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作物の病害を早期発見するには?目に見える前に捉えるセンシング技術

農業における病害の早期発見は、目視で見つけた頃にはすでに圃場全体へ広がっていることも多く、防除の遅れが減収に直結する難しい課題です。本記事では、発生予察・ドローン・分光センシングといった「症状が目に見える前」に変化を捉える手法を、一次情報と限界の両面から整理します。

結論から述べると、病害を早期に捉える手段は大きく三つに整理できます。第一に、国や都道府県が提供する病害虫発生予察情報を活用してリスクの高い時期を先読みすること。第二に、ドローンや各種カメラによるセンシングで圃場を面的にモニタリングすること。第三に、分光反射の情報から植物のストレスを数値化し、見た目に変化が出る前段階の異変を捉えることです。ただし、いずれも病害の種類や気象条件に左右され、単独で「予測」まで到達できる万能な手法はまだ存在しません。組み合わせて使うことが現実解になります。

病害の早期発見が難しい理由

病害の早期発見が難しい最大の理由は、目視でわかる頃には症状がすでに進行しているという時間差にあります。多くの病害は、葉の変色や病斑として肉眼で確認できる段階に至るまでに、植物体内で生理的な変化が先行しています。つまり、人が「発病した」と気づいた時点は、感染の初期ではなく拡大期に入っていることが少なくありません。

圃場の広さも見落としを生みます。数ヘクタール規模の圃場を一株ずつ確認するのは現実的でなく、巡回はどうしてもサンプリング的になります。初発の一点を見逃せば、そこを起点に周囲へ広がってから発見されることになります。ハイパースペクトルカメラの農業活用に関する記事でも触れているとおり、「面」で捉える視点が早期発見の鍵になります。

さらに、病害の判別には熟練が必要で、担当者による差が生まれます。似た症状の生理障害や薬害との区別、初期の微妙な色調の違いを読み取る力は経験に依存します。産地全体で高齢化と人手不足が進むなか、この熟練差を技術で補う必要性が高まっています。

病害を早期に捉える手法の比較

病害を早期に捉える手法は、目的とコストに応じて選択します。以下に代表的な四つの手法を、早期性・カバー範囲・熟練依存度の観点で比較します。いずれも一長一短があり、優劣ではなく役割分担で考えるのが実務的です。

手法

捉えられる段階

カバー範囲

特徴・留意点

定期巡回・目視

症状が肉眼で見える後

狭い(サンプリング)

低コストで確実だが、初発の見逃しと熟練差が課題

発生予察・フェロモントラップ等

発生リスクの予測段階

地域・広域

公的情報を無料で活用可能。個々の圃場の状態までは分からない

ドローン空撮(可視カメラ)

生育のばらつき・変色後

圃場全体

面的に俯瞰でき異常箇所を絞り込める。見た目に出た後の把握が中心

マルチ/ハイパースペクトル

見た目に出る前の生理変化

圃場全体〜精密

ストレスを数値化できる可能性。対象ごとの検証が前提で発展途上

発生予察情報でリスクの高い時期を先読みする

国と都道府県は、植物防疫法(昭和25年法律第151号)に基づく発生予察事業を通じて、病害虫の発生予報を提供しています。これは気象・農作物の生育状況・病害虫の発生調査の結果を分析し、防除を適時かつ経済的に行うための情報を関係者に届ける仕組みです。各都道府県の病害虫防除所が予察灯やほ場を調査し、全国の結果と気象予報を取りまとめて予報が発出されます(農林水産省「病害虫発生予察情報」)。

この公的情報は無料で活用でき、自圃場の防除計画を組む際の出発点になります。ただし予察は地域・広域を対象とするため、目の前の一枚の圃場が今どういう状態かまでは教えてくれません。地域の予報で「リスクが高い時期」を把握し、その上で個々の圃場を細かく見る、という二段構えが有効です。

ドローンの生育診断で病害の予兆を捉える

ドローンによる空撮は、圃場全体を短時間で俯瞰し、生育のばらつきや異常箇所を面的に絞り込めるのが強みです。農研機構の報告では、ドローンの時系列画像からバレイショ疫病の進行を評価し、病害抵抗性を決定係数0.77で推定した事例が示されています(石塚直樹「スマート農業の目としてのリモートセンシング技術」農研機構研究報告, 2019)。

可視カメラのみでは、あくまで「見た目に変化が出た後」の把握が中心になります。それでも巡回では気づきにくい生育ムラを可視化できるため、重点的に確認すべきエリアの優先順位づけに役立ちます。ドローン活用の全体像はドローンの農業活用に関する記事で詳しく整理しています。

分光センシングで「見た目に出る前」の変化を捉えるしくみ

分光センシングが早期発見に寄与しうる理由は、植物のストレスやクロロフィル(葉緑素)の変化が、肉眼の色変化に先立って分光反射に現れるという点にあります。分光反射率(波長ごとにどれだけ光を反射するかを示した値)を細かく計測すると、人の目では区別できない波長帯の変化を捉えられる可能性があります。これが「葉の変色前の診断」を目指す研究の基本的な発想です。とりわけ多数の波長を連続的に取得するハイパースペクトルカメラの仕組みと4業界のユースケースは、こうした微細な違いを読み取る手段のひとつとして注目されています。

NDVIなどの植生指標とは

センシングでよく使われるのが植生指標です。代表例のNDVI(正規化植生指数:近赤外光と赤色光の反射差から植物の活力を数値化した指標)は、植物の勢いをマップ化するのに用いられます。前述の農研機構の報告でも、NDVI画像によって圃場内の生育ステージの違いが把握しやすくなることが示されています。指標は「異変のあるエリアを見つける」入り口として機能します。

リモートセンシングで病害虫の異変を面で捉える研究事例

「見た目に出る前」を捉える可能性は、学術研究でも報告されています。東北大学は2024年6月、光化学反射指数(PRI:植物の光合成状態を反映する分光指標)とハイパースペクトルカメラを用い、葉の脱落や色素量の低下が起こる前に植物のストレス状況を高精度かつ迅速に評価する手法を確立したと発表しました(東北大学プレスリリース, 2024年6月24日)。

病害そのものを対象にした研究もあります。日本リモートセンシング学会誌に掲載された研究では、初期症状が小さく淡い色でわかりにくいブドウのべと病について、クロロフィルa蛍光画像を用いて目視では困難な初期病状を可視化できる可能性が示されました(佐藤ほか, 日本リモートセンシング学会誌 45巻4号, 2025)。こうした分光・蛍光情報の活用は、水分ストレスの推定など周辺領域とも技術的に地続きです(関連する土壌の水分量推定に関する学術記事もあわせてご覧ください)。

ただし、これらは研究段階の成果であり、あらゆる病害を発症前に確実に検出できるわけではありません。対象作物・病害・生育ステージごとに波長と指標を検証する必要があり、「病害の予測」まで一般化するには、まだ多くのデータ蓄積が求められる段階です。

分光センシングは万能ではなく、対象とする作物や病害ごとに丁寧な検証が欠かせない発展途上の技術です。国産ハイパースペクトルカメラ「irodori」がどのような波長情報を取得できるのか、まずは仕様をご確認いただくことが、自社の課題に合うかを見極める材料になります。

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現場導入の現実的なステップ

分光センシングを現場に取り入れる際は、いきなり全圃場での常時運用を目指すのではなく、小さく検証してから広げるのが現実的です。まずは対象とする作物と病害を一つに絞り、健全株と発病株のサンプルを撮影して、どの波長・指標に差が出るかを確かめる段階から始めます。ここで差が安定して現れなければ、その病害では有効でない可能性も正直に受け止める必要があります。

次に、撮影データと実際の発病状況を突き合わせて精度を検証します。分光指標が示した異常箇所が、後日ほんとうに発病したのかを追跡し、判定のしきい値を自分たちの圃場条件に合わせて調整していきます。気象や生育ステージによって反射特性は変わるため、一度作った基準を継続的に見直すことが欠かせません。

コスト面では、機材費だけでなく撮影・解析の運用体制まで含めて考える必要があります。導入にあたっては、スマート農業関連の支援制度が用意されている場合もあるため、最新の情報は農林水産省のスマート農業のページで確認するとよいでしょう。研究機関との共同検証として取り組む場合は、研究者向けの科学研究費助成事業(科研費)が活用できる可能性もありますが、対象や公募時期・要件は年度によって異なるため、まずは公式サイトで最新情報をご確認ください。

私たちMilk.株式会社は、これまで食品・農業・インフラ・医療といった多様な現場とともに、ハイパースペクトルカメラの実証を一つひとつ重ねてきました。作物の変化を見た目に出る前に捉えるというテーマも、こうした現場ごとの地道な検証の積み重ねから見えてきたものです。これまでの受賞歴や学術成果などは実績一覧にまとめていますので、あわせてご覧ください。導入の可否は圃場の条件や対象作物によって大きく変わるため、より詳しい活用イメージや検証の進め方を資料にまとめています。社内検討の一次資料としてお役立てください。

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[faq][{"q":"病害を目に見える前に発見することは本当に可能ですか?","a":"研究段階では可能性が示されています。東北大学は2024年に、葉の脱落や色素量の低下が起こる前に植物のストレスをハイパースペクトルカメラで評価する手法を発表しました。ただし、あらゆる病害を発症前に確実に検出できるわけではなく、対象作物や病害ごとの検証が前提です。"},{"q":"発生予察情報とセンシングはどう使い分ければよいですか?","a":"発生予察情報は地域・広域のリスクの高い時期を先読みするための公的情報で、無料で活用できます。一方、ドローンや分光センシングは目の前の圃場の状態を面的に把握する手段です。予察で時期を把握し、センシングで自圃場を確認する二段構えが実務的です。"},{"q":"NDVIとは何ですか?","a":"NDVI(正規化植生指数)は、近赤外光と赤色光の反射差から植物の活力を数値化した指標です。圃場内の生育のばらつきや異変のあるエリアを見つける入り口として使われます。"},{"q":"分光センシングを導入すればすぐに病害を予測できますか?","a":"すぐに予測まで到達できる万能な技術ではありません。まず対象作物と病害を絞り、健全株と発病株のサンプル撮影でどの波長に差が出るかを検証し、実際の発病と突き合わせて精度を確かめる段階的な導入が現実的です。"}][/faq]