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橋梁点検の新技術6分類|近接目視を代替できる範囲を要領とカタログで整理

橋梁点検の新技術は、すべてが近接目視の代わりになるわけではありません。道路橋定期点検要領と点検支援技術性能カタログを根拠に、ドローン・画像計測・分光が代替できる範囲と限界を整理し、自分の橋で何を使うべきか判断できる状態にします。

結論から言えば、新技術が置き換えられるのは主に「状態の把握と記録」の工程であり、健全性の診断の区分Ⅰ〜Ⅳを決めるのは最後まで道路管理者です。国土交通省の点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル)の最新版は令和8年3月版で、画像計測・非破壊検査・計測/モニタリング・データ収集通信の7つのカタログで構成されています。直轄国道では橋梁・トンネル・舗装の定期点検と道路巡視の一部項目で、これらの技術の活用がすでに原則化されています。

逆に言えば、カタログに載っている技術でも「点検が要らなくなる」わけではありません。この記事では、代替できる工程と代替できない工程を分けたうえで、6分類の比較表・判定フレームワーク・発注前チェックまでを順に整理します。

前提|橋梁の定期点検は「5年に1回・近接目視が基本」

法令が求めているのは、点検・診断・記録の3点セット

橋梁の定期点検は、平成26年の道路法改正と道路法施行規則(第4条の5の6)により義務化されました。国土交通省の資料では、この制度化の要点が「近接目視、5年毎、健全性の診断の区分、知識と技能」と整理されています(定期点検(法定点検)について|国土交通省道路局)。点検の頻度については、道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)令和6年3月が「点検間隔は5年に1回の頻度を基本とする」と明記しています。

ここで見落とされがちなのは、法令が求めているのが「点検すること」だけではない点です。状態を把握し、健全性の診断の区分を決め、記録として残すところまでが一体の義務になっています。新技術の導入を検討するときは、この3工程のどこを助けてもらうのかを最初に決めておくと、要件が具体的になります。

平成31年の改定で「近接目視によらない方法」が明確になった

平成31年2月の定期点検要領改定は、点検支援技術の積極的な活用が可能であることを明確にした転換点でした。現行の令和6年3月版でも、状態の把握について「近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法により収集すること」と定められています。

同要領の解説はさらに踏み込み、他の手段による把握でも健全性の診断の区分の決定が同等の信頼性で行えることが明らかな場合には、必ずしもすべての部材で近接目視を行わなくてもよい場合があり、法令はこれを妨げない、としています。ただし「明らかな場合」の判断は道路管理者に委ねられており、自動的に代替が認められるわけではありません。新技術を使うときは、その部位・部材と使用機器等の情報を記録に残すことも求められます。

近接目視の定義そのものが、代替可否の物差しになる

要領は、法令でいう近接目視を「外観性状が十分に目視で把握でき、必要に応じて触診や打音調査が行える程度の距離に近づくこと」と説明しています。つまり、遠くから撮った写真が近接目視と同等かどうかは、解像度だけでなく「必要なら触診・打音に移行できたか」までを含めて問われます。

健全性の診断の区分は、Ⅰ健全/Ⅱ予防保全段階/Ⅲ早期措置段階/Ⅳ緊急措置段階の4区分です。区分の決定には、次回点検までに想定される状況、第三者被害のおそれ、措置の内容までを勘案する必要があり、機器が出力した数値だけで決まるものではありません。ここが「新技術は診断を代替しない」と言い切れる根拠です。

点検支援技術性能カタログ(令和8年3月版)の読み方

7つのカタログ区分と、カタログの立ち位置

性能カタログは、画像計測技術(橋梁/トンネル)、非破壊検査技術(橋梁/トンネル)、計測・モニタリング技術(橋梁/トンネル)、データ収集・通信技術の7カタログで構成されています。カタログ本体は、その役割を「定期点検を行う者が点検支援技術の利用を検討するにあたって、機器等の特性を比較整理するにあたって参考とすることができる」ものと定義しています。

掲載されている性能値は、開発者が想定した条件下で算出した理論値または試験値であり、これとは別に、共通の条件で比較できる標準試験値が示されています。カタログを読むときは、この2つを取り違えないことが実務上いちばん大事です。現場条件が試験条件と違えば、性能は当然変わります。

直轄国道で活用が原則化されている項目

国土交通省道路局は、直轄国道の橋梁・トンネル・舗装の定期点検業務および道路巡視の一部項目で、点検支援技術の活用を原則化しています(直轄点検における点検支援技術活用原則化の取組)。橋梁で原則化されているのは次の6項目です。

  • 人による外観性状の記録が困難な場所(水中部・桁端部等の狭隘箇所など)での写真撮影・記録
  • 点検支援技術を用いた3次元写真記録(オルソモザイク画像)
  • 機器等による損傷図作成(コンクリート箱桁の外面・内面、コンクリート系床版、コンクリート橋脚・橋台)
  • 水中部の河床、基礎、護床工等の位置計測
  • 斜面上に築造された下部構造本体および斜面の点群データ取得(形状把握)
  • 塩害の影響地域における塩化物イオン量の計測

並べてみると、原則化されているのはいずれも「人がやると危険・高コスト・ばらつきが大きい記録作業」であることがわかります。判断そのものを機械に任せる項目は含まれていません。なお、舗装分野で新技術が目視をどこまで代替できるかは、考え方の枠組みが橋梁と共通しているため、舗装点検要領の実務運用と分類A〜Dの考え方も合わせて読むと理解が早くなります。

カタログ掲載は「使ってよい」であって「目視不要」ではない

カタログ掲載技術であっても、近接目視が免除されるわけではありません。原則化の対象はあくまで特定の記録項目であり、それ以外の部位・部材の状態把握と、最終的な健全性の診断は従来どおり行われます。地方公共団体が管理する橋では原則化の枠組みそのものが適用されないため、要領適合の説明責任は発注者側に残ります。

また同ページは、カタログ掲載技術より効果的・効率的であることが確認できる技術であれば活用可能としています。カタログ非掲載=使えない、ではないという点も、選定の幅を考えるうえで押さえておきたいところです。

橋梁点検の新技術6分類|何が測れて、何が測れないか

ここからは、実際に候補に挙がりやすい6分類を、「測れるもの」「測れないもの」「近接目視の代替可否」「向く条件」で並べます。代替可否は制度上の原則化項目と要領の考え方にもとづく整理であり、個別案件での可否は管理者の判断になります。

手法

主に測れるもの

測れない・苦手なもの

近接目視の代替可否

向く条件

ドローン(UAV撮影)

高所・桁下・水中部近傍など人が近づきにくい箇所の外観画像、3次元写真記録

打音・触診、内部の変状。桁下のGNSS不良、強風・降雨に弱い

条件付きで可(外観性状の記録として原則化項目あり)

足場や橋梁点検車の設置費が支配的な高橋脚・長支間の橋

画像計測+AIひび割れ検出

ひび割れの位置・幅・長さの図化、経年比較、損傷図の自動作成

うき・はく離の深さ、内部鋼材の腐食。汚れ・型枠跡・補修跡の誤検出

条件付きで可(機器等による損傷図作成は直轄で原則化)

面積が広く、ひび割れ図作成の工数が費用の大半を占める床版・箱桁

打音・非接触音響探査

コンクリート表層のうき・はく離の位置と規模

ひび割れ幅の精密計測、材質や劣化因子の判別。暗騒音の影響を受ける

条件付きで可(非破壊検査技術としてカタログに掲載。橋梁の原則化項目には含まれない)

剥落による第三者被害が懸念される桁下・張出し部

赤外線サーモグラフィ

温度差から推定するうき・はく離、漏水のにじみの分布

変状の深さの定量。日射・風速・時間帯の条件依存が大きく、日陰・夜間は困難

補助的(条件が整う面に限定して活用)

日射条件を確保できる広く平坦な面、事前スクリーニング

レーザー計測(3Dスキャナ・LiDAR)

形状・変位・点群データ、斜面や下部構造の形状把握、洗掘の経年管理

表層の材質や色調の変化、微細なひび割れ

可(形状把握の項目で原則化あり)

斜面上の下部構造、変形・沈下を経年で追いたい橋

分光・ハイパースペクトル

塗膜の劣化、錆の種類や進行度、漏水・遊離石灰など湿潤域の面的な広がり

ひび割れ幅の計測、内部の空洞や鋼材腐食。屋外の照明変動・影の影響を受ける

不可(近接目視の置き換えではなく、詳細調査・予防保全の補助)

塗替え計画の優先順位付け、広い鋼部材の劣化マップ化

分光・ハイパースペクトルの守備範囲は「面の材質・変質」

私たちが扱っているハイパースペクトル技術についても、正直に線を引いておきます。分光が得意なのは、ひび割れという「線」を測ることではなく、材質や変質という「面」の状態を読むことです。ひび割れ幅の計測精度で画像計測技術と競うものではありません。

この方向の有効性は、学術的にも報告が積み上がりつつあります。土木学会論文集では、可視光と近赤外の光学スペクトルから耐候性鋼材のさび状態を評価する試みで、569nm・694nm・796nm・896nmの波長が有効であり、ランダムフォレストによる評価精度が90.7%に達したと報告されています(井上ほか, 土木学会論文集 80巻6号, 2024)。また鉄と鋼では、ハイパースペクトル測定によりα-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe3O4の4種類の腐食生成物が識別され、その組成比から以後の腐食リスクを予測できる可能性が示されています(片山ほか, 鉄と鋼 110巻15号, 2024)。

ただし、これらは限定された条件下での研究成果であり、屋外の橋梁でそのまま同じ精度が出ると考えるべきではありません。太陽光の変動、影、撮影角度、対象までの距離が結果に効きます。錆や塗装劣化をどこまで定量化できるかについては、錆・塗装劣化のカメラ定量化と目視点検の限界で詳しく整理しています。一方、ひび割れそのものを追いたい場合は、コンクリートのひび割れ検査における5手法の比較のほうが実務に近いはずです。

技術の中身をもう少し知りたい方向けに、そもそも何を測っている装置なのかを解説した記事も用意しています。ハイパースペクトルカメラの仕組みとマルチスペクトルとの違いを読んでから比較表に戻ると、向き不向きの理由が腑に落ちると思います。選定の途中で「自分の橋では何が測れるのか」が判断しづらいときは、仕様の相談だけでも構いません。

判定フレームワーク|既存手法で足りるか、新技術を入れるべきか

新技術は「入れれば安くなる」ものではありません。次の4問を順に確認すると、投資判断がぶれにくくなります。

  1. 足場・橋梁点検車の仮設費が、点検費全体の過半を占めているか。 占めているなら、ドローンや画像計測で仮設を減らせる余地があります。占めていないなら、機器費が上乗せになるだけの可能性が高いです。
  2. 記録作業(損傷図・写真整理)に人日がかかっているか。 かかっているなら、画像計測+損傷図の自動作成が効きます。橋が小規模で記録量が少ないなら、従来手法のほうが速いことも珍しくありません。
  3. 知りたいのは「変状の有無」か、「劣化の進み方」か。 有無ならひび割れ検出・打音で足ります。進み方や原因を面で押さえたいなら、赤外線や分光の出番です。
  4. 近接目視が物理的に困難な部位があるか。 水中部、桁端部の狭隘箇所、斜面上の下部構造などに該当するなら、原則化項目と重なるため導入の説明がしやすくなります。

4問すべてが「いいえ」なら、現行手法の継続が合理的です。1〜2に該当するなら費用面での効果が見込めます。3のうち「劣化の進み方」に該当する場合は、法定点検の代替ではなく、予防保全のための追加調査として位置づけるのが素直な整理になります。実際の費用感については、ドローン点検の積算内訳と相場に内訳を分解してまとめてあります。

導入ステップと、発注前に必ず確認する6項目

5つのステップで進める

  1. 目的の限定。 どの部位の、どの記録工程を置き換えるのかを1つに絞ります。
  2. 現地条件の確認。 桁下高、支障物、電波環境、日射条件、第三者の立入状況を洗い出します。
  3. 小規模な実証。 1橋または1径間で、従来手法と並行して実施し、結果を突き合わせます。
  4. 記録様式への適合確認。 出力が定期点検要領の記録様式にそのまま載るかを確認します。
  5. 横展開の判断。 実証で得られた工数と精度の実績をもとに、対象橋梁を広げます。

特に3のステップを飛ばすと、現場条件の違いで期待した精度が出ず、結局は従来手法でやり直すことになります。並行実施のコストは、失敗のやり直しより安く付くことがほとんどです。

発注前に確認する6項目

  • 管理者の要領適合。 自らが管理する橋の点検要領に、新技術の使用条件が書かれているか。
  • 性能カタログ掲載の有無。 掲載技術か、非掲載なら同等以上であることをどう示すか。
  • 精度検証データ。 性能値か標準試験値か、試験条件は現地条件とどれだけ違うか。
  • 飛行許可と第三者被害の配慮。 無人航空機は飛行禁止空域や飛行の方法によって許可・承認が必要で、第三者の上空を飛ばさないための立入管理措置が前提になります(無人航空機の飛行許可・承認手続|国土交通省)。
  • 費用の積算根拠。 機器費・解析費・再飛行時の扱いが分かれているか。
  • データの帰属と再利用。 取得した画像・点群を次回点検で比較に使えるか、形式は開けるか。

現場でつまずきやすい4つの落とし穴

  • 「カタログ掲載だから大丈夫」で止まる。 掲載は比較のための情報提供であって、個別の橋での妥当性の保証ではありません。
  • 精度の条件を読まない。 撮影距離・照度・対象色が変わると検出性能は変わります。数値の横にある条件のほうが重要です。
  • 記録様式との接続を後回しにする。 出力形式が要領の様式に合わず、転記作業で工数が戻ってしまう例があります。
  • スクリーニングと判定を混同する。 赤外線や分光は「怪しい面を絞り込む」用途で強く、そこから先の判定は近接での確認が要ります。

まとめ|「代替」ではなく「役割分担」で考える

橋梁点検の新技術は、近接目視を丸ごと置き換えるものではなく、記録工程を効率化し、目視では追いにくい面的な変化を補うものです。制度としても、原則化されているのは記録に関する項目で、健全性の診断の区分の決定は道路管理者の判断に残されています。この線引きを踏まえたうえで、自分の橋のボトルネックがどこにあるかから逆算すると、選定を誤りにくくなります。

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。分野ごとの取り組みは/achievements/にまとめています。橋梁分野では、ひび割れを測る技術と競うのではなく、塗膜や錆といった材質の変化を面で捉える役割を担えると考えています。

とはいえ、現場ごとに条件は違い、実際に撮ってみないと分からないことも多くあります。適用可否の見極めを含めて、まずは資料でご確認いただければ幸いです。

FAQ

点検支援技術性能カタログの最新版はいつのものですか?

点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル)の最新版は令和8年3月版です。画像計測技術、非破壊検査技術、計測・モニタリング技術、データ収集・通信技術の7カタログで構成されています。

新技術を使えば近接目視は不要になりますか?

不要にはなりません。道路橋定期点検要領(令和6年3月)は、状態の把握を近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法で行うと定めています。同等と言えるかの判断と、健全性の診断の区分Ⅰ〜Ⅳの決定は道路管理者に委ねられています。

直轄国道ではどの項目で新技術の活用が原則化されていますか?

橋梁では、人による記録が困難な場所での写真撮影・記録、3次元写真記録、機器等による損傷図作成、水中部の河床や基礎等の位置計測、斜面上の下部構造と斜面の点群データ取得、塩害地域での塩化物イオン量計測の6項目です。

ハイパースペクトルカメラでひび割れ幅は測れますか?

ひび割れ幅の計測には向きません。分光が得意なのは塗膜の劣化、錆の進行度、漏水や遊離石灰による湿潤域といった材質・変質の面的な把握であり、ひび割れの寸法計測は画像計測技術の領域です。

カタログに載っていない技術は使えませんか?

使えないわけではありません。国土交通省は、性能カタログ掲載技術よりも効果的・効率的であることなどが確認できる技術であれば活用可能としています。ただし、その説明責任は発注者側に残ります。

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