コンクリートの劣化診断の費用は、どの手法を選ぶかよりも「足場・高所作業車・交通規制・夜間作業といったアクセス条件」と「採取するコアの本数」でほぼ決まります。公開されている国の単価から費用の内訳を7項目に分解し、見積書の読み方・発注前に決めておく項目・令和8年度に使える制度までを表で整理します。
結論を先に書きます。コンクリート劣化診断の費用に「一律の相場」は存在しません。公開情報で裏が取れるのは人件費の単価だけで、令和8年3月から適用される設計業務委託等技術者単価は全職種(職階)単純平均が51,715円/日(対前年度比+4.3%・14年連続の引き上げ)です(国土交通省 報道発表)。同じ「コンクリート劣化診断」でも、この人日が何日積まれるか、コアを何本採るか、足場が要るかで総額は数倍動きます。だから見積を比べるときに見るべきは金額ではなく、数量の単位と、その数量がどこから出てきたかです。
コンクリート劣化診断の費用は何で決まるのか
公開されている単価は「人件費」だけ
費用を自分で検算したいとき、確実な出発点になるのは国が毎年改定して公表している2つの単価です。診断業務そのものの標準単価は一般に公表されていないため、この2つを押さえておくのが現実的な備えになります。
ひとつは設計業務委託等技術者単価です。設計・測量・地質調査などの業務委託の積算に使う全国一律の単価で、令和8年3月適用分は設計業務で主任技術者90,300円、理事・技師長82,800円、主任技師70,900円、技師(A)62,600円、技師(B)49,300円、技師(C)42,500円、技術員36,700円、地質業務で地質調査技師58,300円、主任地質調査員45,500円、地質調査員35,200円(いずれも所定労働時間内8時間あたりの基準日額)です。
もうひとつは公共工事設計労務単価です。足場の組立解体、はつり、交通誘導といった現場作業に対応する単価で、令和8年3月適用分は全国全職種加重平均が25,834円となり、初めて25,000円を超えました(国土交通省 報道発表)。診断の見積で「仮設費」「安全費」として立つ部分は、この単価の世界です。
ここで見落としやすいのが割増です。技術者単価は所定労働時間内8時間あたりの金額で、時間外・休日・深夜の労働に対する割増賃金は単価に含まれていません。赤外線サーモグラフィのように部材の熱差を確保するために夜間計測が前提になる手法では、この割増がそのまま金額に乗ります。「同じ手法なのに見積が違う」の原因が、作業時間帯にあることは珍しくありません。
直接人件費に諸経費が約2.4倍まで乗る
公共発注の点検業務では、直接人件費の上に諸経費が定率で積まれます。道路橋の定期点検業務の積算では、その他原価を直接人件費の35/65、一般管理費等を業務原価の35/65として計算するため、直接人件費に対して業務価格は約2.4倍になります。10橋分を実際に計算した内訳はドローン点検の費用と橋梁点検の積算内訳にまとめています。
劣化診断の詳細調査にこの標準歩掛がそのまま当てはまるわけではありません。ただ民間の見積でも「技術者の人日 + 定率の諸経費」という骨格は似ています。試しに公開単価で機械的に計算すると、技師(B)1名+技術員1名で現地に1日入る体制は直接人件費86,000円/日で、これに同じ比率の諸経費を乗せると1日あたり約21万円相当になります。金額の当否ではなく、現地に何人・何日入るかが総額の主変数だという構造を掴むための計算として使ってください。
費用内訳7項目と、見積書での書かれ方
内訳表|何で変わるか・見積書でどう書かれるか
コンクリート劣化診断の見積は、次の7項目に分解できます。どの項目が膨らむかを先に当てておくと、業者ごとの前提の違いが金額差として読めるようになります。
費目 | 何で金額が変わるか | 見積書での典型的な書き方 |
|---|---|---|
事前準備・資料調査 | 設計図書・配合報告書・過去の点検調書が揃っているか。図面が無いと現地での実測が増える | 「計画準備」「資料収集整理」/人日 |
仮設・アクセス確保 | 足場か高所作業車か橋梁点検車か、交通規制の車線数と時間帯、夜間・休日作業の有無、第三者被害予防措置 | 「仮設費」「安全費」「交通誘導員」/日・人日・m²。ここが最大の変動要因 |
外観調査(目視・打診) | 調査面積、部材数、ひび割れ幅の実測本数、スケッチ・展開図の作成範囲 | 「外観目視調査」「打音検査」/m²・箇所・径間 |
非破壊試験 | 手法の数と測点数。反発度法・超音波法・電磁波レーダ/電磁誘導法(鉄筋位置・かぶり)・自然電位法・比抵抗・赤外線で単位が異なる | 「反発度試験」=箇所、「かぶり調査」=本、「自然電位」=測点、「赤外線」=m² |
コア採取 | コア径(φ100/φ50/φ25)、本数、採取高さ、給水と電源の有無、採取孔の補修範囲 | 「コアボーリング」/本。孔の補修が別項目か要確認 |
室内試験 | 試験項目数 × 供試体本数。圧縮強度・中性化深さ・塩化物イオン量・配合推定・ASR(アルカリシリカ反応)の判定で単価が違う | 「圧縮強度試験」=本、「塩化物イオン含有量試験」=試料数(深さごと) |
報告書・判定・再調査 | 判定区分の付与範囲、対策工法の提案までやるか、電子納品の要否、第三者委員会や学識者への説明の有無 | 「報告書作成」「とりまとめ」/人日・部。再調査は別途になりやすい |
手法そのものが何を測れて何を測れないかは、コンクリート劣化診断の劣化事象7種×診断手法10分類の対応表で整理しています。この記事は費用と見積に絞ります。
「一式」表記は数量の単位に割り戻してもらう
見積書で最も危ないのは「劣化調査 一式」です。一式には数量が無いため、後から「その範囲は含まれていません」と言われても反論する根拠が残りません。対策は単純で、各費目を数量の単位に割り戻してもらうことです。単位が入れば、他社の見積と横に並べられます。
数量の目安は、国の要領から拾えるものがあります。コンクリート橋の塩害を対象とした特定点検要領(案)では、塩化物イオンの試験は構造物表面から深さ70mmまでの範囲を10mmピッチで行い、試料は各深さごとに20g以上とされています。この量を得るために必要なコア本数まで書かれており、φ50mmのコアでは1本、φ25mmの小径コアでは3本、φ14mmのドリル削孔粉なら8箇所程度の削孔が必要とされています(国土交通省 コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案))。
調査・試験項目 | 数量の単位 | 公表資料から読める数量の目安 |
|---|---|---|
塩化物イオン量 | 試料数(深さ×箇所) | 表面から70mmまで10mmピッチ・各深さ20g以上。調査箇所は1橋梁あたり1箇所が原則、規模が大きい場合は5径間あたり1箇所程度が目安 |
コア採取 | 本 | φ50mmなら1本、φ25mmなら3本で上記の試料量を確保できる |
中性化深さ | 供試体本数・削孔数 | 採取したコアの表面または削孔あなでJIS A 1152に準じて測定 |
かぶり(鉄筋位置) | 本・箇所 | 1橋梁あたり1径間、1径間あたり6箇所、各箇所5本程度で合計30本以上 |
圧縮強度 | 供試体本数 | JIS A 1107によるコアの圧縮強度試験。判定は複数本の平均で行うのが通例 |
外観・赤外線 | m²・径間 | 調査面積で数える。足場・規制の数量と連動する |
この表で伝えたいのは金額ではなく、「コア1本」で済む調査と「小径コア3本+削孔8箇所」になる調査があり、同じ試験名でも数量が3倍以上変わるという事実です。見積の単価が安く見えても、数量の前提が違えば総額は逆転します。
追加費用が発生する4つの条件
契約後に金額が動く原因は、だいたい次の4つに収まります。見積の段階で「この場合はどうなるか」を先に書き込んでもらうのが実務的です。
- 鉄筋位置の事前探査を省いた場合:要領では、コアを採る前に電磁誘導法または電磁波反射法で鉄筋位置を調査し、鋼材を傷つけないようにすると定められています。非破壊試験がコア採取の前工程として必須なので、「コア採取だけ」の見積は後から非破壊分が乗ります。
- 採取孔の補修が別項目になっている場合:試料採取箇所は調査後早急に補修するものとされています。補修費が含まれているかを必ず確認してください。
- 再調査・追加調査の単価が空欄の場合:非破壊で判定できず追加でコアを採る、想定より劣化が進んでいて調査範囲を広げる、といった展開は普通に起きます。単価が決まっていなければ交渉になります。
- 作業時間帯・立入条件が確定していない場合:夜間・休日作業には技術者単価に含まれない割増が乗ります。電車・道路の運行時間、テナントの営業時間、電源と水の使用可否は、金額に直結する条件です。
発注前チェックリストと、調査の5ステップ
見積依頼時に伝える9項目
見積のばらつきは、ほとんどが「伝えていない情報」から生まれます。次の9項目を最初に渡すと、各社の前提が揃い、金額の比較ができる状態になります。
- 構造物の種別と規模(道路橋・トンネル・擁壁・建築物の外壁など。径間数・調査面積)
- 竣工年(築年)と設計基準強度。旧基準の時代か、塩化物総量規制の前後かで疑う劣化事象が変わります
- 図面・資料の有無(設計図書、配合報告書、施工記録、過去の点検調書と判定区分、補修履歴)
- 確認されている劣化事象(ひび割れ、浮き・剥離、鉄筋露出、遊離石灰、錆汁、漏水、エフロレッセンス)
- アクセス条件(足場の可否、高所作業車・橋梁点検車の進入、交通規制の可否と時間帯、第三者被害予防措置の要否)
- 作業可能な時間帯と電源・給水(夜間可否、コア採取用の水と電気を現地で取れるか)
- 調査の目的(健全度の把握・判定区分の付与までか、対策工法の設計に使う数値まで要るか)
- 報告書の用途(議会・監査への説明、長寿命化修繕計画への反映、補助申請の根拠、社内稟議)
- 成果品の形式(電子納品の要否、写真管理基準、原データの引き渡し)
とくに効くのは7番目の「目的」です。健全度の把握だけなら非破壊で止められる場合があり、対策設計に使うならコア採取と室内試験はほぼ避けられません。ここが曖昧なまま見積を取ると、安い見積は非破壊だけ、高い見積はコア込み、という比較不能な状態になります。
発注から対策設計までの5段階
段階 | やること | 施主・発注者側が用意するもの |
|---|---|---|
1. 発注前 | 目的の確定、既存資料の棚卸し、仕様書と数量の枠組みづくり、複数社への見積依頼 | 上記9項目の情報、予算の上限、報告書の提出期限 |
2. 現地調査 | 外観目視・打診、非破壊試験(反発度・鉄筋位置・かぶり・赤外線など)、変状図の作成 | 立入許可、規制の調整、電源・給水、鍵や誘導の人員、近隣への周知 |
3. 試料採取 | 鉄筋位置探査の結果を踏まえたコア採取、削孔、採取孔の補修 | 採取位置の承認、意匠上の制約の申し送り、補修仕様の合意 |
4. 室内試験 | 圧縮強度、中性化深さ、塩化物イオン量、配合推定、ASR判定 | 試験項目の優先順位(予算が足りない場合にどれを落とすか) |
5. 判定・対策設計 | 劣化原因の推定、健全度の判定、対策工法と概算工事費の比較、次回調査時期の設定 | 判定結果の使い道(修繕・更新・撤去・監視継続)の意思決定ルート |
費用の観点で最も効くのは1段階目です。2段階目以降で発生する費用の大半は、1段階目で決めた仕様と数量で確定しているため、着手後に削れる余地はほとんどありません。建築物の外壁のように法令で調査の範囲が決まっている場合は、代替手法の可否が費用を左右します(全面打診を赤外線で代替できるかと10年ルール)。
どこまで調査するかを決める判定チャート
上から順に答えるだけで調査レベルが決まる
調査費を決めているのは手法の単価ではなく「どこまでやるか」です。次の4問を上から順に答えると、目視+反発度で足りるのか、非破壊を足すのか、コア採取まで要るのかが切り分けられます。
- 調査の目的は健全度の把握か、対策設計か。 健全度の把握(判定区分を付けて次回点検まで様子を見る)なら、外観調査+反発度法などの非破壊で止められる場合があります。対策設計に使う数値が必要なら、コア採取と室内試験は避けられません。ここで「とりあえず全部」と言うと費用は最大化します。
- 疑っている劣化事象は「形」か「材質」か。 ひび割れ幅・浮き・剥離・鉄筋露出のように形で捉えられる変状は、目視・打診・画像計測・赤外線の担当です。中性化・塩害・ASRのように材質や成分の問題は、室内試験でしか数値になりません。
- 鉄筋腐食が疑われるか。 海岸線に近い、凍結防止剤を散布している、錆汁が出ている、という条件が揃うなら、かぶり・中性化深さ・塩化物イオン量の3点セットが必要になります。この時点でコア採取は確定です。あわせて、コアを採る前に電磁誘導法・電磁波反射法で鉄筋位置を探ることも確定します。
- 調査面が広く、アクセスが高コストか。 足場・交通規制・夜間作業が必要な構造物では、調査そのものより「どこを詳しく見るか」を絞る情報の価値が高くなります。面で当たりを付けてから近接する設計にすると、仮設費と規制費を減らせます。分光やハイパースペクトルの検討価値が出てくるのはこの分岐です。
分光・ハイパースペクトルの担当範囲は限定的
正直に書きます。ハイパースペクトルカメラは、ひび割れ幅や圧縮強度、中性化深さ、塩化物イオン量を測る道具ではありません。これらは画像計測・コア採取・室内試験の担当で、置き換えはできません。分光が担当できるのは、「形は同じだが中身が違う」ものを面で分けることです。
知りたいこと | 担当する手法 | 分光の役割 |
|---|---|---|
ひび割れ幅・位置 | 目視・クラックスケール・画像計測 | なし(幅の計測は分光の役割ではない) |
圧縮強度 | コア採取+圧縮強度試験、微破壊・非破壊試験 | なし |
中性化深さ・塩化物イオン量 | 室内試験(JIS A 1152/JIS A 1154) | なし |
浮き・剥離 | 打診、赤外線サーモグラフィ | なし(熱の問題であって成分の問題ではない) |
漏水・滞水の範囲 | 目視、含水状態の観察 | 水の吸収帯を使って面的に切り分ける余地がある |
遊離石灰・エフロレッセンス・錆汁の区別 | 目視、採取して分析 | 色が似ていても成分が違うものを面で分ける余地がある |
塗膜・被覆材の劣化状態、補修材との材質差 | 目視、はつり調査 | 補修履歴の境界や材質差を面で把握する余地がある |
限界も明確です。分光は表面から届く光を見る技術なので、見通しの利かない内部やコンクリートの深部は測れません。撮影条件(照明・角度・距離・含水)の影響を受けやすく、何を分けたいかに応じた解析モデルの構築が前提になります。そもそも分光で何がどこまで分かるのかという原理はハイパースペクトルカメラの仕組みと原理で解説しています。製品としての仕様は国産ハイパースペクトルカメラ irodoriのページにまとめています。
費用の文脈での位置づけはひとつです。近接調査やコア採取を省く道具ではなく、高コストなアクセス(足場・規制・夜間)をどこに集中させるかを決めるための情報として使うと、総額が下がる余地があります。逆に、足場がすでに架かっていて調査面が狭い構造物では、解析工数の増分だけが残ります。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、「どこまで調査費をかけるべきか」で迷っている段階でしたら、分光で面的に何が見えて何が見えないのかをまとめた資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。
使える補助金・助成金【令和8年度】
自治体が発注者の場合|点検・計画策定も補助対象に含まれる
地方公共団体が管理する道路構造物では、道路メンテナンス事業補助制度が使えます。対象構造物は橋梁、トンネル、道路附属物等(横断歩道橋、シェッド、大型カルバート、門型標識)で、対象事業は修繕・更新・撤去ですが、その計画的な実施にあたり必要となる点検、計画の策定及び更新を含むとされています。つまり調査・点検の費用も枠に入り得ます。国費率は5.5/10×δ(δは財政力指数に応じた引上率)です(国土交通省 道路メンテナンス事業補助制度)。
令和8年度は要件が動いています。追加要件として、長寿命化修繕計画に集約・撤去や新技術等の活用に関する短期的な数値目標と、そのコスト縮減効果を記載することが求められます。さらに優先支援の対象として、①コスト縮減や事業の効率化を目的に新技術等を活用する事業のうち試算などで効果を明確にしているもの、②地域インフラ群再生戦略マネジメント(広域連携・多分野連携)や包括的民間委託により実施するもの、が挙げられています。
ここで参照される「新技術等」は、点検支援技術性能カタログに掲載されている技術等です。同制度の資料では、溝橋10橋での試算としてコストが約2割縮減(800千円→620千円)、施工期間が約4割縮減(5日→3日)という効果が示されています。新技術の採用が、補助の優先度そのものを上げる方向に制度設計されているのが令和8年度の特徴です。
民間事業者・診断側の事業者が機器を導入する場合
調査・診断そのものの委託費(役務費)は、設備投資向けの補助金では対象になりにくい費目です。一方で、診断を行う事業者が計測・解析の設備を導入する場合は、次の制度が検討対象になります。いずれも公募回ごとに要件が変わるため、必ず最新の公募要領で確認してください。
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型):第8回の公募要領が2026年8月18日に公開されました。申請受付は2026年9月18日から10月16日17時まで、採択発表は2027年2月上旬が予定されています(中小企業庁)。人手不足に対応する省力化投資が趣旨のため、検査・点検工程の省人化を数値で示せるかが要点になります。
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金:第1回の公募要領が2026年6月29日に公開され、申請受付は2026年9月30日から10月30日18時までです。革新的新製品・サービス枠、新事業進出枠、グローバル枠の3つの枠が設けられています(ミラサポplus)。従来のものづくり補助金は第23次で一区切りとなり、この制度に統合されています。
採択されるかどうか、いくら受け取れるかは事前に約束できるものではありません。公募時期・要件・補助率は年度や公募回ごとに変わるため、申請前に必ず公式サイトで最新情報を確認してください。 検査・点検装置と補助金の当てはめ方は検査装置の導入に使える補助金の活用ガイドでもう少し詳しく整理しています。
補助金の対象になるかどうかは、制度の要件と導入内容の組み合わせで変わります。irodori の導入が補助金の対象になり得るか、まずはお気軽にご相談ください。




