタリングとは別の行為です。
異物管理で最低限そろえたい記録は次の4種類です。第一に、始業前・終業後の検出機感度確認記録(テストピースの通過結果)。第二に、モニタリング記録(排出の有無、時刻、担当者)。第三に、逸脱が起きたときの改善措置記録(対象ロットの隔離範囲と処置)。第四に、危害要因分析表そのものの見直し記録です。
見落とされがちなのが4つ目です。新しい設備を入れた、原材料の仕入先を変えた、製品の形状を変えた——こうした変更は危害要因分析の前提を変えます。変更があったら分析をやり直し、やり直した事実を記録に残す。監査で効くのはこの一手間です。記録の保存期間や様式は業種・自治体で運用に幅があるため、具体的な年数は所轄の保健所にご確認ください。文書の作り方そのものは本記事の範囲を超えるため、異物混入対策マニュアルの作り方をまとめた記事に譲ります。
現場でよくあるつまずき
「HACCPだから金属検出機が必須」という誤解
最も多い誤解です。制度は特定の検査機器の設置を義務づけていません。金属検出機がCCPになるのは、危害要因分析の結果として金属片の混入リスクが残り、かつその工程に管理基準(検出感度と排出の確認)を置けるからです。順序が逆になると、機器はあるのに感度確認の記録がない、という監査で最も指摘されやすい状態になります。
もう一点。金属検出機を入れても、検出できるのは磁性・導電性のある異物に限られます。何が映らないのかは金属検出機で検出できない異物を7分類で整理した記事にまとめました。危害要因分析で「金属以外の硬質異物」を挙げたのに管理手段が金属検出機だけ、という組み合わせは論理が通りません。
CCPを増やしすぎて現場が止まる
真面目な品証チームほど陥ります。CCPが5つも6つもあると、モニタリングの人手が足りず、記録が後追いで埋められるようになります。それは制度上も実務上も最悪の状態です。CCPは少なく、PRPを厚く。判定チャートのQ3とQ5で容赦なく落とすことが、結果として現場の実行力を守ります。
設備を先に選んでしまう
展示会で良さそうな検査機を見つけてから、後付けで危害要因分析の理屈を作るケースです。稟議は通るかもしれませんが、運用が始まってから「何を検知したら止めるのか」が決まっていないことに気づきます。機器選定の進め方は異物混入の検査機を選ぶ5ステップの記事で手順化しています。
異物検査の技術そのものを一度整理しておきたい方は、ハイパースペクトルカメラの基礎をまとめたガイドもあわせてご覧ください。原理と向き不向きを先に知っておくと、危害要因分析の選択肢が増えます。
金属にもX線にも映らない異物をどう扱うか
危害要因分析を丁寧にやるほど、「リスクは認識したが、既存の検査機では捉えられない」という欄が残ります。透明な樹脂片、薄いフィルム、毛髪、虫などは、金属検出機の原理にもX線の密度差にもかかりにくい対象です。何がX線に映りにくいのかはX線に映らないものを一覧化した記事で整理しています。
ハイパースペクトルカメラは、光を細かい波長に分けて撮影し、素材ごとの光の反射の違いから見分ける装置です。密度ではなく素材の違いを手がかりにするため、密度差の小さい異物の検討に入り得ます。ただし万能ではありません。表面が見えない位置にある異物、包装の内側、対象と背景の分光的な差が小さい組み合わせでは検出できません。導入可否は対象品と異物の組み合わせごとにテスト撮影で確かめる必要があります。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。どの現場でも最初に行うのは、対象品と想定異物で光の違いが出るかを確かめることで、そこで差が出なければ正直にその旨をお伝えしています。これまでの取り組みは実績一覧にまとめています。冷凍状態での検査など条件が厳しい領域については冷凍食品の異物混入への対応をまとめた記事もご参照ください。
制度の読み方をひととおり整理したうえで、自社の危害要因分析表に空欄が残っているなら、技術の選択肢を並べて比べる段階です。判断材料として使える資料をまとめていますので、必要でしたらお手元でご確認ください。




