常圧加熱乾燥法(乾燥減量法)と、赤外線・電気式・近赤外・ハイパースペクトルによる非破壊測定の違いを、精度・所要時間・面での測定可否から比較します。自社の乾燥・焙煎工程にどの水分計が合うか、判断の軸が持てます。
結論から言えば、食品の水分量の「基準値」は今も加熱乾燥による破壊検査(公定法)で決まり、非破壊測定はその基準に合わせ込んで使う実測手段です。農林水産省の標準計測方法では、水分は常圧加熱乾燥法・電気水分計・近赤外分析計・赤外線水分計のいずれかで測ると定められており、恒温乾燥器を106.5±1.0℃に設定した場合を「105℃乾燥法」と呼びます(農林水産省「標準計測方法」)。つまり非破壊化とは「公定法を捨てること」ではなく、公定法を基準に据えたまま、現場の判断を秒〜分単位に近づける取り組みです。
なぜ食品の水分測定は「壊す検査」が基本なのか
水分量は成分表示や歩留まり、日持ちに直結する指標ですが、その定義そのものが「加熱して減った質量」に依存しています。だからこそ基準法は破壊検査になります。
常圧加熱乾燥法(乾燥減量法)とは|公定法の中身と時間コスト
常圧加熱乾燥法は、試料を加熱して水分を蒸散させ、乾燥前後の重量差を水分含量とする方法です。同じ標準計測方法では算出後の許容差を0.1%と定めています(農林水産省「標準計測方法」)。乾燥条件は品目ごとに異なり、玄米・精米は106.5±1.0℃で5時間、外国産小麦は135.0±1.0℃で2時間、JASの削り節は100℃で5時間といった具合です(ケツト科学研究所「知っておきたい赤外線水分計」)。
「乾燥減量法」と「常圧加熱乾燥法」はほぼ同義で使われます。厳密には前者が加熱して減った質量を水分とみなす測定の考え方を、後者が大気圧下で加熱して乾燥させるという操作条件を指す言い方で、減圧下で行う方式と区別したいときに「常圧」と付けて呼び分けられます。いずれにせよ試料を加熱・粉砕するため、その個体は測定後に出荷できません。
ここで効いてくるのが時間です。数時間かかる測定で得られる値は、すでに過ぎ去った工程の結果でしかありません。乾燥機を止めるか続けるかの判断には間に合わないのです。
破壊検査が抱える3つの限界
- 遅い:結果が出る頃には次のロットが流れている。
- 点でしか見えない:抜き取った数個の平均であり、庫内のムラや一枚の中の偏りは見えない。
- 試料が失われる:粉砕・加熱するため、その個体は出荷できず、全数検査には原理的に向かない。
食品の水分量を測る5手法の比較
実務で選択肢に挙がるのは次の5系統です。原理が違えば「合う工程」も違います。
手法 | 原理 | 破壊/非破壊 | 所要時間の目安 | 面での測定 | 向く工程 |
|---|---|---|---|---|---|
乾燥減量法(公定法) | 加熱による質量減少を水分とみなす | 破壊 | 2〜5時間程度(品目の規定による) | 不可 | 基準値の確定、出荷検査記録 |
赤外線水分計 | 赤外線ランプで加熱し質量変化を測る | 破壊 | 数分〜20分台 | 不可 | ライン脇での日常管理 |
電気式(抵抗・静電容量)/マイクロ波 | 電気的特性値から間接的に水分量を推定 | 非破壊(接触・抜き取り) | 1点ずつ短時間 | 不可 | 穀物の受入・乾燥調製 |
近赤外(NIR)水分計 | 近赤外線の反射・吸収エネルギーを測る | 非破壊(非接触も可) | ライン上で連続 | 点〜線が中心 | 連続乾燥・シート状製品のインライン監視 |
ハイパースペクトルイメージング | 各画素ごとに連続スペクトルを取得し画像化 | 非破壊・非接触 | 撮像は短時間(解析込みで設計) | 可(分布として可視化) | 乾燥ムラ・偏りの把握、条件出し |
赤外線水分計は「速い公定法」であって非破壊ではない
赤外線水分計は、公定法に多く用いられる加熱乾燥法を簡易的に実現する器械で、赤外線照射で試料を乾かし質量変化から水分率を出します。メーカーの解説では、公定法(110℃・2時間で水分値2.80%)に対し、同じ試料を105℃設定の赤外線水分計で測ると6〜7分で平均2.79%に一致させられた事例が示されています(ケツト科学研究所)。時間は劇的に縮みますが、試料は焼いてしまうため破壊検査であることに変わりはありません。しかも同資料は、110℃設定では試料が焦げて水分値が公定法より平均3.63ポイント高く出た失敗例も併記しています。乾燥条件の作り込みが結果を左右する点は理解しておくべきです。
電気式・NIRは「合わせ込み」が前提
電気水分計は試料の電気的特性値から間接的に水分含量を測る方法で、農産物検査の機器要件では常圧加熱乾燥法の測定値との標準誤差が±0.5%以内、かつ年1回以上の精度確認が求められています(農林水産省「農産物規格・検査における現行測定機器の位置付けについて」)。近赤外分析計も同様に、試料に近赤外線を照射し反射光や吸収エネルギーから間接的に水分含量を測る方法として定義されています。インライン型では、製造ライン上を非接触でリアルタイム測定する機種があり、測定距離260mm±30mm・IP66という仕様のものも市販されています(ケツト科学研究所 近赤外水分計 KB-30)。
いずれも「間接測定」である以上、検量線という形で公定法の値と結びつける作業が要ります。農研機構の研究では、粉砕しない全粒小麦・全粒大豆のたんぱく質を近赤外分光で定量した際、測定精度は小麦0.56%(透過)・大豆1.42%(透過)で、検量線は重回帰やPLS回帰で作成されています(農研機構「近赤外分光法による小麦・大豆全粒のタンパク質分析」)。非破壊測定の精度は、装置性能よりも検量線の質で決まると考えたほうが現実に近いでしょう。糖度で同じ課題を扱った果物の糖度を非破壊で測る手法の比較も、考え方の参考になります。
分布を見たいならハイパースペクトル
ハイパースペクトルイメージングは、画素ごとに連続したスペクトルを持つ画像を取得する技術で、農産物の水分や成分分布の可視化、非破壊的な予測・評価に応用されています(叶旭君・酒井憲司「ハイパースペクトルイメージングの農業への応用」映像情報メディア学会誌 69(5), 2015)。近赤外分光イメージングによる青果物の糖度分布可視化と選別への応用も報告されており(蔦瑞樹ほか「近赤外分光イメージング法による食品品質計測法の開発」日本食品科学工学会誌 58(3), 2011)、分光分析による食品の非破壊評価は近年も研究が続いています(粉川美踏、日本食品工学会誌 26(4), 2025)。単一点の水分計では見えない「どこが乾いていないか」を面で捉えられるのが最大の違いです。どの波長域を使うかで見えるものが変わるため、VNIRとSWIRの波長域の選び方は導入前に押さえておきたい論点です。
私たちは国産ハイパースペクトルカメラ irodori を開発し、食品・農業・インフラ・医療などの現場とともに実証を重ねてきました(実績一覧)。記事の途中で恐縮ですが、もし乾燥ムラを面で見たいという課題をお持ちでしたら、資料だけでもご覧いただけたら嬉しいです。
「水分量」と「水分活性(Aw)」は別物
現場で最も混同されやすいのがこの2つです。水分量は「どれだけ水が入っているか」、水分活性は「その水がどれだけ自由に使える状態か」を表します。砂糖や塩を加えれば、水分量が同じでも水分活性は下がります。
安全性の基準に効くのは後者です。厚生労働省は、pH値が4.6を超え、かつ水分活性が0.94を超える容器包装詰の食品について、ボツリヌス菌対策として120℃4分間の加熱またはこれと同等以上の効力を持つ方法を求めています(厚生労働省「真空パック詰食品のボツリヌス食中毒対策」)。つまり水分量をいくら非破壊で測れるようになっても、それは水分活性の測定を代替しません。歩留まり・食感・乾燥終点の管理は水分量、微生物制御の設計は水分活性、と目的で使い分けるのが正解です。腐敗そのものを見に行く発想については食品の腐敗・傷みを出荷前に見抜く非破壊検査で扱っています。
乾燥・焙煎工程の水分管理を設計する4ステップ
- 基準を固定する:対象品目の公定法・社内基準法を1つに決め、その条件(温度・時間・試料量)を文書化する。ここがぶれると以降すべてがぶれます。
- 合わせ込む:候補機器で同一試料を反復測定し、公定法との差と再現性を見る。前述のとおり、温度を5〜10℃動かすだけで結果は大きく変わります。
- 役割を分ける:基準値=公定法、日常管理=赤外線水分計や電気式、工程監視=インラインNIR、条件出し・原因究明=ハイパースペクトル、と層を分けて配置する。
- 更新の運用を決める:原料ロットや季節で母集団が変われば検量線はずれます。精度確認の頻度と、外れたときの再作成手順まで含めて設計します。
実務でつまずきやすい落とし穴
- 機種間の値を横並びにしてしまう:熱源や温度センサが違えば、加熱乾燥法とも水分計同士でも値は必ずしも一致しません。「A社の水分計で12.0%」は、他社機の12.0%と同じ意味ではありません。
- 表面水分と全体水分の取り違え:光学式は基本的に表面近傍の情報を見ています。中心部がまだ湿っている半乾き品を「乾いた」と誤判定しがちです。
- 温度・試料量の変動を放置する:標準計測方法でも、電気水分計や近赤外分析計は機器と試料の温度差を3℃以内に近づけてから測るよう定められています(農林水産省「標準計測方法」)。かさの違いも結果をぶらします。
- 検量線を作らずに導入する:間接測定は教師データがあって初めて数値になります。データ取得の工数を見積もらないまま入れると、高価な色判定機になってしまいます。
既存の水分計で足りるか、分光イメージングが要るかの判定チャート
設備投資を検討する前に、次の順で自問すると切り分けやすくなります。上から順に見て、最初に「はい」になったところが現時点の答えです。
- 知りたいのは、ロット全体の代表値ひとつだけか。→ はい:電気式・赤外線水分計で足ります。抜き取り測定+公定法での定期照合という運用で十分です。
- ラインを止めずに、流れている製品の水分を連続監視したいか。→ はい:インライン型のNIR水分計が第一候補です。検量線の作成と更新にかかる工数を見込んでください。
- 不良の原因が「どこが乾いていないのか分からない」ことにあるか。→ はい:分光イメージング(ハイパースペクトル)の出番です。点の測定ではムラの位置を特定できません。
- 水分だけでなく、油分・糖度・異物・傷みなど複数の指標を同じ撮像から見たいか。→ はい:同上です。1回の撮像を複数の判定に使い回せるかが、投資判断の分かれ目になります。
- いずれも当てはまらない。→ まずは基準法の固定と、いま使っている機器の精度確認から。装置を増やす前に、値がぶれる原因が運用側にないかを確かめます。
3・4に当てはまる場合でも、いきなり本導入する必要はありません。実際の製品サンプルを撮って、狙った差が波長に現れるかを先に確かめるのが確実です。
ハイパースペクトルが向くケース・向かないケース
正直に書くと、ハイパースペクトルは万能ではありません。向かないのは、単一点の水分率を安く高頻度に知りたいだけのケースです。その用途なら電気式やNIR水分計のほうが安価で確実です。
- 教師データが必要:スペクトルを水分率に変換するには、公定法の実測値と対応づけたサンプルを相応の数だけ集める必要があります。
- 照明・撮像条件に依存する:照明が変わればスペクトルも変わり、モデルの再学習が要ります。ライン照明の設計まで含めた検討が前提です。
- 内部深部は苦手:得られるのは主に表面から浅い層の情報で、厚みのある食品の中心水分をそのまま当てるのは困難です。
- データ量と処理負荷:画素ごとにスペクトルを持つため、保存・処理の設計が必要です。
逆に、乾燥庫内の位置による偏り、焙煎時の粒間ばらつき、成形品の一枚の中の水分分布といった「面のムラ」が歩留まりを削っている工程では、点の水分計では原因にたどり着けません。ここが使いどころです。仕組みと活用事例はハイパースペクトルカメラの基礎と活用事例にまとめており、費用感はハイパースペクトルカメラの価格・費用相場で公開しています。
現場で確かめる:デモ・検証(PoC)の進め方
ハイパースペクトルが自社の品目に効くかどうかは、カタログではなく実際のサンプルを撮ってみないと分かりません。国産ハイパースペクトルカメラ irodori では、お問い合わせ → ヒアリング(課題整理) → デモ・検証(PoC) → ご提案・お見積り → 導入・運用開始、という流れでご一緒しています。
- ご用意いただくもの:良品と不良品(乾燥不足・過乾燥)のサンプル、公定法で測った水分値、現在の合否判定の基準。
- 検証で見るポイント:狙った差がスペクトルに現れるか、ライン速度と照明条件でも再現するか、教師データはどれくらいの量が要るか。
- その場で分かること:既存の水分計で足りるのか、イメージングが必要なのか。「要らない」と判断できることも成果のうちです。
期間や進め方はお客様の課題・ご要件に応じて調整しています。対象になるかどうかを含めて、まずはご相談ください。
どの手法が適切かは、対象品目・要求精度・工程速度によって変わります。判断材料としてお使いいただける資料をご用意しました。




