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舗装点検要領の実務運用|分類A〜Dと5年に1回、新技術で目視を代替できる範囲

舗装点検要領は、橋やトンネルのように「5年に1回の近接目視」を法令で義務づけられた制度ではありません。管内の道路を分類A〜Dに区分し、点検頻度も手法も道路管理者自身が設定する枠組みです。この位置づけを押さえると、新技術をどこまで使ってよいかの判断が一気にはっきりします。

結論から書きます。舗装の点検の根拠は道路法施行令第35条の2第1項第二号で、点検は「適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」とされています。一方、橋やトンネルなどは道路法施行規則第四条の五の五で「近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること」と明記されています。つまり舗装には「近接目視でなければならない」という法令上の縛りがそもそも無く、機器や新技術による代替は制度設計の内側にあります。実際、国土交通省は直轄国道の舗装点検について令和5年度から点検支援技術の活用を原則化しています。

舗装点検要領は「近接目視5年に1回」の法令義務ではない

ここを取り違えている実務者が非常に多いので、最初に制度の階層を整理します。橋・トンネルの5年1回近接目視と、舗装の点検はまったく別の条文に基づいています。同じ「道路メンテナンス」の文脈で語られるため混同されがちですが、運用の自由度がまるで違います。

舗装の根拠は「目視その他適切な方法」

現行の舗装点検要領(平成28年10月・国土交通省道路局)は、冒頭で自らを「道路法施行令第35条の2第1項第二号の規定に基づいて行う点検に関する基本的な事項を示し」たものと位置づけています。そして同号の条文は「目視その他適切な方法により行うこと」。手法を限定する文言はどこにもありません。要領自身も「本要領に記載された基本的な事項を踏まえ、独自に実施している道路管理者の既存の取組を妨げるものではありません」と明記しています。

橋・トンネルは省令で近接目視が名指しされている

対して橋・トンネル・シェッド・大型カルバート・横断歩道橋・門型標識等は、道路法施行規則第四条の五の五で、点検を適正に行う知識及び技能を有する者が「近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本」とすることが定められています。さらに健全性の診断結果は告示により4区分(Ⅰ健全・Ⅱ予防保全段階・Ⅲ早期措置段階・Ⅳ緊急措置段階)に分類することとされています。舗装の診断が3区分なのは、この告示の対象外だからです。

橋でも「近接目視と同等」なら代替できる

なお橋についても、代替が一切認められないわけではありません。道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準/令和6年3月)は、必要な情報を「近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法により収集すること」と定め、解説で「他の手段による状態に関する情報の把握によっても、最終的に『健全性の診断の区分』の決定が同等の信頼性で行えることが明らかな場合には」全部材の近接目視は必ずしも要しない、と述べています。ただし同要領は「法令の近接目視」を、外観性状が十分に目視で把握でき必要に応じて触診や打音調査が行える程度の距離に近づくことと定義しており、ハードルは決して低くありません。橋梁側の費用構造についてはドローン点検の費用が高くなる理由と橋梁点検の積算内訳で詳しく扱っています。

分類A〜Dの決め方と、点検頻度・手法の対応表

舗装点検要領は、管内の道路を分類A〜Dに区分したうえで点検に取り組むことを求めています。重要なのは、どの道路をどの分類にするかは各道路管理者が判断すると要領が明言している点です。市町村道であっても管理者の判断で分類Bに区分して差し支えない、と要領は例示しています。

分類ごとの制度上の扱い

分類

対象の考え方

点検頻度(要領の記載)

点検手法(要領の記載)

A

高規格幹線道路等(高速走行など求められるサービス水準が高い道路)

5年に1回程度以上の頻度を目安として道路管理者が設定

目視又は機器を用いた手法など、道路管理者が設定する適切な手法

B

損傷の進行が早い道路等(例えば大型車交通量が多い道路)

同上

同上

C

損傷の進行が緩やかな道路等(例えば大型車交通量が少ない道路)

対象を「何年で一巡するか」の点検計画を立案

目視又は機器を用いた手法等、適切な手法

D

生活道路等(損傷の進行が極めて遅く、占用工事等の影響が無ければ長寿命)

上記によらず巡視の機会を通じた管理とすることができる

巡視の機会を通じた路面の損傷の把握・措置・記録

表のとおり、分類A・Bですら「5年に1回程度以上目安として」であり、法定の点検周期ではありません。逆に分類C・Dは「何年で一巡するか」という計画の話に置き換わります。ここが橋梁と決定的に違う運用ポイントです。

直轄国道は全線が分類B、直轄高速道路が分類A

地方整備局等が管理する道路には別の舗装点検要領(平成29年3月・道路局国道・防災課)があり、こちらは直轄国道を「道路の有する機能や重要性等に鑑み、全線」分類Bに、直轄高速道路を分類Aに区分すると明記しています。点検頻度は「管内の全路線、全車線を5年で一巡するという考えのもと、5年に1回」。自治体の要領を設計するとき、この直轄版は最も参照しやすい実装例になります。

分類は固定ではなく見直す前提

要領は、交通量の変化等に応じて分類Dの道路を分類Cへ、分類Cを分類Bへ組み入れるなど「道路の分類は適宜見直し」と述べています。分類表を一度作って終わりにすると、大型車の流入増加や物流拠点の新設に追随できません。5年に1度の点検サイクルとは別に、分類そのものの棚卸しを予定に組み込んでおくのが実務的です。

診断区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲとひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの見方

舗装の健全性は3区分で診断します。Ⅰ健全(損傷レベル小)、Ⅱ表層機能保持段階(損傷レベル中)、Ⅲ修繕段階(管理基準を超過している、又は早期の超過が予見される状態)。さらにⅢは、表層の供用年数が使用目標年数を超える場合のⅢ-1(表層等修繕)と、下回る場合のⅢ-2(路盤打換等)に分かれます。同じ「損傷レベル大」でも、路盤以下が健全と想定できるかどうかで打ち手が変わるという設計です。

3指標の意味と管理基準

管理基準にはひび割れ率、わだち掘れ量、IRIの3指標を使うことが基本です。ひび割れ率は路面のひび割れが占める面積割合、わだち掘れ量はタイヤ走行位置がすり減ってできた凹みの深さ、IRI(International Roughness Index/国際ラフネス指標)は走行時の上下動から求める路面の平坦性の指標で、mm/mで表します。要領は分類A相当でひび割れ率15〜20%・わだち掘れ量20〜25mm・IRI 3.5mm/m、分類B以下でひび割れ率20〜40%・わだち掘れ量20〜40mm・IRI 8mm/mを「採用している事例があるので参考にするとよい」と示しています。これは基準値ではなく事例です。管理基準は各道路管理者が設定します。

直轄版が示す診断区分の目安

診断区分

ひび割れ率

わだち掘れ量

IRI

Ⅰ 健全

20%未満程度

20mm未満程度

3mm/m未満程度

Ⅱ 表層機能保持段階

20%以上程度

20mm以上程度

3mm/m以上程度

Ⅲ 修繕段階

40%以上程度

40mm以上程度

8mm/m以上程度

直轄版はこの表に加えて、3指標のうち最も損傷レベルの大きいものを当該区間の診断区分として採用すること、評価延長の最低単位を10mとすること、そして診断区分Ⅲの特定にあたっては徒歩により目視を行い記録することを基本とすることを定めています。修繕実施の判断となるひび割れ率40%・わだち掘れ量40mmは「国が管理する一般国道及び高速自動車国道の維持管理基準(案)について(平成25年3月29日)」に由来し、IRIは当面8mm/m程度を暫定的な管理基準としています。

「数値計測は行わない」と書かれている

見落としやすいのが、直轄版が「目視で判断可能なレベルで健全性の診断を行うこととする(基本、現地での数値計測は行わない)」と明記している点です。つまり制度が求めているのは小数点以下の精密な数値ではなく、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲのどれに当たるかを間違えないこと。この要求水準の理解が、次章の新技術選定に直結します。各手法の測定方式と費用感の比較はアスファルト劣化の調査方法5種と路面性状調査の3指標で整理しています。

新技術で目視を代替できる範囲 ― 点検支援技術性能カタログの読み方

舗装点検要領は本文中で「点検関係の技術開発が多方面で進められており(中略)本要領に基づく点検が合理化できる手法と判断される場合は積極的に採用するとよい」と述べています。制度は新技術に対して閉じていません。問題は「どれを選べば説明責任を果たせるか」で、その答えが点検支援技術性能カタログです。

カタログとは何か、何ではないか

カタログは「国が定めた標準項目に対する性能値を開発者に求め、国管理施設等において技術を検証した結果をカタログ形式でとりまとめたもの」です。令和8年4月1日時点で全407技術が掲載され、うち舗装分野(ひび割れ率・わだち掘れ量・IRI)は55技術、道路巡視分野は32技術です。掲載の考え方は明快で、3つの性能評価項目の全て又はいずれかをすべての区分(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)で判定でき、かつ一定以上の精度が確保されていた技術とされています。前章の「数値計測は行わない」と符合します。

直轄国道では原則化されている

国土交通省は、直轄国道の点検について令和4年度より橋梁・トンネル、令和5年度より舗装、令和7年度より道路巡視の特定の項目について点検支援技術の活用を原則化しています。ただし報道発表には「点検支援技術活用による効率化や業務品質確保が図られない場合などは対象外」という注記が付きます。原則化=一律強制ではありません。自治体の場合はそもそも原則化の対象外ですが、直轄がこの方向に舵を切っている事実は、機器活用を庁内で説明する際の有力な根拠になります。

3タイプの使い分けが選定の実務

舗装編のカタログ一覧は、技術を検出項目と使用機器タイプで整理しています。ひび割れ率を検出できる技術は専用測定車26・可搬式測定機器19・ビッグデータ活用型1、わだち掘れ量は専用測定車26・可搬式測定機器13という内訳です。判断の目安は次のように整理できます。

  • 専用測定車:3指標を一度に取得でき、分類A・Bの幹線を面的に押さえる用途に向く。一方で日程調整と単価の制約が大きい。
  • 可搬式測定機器:既存のパトロール車や汎用機材に載せる方式。分類C相当の路線を「何年で一巡するか」の計画に組み込みやすい。
  • ビッグデータ活用型:走行データから路面状態を推定する方式。掲載数はまだ少なく、位置づけは補完的。

選定の落とし穴は、カタログ掲載=自路線でそのまま使える、と読んでしまうことです。カタログには技術ごとに精度確認項目が明示されており、たとえば「IRIのみ」「ひび割れ率のみ」の技術も少なくありません。3指標のうち何を機器で取り、何を目視や別手段で補うのかを先に決めてから探すのが順序です。なお国土交通省は技術の絞り込みができる検索サイトも公開しています(橋梁・トンネル分野を先行公開)。

表面計測でわかること・わからないこと、そして運用の落とし穴

ここまで機器活用の余地を書いてきましたが、正直に限界も書きます。路面をどれだけ精緻に測っても、路盤以下の状態は分かりません。これは特定の技術の弱点ではなく、表面計測という手法そのものの原理的な限界です。

Ⅲ-1とⅢ-2の切り分けは表面計測では終わらない

診断区分Ⅲのうち、表層等修繕(Ⅲ-1)で済むのか路盤打換等(Ⅲ-2)が要るのかは、表層の供用年数と路盤以下の健全性で決まります。要領は、供用年数が使用目標年数に満たず早期に劣化が進行している区間について詳細調査を実施して路盤以下の層の健全性を確認することを求めています。しかも詳細調査を行う者は「舗装の構造や材料の状態の評価に必要な知識および技能を有していること」とされています。機器で置き換えられるのは主に区分の判定までであり、その先の設計判断は人と開削・非破壊探査の領域です。

3指標で表現できない損傷もある

直轄版は、排水性舗装について「ひび割れ率、わだち掘れ量、IRIの3指標の他、骨材飛散など特有の損傷も発生する」が、当面は個々の状況に応じて修繕を判断するとし、骨材飛散の基準のあり方は今後の検討課題としています。また突発的なポットホール対応は、そもそも舗装点検要領の対象外で、巡視等で発見次第対応すべき事象と整理されています。3指標だけを機械化しても、現場の判断業務が消えるわけではありません。

私たちが確認できていること/できていないこと

私たちが扱う光の波長ごとに情報を捉えるハイパースペクトルカメラは、ひび割れ率やわだち掘れ量のような形状の指標を測る装置ではありません。得意なのは、見た目が同じでも材質や成分が違うものを分けることです。舗装分野では、点検支援技術性能カタログに掲載される3指標の土俵とは別の切り口になります。同じ考え方は錆や塗装劣化をカメラで定量化できるかという検証でも扱っています。

ですので「舗装点検要領の3指標をこれで置き換えられます」とは申し上げられません。まずは対象路面で何がどこまで見分けられるのかを、小さく試すところからだと考えています。私たちはこれまで、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を重ねてきました(実績一覧)。

明日から手をつけるなら

  1. 管内の路線を分類A〜Dに割り当て、その根拠(大型車交通量、サービス水準、管理実績)を文書で残す。
  2. 分類ごとに管理基準を決める。直轄版の「20%/20mm/3mm/m」と「40%/40mm/8mm/m」を出発点にする。
  3. 分類A・Bは頻度を、分類C・Dは「何年で一巡するか」を決める。分類Dは巡視での管理でよいと要領が認めている。
  4. 3指標のうち機器で取る項目を決め、点検支援技術性能カタログで精度確認項目が合致する技術を絞る。
  5. 診断区分Ⅲの区間だけは徒歩目視で確認し、Ⅲ-1/Ⅲ-2の切り分けには詳細調査を挟む。

制度そのものが「道路管理者が適切に設定する」と繰り返している以上、正解は要領の中ではなく、自分の路線の劣化実績の中にあります。判断の材料が足りないと感じる段階でしたら、計測手法の選び方を一緒に整理するところからお手伝いできます。

FAQ

舗装点検要領では点検は何年に1回と決まっていますか?

法令で一律に決まってはいません。舗装点検要領は分類A・Bについて「5年に1回程度以上の頻度を目安として道路管理者が適切に設定する」としており、分類C・Dは対象を何年で一巡するかという点検計画で管理します。ただし地方整備局等が管理する道路を対象とした平成29年3月版では、全路線・全車線を5年で一巡する考えのもと5年に1回とされています。

舗装の点検も橋のように近接目視が義務ですか?

義務ではありません。橋やトンネル等は道路法施行規則第四条の五の五で近接目視により5年に1回の頻度で行うことを基本とすると定められていますが、舗装の根拠は道路法施行令第35条の2第1項第二号で、点検は目視その他適切な方法により行うこととされています。手法を限定する規定がないため、機器や新技術による把握も制度の内側にあります。

舗装の健全性の診断区分はいくつありますか?

3区分です。Ⅰ健全(損傷レベル小)、Ⅱ表層機能保持段階(損傷レベル中)、Ⅲ修繕段階(管理基準を超過または早期の超過が予見される状態)に分かれ、Ⅲはさらに表層等修繕のⅢ-1と路盤打換等のⅢ-2に分けられます。橋やトンネル等が告示に基づく4区分であるのとは異なります。

点検支援技術性能カタログに載っている技術なら自由に使えますか?

掲載は選定の出発点であって、そのまま使えることの保証ではありません。カタログは国が定めた標準項目に対する性能値を開発者に求め、検証結果をとりまとめたもので、技術ごとに精度が確認された項目(ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIのいずれか)が明示されています。3指標のうち何を機器で取り、何を目視等で補うかを先に決めたうえで、精度確認項目が合致する技術を選ぶ必要があります。

路面の計測だけで路盤の状態まで分かりますか?

分かりません。診断区分Ⅲのうち表層等修繕で済むのか路盤打換等が必要かは、表層の供用年数と路盤以下の健全性で決まるため、要領は詳細調査による確認を求めています。詳細調査を行う者には舗装の構造や材料の状態の評価に必要な知識および技能が求められます。

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