斑点米・着色粒の選別は、圃場でのカメムシ防除と収穫後の選別装置という二段構えが基本です。農産物検査規格の数値、色彩選別機の仕組み、分光技術で変わること・変わらないことを公的資料から整理します。
結論から述べます。水稲うるち玄米の農産物検査規格では、着色粒の最高限度は1等が0.1%、2等が0.3%、3等が0.7%と定められており、0.1%は玄米およそ1,000粒に1粒という水準です(農林水産省「玄米の検査規格」)。この極端に狭い許容幅のため、着色粒対策は「発生させない(圃場防除)」と「混ざったものを取り除く(収穫後の選別)」の両輪でしか成立しません。現時点で収穫後の主力装置は色彩選別機(光選別機)であり、分光技術はそれを置き換えるものではなく、色では分かれない差を扱う補完技術として位置づけるのが現実的です。
結論:着色粒対策は「圃場での防除」と「収穫後の選別」の二段構え
着色粒の主因である斑点米は、出穂後にカメムシ類が籾を吸汁することで玄米表面に斑点状の変色が残る被害です。原因が圃場で生じる以上、収穫後の選別だけで対処しようとすると、選別機の負荷と歩留まりロスが増え続けます。逆に防除だけに頼っても、発生年次変動が大きいため0.1%というラインを毎年安定して下回るのは困難です。
圃場側:発生源を減らす
圃場側の基本は、殺虫剤による防除と、発生源となる畦畔(けいはん)や周辺雑草地の草刈りの組み合わせです。農研機構の資料でも、斑点米の原因となるカメムシの防除には「殺虫剤による防除とともに、畦畔等の草刈りが有効」とされています(菊地淳志「畦畔・農道の草刈りはカメムシを水田に追い込むか?」東北農業研究センターたより9号, 2003年)。ただし同資料の試験では、出穂期やその21日後に草刈りを行うとカメムシが農道から水田へ追い込まれてそのまま留まる一方、出穂期14日前の草刈りでは水田に定着しないことが示されています。草刈りの時期を誤ると被害を招きかねないため、地域の指導・発生予察情報に沿った実施が前提となります。
近年は被害を受けやすい籾の条件も研究されています。農研機構は、カスミカメムシ類が内穎と外穎のわずかな隙間から加害することに着目し、目視では「鉤合不良に見えない籾」でも隙間を検出できる染色調査法を報告しています(農研機構「カスミカメムシ類に加害されやすい籾のわずかな隙間を検出するための染色調査法」)。品種・栽培条件によって被害の受けやすさが変わることを示す知見です。
収穫後側:混入した着色粒を取り除く
収穫後は、乾燥・籾摺り後の玄米段階で選別を行うのが一般的です。粒厚選別(篩)や比重選別で未熟粒・軽い粒を落とし、その後に色彩選別機で着色粒を弾く流れが標準的な構成になります。メーカー公式資料でも、色彩選別機の選別対象として着色粒・被害粒・未熟米・死米等の不良米ともみ・ガラス・石・樹脂などの異物が挙げられており(静岡製機「色彩選別機」)、着色粒の除去は色彩選別工程が担う前提で調製ラインが組まれています。
なぜ1粒の着色粒が等級を落とすのか
農産物検査規格における着色粒の位置づけ
水稲うるち玄米の規格では、整粒の最低限度が1等70%・2等60%・3等45%、水分の最高限度が15.0%、被害粒・死米・着色粒・異種穀粒および異物の合計の最高限度が1等15%・2等20%・3等30%と定められています。そのうち着色粒だけは1等0.1%・2等0.3%・3等0.7%と、他項目と比べて桁違いに厳しい上限が設けられています(農林水産省「玄米の検査規格」)。他の項目に余裕があっても、着色粒がこの線を超えれば格下げになります。
着色粒の定義も明確です。農林水産省の検査用語の解説では、全面着色粒は「着色の濃淡に係わらず、着色が粒表面にあるもの」、部分着色粒は「着色が粒の一部にある粒で、着色の大きさが直径1mm以上あるもの」とされています(農林水産省「検査用語の解説」)。つまり、直径1mm程度の斑点が1粒あるかどうかが判定の分かれ目になります。
格下げが産地に与える実害
被害は個別の圃場にとどまりません。農研機構の研究報告では、着色粒を理由とした2等以下への玄米格付け割合は全国で約3%前後で推移し続けており、2等以下への格付けによる差額を600円/60kgと仮定した場合の被害額は年間20億〜30億円と見積もられる、と整理されています(田渕研ほか「東北地域における斑点米カメムシ類:2014-2021年の発生動向,被害実態と防除対策」農研機構研究報告 2023年15号)。同報告では、2020年の福島県で着色粒を理由とした2等以下への格付け割合が6.0%に達し、1等比率が90%を下回った年があることなど、年次変動の大きさも示されています(いずれも玄米中の着色粒の含有率ではなく、検査数量に占める格付けの割合です)。
なお等級判定の実務も機械化が進んでいます。農林水産省の資料によれば、令和4年産米から白未熟粒・死米・胴割粒・砕粒および着色粒の検査を穀粒判別器で行えるようになり、ケツト科学研究所(RN-700)・サタケ(RGQI100A等)・静岡製機(ES-5等)の機種が使用可能機器として示されています(農林水産省「農産物検査規格と穀粒判別器について」)。判定側が機械化されるほど、出荷前に自社で同じ基準を確認できる体制の価値は上がります。
選別手法の比較:どこまでを何で取るか
着色粒対策として現場で使われる手法を、検知できるもの・見逃しやすいもの・処理量・コスト感で整理します。処理量はメーカー公式カタログの公表値、コスト感は相対的な位置づけとして記載しています(実際の価格は能力・オプション・設置条件で大きく変動するため、必ず各社の見積で確認してください)。
手法 | 検知できるもの | 見逃しやすいもの | 処理量の目安 | コスト感 |
|---|---|---|---|---|
目視(検査員鑑定・手選別) | 明瞭な着色粒、異物、規格全般の総合判断 | 微小な部分着色、大量処理時の見落とし | 抜取り検査が前提。全量処理は非現実的 | 装置費は不要だが人手と熟練に依存 |
粒厚選別(篩)・比重選別 | 未熟粒・小粒・軽量粒、石・大型異物 | 正常粒と同じ厚み・比重の着色粒 | ライン能力に応じて大量処理が可能 | 比較的低コスト。既存調製設備に組込済のことが多い |
色彩選別機(可視・フルカラーカメラ) | 斑点米・着色粒、ヤケ米、変色粒、色の異なる異物 | 正常粒と色差の乏しい粒、内部品質、無色透明の異物 | 玄米で概ね0.4〜21.0t/h(機種・シュート仕様による) | 小型機から大型ライン機まで幅広い。主力投資 |
色彩選別機+近赤外(NIR)センサー | 上記に加え、色が近い樹脂・石・ガラス等の異物 | 形状のみが異なる欠陥、微細なカビ・内部変質 | フルカラー機と同等クラス | フルカラー単独機より高い |
ハイパースペクトル(分光イメージング) | 可視色では差が出ない成分・状態の違い(研究・PoC段階の用途が中心) | そもそも分光的な差が生じない欠陥、高速ラインでの全量処理 | 用途・構成により大きく異なる。検査/抜取り用途が現実的 | 検証コストを含めた投資判断が必要 |
色彩選別機で足りるケースは、素直に色彩選別機でよい
着色粒は「玄米表面が可視光で明らかに変色している」欠陥です。したがって、可視カメラで十分に分離できる典型的な対象であり、多くの産地では色彩選別機で実務上の要求を満たせます。サタケの光選別機「SLASH」VQS01〜06シリーズは、フルカラーカメラ2台で着色粒を、近赤外(NIR)カメラ2台でガラスや石などの無機物を検出する構成で、玄米の処理能力は機種・シュート仕様により0.4〜21.0t/hと公表されています(サタケ「光選別機 SLASH」)。
静岡製機の色彩選別機も、SCS-50SⅡで処理能力最大35俵/h(=2.1t/h、不良混入率10%以下の場合)と公表されており、デジタルラインセンサカメラ3台でカメムシ被害粒・茶米・シラタを別カメラで検出する構成をとっています(静岡製機「色彩選別機」)。カントリーエレベーターや大規模法人の調製ラインでは、この処理量帯が実運用の基準になります。着色粒だけが課題であれば、より高度な方式を検討する前に、既存機の感度設定・供給量・清掃頻度の見直しで改善する余地がないかを先に確認するほうが費用対効果は高いことが多いはずです。
用途が「色で分かれる欠陥の除去」から「色では分からない品質の把握」へ広がったときに、はじめて分光の検討が意味を持ちます。異物側の課題についてはX線で見つからない異物を検出する4つの方式でも整理しています。
分光(ハイパースペクトル)で変わりうること・変わらないこと
ハイパースペクトルイメージングとは、通常のカメラがRGB3色で記録するところを、数十〜数百の細かい波長帯(バンド)に分けて、画素ごとに連続的な分光スペクトルを取得する技術です。近赤外(NIR)とは人間の目に見えない約800〜2500nmの波長域を指し、水分やデンプン、タンパク質など成分に由来する吸収が現れる領域です。学術分野でも、分光と画像を組み合わせて農産物を非破壊で評価・可視化する応用が整理されています(叶旭君・酒井憲司「ハイパースペクトルイメージングの農業への応用」映像情報メディア学会誌 69巻5号 pp.464-469, 2015年)。
変わりうること
期待できるのは「可視の色差がほとんどないのに、状態が違う」対象です。着色が薄く色彩選別機の閾値に掛かりにくい初期の被害粒、カビや変質の兆候、品種・産地由来の成分差などは、可視RGBでは差が出にくい一方、分光では波長ごとの反射率パターンとして違いが現れる可能性があります。穀物のカビ由来リスクについては穀物のカビ毒(マイコトキシン)検査で扱っています。
もうひとつは「判定の可視化」です。どの粒がどの程度の確からしさで弾かれたのかをスペクトル情報として記録できれば、感度設定の根拠づくりや、取引先への説明資料として使える形にできます。等級検査が機械化された環境では、この説明可能性が実務上の価値になります。
変わらないこと・限界
正直に書きます。分光は色彩選別機の上位互換ではありません。着色粒のように可視光で明瞭に色が違う欠陥は、可視カメラのほうが安価・高速・安定して処理できます。ここに分光を持ち込んでも、コストと処理時間が増えるだけで得るものはほとんどありません。
加えて、分光的な差が物理的に生じない欠陥は、どれだけ波長を細かく取っても検出できません。粒の内部深部の状態、外観に現れない極微量の成分差、形状だけが異なる欠陥などが該当します。また、粒単位でスペクトルを取得すると1粒あたりのデータ量が大きくなるため、数t/h級の全量選別に直接適用するのは現時点では容易ではなく、抜取り検査・ロット判定・研究開発といった用途のほうが噛み合います。
さらに、分光による判別はほぼ例外なく対象ごとのモデル構築を必要とします。品種、産地、年次、乾燥条件が変われば同じモデルがそのまま通用するとは限らず、教師データの収集と再学習が運用コストとして継続的に発生します。この前提を伏せたまま導入すると、期待とのギャップが生まれます。
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「色彩選別機では分けきれない差がある」とお感じの工程があれば、装置の仕様だけでも一度ご覧いただけたら嬉しいです。
導入検討の現実的なステップ
分光の導入を検討する場合、いきなり装置を購入するのではなく、段階を踏んで「そもそも分かれるのか」を確かめる進め方が失敗を減らします。
ステップ1:サンプル検証で「分光的な差があるか」を確かめる
最初にやるべきは、良品と不良品のサンプルを分光計測し、波長ごとの反射率に有意な差が出るかを確認することです。ここで差が出なければ、その先の工程設計は無意味になります。逆に差が出れば、どの波長域が効くのかが分かり、必要なセンサー構成(フルスペクトルが要るのか、数バンドのマルチスペクトルで足りるのか)の見当がつきます。この段階では、被害の程度が異なるサンプルを幅広く揃えることが精度より重要です。
ステップ2:PoCで運用条件に近い環境を再現する
実験室で分かれても、ラインでは搬送速度・振動・粒の重なり・照明変動が加わります。PoC(概念実証)では、実際の処理速度と照明条件に近い状態で検出率と誤検出率を測り、歩留まりロスがどれだけ生じるかを数値化します。ここで「良品を弾きすぎる」ことが分かれば、閾値の再設計か、既存の色彩選別機との役割分担の見直しが必要になります。出荷判定を自動化する際の考え方は出荷検査の自動化でも整理しています。
ステップ3:役割分担を決めて運用に載せる
最終的に決めるのは「どの欠陥をどの装置が担当するか」です。着色粒は色彩選別機、色では分からない品質は分光による抜取り検査、といった分担にすれば、既存設備を活かしたまま検査の網を広げられます。全量を分光で置き換える構想は、処理量とコストの両面で現実的でないケースが大半です。
ハイパースペクトルカメラの仕組みと産業別の活用事例はInvisible Worldのトップページで、製品仕様は国産ハイパースペクトルカメラ irodoriのページでご確認いただけます。私たちは食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました。これまでの受賞歴・メディア報道・学術成果は実績・アワード一覧にまとめています。
斑点米・着色粒の選別でお困りのこと、あるいは「これは分光で分かるのか」というご相談があれば、判断材料として資料だけでもご覧いただけたら幸いです。無理な提案はいたしません。




