半導体の外観検査装置は、ウェハ(前工程)・パッケージ・実装基板(後工程)で見るべき欠陥も装置区分も異なります。工程別の対応表と、RGBベースのAI外観検査が原理的に取りこぼす欠陥、分光が効く条件・効かない条件を整理します。
結論から言えば、半導体の外観検査装置の選定は「工程」と「欠陥の物理量」の掛け算で決まります。ウェハの微小パーティクルは暗視野の散乱光、はんだ接合部のボイドはX線透過率、部品の浮きは三次元形状というように、装置ごとに見ている物理量が違うためです。可視カラー画像(RGB)を入力とするAI外観検査で成果が出なかった案件の多くは、AIの学習不足ではなく、そもそも欠陥の情報がRGBの3バンドに現れていなかったことが原因です。この記事では、その切り分け方と、分光(ハイパースペクトル)計測が有効になる条件を、原理のレベルから示します。
半導体の外観検査装置は「工程 × 欠陥の物理量」で決まる
「外観検査装置」という言葉は、半導体の現場では少なくとも3つの異なる世界を指します。ウェハを扱う前工程、ダイシングと封止を扱う中工程、基板実装(SMT)を扱う後工程です。同じ「外観」でも、対象のスケールは前工程のサブミクロンから後工程のミリオーダーまで3桁以上開きがあり、装置の光学系も検出原理もまったく別物になります。
選定を誤る典型は、「不良品の写真は撮れているのだから、あとはAIで分類できるはずだ」と考えて、工程の物理を飛ばしてしまうケースです。装置が拾える物理量に欠陥の情報が乗っていなければ、どれだけ学習データを増やしても検出率は頭打ちになります。まずは自社の工程がどこにあり、狙う欠陥がどの物理量に現れるのかを確定させてください。
工程別・外観検査装置の対応表
工程 | 主な対象 | 代表的な欠陥 | 主な装置区分 | 見ている物理量 |
|---|---|---|---|---|
前工程(ウェハ) | ベアウェハ、成膜・リソグラフィ後のパターン付きウェハ | パーティクル、キズ、パターン欠陥(断線・ショート)、膜厚・膜質のムラ | 光学式欠陥検査(明視野/暗視野)、レビューSEM、分光膜厚計・エリプソメータ(偏光の変化から膜厚・屈折率を求める装置) | 正反射光の強度、斜入射光の散乱強度、二次電子、分光反射スペクトル |
中工程(ダイシング・パッケージ) | ダイ、バンプ、封止樹脂、リードフレーム | チッピング、クラック、樹脂バリ、バンプ高さのばらつき、接合界面のボイド | マクロ外観検査装置、三次元計測(レーザ変位・位相シフト法)、近赤外透過観察、超音波探傷 | 可視画像、高さ・形状、近赤外の透過像、音響インピーダンス |
後工程(実装基板・SMT) | 印刷はんだ、搭載部品、リフロー後のはんだ接合部 | はんだ印刷の体積不足、部品ズレ・欠品・極性違い、はんだボイド、未接合 | SPI(はんだ印刷検査)、AOI(自動光学検査)、X線検査(AXI) | 三次元形状・体積、可視画像(多方向・多角度照明)、X線の透過率 |
前工程:欠陥は「散乱」と「分光」に分かれる
ウェハ表面の欠陥検査は、大きく明視野と暗視野に分かれます。明視野は正反射光を捉えるためパターンの寸法ズレや断線・ショートの検出に向き、暗視野は斜めから照射して散乱光だけを拾うため、微小なパーティクルやキズに高い感度を持ちます。どちらも「光が跳ね返る/散る」ことを前提とした方式であり、散乱を起こさないほど平坦で薄い異常は原理的に苦手です。
一方、成膜工程で問題になる膜厚のばらつきは、散乱ではなく干渉に現れます。膜の表面で反射した光と裏面で反射した光が膜厚分の光路差で干渉し、その周期が膜厚に応じて変化するため、分光干渉スペクトルを周波数解析することで膜厚を求められます(大塚電子)。つまり膜厚は「明るい/暗い」ではなく「どの波長がどう凹むか」という分光の情報であり、そもそもRGBの3バンドでは表現しきれません。
中工程:シリコンを透かして見る近赤外という選択肢
接合ウェハやMEMSのように、表面ではなく内部の界面を見たい場合、可視光は使えません。シリコンはバンドギャップの関係で可視光を通さない一方、おおむね1100nmより長い近赤外光(NIR)は透過します。実際、1100nmの近赤外光でシリコンウェーハの内部パターンを観察できることが浜松ホトニクスの公開資料で示されており、装置メーカーのEvidentも厚さ650μmまでのシリコンを撮像でき、接合ウェハ内のボイドや欠陥、銅配線の腐食、樹脂部品のはがれの観察に使えると説明しています。
ここで重要なのは、「波長を変えると、見える対象そのものが入れ替わる」という事実です。可視で真っ黒に潰れるシリコンが近赤外では半透明のガラスのように振る舞う。この乗り換えは、AIのモデルを差し替えても絶対に起こりません。光学系の側の問題だからです。
後工程:三次元とX線の分担を崩さない
実装基板(SMT)の検査は、SPI・AOI・AXIの3点セットで分担するのが定石です。はんだ印刷の良否は面積ではなく体積で決まるためSPIの三次元計測が担い、部品の有無・ズレ・極性はAOIが可視画像で担います。基板外観検査装置では2D画像・3D画像・4つのアングルから見た画像・3Dレーザーを組み合わせて検査する方式が採られており(ヤマハ発動機)、単一の画像で済ませない設計思想が読み取れます。
そしてBGAの下に隠れたはんだ接合部やボイドは、光が届かない以上、外観検査装置では原理的に見えません。ここはX線の透過率差を使うAXIの領分です。後工程で「AIで全部まとめて見たい」という要望が失敗しやすいのは、光・高さ・X線という3つの異なる物理量を1つのセンサーに押し込もうとしているからです。
RGBベースのAI外観検査が原理的に取りこぼす欠陥、4類型
「AI外観検査を導入したが期待した検出率に届かなかった」という相談は、原因を分解するとほぼ4つの類型に収まります。いずれもアルゴリズムの問題ではなく、入力データに情報が存在しないという入口の問題です。
類型1:膜厚・膜質のムラ(干渉の情報が3バンドに潰れる)
酸化膜やレジスト膜の厚みムラは、前述のとおり分光反射スペクトルの干渉周期として現れます。RGBカメラは可視域を赤・緑・青の3つの帯域に積分して記録するため、干渉によるスペクトルの細かい凹凸は平均化されて消えます。人の目でうっすら虹色に見える程度の膜厚差は拾える一方、色として現れない波長域での変化は完全に失われます。厚みを測ること自体の方式比較は非接触の厚み測定8方式の比較で整理しています。
類型2:同色異物・コントラストが出ない付着物
基板やウェハと同系色の樹脂片、同じ色の保護フィルムの残り、透明な有機物。これらは可視画像上で背景との輝度差・色差がほとんど生じません。AIは画像の中の差異を学習する仕組みなので、差異が数階調しかない対象では、ノイズと欠陥の区別がつかず過検出と見逃しが同時に増えます。照明の工夫(多角度照明・偏光)で改善する場合もありますが、材質そのものの反射率カーブが背景と近い場合は打ち手が尽きます。
類型3:レジスト残り・微小な有機汚染
現像後やアッシング後に残る微量のレジスト、搬送系由来の油分などの有機汚染は、膜として極めて薄く、可視域での見え方がほとんど変わりません。ただし有機物はC–HやO–Hといった分子結合に由来する吸収を近赤外・短波長赤外(SWIR)域に持つため、その波長帯で見れば背景と分離できる可能性があります。ここが「可視で見えない=検査できない」ではない理由です。
類型4:内部・界面の欠陥
接合界面のボイド、封止樹脂内部の剥離、シリコン裏面側の異常は、そもそも表面反射光に情報が乗りません。近赤外透過・X線・超音波のいずれかに乗り換える必要があります。外観検査の自動化がなぜ失敗するのかという一般論の整理も併せてご覧ください。
分光(ハイパースペクトル)が効く条件・効かない条件
分光とは、光を波長ごとに分けて測ることです。ハイパースペクトルカメラは画素ごとに数十〜数百の波長バンドのスペクトルを取得するため、RGBの3バンドでは潰れてしまう材質差・膜厚差を数値として扱えます。ハイパースペクトルカメラの仕組みと4業界36ユースケースはトップページで解説しています。
半導体分野での適用例も一次情報として公開されています。分光カメラメーカーのSpecimは、ウェハ検査システムの事例として酸化膜やレジストの膜厚の空間分布、層組成の均一性、欠陥の有無と分類を評価し、300mmウェハを30秒でスキャンする構成を公開しており、使用カメラはVNIR(400〜1000nm)とNIR(900〜1700nm)の2機種です。波長帯の区分はSpecimの製品ページで確認できます。またimecは干渉フィルタをイメージセンサーの画素上に直接形成する方式を公開しており、分光デバイス自体が半導体プロセスで作られる時代に入っています。
判断フレームワーク:5つの問いで適合を見極める
確認する問い | 分光が効きやすい | 別の手法が向く |
|---|---|---|
良品と欠陥で違うのは何か | 材質・組成・膜厚・水分など「物性」が違う | 形状・高さ・位置ズレが違う(三次元計測) |
可視のカラー画像で人が見分けられるか | 見分けられない/熟練者しか分からない | 誰が見ても明らかに分かる(RGB+AIで十分) |
欠陥の広がり方 | 面として広がるムラ・分布 | 孤立した数百nmの点欠陥(光学式欠陥検査・SEM) |
必要な空間分解能 | 数十μm〜数百μmで足りる | サブミクロンの分解能が必須 |
欠陥の位置 | 表面、または近赤外が透過する範囲の内部 | 金属の裏側・厚い封止樹脂の内部(X線・超音波) |
正直に申し上げると、分光は万能ではありません。サブミクロンの微小パーティクルの検出、BGA下のはんだボイド、部品の高さ計測は、既存の光学式欠陥検査・X線・三次元計測にかないません。分光が効くのは「物性の違いが波長方向に出ているのに、可視画像では潰れている」という、ちょうどその隙間です。逆に言えば、既存装置で採れている欠陥をわざわざ分光で置き換える理由はありません。追加すべきか置き換えるべきかの一般的な判断軸は外観検査装置の選び方で整理しています。
私たちは国産・自社開発のハイパースペクトルカメラ「irodori」を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、既存のAI外観検査で採りきれなかった欠陥をお持ちでしたら、どの波長帯なら分離できそうかという観点から製品の情報をご覧いただけたら嬉しいです。
PoC(実証)の前に決めておく5項目
半導体の外観検査で分光を検討する場合、いきなりライン組み込みを設計するのではなく、まずサンプル数枚で「波長方向に差が出るか」を確認するのが最短です。その際、事前に次の5項目を決めておくと、PoCの結果が判断材料として使えるものになります。
- 対象欠陥を1つに絞る:膜厚ムラとレジスト残りと異物を同時に狙わない。物性が違えば最適な波長帯も違います。
- 良品サンプルを十分に用意する:欠陥品より、ばらつきの幅を含んだ良品のほうが重要です。良品の変動幅を超える差が欠陥に出るかが論点になります。
- 波長帯の仮説を立てる:可視〜1000nm(VNIR)か、900〜1700nm(NIR)か、それ以上のSWIRか。有機物ならより長波長側、干渉由来の膜厚なら可視〜近赤外が起点になります。
- 必要な空間分解能とタクトを数値で書く:1画素あたり何μm必要か、1枚何秒で処理するか。ここが決まらないとレンズ・照明・搬送の設計に入れません。
- 成功基準を「判定」ではなく「分離」で書く:初期PoCの合否は検出率ではなく、良品群と欠陥群のスペクトルが統計的に分離するかどうかで判断します。
PoCの一般的な進め方や稟議の通し方はPoCの進め方6ステップにまとめています。
私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました。受賞歴・メディア報道・学術成果は実績一覧で公開しています。半導体の検査工程でも、まずは「どの波長帯なら差が出るか」という一点から一緒に確かめさせてください。製品カタログと事業紹介資料を無料でお送りしています。




