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アスベスト含有建材の判別方法|解体前調査の手順と分析5規格【2026】

アスベスト含有建材の判別は、見た目や築年数だけでは確定できません。この記事では、解体・改修の前に法令で求められる事前調査の手順と、JIS A 1481規格群による5つの分析方法の違い、そして現場で起きやすい判断ミスを整理します。読み終えたときに「何をどこまで自分で判断してよく、どこから分析機関に出すべきか」の線引きがつく状態を目指します。

結論から書きます。日本の制度では、石綿(アスベスト)含有の有無は設計図書などの書面調査と現地の目視調査を行い、それでも不明な場合は分析による調査を行うか、石綿含有とみなして措置するという流れで確定させます。目視や写真、分光・画像技術だけで「含有していない」と結論づけることは認められていません。さらに建築物では令和5年10月1日以降、工作物では令和8年(2026年)1月1日以降に着工する工事について、有資格者による事前調査が義務づけられています(厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト)。

なぜ目視だけでアスベスト含有建材を判別できないのか

判断の基準は「石綿を重量の0.1%を超えて含有するかどうか」です。労働安全衛生法施行令の改正により、平成18年(2006年)9月1日から、石綿および石綿を重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止されました(厚生労働省パンフレット)。0.1%という水準は、繊維が肉眼で見える量ではありません。色や手触りで見分けようとする発想自体が、この基準とかみ合っていないのです。

もう一つの理由は、同じ形・同じ色の建材に含有品と非含有品が混在することです。国土交通省と経済産業省が公開する石綿(アスベスト)含有建材データベースでは、商品名・メーカー名・製造時期から含有状況を検索できますが、逆に言えば商品名まで特定できなければ絞り込めません。刻印や印字が塗装で覆われていたり、改修で別の建材に置き換わっていたりする現場は珍しくありません。

実務では、飛散のしやすさで建材を3段階に分ける「レベル区分」がよく使われます。レベル1は石綿含有吹付け材、レベル2は石綿含有の断熱材・保温材・耐火被覆材、レベル3はその他の成形板等です(厚生労働省 参考資料「石綿含有建材のレベル分類」)。これは建設業労働災害防止協会による作業レベルの区分で、含有の有無そのものを判定する基準ではない点に注意してください。

解体前調査(事前調査)の実務ステップ

石綿障害予防規則に基づく事前調査は、建築物・工作物・船舶の解体または改修の作業を行うときに、規模を問わず必要です。現場での流れは、おおむね次の順序になります。

  1. 資格者の確保:建築物は建築物石綿含有建材調査者等、工作物は工作物石綿事前調査者等。工作物は令和8年(2026年)1月1日以降着工の工事から資格者による調査が義務です(厚生労働省 工作物石綿事前調査者のページ)。
  2. 書面調査:設計図書、竣工図、改修履歴、過去の調査報告書を確認し、使われている建材の商品名・製造時期を可能な限り特定します。
  3. 目視調査:現地で、天井裏・機械室・ダクト・配管の保温材まで含めて、書面と実物の食い違いを潰します。図面に無い改修部分がここで出てきます。
  4. 分析調査、または石綿含有とみなす措置:目視等で有無が確認できない建材は、試料を採取して分析するか、石綿を含有しているものとみなして石綿ばく露防止措置を講じます。「分からないまま何もしない」という選択肢はありません。
  5. 事前調査結果の報告と記録:一定規模以上の工事は、石綿の有無にかかわらず労働基準監督署と自治体への報告が必要です。

報告が必要になるのは、解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上の建築物解体工事、請負金額が税込100万円以上の建築物改修工事、請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体・改修工事、総トン数20トン以上の鋼製船舶の解体・改修工事です(厚生労働省 石綿事前調査結果報告システム)。金額と面積の両方を見落とさないことが実務上の第一関門になります。

アスベスト含有建材の判別手法を比較する

「判別」と一言で言っても、法令上の位置づけがまったく違う手法が混在しています。下表は、現場で候補に挙がる手法を、何が分かるか・法令上どう扱われるかの軸で整理したものです。

手法

何が分かるか

法令上の位置づけ

向いている場面

主な限界

書面調査(設計図書・竣工図)

使用建材の商品名・製造時期の候補

事前調査の必須ステップ

図面が残っている建築物

改修履歴の欠落、図面と現物の相違

建材データベース照会

商品名から含有状況の記録を確認

書面調査の補助

商品名・メーカーが特定できたとき

商品名が不明だと使えない。収録範囲に限りがある

目視調査(現地)

建材の種類・部位・劣化状況、刻印の確認

事前調査の必須ステップ

全工事

0.1%超の含有を見た目で判定することはできない

定性分析(JIS A 1481-1、-2)

石綿含有の有無

分析による調査として法令上位置づけられる

目視で有無が確認できない建材

試料採取が必要。採取箇所の選定に専門性を要する

定量分析(JIS A 1481-3、-4、-5)

石綿の含有率(質量分率)

含有率の把握が必要な場合に実施

含有率まで求められる場面

定性分析より工程が多い

石綿含有とみなす措置

(判別しない)

分析を行わない場合の正規の選択肢

分析の時間・費用より措置が合理的なとき

ばく露防止措置と処分の負担が大きくなる

画像・分光によるスクリーニング

屋根材などの分布の推定(研究段階)

法定の調査・分析の代替にはならない

広域の優先順位づけの研究用途

表面の情報しか得られない。塗装・付着物・内部の含有に弱い

表の最下段を強調しておきます。画像や分光による手法は、日本の制度では事前調査や分析の代わりになりません。後述するとおり、使いどころは限定的です。

JIS A 1481規格群:5つの分析方法の違い

分析機関に依頼するとき、見積書に並ぶ「JIS A 1481-◯」が何を指すのかを知っておくと、必要以上の項目を頼まずに済みます。定性分析は「入っているかどうか」、定量分析は「どれだけ入っているか」を調べる方法です。

規格

正式名称(抜粋)

定性/定量

主な機器

JIS A 1481-1:2016

市販バルク材からの試料採取及び定性的判定方法

定性

実体顕微鏡、偏光顕微鏡

JIS A 1481-2:2016

試料採取及びアスベスト含有の有無を判定するための定性分析方法

定性

X線回折装置、位相差・分散顕微鏡

JIS A 1481-3:2014

アスベスト含有率のX線回折定量分析方法

定量

X線回折装置

JIS A 1481-4:2016

質量法及び顕微鏡法によるアスベストの定量分析方法

定量

顕微鏡、質量測定

JIS A 1481-5:2021

X線回折法によるアスベストの定量分析方法(第1部の定性的判定方法を用いる場合)

定量

X線回折装置

用語を1行ずつ補います。偏光顕微鏡法は、鉱物が光の振動方向によって見え方を変える性質を使って繊維の種類を見分ける方法です。分散染色法は、屈折率を合わせた液に繊維を浸し、特定の色に見えるかどうかで石綿を判別する手法を指します。X線回折法は、結晶にX線を当てたときの回折パターンから鉱物の種類を同定する方法です。いずれの規格に基づく場合も、厚生労働省が公開する石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアルが実務上の拠り所になります。

分光・ハイパースペクトル画像によるスクリーニングの可能性と限界

ここは誤解が生まれやすい領域なので、できることとできないことを分けて書きます。海外では、航空機や衛星のハイパースペクトルデータを使って、アスベストセメント屋根の分布を広域にマッピングする研究が続いています。ハイパースペクトルカメラとは、光を数十〜数百の波長帯に細かく分けて撮影し、対象物ごとの分光反射特性の違いを画像として捉える装置です。

イタリア西アルプスを対象とした研究では、アスベストセメント屋根の検出について、屋根表面積ベースで全体精度80%が報告されています。ただし同じ研究では、屋根1棟単位の検出率は43%、144平方メートル以上の屋根に限っても75%にとどまっています(Sensors, 2014, doi:10.3390/s140915900)。また2025年には、衛星EnMAPのハイパースペクトルデータを用いた研究が、823件の検証済み検出で86%の一致率、適応的コヒーレンス推定器を用いた手法で91.4%の精度(κ=0.87)を報告しています(Scientific Reports, 2025, doi:10.1038/s41598-025-09738-w)。

一方で、同じ研究が限界も明示しています。30m解像度の衛星データでは1画素に複数の対象が混ざる「混合ピクセル」の問題が生じ、市街地ではコンクリート瓦礫や塗装された破片が誤検出の原因になります。さらに、気候帯が変われば苔やシダなど現地固有の要因を織り込んだ分光ライブラリを組み直す必要があるとされています。原理上、分光で得られるのは表面の情報であり、塗装や付着物に覆われた面、成形板の内部、0.1%前後の微量含有は苦手です。

したがって、現時点で分光・画像技術に期待できるのは「広域の建物群のうち、どこから優先的に事前調査に入るか」を検討する材料としての研究的な用途までです。個別建材の含有判定は、有資格者による事前調査と分析に委ねるべき領域だと私たちは考えています。

私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともにハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。この技術で何が見えて何が見えないのかを先に知っておきたい方は、ハイパースペクトルカメラの仕組みと適用範囲をまとめたページもあわせてご覧ください。インフラ分野での使いどころは、錆・塗装劣化を定量化する検査手法コンクリートひび割れ検査の5手法比較のほうが具体的です。

現場で起きやすい5つの落とし穴

調査そのものより、段取りで詰まる例が目立ちます。以下は、法令要件と実務の接点で特に注意したい点です。

  • 竣工年だけで判断してしまう:製造・使用が禁止されたのは平成18年(2006年)9月1日からで、それ以前に製造された建材が使われている可能性は竣工年だけでは否定できません。書面と目視の両方で確認します。
  • 報告対象の見落とし:床面積80平方メートル以上の解体、税込100万円以上の改修という基準は、石綿が「無い」場合でも報告が必要です。有無ではなく工事規模で判断します。
  • 建築物と工作物のルールを混同する:資格者による事前調査の義務化は、建築物が令和5年10月1日、工作物が令和8年(2026年)1月1日と時期が異なります。
  • 図面に無い改修部分の見逃し:内装更新や設備改修で後から入った建材は書面に残らないことがあります。天井裏・パイプスペース・機械室は目視で押さえます。
  • 試料採取の設計が甘い:同じ見た目の建材でも部位やロットで違う可能性があります。採取箇所の選定は分析の質を左右するため、調査者と分析機関の間で事前に擦り合わせます。

費用面では、自治体によって石綿含有調査や除去等に対する補助制度が用意されている場合があります。国土交通省のアスベスト問題への対応のページから、支援制度の枠組みを確認したうえで、着工前に所管の自治体へ問い合わせるのが確実です。調査の進め方そのものについては、国土交通省の建築物石綿含有建材調査マニュアルが体系的にまとまっています。

まとめ:判別の順序を守ることが最短ルート

アスベスト含有建材の判別は、書面調査で候補を絞り、目視で現物と突き合わせ、それでも不明なら分析するか含有とみなす、という順序を守るのが結局いちばん早く安全です。見た目や新しい技術で工程を飛ばそうとすると、行政指導や工事中断という形で戻ってきます。判別の確定は有資格者と分析機関に、広域の状況把握や優先順位づけはセンシング技術に、という役割分担が現実的です。

私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もしインフラや建材の状態把握で「非破壊で何がどこまで分かるのか」を検討中でしたら、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。実際の対象物で試したい場合はデモ・実証のご依頼もお受けしています。

FAQ

アスベスト含有建材は目視だけで判別できますか?

できません。判断基準は石綿を重量の0.1%を超えて含有するかどうかで、肉眼で見える量ではありません。書面調査と目視調査を行い、それでも有無が確認できない場合は分析による調査を行うか、石綿を含有しているものとみなして措置します。

事前調査は誰が行う必要がありますか?

建築物は令和5年10月1日以降に着工する工事から建築物石綿含有建材調査者等の資格者、工作物は令和8年(2026年)1月1日以降に着工する工事から工作物石綿事前調査者等の資格者による事前調査が義務づけられています。詳細は厚生労働省の石綿総合情報ポータルサイトで確認してください。

事前調査の結果はどんな工事でも報告が必要ですか?

石綿の有無にかかわらず、解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上の建築物解体工事、請負金額が税込100万円以上の建築物改修工事、請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体・改修工事、総トン数20トン以上の鋼製船舶の解体・改修工事が報告対象です。

JIS A 1481の定性分析と定量分析はどう違いますか?

定性分析は石綿が含まれているかどうかを判定する方法で、JIS A 1481-1と-2があります。定量分析は含有率を求める方法で、JIS A 1481-3、-4、-5があります。含有の有無だけを確認したい場合は定性分析が基本です。

ハイパースペクトルカメラでアスベストの判別はできますか?

日本の制度において、法定の事前調査や分析の代替にはなりません。海外ではアスベストセメント屋根を広域にマッピングする研究が報告されていますが、混合ピクセルによる誤検出や、塗装・付着物に覆われた面、成形板の内部に弱いという限界も同時に示されています。現時点では広域の優先順位づけを検討する研究段階の用途と位置づけるのが妥当です。

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