保温材下腐食(CUI)の検査方法を8手法で比較し、「どこの保温材を剥離するか」を決める判断フレームまで整理します。全数撤去が現実的でない現場で、優先順位付けとスクリーニング検査をどう組み立てるかが分かります。
結論から書きます。CUI検査の本質は「腐食を見つける技術」ではなく、限られた予算で剥離する箇所を絞り込む意思決定です。国内の実務指針であるエンジニアリング協会「石油精製業及び石油化学工業における保温材下配管外面腐食(CUI)に関する維持管理ガイドライン」(平成24年2月)も、非破壊検査技術を「直接CUI検査を行なうものではなく、剥離箇所を特定するためのスクリーニング検査用ツール」と明確に位置づけています。同ガイドラインの適用温度範囲は運転温度で常温〜150℃が目安とされ、対象材料は炭素鋼・低合金鋼です。つまり最初にやるべきは機器の選定ではなく、配管の優先順位分けです。
なぜ「見つける」ではなく「どこを剥離するか」の問題なのか
保温材下腐食(CUI)は、保温材と配管(炭素鋼・低合金鋼)の間で起こる配管外面の腐食です。外装板の穴あきやシール材の損傷から水が侵入し、保温材が水分を保持することで金属表面に水膜が長時間維持され、腐食が進行します。厄介なのは、外装板の下という「見えない場所」で進むうえに、局所化しやすく速度も速い点です。
全数撤去がコスト的に成立しない
前掲ガイドラインは背景として、一つの工場で数十キロメートルに及ぶ保温配管を剥離・点検することは時間的にも費用的にも難しい、と率直に述べています。実務では、足場架設費が検査費本体を上回ることも珍しくありません。さらに小径薄肉管では、保温材を剥離した際にさび層が一緒に取り払われ、それが引き金となって漏洩に至る可能性まで指摘されています。「とりあえず全部剥がす」は安全側の判断とすら言い切れないのです。
CUIが起きる条件は「経年」より「保温材の損傷度合」
石油学会で報告された実プラントの検査データ分析(飯島悟「運転温度に基づくCUI検査の優先順位付け」石油学会年会・秋季大会講演要旨集, 2016)では、CUI減肉との関係で有意差が認められたのは「運転温度」と「保温材の損傷度合」の2項目でした。しかも、一般に影響が大きいと考えられていた保温材使用年数よりも、保温損傷度合のほうが有意差があったと報告されています。損傷部から水が浸入する範囲(直接影響部)に対し、影響を受けていない間接影響部の腐食はマイルドだった、という結果です。
この知見は検査設計に直結します。「古い配管を順に剥がす」のではなく、「水が入っている/入りやすい場所を先に剥がす」のが合理的だということです。CUIが直接見えなくても、水の侵入と滞留の兆候は外から観察できます。ここに、後述するサーモグラフィや分光といった面的スクリーニングの居場所があります。
CUI検査8手法の比較表|原理・保温材撤去の要否・限界
実務で候補になる手法を、原理・保温材撤去の要否・検出できるもの・精度と限界・コスト感で整理します。精度や適用範囲の記述は前掲ガイドライン第5章「非破壊検査技術の使用方法」に基づきます。コスト感は絶対額ではなく相対比較です(足場費を含めた総額で見ると順位が入れ替わる点に注意してください)。
手法 | 原理 | 保温材撤去 | 検出できるもの | 精度・限界 | コスト感 |
|---|---|---|---|---|---|
遠望・近接目視(日常点検) | 外装板の外観観察 | 不要 | 外装板のさび・穴・変形、バンド外れ、はぜ掛け弛み、マスチック劣化、さび汁 | 外装板の異常に現れないCUIは検出不可。近接するには足場が要る | 低 |
保温材撤去+目視(剥離検査) | 直接の外観・腐食測定 | 必要(全面/部分) | 最大腐食深さ・平均腐食深さ・腐食範囲。事実上の正解 | 剥離した範囲しか分からない。小径薄肉管では剥離自体が漏洩の引き金になりうる | 高(足場・保温復旧を含む) |
赤外線サーモグラフィ | 外装板表面の赤外放射量から温度差を可視化 | 不要 | 保温材中の水分・保温欠損の疑い(面的スクリーニング) | 腐食そのものは検出しない。天候・内部流体の影響を受け半定量的 | 低〜中 |
中性子水分計 | 中性子照射と後方散乱から水素量を測定 | 不要 | 保温材中の水分量の推定 | 腐食の直接検出ではない。放射性同位元素の管理と熟練者が必要 | 中 |
パルス渦流探傷(PEC) | パルス電流で高磁界を与え、渦電流の減衰から平均肉厚を推定 | 不要(非接触) | 保温材の上からの肉厚減少(減肉) | 内外面の区別ができない。センサ範囲の平均値。従来型は亜鉛鉄板カバーに不適、10B以下の中小径管には適さない。サポートやスチームトレースが制約 | 中 |
ガイド波超音波(ガイド波UT) | リング状センサから管軸方向へ超音波を伝播させ反射を評価 | センサ設置部のみ約300mm | 数十mにわたる断面欠損の有無と概略位置 | 検出精度は最小断面欠損率10%程度(フォーカス機能付き機種で3%程度)。内外面の区別不可。あばた状の全面腐食や割れには適さない。エルボ等の構造変化部の先は困難、隣接配管間隔75mmが必要 | 中(長尺で単価が下がる) |
デジタルラジオグラフィ(RT) | ガンマ線/X線の透過像から肉厚を測定 | 不要 | 内面・外面の両方の減肉を定量評価 | 剥離検査に近い精度(0.1mm程度)だが局所的な情報のみ。2本並列配管では4重壁となり精度低下。照射方向により見逃しあり。放射線の届出・管理区域の設定が必須 | 高(管理コスト込み) |
分光・マルチスペクトルイメージング | 波長ごとの反射光から外装材の含水・変質を面で数値化 | 不要 | 外装材の濡れ・シール劣化・雨水侵入の兆候(=CUIが起きやすい条件) | 保温材越しに腐食を透視することはできない。あくまで条件のスクリーニングで、減肉量は測れない | 低〜中 |
減肉を「測れる」3手法の使い分け
肉厚そのものに踏み込めるのはPEC・ガイド波UT・RTの3つです。前掲ガイドラインは配管レイアウトによる選択の考え方を示しています。直線部が長い配管系や、足場を架けたくない塔まわりの垂直配管・架空配管にはガイド波UTが適します。分岐が多い複雑な系で、外径4インチ以上かつ対象範囲が1m前後に絞れているならPEC(亜鉛鉄板カバー対応機種)が選べます。外径4インチ未満の小径管や、バルブ・フランジ・レジューサーのような形状が変わる部位にはPECは不適で、放射線検査法が適するとされています。
特に外径2インチ以下の小径配管については、保温材を剥離せずRTで直接、定量的な腐食評価に進むことが多いとされます。理由は、補修より取替えの対象になりやすいこと、薄肉で漏洩危険性が高く内外面同時の測定が要ること、そして剥離がさび層を取り払って漏洩の引き金になりうることです。「小径管はRTで済ませ、剥がさない」は覚えておくと効く判断です。
「濡れ」を面で見る手法の役割
サーモグラフィ・中性子水分計・分光は、いずれも腐食そのものを測る手法ではありません。ガイドラインは水分測定について、直接CUIの腐食箇所を検出するものではない、半定量的である、測定結果を直ちに保温材の剥離判断に利用することは避けるべき、と明記しています。それでも価値があるのは、減肉を測る手法が「点」でしか答えを出せないのに対し、これらは「面」で候補地を出せるからです。
実際、化学プラント複数社の実機検査データを機械学習で解析した研究(中原正大「実機検査データに基づいた保温材下腐食発生予測モデル開発」安全工学 59巻6号, 2020)でも、保温材を剥離しない状態でのサーモカメラ撮影や中性子水分計による計測が、CUIのスクリーニング試験方法として適用可能であると報告されています。面で絞ってから、点の手法で確かめる。この二段構えが現実解です。
優先順位を決める判断フレーム|重要度×腐食予測度
ここからが本題です。手法を選ぶ前に、対象配管をランク分けします。前掲ガイドラインが示す枠組みは、リスクベース検査(RBI/RBM)の考え方そのものです。
ステップ1:管理単位を決める。エリア分け(地域・装置)、配管ごと(ライン番号)、またはその組み合わせで管理単位を設定します。ここが粗いと以降の全工程が粗くなります。
ステップ2:重要度を評価する。漏洩した場合の影響度です。内部流体の揮発性・毒性・圧力による健康/安全/環境への影響、社会的影響、メンテナンスおよび操業停止コストなどの経済的影響で区分します。RBMでいう「影響度」に相当し、API 570などの分類例が参考になります。
ステップ3:腐食予測度をランク付けする。RBMでいう「破損確率」に相当します。経過年数・運転温度・運転条件(間欠運転や長期休止による温度降下)・防食仕様・大気環境という腐食予測管理データと、日常の目視点検結果から高/中/低のランクを決め、配管径・肉厚・前回検査の残厚データによる余裕代で補正します。
ステップ4:マトリクスで3区分に分ける。重要度と腐食予測度を掛け合わせ、次の3つに分類します。
- 最優先配管:漏洩影響が非常に大きく、CUI発生可能性も非常に高い。基本的に全面剥離して検査する
- 優先配管:影響度が大きく発生可能性も高い。スクリーニング検査で剥離箇所を特定してから剥離する
- その他配管:影響が小さく発生可能性も低い。検査時期を急がなくてよいが、検査不要という意味ではない
この分け方の要点は、非破壊検査が必要になるのが「優先配管」だけだということです。最優先配管はどのみち全面剥離するのでスクリーニングは要りません。逆に、その他配管に高価な検査を回すのはコストの誤配分です。機器選定の議論に入る前に、この3区分を先に確定させてください。
スクリーニング検査は「目視の穴」を埋めるために使う
優先配管に対しては、まず目視検査で候補を洗い出します。ガイドラインが挙げるCUI発生しやすい箇所は具体的です。保温材不連続部(ベント・ドレン部、ハンガー保持部、パイプシュー取付部、トレース管貫通部、サポート取付部、容器ノズル部、取り出し計装配管)、保温材末端部(フランジ、鉛直配管末端)、外装板の劣化損傷部(バンド外れ、重ね合わせ部の外れ、はぜ掛け弛み、変色、さび・穴、膨れ、マスチック劣化)、水滞留箇所(垂直配管の保温材末端、立上がり配管のエルボ、長スパン水平配管の下部)などです。
非破壊検査を投入する判断基準も明確です。目視だけでは剥離範囲が過大になる場合、CUI発生しやすい環境で目視は問題なしだが腐食予測度が中〜高の場合、高所を足場なしで検査したい場合、桟橋配管のように長尺で目視に多大な工数がかかる場合。要は目視の見逃しを減らすか、足場を省くかのどちらかに効くときだけ使います。
検出率で回す|検査プログラムのPDCA
スクリーニングの効果は「検出率」で測れます。ガイドラインの定義では、剥離後の検査で見つかった腐食箇所数を、スクリーニング検査で特定した剥離箇所数で割った百分比です。この数字が低いなら、スクリーニングの判定基準か手法選定が実態と合っていません。剥離検査の結果は必ず腐食予測度にフィードバックし、次回の優先順位分けを更新します。CUI検査は単発の工事ではなく、検出率を指標に回す継続的なプログラムです。
分光・マルチスペクトルはCUIに使えるのか(正直な位置づけ)
ここは誤解が生まれやすい領域なので、できないことから書きます。分光イメージングやハイパースペクトルカメラで、保温材越しにCUIを透視することはできません。光は金属外装板を透過しないため、原理的に不可能です。減肉量を測ることもできません。それはPEC・RT・ガイド波の領分です。
では何ができるのか。分光が扱えるのは外装材の表面で起きていることです。水は近赤外域に明瞭な吸収帯を持ちます。土木分野の研究ですが、原田健二・下村匠「近赤外線分光法によるコンクリート中の液状水量の推定に及ぼす影響要因の検討」コンクリート工学年次論文集 Vol.42, 2020(日本コンクリート工学会)では、セメントペースト中の水の吸収ピークが波長1450nm近傍に確認され、1443nmと1365nmの吸光度差分と水分量が線形関係を持つことが示されています。同じ原理で、外装材やシール材(マスチック)の含水・変質を非接触で数値化する余地があります。
先に見たとおり、CUIとの有意差が認められた因子は運転温度と保温材の損傷度合でした。つまり「外装材が濡れている・シールが劣化している」という条件を面で拾えること自体に、優先順位付け上の価値があります。赤外線サーモグラフィが温度差という一次元の情報で濡れを推定するのに対し、分光は波長方向の情報量が多いぶん、濡れ・さび・塗膜劣化といった要因を切り分けられる可能性がある、という位置づけです。同じ考え方は錆・塗装劣化をカメラで定量化する取り組みや、漏水を非破壊で調査する手法とも地続きです。
ただし限界も明確です。ガイドラインが水分測定について述べているのと同じく、分光の結果を直ちに剥離判断に使うべきではありません。あくまで優先配管の中で「先に見るべき区画」を出す道具であり、最終判断は目視・非破壊検査・現場の経験を合わせて行うものです。目的が「肉厚を測る」ことなら分光は不適で、素直にRTやPECを選んでください。ハイパースペクトルカメラの仕組みと業界別の活用事例を見ていただくと、向く用途と向かない用途の境目が掴めると思います。
実務でハマる落とし穴5つと、検査計画の組み立て順
1. 手法比較から入ってしまう。「PECとRTどちらが良いか」から始めると、優先順位分けが飛びます。結果として、その他配管に高価な検査を打ち、最優先配管の全面剥離が後回しになります。順番は必ず区分けが先です。
2. 内外面の区別ができない手法の結果を、外面腐食と決めつける。PECもガイド波UTも内外面の区別はできません。内面腐食の可能性が分かっている系では、その前提を評価に織り込む必要があります。定量的に切り分けたいならRTです。
3. 外装材の材質・形状の制約を事前に確認しない。従来型PECは亜鉛鉄板カバーに不適で、日本では亜鉛鉄板製の外装板が多く使われています。対応機種の選定が必要です。またスチームトレース、配管サポート、隣接配管との間隔が狭い箇所も制約になります。現場に入ってから「測れません」となるのが最も高くつきます。
4. 面的スクリーニングの結果を過信する。サーモグラフィも中性子水分計も分光も、測定結果は天候や内部流体の状態に左右されます。晴天の午後と雨上がりの朝では見え方が変わります。撮影条件を揃え、複数回の相対比較で見るのが実務です。
5. 剥離検査の結果を記録して終わりにする。腐食が出たか出なかったかは、次回の腐食予測度を更新するためのデータです。フィードバックの仕組みがないと、検出率はいつまでも上がりません。これは外壁打診調査の代替手法を検討するときの考え方や、油漏れの早期検知で方式を使い分ける場面とも共通する、記録と更新の設計の話です。
まとめ|計画は7ステップで組み立てる
CUI検査は、①管理単位の設定 → ②重要度評価 → ③腐食予測度ランク付け → ④3区分への仕分け → ⑤優先配管へのスクリーニング(目視+必要に応じて非破壊検査)→ ⑥剥離箇所の特定と剥離検査 → ⑦検出率の評価とデータのフィードバック、という順で組み立てます。手法の優劣ではなく、この流れのどこにボトルネックがあるかを見極めるのが設備保全担当者の仕事です。
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。これまで食品・農業・インフラ・医療といった現場とともに実証を重ねてきました(実績一覧)。CUIそのものを保温材越しに見ることはできませんが、外装材の含水やシール劣化を面で拾って剥離候補を絞る、という使い方には可能性があると考えています。記事の途中で恐縮ですが、優先順位付けの入口で悩まれているようでしたら、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。




