アスファルト舗装の劣化を調べる路面性状調査の方法を、国土交通省の舗装点検要領が定める3指標を軸に5手法で比較します。管理延長と予算からどれを選ぶか、100kmあたりの費用感・手法の判定チャート・実証(PoC)依頼の進め方まで、発注前にそのまま使える形でまとめました。
結論から書きます。アスファルト路面の劣化調査は、「ひび割れ率」「わだち掘れ量」「IRI(国際ラフネス指数)」の3指標をどう測るかという問題に集約されます。国土交通省の舗装点検要領(平成28年10月・道路局)は、管理基準としてこの3指標を使うことを基本とし、点検結果を健全性の診断区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに分類すると定めています。なお道路橋・トンネル等の定期点検要領が令和6年3月に改定されたのに対し、舗装点検要領は2026年8月時点でも平成28年10月版が現行です(道路の老朽化対策:点検要領一覧)。橋梁の要領の年度感覚のまま舗装を語ると食い違うので、ここは分けて押さえてください。手法選びは「精度が高いか」ではなく「必要な3指標を、管理延長の予算内で、必要な粒度で取れるか」で決まります。
アスファルト路面の劣化を測る3指標と診断区分
まず制度の骨格を押さえます。舗装点検要領は道路を分類A〜Dに区分し、分類ごとに点検の考え方を変えています(要領そのものの読み方は舗装点検要領とは|分類A〜Dと新技術で目視を代替できる範囲で詳しく整理しています)。分類Aは高規格幹線道路など求められるサービス水準が高い道路、分類Bは大型車交通量が多く損傷の進行が早い道路、分類Cは損傷の進行が緩やかな道路、分類Dは生活道路等です。どの分類にするかは各道路管理者が判断します。
ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIが何を表すか
3指標はそれぞれ見ている劣化が異なります。ひび割れ率は表層の面としての損傷度合い、わだち掘れ量は車輪通過位置の縦断的なへこみ、IRIは走行時の乗り心地に相当する路面の凹凸です。舗装点検要領は「管理基準は、ひび割れ率、わだち掘れ量、IRIの3指標を使用することを基本とする」とした上で、MCIなどの複合指標を併用することも妨げていません。
重要なのは、この3指標がいずれも表層の「症状」を面的に測る指標であって、路盤以下の構造的な健全性を直接語るものではないという点です。舗装点検要領も、早期劣化区間についてはFWD(重錘落下たわみ測定装置)によるたわみ量測定、コア抜き調査、開削調査といった詳細調査を別に位置づけています。路面性状調査だけで修繕工法を決められるわけではありません。
診断区分Ⅰ・Ⅱ・Ⅲと数値のめやす
健全性の診断は3区分です。区分Ⅰ(健全)は損傷レベル小、区分Ⅱ(表層機能保持段階)は損傷レベル中、区分Ⅲ(修繕段階)は管理基準を超過している、または早期の超過が予見される状態を指します。管理基準の具体値は各道路管理者が設定しますが、要領は採用事例として次の水準を挙げています。
道路の分類 | ひび割れ率 | わだち掘れ量 | IRI |
|---|---|---|---|
分類A(高規格幹線道路等)の採用事例 | 15〜20% | 20〜25mm | 3.5mm/m |
分類B以下の採用事例 | 20〜40% | 20〜40mm | 8mm/m |
点検支援技術の性能評価に用いた区分Ⅱ(表層機能保持段階) | 20%以上 | 20mm以上 | 3mm/m以上 |
点検支援技術の性能評価に用いた区分Ⅲ(修繕段階) | 40%以上 | 40mm以上 | 8mm/m以上 |
上2行は舗装点検要領が示す採用事例、下2行は国土交通省が点検支援技術を性能評価する際に用いた区分です(舗装点検技術の評価方法 参考-2)。全国一律の法定基準値ではないため、自分の管理する道路の分類に照らして設定し直す必要があります。なお性能評価は延長1kmを20mごとの50ブロックに分割し、ブロック単位で診断する形で行われました。20mが実質的な最小管理単位だと考えておくと、後の手法選びで迷いにくくなります。
点検頻度は分類によって異なります。損傷の進行が早い分類A・Bは「5年に1回程度以上の頻度を目安として、道路管理者が適切に設定する」とされ、分類C・Dは総延長を考慮して何年で一巡するかという点検計画を立てる方式です。分類Dは巡視の機会を通じた路面の損傷把握と措置・記録による管理に代えることができます。
アスファルト路面の劣化調査5つの方法を比較する
3指標と診断区分を前提に、実務で選択肢になる5手法を整理します。判断軸は「測れる指標」「延長あたりの効率」「精度」「費用感」「向く場面」の5つです。
なお、ここで挙がる手法は舗装に固有のものばかりではありません。打音・超音波・赤外線サーモグラフィといった代表的な手法の全体像と使い分けは非破壊検査の代表5手法の比較と選び方にまとめているので、舗装以外の構造物もあわせて点検計画を立てる場合はそちらもご覧ください。
手法 | 測れる指標 | 延長あたりの効率 | 精度・粒度 | 費用感 | 向く場面 |
|---|---|---|---|---|---|
目視巡回(車上・徒歩) | ひび割れ・ポットホール等の定性把握。3指標の定量化は困難 | 巡視業務と兼ねられるため追加コストが小さい | 担当者の熟練度に依存。年次比較が難しい | 既存業務の範囲内で実施可能 | 分類D・生活道路。異常の早期発見 |
路面性状測定車(専用車) | ひび割れ率・わだち掘れ量・平たん性・IRIの4項目 | 交通規制不要で走行しながら測定。長距離を短期間で計測 | 便覧準拠。3指標を最も高い水準で揃えられる | 5手法の中で最も高い | 分類A・B。修繕計画の根拠となる公式データ |
スマートフォン・ドラレコ×AI | ひび割れ率・IRI・MCI等(技術により異なる) | 任意車両に取り付けて走行。広域を安価に一巡できる | 簡易評価。専用車に比べ検出率・的中率は劣る傾向 | 専用車の数分の一の水準 | 分類C・D。全延長の一次スクリーニング |
ドローン(UAV)撮影 | ひび割れの平面的な形状。わだち掘れ・IRIは不得手 | 面での撮影は速いが、飛行申請と天候の制約が大きい | 解像度は接近距離次第。細いひび割れは接写が必要 | 区間単位のスポット調査向き | 交通規制が難しい交差点・損傷が集中する区間の記録 |
分光計測(ハイパースペクトル等) | 表層の材質・骨材露出・含水などの状態量。3指標の代替にはならない | 面で状態量を取得できるが、路面調査としては研究・実証段階 | ひび割れ幅の定量には向かない | 案件ごとの検証費用 | 材質変化・水の挙動など、3指標では見えない要因の切り分け |
目視巡回は「ゼロにしない」ための手段
舗装点検要領は点検手法について「目視又は機器を用いた手法など道路管理者が設定する適切な手法」としており、目視は正式な選択肢です。実際、分類Dは巡視の機会を通じた管理に代えられます。ただし目視では3指標の定量値が得られないため、経年での劣化速度の把握や、修繕の優先順位付けの根拠には使いにくいという限界があります。
路面性状測定車は「根拠を残す」ための手段
専用の路面性状測定車は、ラインカメラ・レーザスキャナ・変位計などを車両に一体化し、交通規制なしで走行しながら4項目を測定します。舗装調査・試験法便覧に準じた評価ができるため、修繕計画や予算要求の根拠として最も通しやすいデータになります。弱点は費用です。全延長に毎年かけられる自治体は多くありません。
スマートフォン・ドラレコ×AIは「広く薄く」の手段
近年伸びているのが、専用車を使わずスマートフォンやドライブレコーダーの動画像と加速度データからひび割れ率・IRI・MCIを推定する簡易型です。国土交通省の点検支援技術性能カタログにも複数掲載されています。留意すべき制約も明記されており、たとえばある技術では雨天など路面が濡れた状態、夜間など暗すぎる/明るすぎる環境、山間部などGPS精度が低い場合は検出不可とされています。「安い」ではなく「条件が合えば安い」と理解するのが正確です。
ドローンは面の記録に強く、わだち・IRIには弱い
ドローンは真上から面を撮れるため、損傷が集中する区間の記録や、交通規制がかけにくい箇所の把握には有効です。一方でわだち掘れ量やIRIといった縦断・凹凸系の指標は苦手で、細いひび割れを捉えるには機体を近づける必要があり撮影枚数が増えます。天候・飛行申請の制約も含め、全延長を一巡する手段としては現実的ではありません。構造物側のひび割れ点検についてはコンクリートのひび割れ検査5手法の比較で整理しています。
分光計測は3指標の代役ではなく、要因側を見る道具
ここは正直に書きます。分光計測はひび割れ検出そのものの主役ではありません。ひび割れ幅やわだち掘れ量の定量には形状計測のほうが適しており、分光がそれを置き換えるという主張には根拠がありません。
一方で、分光がアスファルトの材料劣化そのものを捉える研究は積み上がっています。土木研究所の報告では、赤外分光分析でアスファルトバインダの酸化劣化に伴うカルボニル基の増加を捉え、カルボニルインデックス(CI)という指標で劣化を評価する手法が検討されています(土木技術資料61-2(2019)「赤外分光分析を用いたアスファルト舗装の劣化診断」)。ただしこれはATR法・透過法による室内分析であり、走行しながら路面全体を測る技術ではありません。
私たちが可能性を感じているのは、この延長線上にある「面で状態量を取る」使い方です。骨材の露出、表層の材質の違い、水が滞留している範囲といった、ひび割れ率やわだち掘れ量では表現されない情報を面として押さえられれば、なぜこの区間だけ早期劣化するのかという問いに手がかりを与えられるかもしれません。含水の可視化については漏水の非破壊調査と水分可視化で、金属部材の腐食・塗膜劣化を光で見る話は錆・塗装劣化をカメラで調べる方法で紹介しています。いずれも現時点で確立した路面調査の標準手法ではなく、検証を重ねている段階です。
私たちは国産のハイパースペクトルカメラ irodori を開発しています。記事の途中で恐縮ですが、もし「3指標では説明がつかない早期劣化区間がある」といった課題をお持ちでしたら、どこまで見えてどこから見えないのかも含めて、一度お話しできれば嬉しいです。
費用と効率の実データ:カタログ掲載技術の比較
費用は最も知りたいのに情報が出てこない項目です。ここでは推測を避け、国土交通省の点検支援技術性能カタログ概要(舗装)令和8年3月に各社が記載している「100km×1車線あたりの標準的な費用」を、そのまま2件引用します。なお本体のカタログページは橋梁・トンネル編で、舗装編は上記の別ページにまとまっています(掲載61技術)。橋梁側の費用感は橋梁点検にドローンを使う場合の費用で別途整理しています。
項目 | スマートフォン型の一例(PA010018-V0023) | 専用移動計測車両型の一例(PA010046-V0024) |
|---|---|---|
100km×1車線あたりの標準的な費用 | 1,250,200円(税抜)〜(基本サービスのみ・機材貸出1台含む) | 合計5,500,000円〜(計画準備30万+計測150万+解析270万+諸経費100万) |
計測可能な速度帯 | 20〜50km/h | 15〜80km/h |
測定可能時間帯 | 昼間のみ | 昼間・夜間 |
100kmのデータ出力標準日数 | 30〜60日 | 100営業日程 |
検出項目 | ひび割れ率・IRI(MCIも出力) | ひび割れ率・わだち掘れ量・IRI・平たん性 |
主な制約 | 雨天・濡れ路面、暗すぎる/明るすぎる環境、GPS精度が低い山間部は検出不可 | 雨・雪・強風時は不適。−10〜45℃の範囲外は不適。高さ3.2m・幅2.2mの制限 |
この2件だけで相場を語ることはできませんが、示唆は明確です。100km・1車線を一巡する費用は、簡易型と専用車型でおよそ4倍前後の開きがあり得ます(出典:カタログPA010018/カタログPA010046)。そして測れる指標の数も違います。専用車型は4項目、この簡易型はわだち掘れ量を検出項目に含んでいません。安いほうを選ぶとは、指標を1つ諦めることでもあります。
もう一点、意外な事実があります。納期は必ずしも簡易型のほうが遅いわけではなく、この事例では簡易型のほうが短く記載されていました。発注時期と修繕計画の締切から逆算するなら、費用だけでなくデータ出力の標準日数もカタログで確認すべき比較項目です。カタログは技術ごとに1ファイルのPDFで公開されており、費用・速度帯・納期・制約・検出率/的中率が同じ様式で並んでいます。相見積もりの前に、候補技術のPDFを並べて読むのが最短です。
手法を選ぶ3ステップの判断フレームワーク
ここまでの材料を、発注判断の順序に落とします。3ステップで考えると、選択肢はかなり絞れます。
STEP1 管理延長を分類A〜Dに仕分ける
最初にやるのは手法選びではなく、道路の仕分けです。舗装点検要領の分類A〜Dに管内の路線を振り分け、それぞれの延長を出します。分類A・Bは5年に1回程度以上の頻度が目安なので、ここは毎年一定の予算が必要な固定費です。分類C・Dは何年で一巡するかを決める設計変数になります。この仕分けをしないまま「全延長を測るといくらか」を考えると、必ず予算に収まりません。
STEP2 その調査の目的を1つに決める
目的は大きく2つしかありません。「どこが悪いかを絞り込む一次スクリーニング」か、「修繕設計と予算要求の根拠を残す確定測定」かです。前者なら簡易型で全延長を薄く一巡し、区分Ⅱ以上が疑われる区間を抽出すれば足ります。後者なら便覧準拠のデータが要るため専用車型が現実的です。両方を1つの手法で満たそうとすると、費用が跳ね上がるか精度が足りないかのどちらかになります。
STEP3 予算を延長で割り、km単価の上限を出す
年間予算を対象延長で割ると、km単価の上限が出ます。前章の事例に当てはめれば、簡易型はおよそ1.25万円/km、専用車型はおよそ5.5万円/kmです。この数字を先に持ってから候補技術のカタログPDFを見ると、「予算内で届く技術」と「届かない技術」が即座に分かれます。届かない場合の打ち手は3つで、対象延長を減らす(分類C・Dの一巡年数を延ばす)、指標を減らす(わだち掘れ量を諦める)、目的をスクリーニングに落とす、のいずれかです。予算に手法を合わせるのではなく、予算に「範囲・指標・目的」のどれを譲るかを合わせるのが、実務で破綻しない考え方だと考えています。
既存手法で足りるか、分光が要るか:発注前の判定チャート
ここからは「で、うちは何を発注すればよいのか」に踏み込みます。まず、分光計測(ハイパースペクトル)を検討すべきかどうかは、上から順に3つ答えるだけで切り分けられます。
問い | YESなら | NOなら |
|---|---|---|
Q1 欲しいのは、ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの数値そのものですか?(修繕計画・予算要求の根拠に使う) | 分光は不要。専用車型(4項目)または簡易型(ひび割れ率・IRI)で決める。Q2へ進む必要なし | Q2へ |
Q2 困っているのは「どこが悪いか分からない」ですか?(全延長のうち区分Ⅱ以上を絞り込みたい) | 分光は不要。簡易型で全延長を一次スクリーニング。ドローンは規制困難箇所のスポット記録に限定 | Q3へ |
Q3 困っているのは「なぜこの区間だけ早く傷むのか分からない」ですか?(供用年数に対して区分Ⅲが早すぎる/同じ工法なのに区間差が出る/打換え後すぐ再劣化する) | まずFWD・コア抜き等の詳細調査が本筋。それでも材質・含水の分布が説明できない場合に、分光を面の状態量として重ねる価値が出る | 現行の点検体制で足ります。無理に新技術を足す必要はありません |
この順番が大事です。分光計測は3指標の代役ではなく、3指標とFWDで説明がつかなかったときの「4本目の軸」です。Q1・Q2で止まる管理者のほうが多数派で、それはまったく健全な結論です。私たちに問い合わせをいただく前に、この3問で自己診断していただいて構いません。
Q3に当てはまる場合、実際に検討していただくのは私たちの国産ハイパースペクトルカメラ irodori(イロドリ)です。価格は公開しており、カメラ本体が107,800円(税込)、解析ソフト ANSWER Lite が月額2,980円です。数百万円規模の分光装置を前提にした検討とは、そもそも桁が違います。
舗装点検・修繕の財源:令和8年度の交付金はどうなっているか
手法が決まっても、財源の当てがなければ発注に進めません。2026年(令和8年)8月時点の公式資料で確認できる範囲を、そのまま書きます。
- 防災・安全交付金は令和8年度も継続しています。国土交通省の令和8年度 道路関係予算配分概要に「防災・安全交付金 国費8,529億円(対前年度比1.01)」と明記されており、廃止も改称もされていません(制度ページは社会資本整備総合交付金・防災・安全交付金)。
- ただし「道路メンテナンス事業補助制度」は舗装に使えません。同制度の公式資料では、対象構造物が橋梁・トンネル・道路附属物等(横断歩道橋、シェッド、大型カルバート、門型標識)と限定されており、舗装は対象外です。橋梁の話と混ぜて起案すると差し戻されます(橋梁側の新技術の位置づけは橋梁点検の新技術6分類で別に整理しています)。
- したがって舗装の点検・修繕は、社会資本整備総合交付金系(防災・安全交付金)の枠で組み立てるのが基本線になります。
ここは制度の解釈が絡むため、断定は避けます。自分の団体・路線が対象になるかどうかは、必ず所管の地方整備局・都道府県の担当窓口に確認してください。私たちも「補助が使えます」とは申し上げません。技術側の要件(新技術活用の位置づけ、実証データの残し方)については、分かる範囲でご相談に乗ります。
発注までの年度スケジュールと、仕様書に書ける要件
手法と財源の当てがついても、実務でいちばん時間を取られるのは「年度のどこで何を決めるか」です。自治体・道路管理事務所の場合、調査の発注は単年度の予算・積算・入札の流れに乗せる必要があるため、技術の比較そのものよりスケジュールの逆算がボトルネックになります。ここは団体ごとに運用が違うので、私たちがご相談を受けてきた範囲での一般的な進み方として書きます。
時期の目安 | やること | ここで決まっていないと後で詰まること |
|---|---|---|
前年度の夏〜秋 | 管内路線を分類A〜Dに仕分け、対象延長を確定。既往点検の年度と手法を棚卸しする | 対象延長。ここが動くと積算がやり直しになります |
前年度の秋〜冬 | 予算要求。km単価の上限(年間予算÷対象延長)を出し、候補技術のカタログPDFで届く/届かないを判定する | 「範囲・指標・目的」のどれを譲るか。3つとも守ろうとすると要求額が通りません |
前年度の冬〜年度末 | 仕様書の作成。検出項目・計測条件・納品物・納期を要件として書き切る | 納品データの形式と様式。指定しないと、次回調査と比較できない形で納品されます |
当年度の上期 | 契約・計測。天候待ちと交通規制の手配を織り込む | 再測定の扱い。雨天・濡れ路面で計測不可になったときの費用負担の取り決め |
当年度の下期 | 報告書の受領と、修繕計画・次年度要求への反映 | データ出力の標準日数。100kmで30〜100営業日という記載差がそのまま締切に効きます |
仕様書に書ける要件は、カタログの様式からそのまま取れる
新技術を使う調査の仕様書で悩まれるのは「何を要件として書けば公平性を保てるか」という点だと思います。点検支援技術性能カタログは技術ごとに同じ様式で情報が並んでいるので、その項目名をそのまま要件の見出しに使うのが実務的です。具体的には、検出項目(ひび割れ率・わだち掘れ量・IRI・平たん性のどれを必須とするか)/計測可能な速度帯と時間帯/計測不可となる条件と再測定の扱い/100kmあたりのデータ出力標準日数/検出率と的中率の記載値/納品データの形式と座標系の6項目です。特定製品名を書かずに、必要な性能だけで要件を組めます。
後押しになる材料も一つあります。国土交通省は令和7年4月10日の報道発表で、直轄国道の点検において令和4年度より橋梁・トンネル、令和5年度より舗装、令和7年度より道路巡視を含めて、特定の項目について点検支援技術の活用を原則化していると公表しています。直轄の運用がそのまま地方の義務になるわけではありませんが、「国の直轄では原則化されている技術類型である」という事実は、庁内で新技術を起案するときの説明材料になります。カタログは道路に関する新技術の活用のページから、舗装・道路巡視編(令和8年3月)を確認してください。
実証(PoC)を依頼してから結果が出るまでの4ステップ
新技術を本発注する前に、まず1区間で試したいという相談をよくいただきます。私たちが実際にお手伝いする場合の流れは、おおむね次の4段階です。
ステップ | やること | ご用意いただくもの | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
1. 課題の切り分け | 上の判定チャートQ1〜Q3をご一緒に確認し、そもそも分光が要る課題かを判断。要らなければ「要りません」とお伝えします | 対象区間の概要、既往の点検結果(あれば) | オンライン1回 |
2. 撮影条件の設計 | 撮影距離・照明条件・対象範囲・比較対象(健全部/早期劣化部)を決める。何が取れれば成功かを先に文章にします | 現地の写真、区間の位置図 | 要問い合わせ(区間規模による) |
3. 実証計測 | 対象区間で分光データを取得。交通規制の要否・実施時間帯はこの段階で確定 | 立入・撮影の許可、必要なら規制手配 | 要問い合わせ |
4. 解析と報告 | 材質・骨材露出・含水分布などを面で可視化し、「見えたもの/見えなかったもの」を両方書いた報告書をお渡しします | 報告先・様式のご指定 | 要問い合わせ |
費用と期間はご要望の範囲でかなり変わるため、ここに数字を書くとかえって誤解を招きます。正直に「要問い合わせ」とだけ書いておきます。先にどんなデータが出るのか見たいという場合は、デモ・実証のご依頼についてもあわせてご覧ください。他分野での代替検証の例としては、外壁打診調査の代替手法の整理も参考になるかと思います。
発注前に押さえたい3つの落とし穴
「検出率」と「的中率」は別物
カタログには技術ごとに検出率と的中率が併記されています。検出率は実際に損傷がある区間をどれだけ拾えたか、的中率は拾った区間のうちどれだけが本当に損傷していたかです。性能評価の資料でも、この2つは別々に算出されます。検出率だけを見て選ぶと、現地確認に行っては空振りする区間が増えます。逆に的中率だけを見ると、見落としに気づけません。スクリーニング目的なら検出率、現地確認の工数を抑えたいなら的中率と、目的に応じて見る順番を変えるのが実務的です。
計測条件は「できる/できない」がはっきり分かれる
前章の表のとおり、天候・照度・速度・GPS精度・車両寸法といった条件は、性能が落ちるのではなく計測不可になる形で効きます。降雨の多い地域や山間部を多く抱える管理者は、契約前に再測定の扱いを確認しておくほうが安全です。夜間計測に対応するかどうかも、交通量の多い路線では実施可否そのものを左右します。
3指標が正常でも構造は健全とは限らない
最後がいちばん見落とされやすい点です。路面性状の3指標はあくまで表層の症状であり、路盤以下の状態は語りません。舗装点検要領も、表層の供用年数が使用目標年数に満たないのに区分Ⅲになる早期劣化区間については、FWDたわみ量調査・コア抜き調査・開削調査といった詳細調査を実施して原因に対応した措置を取るよう求めています。調査費を路面性状に全額振り切ると、原因究明の予算が残りません。早期劣化区間を数区間見込んで詳細調査の枠を確保しておくことをおすすめします。
ご相談の前に整理しておくと、見通しが返ってくる5項目
ここまで読んで「うちの場合はどうか聞いてみたい」と思われた場合、次の5つが分かっていると、初回のやりとりで具体的な見通しをお返しできます。逆にこれが揃っていないと、私たちからも「一般的には…」という答えしか返せません。埋まらない欄は「不明」で構いません。不明という情報自体が、どこから手を付けるかの判断材料になります。
整理しておくこと | 粒度の目安 | これが分かると返せること |
|---|---|---|
1. 管理延長と路線区分 | 総延長と、分類A〜Dの内訳(未仕分けなら「未仕分け」で可) | 一巡にかかる規模感と、年度で割る場合の分け方 |
2. 直近の点検年度と手法 | 何年度に、目視巡回/簡易型/専用車型のどれで実施したか | 次回点検の時期の当たりと、同じ手法で継続すべきかの判断 |
3. 既存データの有無と形式 | 3指標の数値/写真/GISデータの別と、CSV・Excel・PDFのどれで持っているか | 過年度との比較ができるか、新規に測り直しが必要かの切り分け |
4. 想定する予算年度と枠 | 当年度の残額で動くのか、次年度要求からか。概算の枠 | いつまでに何を決める必要があるかの逆算スケジュール |
5. 判断したいこと | 手法を決めたい/分光が要るか知りたい/予算要求の根拠が欲しい/仕様書の要件を固めたい | そもそも私たちにご相談いただく必要があるかどうか。要らない場合はその旨をお伝えします |
この5項目は、判定チャートのQ1〜Q3と組み合わせるとさらに早くなります。Q1・Q2で止まる場合は分光の話は不要なので、上の1〜4だけを持ってカタログ掲載技術のベンダーに相見積もりを取るのが最短です。Q3に当てはまる場合だけ、5に「分光が要るか知りたい」と書いてお声がけください。
私たちも、道路の劣化調査で分光がすべてを解決するとは考えていません。ハイパースペクトルカメラという光で材質を見分ける技術が役に立つのは、形状計測では説明のつかない材質や水の問題が絡んだときです。もしそうした場面に心当たりがあれば、まずは資料だけでも目を通していただけたら嬉しいです。対象になるかどうかの判断も含めて、お気軽にご相談ください。




